藤木昌生の密かな楽しみ Vol.42 ~ 色々な意味で学びを与えてくれたDragonGuardian

僕は、LOUDNESSの登場を契機とする80年代のジャパニーズ・メタル・ブームはリアルタイムで経験した世代だし、その世代のファンならよく知ってると思いますが、80年代後半~終盤にX JAPANがビッグになっていくにつれて、日本の(ハードな)ロックの主導権は一気にヴィジュアル系に傾いていき、ジャパメタは冬の時代に入っていきました。80年代前半から中盤に高い人気を誇ったジャパメタ・アーティストの殆どが解散・活動休止・路線変更などで姿を消し(中にはポップ路線に鞍替えして大成功した浜田麻里のようなパターンもあったけど)、それに代わる有望な新人メタル・バンドが全然出てこない(あるいは、有望な新人がいたとしてもレコード会社はもうビジネスにならないと判断してスルー)という状況です。

その後、90年代後半にはCONCERTO MOONが、2000年代前半にはGALNERYUSが登場して、ある意味「例外的な存在」としてジャパメタ王道の灯をともし続けてくれて(2000年代には陰陽座も登場したけど、彼らの成功は純粋なメタル・ファン以外からの支持が主たる要因だったような気がする)、彼らに続く小粒なバンドもボチボチ出てきてはいたけど、その殆どがあらゆる意味でアマチュアな感じのアーティストで、「いまだジャパメタ冬の時代」というのが個人的な印象だった。

そんな状況の中、2009年の春のこと。毎月「今月の新譜」をプロモーションするためBURRN!のオフィスに来てくれるサウンドホリックの担当ディレクターが、ひととおり海外バンドの新譜のプロモーションを終えた後、申し訳なさそうに「ついでと言ってはナンですが、今回うちでDragonGuardianという日本のバンドのアルバムを出すことになりまして」と説明を始めたのだ。

ディレクター氏は「これが実は最近、インディーズ・シーンで結構人気のあるアーティストでして」と言いつつ、「いや、もちろん試聴していただいてダメだったら無視していただいて構いませんし、曲中にヘンなセリフとかも入ってますんで、そういうのはBURRN!の読者には厳しいかもしれませんので」とかなり予防線を張っていて、こちらとしても「はあ、なるほど」と言いながら彼の説明を聞いていた。その際、彼の口から何度か「同人系」というワードが発せられたのだが、僕はその意味がよく判らないまま相槌を打っていた。(笑) 僕は、中学校に上がるくらいまではTVアニメをよく観てたけど、マンガ本はあまり読まなかったし、中学以降はロックに夢中になったので、アニメ/マンガとはあまり縁のない人生を送っていたのだ。なので、その場は「判りました。試聴させていただいて、大丈夫そうでしたらレビューに掲載させていただきます」という返事をして終わった。

そして、その日だったか翌日だったかは覚えてないけど、初めてDragonGuardianの「Dragonvarius」を試聴してみて、「何これ! めっちゃいいじゃん!」と興奮したのでした。確かに、曲の途中に出てくるナレーションやセリフは邪魔な気がしたけど、純粋に曲として、メロディとして素晴らしい。そして、ヴォーカルの歌唱も素晴らしい。ということで、僕が自分でレビューを書いて、確か87点を献上した。2009年頃のBURRN!のレビュー点数の平均点は今ほど高くなかったはずだから、日本の同人系バンドに87点というのはそれなりにインパクトがあったと思うし、「また藤木がやらかしてるよ」と笑った人も結構いたと思うけど、僕と同じように当時「ジャパメタの新人なんてロクなのがいない」と先入観を持ってた人々に対しては、それぐらいインパクトを与えないと興味を持ってもらえないと思って、そういう点数を付けたのだ。

「Dragonvarius」を聴いた時点で、シンガーのFukiのことは知らなかった。いや、それ以前にLIGHT BRINGERの作品はBURRN!のレビューに掲載していたから、Fukiの歌声は耳にしていたはずだけど、特にその存在が記憶には残っていなかったということ。よくある話だけど、いくら優れたシンガーでも、平凡な曲を歌っていては人々の心にはなかなか残らないというとでしょう。まあ、「LIGHT BRINGERの初期作品を聴いてFukiの素晴らしさに気づけなかったお前がクソだろ」と言われれば、はいすいませんと謝るしかないですが。(笑)

