藤木昌生の密かな楽しみ Vol.2 ~ みんな大好きHEAR 'N AID
40代以上のメタル・ファンがかつて夢中になったのがHEAR 'N AIDでしょう。HEAR 'N AIDの”Stars”のMV、およびそのメイキング映像をビデオが擦り切れるほど観たというファンは山ほどいると思います。
1985年、マイケル・ジャクソンを中心とするアフリカ飢餓救済プロジェクトのUSA FOR AFRICAの”We Are The World”が一大センセーションを巻き起こし、それに触発されたロニー・ジェイムズ・ディオが、「自分達にも同じような人助けができるはず」と思い立ち、当時第一線で活躍していたメタル・ミュージシャンたちに声をかけて立ち上げたのがHEAR 'N AIDプロジェクトだった。
今でこそ、コンピュータ技術の進歩によってスーパー・プロジェクトや”夢の共演”はお手軽なものになって、もはやありがたみも薄れてきたが、80年代中頃と言えばファックスが最先端の技術で(本当か?)、音源ファイルをネット上でやり取りできるようになるなんて、近未来映画でも描かれていなかったと思う。だから、スーパー・プロジェクトというのはミュージシャンたちが実際に同じ場所に行ってレコーディングしないといけないもので、スケジュール的にも費用的にもそう簡単に実現するものではなかった。
メタル界で言えば、1985年のPHENOMENAが初のスーパー・プロジェクトらしいスーパー・プロジェクトで、それに次いで登場したのがHEAR 'N AIDだった。
HEAR 'N AIDが最高だったのは、そのメイキング映像が商品化されたこと。それによって、我々ファンはスタジオ内でのメタル・ミュージシャンたちの作業の様子を知ることができて、改めて「凄い人たちだ!」と敬意を抱くようになったのである。ロニーやロブ・ハルフォードの声量は物凄かったし、ジェフ・テイトのハイトーンには痺れたし、ジョージ・リンチの気迫のプレイに周囲から歓声が沸き起こるシーンには鳥肌が立ったし、イングヴェイ・マルムスティーンが弾いてる後ろでスタッフが「このガキ、ムカつくけどメチャクチャ上手いな」といった様子で眺めてるのが笑えたし…。
ロニー追悼のため出版された炎Vol.2では、このHEAR 'N AIDに参加したミュージシャンたちに当時のことを振り返ってもらっているが、多くの人がSPINAL TAPのメンバーがスタジオに来てくれたことを喜んでいたのが印象的だった。
HEAR 'N AIDのメイキング映像の中で、そのSPINAL TAPのデイヴィッド・セント・ハビンズがイングヴェイについて語ったシーンの「ミーのギターなんてクルクルパーよ」という字幕は多くの人の脳裏に刻まれている思うが、あれはかなりの意訳(?)で、実際に彼が言った内容は以下のような感じ。
「イングヴェイって本当に凄いね。マジで。この間、彼のアルバムを買ったんだけど、僕は自分のギターを投げ捨ててしまったよ。何のために僕はギターを弾いてるんだ?って言ってね。僕のギターなんてテーブル代わりに使えばいいじゃないかって。あんなの僕には弾けないよ。彼は偉大だ。彼が自分のアルバムにYngwie J. Malmsteenと(ミドルネームのJを入れて)クレジットしてるのがいいよね。この業界にいる他のイングヴェイ・マルムスティーンと混同されないようにしてるんだ」
さて、そんなHEAR 'N AIDの”Stars”を多くの人々がカヴァーしてYouTubeにアップしているのはご存知でしょうか? 先日このBURRN! ONLINE宛てにメッセージ動画を送ってくれたマルタ・ガブリエル(CYRSTAL VIPER)は、歌唱力は素晴らしいし、ベッピンさんだし、筋金入りのメタル・マニアだし(これまでバンドやソロでカヴァーしてきた曲を見れば一目瞭然)ということで、僕の好きなシンガーの1人なのだが、彼女が参加したポーランドのミュージシャンたちによるHEAR 'N AIDのカヴァーがなかなかクオリティが高いので、ぜひ多くの人に観ていただきたい。
このポーランド版は、シンガーたちのレヴェルも高いし、何と言ってもギタリストの皆さんが次から次へとセンスの良いソロを披露してくれるのが嬉しい。
これ以外にも様々なHEAR 'N AIDのカヴァー動画がアップされていて、けっこう厳しいクオリティのものも少なくないんだけど、これはと思ったものを下記に挙げておきます。
これらの動画を観ていて感じるのは、みんなメタルが大好きなんだな~ってこと。メタルが大好きだからこそ、HEAR 'N AIDに胸をときめかせたし、自分もあれをやってみたい!って思ったんでしょう。みんな「なり切ってる」もんね。どうしてもオリジナル・ヴァージョンに引っ張られて物真似っぽい部分が出てきちゃうのはしょうがないと思う。ギター・ソロはともかく、ヴォーカルで独自色を出すのは難しいんじゃないかな。
残念ながら、日本人がカヴァーした動画も発見したものの、皆さんに紹介したいと思うようなものはなかった。でも、今はこれだけ日本のメタル・ミュージシャンのレヴェルも高くなったんだから、こういったカヴァー動画でしかるべきクオリティのものが出てきてもいいと思うし、出てきてほしいと思う。
それを実現させるためには、ロニーがそうだったように、ある程度ステイタスのある大御所ミュージシャンが中心となって、「あの人から誘われたら断れない」みたいな状況を作る必要があると思うんだけど、どうなんでしょう。相変わらずの業界あるあるで、「あいつとは一緒にやりたくない」とか「それやってウチに何のメリットがあるの?(ウチの名前を使って他の連中が得するのは嫌だ)」みたいなこと言い出す人ばかりで実現しないんでしょうか。ミュージシャンにその気はあっても事務所が難色を示す、みたいなパターンもあるんでしょうね。
だったら、インディーズ・レヴェルでも日本には優れたメタル・ミュージシャンがたくさんいるので、有志が集まって日本版HEAR 'N AIDを世界に発信してもらいたいな。HEAR 'N AIDのカヴァー動画なら世界中の人が観るわけで、自分の存在を知ってもらうプロモーションにもなると思うから。
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