いや、それにしても、この「Dragonvarius」における勇者アーサーの作曲・アレンジのセンスと能力には圧倒されたし、Fukiのチャーミングな歌声にも魅了されましたね。日本のインディーズ・シーンにこんな才能が埋もれていたのか! 同人系ってこんなにレヴェルが高いのか! と認識を新たにしました。

DragonGuardianやFukiの素晴らしさについては、レビューで書くだけでなく、『今月のおすすめ』でも書いたと思うけど、それを見て「こいつは話の判るヤツだ」と思ってもらえたのか、LIGHT BRINGERが新たなレーベルに移籍して新作「MIDNIGHT CIRCUS」を出すことになった時に、その担当ディレクターのKさんが僕を訪ねてきてくれて、「是非BURRN!でレビューはもちろん、インタビュー記事もお願いします!」とプロモーションしてくれたんですよ。そのKさんは、後にMary's Bloodをメジャー・デビューさせた人であり、LOVEBITESのメンバーを集めてバンドを誕生させた仕掛け人でもあるわけですが。

で、LIGHT BRINGERの「MIDNIGHT CIRCUS」のリリース・タイミングでBURRN!にインタビュー記事を載せたんすが、もしこのアルバムが彼らの過去作と同じようなレヴェルの作品だったら、「いや、レビューは載せてもいいですけど、インタビュー記事までは難しいですね」と断っていたかもしれない。しかし、「MIDNIGHT CIRCUS」はバンドが飛躍的な成長を遂げた素晴らしい作品だったので、「このバンドもDragonGuardianと同様、多くの人に知ってもらわなきゃ」と思って、喜んでインタビュー記事を引き受けたのです。。

「MIDNIGHT CIRCUS」がリリースされたのが2010年5月で、同年の後半にはAldiousが本格デビューしたし、前年にはLIV MOONがデビューしていたので、僕は「ガールズ・メタル/嬢メタル系が面白い」てな感じでプッシュし始めたんだけど、編集部内では「また藤木がマニアックなジャンルを推し始めたよ」的な感じだったと思います。(笑) かつて僕がやっていた「イタリアン・メタル特集」とか「スパニッシュ・メタル特集」みたいなのと同じような感じでね。AldiousをデビューさせたディレクターのMさんは、それ以前から洋楽ガールズ・ロック系で付き合いがあった人で、「今度うちでAldiousを出そうと思うんですが、どう思いますか? 一度ライヴを観に来てもらえませんか?」と相談してきてくれてね。まだお客さんが数十人しかいないAldiousのライヴだったけど、音楽や演奏のクオリティはともかく、観る者を惹きつける魅力は大いに感じられたので、Mさんには「Aldious、面白いと思いますよ。ぜひやってください。誌面でも可能な範囲で協力しますんで」と伝えました。

当時は、AldiousやLIGHT BRINGERなどのガールズ・メタル系がBURRN!読者(どっちかと言うと洋楽メタルをメインに聴いてきた人々)にそれほどウケるとは思っていなくて、だから、最初に載せた時もモノクロ2~3ページの地味な感じだったけど、その後、ガールズ・メタル系のファン層がどんどん拡大していって、編集部内でも僕なんかよりもガールズ・メタル系に入れ込む人達も出てきて、日本のメタル市場の中で確固たるファン・ベースを築くに至ったという、ね。

というわけで、僕にとってDragonGuardianの「Dragonvarius」は忘れ得ぬ作品だし、”暗黒舞踏会”は永遠の名曲だと思ってます。このアルバムは何度かリミックス・ヴァージョンがリリースされてると思うけど、元の録り音のクオリティの限界もあるので、夢を言えば、サシャ・ピートのようなプロデューサーのもとで一から録り直して、シンフォニックかつ壮大な作品に仕上げてくんないかな~と。(笑)
DragonGuardian ”暗黒舞踏会” →Spotifyで聴く
 
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