藤木昌生の密かな楽しみ Vol.26 ~ KHYMERAの新作は要チェック! レビューの点数に惑わされないで!

先日、『炎の体育会TV』というスポーツ・バラエティ番組でドッジボールの企画を観ていて、思わず声を上げるほどコーフンしてしまいました。こう見えても僕は、小学校時代は「ドッジボールの鬼」と呼ばれた存在で(笑) ドッジボールをやらせたら校内で右に出る者はおらず、強肩を生かした剛速球と抜群の捕球力で恐れられていた。隣町の小学校のドッジボール王を招いての直接対決では、多くのギャラリーが見守る中で死闘を繰り広げたりしてね。(笑)

僕がドッジボールをやってた頃も「顔面セーフ」というルールがあったけど、あれは全国共通で、今も継承されてるんですね。ただ、僕の地域では外野がコートの横面から投げるのは禁止で、内野も外野もコート縦面だけを使った勝負になっていた。僕としては、そっちの方が潔い気がするけどな。左右の揺さぶりがなくて、前後だけの揺さぶりで勝負するというスタイルがね。

僕としては、そのTV番組を観て、またドッジボールをやりたいな~、近所にそういうチームがあれば加入してみようかな~、なんて思ったりもしたんだけど、あの栄光の時代(笑)から50年近くが過ぎて、もはや動体視力も身体能力も恐ろしいほど劣化してるだろうし、今やっても怪我するだけだろうな~、と寂しい気持になりました。(苦笑)

さて、それでは本題に参りましょう。今回は、2月22日に発売されるKHYMERAの新作「HOLD YOUR GROUND」をオススメしたいと思います。KHYMERAは、もともとはダニエレ・リヴェラニ(GENIUSプロジェクト)とスティーヴ・ウォルシュ(KANSAS)のプロジェクトとしてスタートしたんだけど、プロデューサーだったデニス・ワード(PINK CREAM 69)が途中から主役になって乗っ取ってしまった。いや、もちろん、『Frontiers』の意向でデニスが任された…というか押し付けられたのかもしれないけど(笑)、とにかく毎回確かなクオリティのアルバムを届けてくれて、メロディ派リスナーには安心してアルバムを買えるプロジェクトになっていたと思う。

そして、今回の6作目となる新作「HOLD YOUR GROUND」は、僕としてはKHYMERA史上でも1、2を争う出来栄えのアルバムではないかと思う。爽快感に包まれながらもしっとり哀感も漂わせる曲調、柔和でありながら重厚なプロダクション、そして皆さんご存知の、専任シンガーとしても充分やっていけそうなデニスの優れたヴォーカル。聴き手の心に潤いを与えてくれる素晴らしいアルバムだと思う。

ただ、BURRN!3月号でのこの作品のレビューを見てみたら、その評価が少し意外だった。いや、レビューの内容はまっとうなこと書いてて、見当違いなことは書いていない。だから、メロハー好きがあのレビューを読めば(『Frontiers』って何?というレヴェルの人じゃない限り)「なるほど、自分はチェックしておいた方がいいアルバムだな」と判断するだろうと思う。

でも、あのレビューの点数だけを見て、「なんだ、冴えないアルバムなのか、じゃあいいや」と考えてしまう人も(今この時代になっても!)多少はいるかもしれない。確かに、国内盤のレビューで78点というのは、昔のBURRN!では普通の点数だったけど、ここ何年かで考えると平均的な点数を大きく下回る点数になってしまった。最近の国内盤は80点台中盤が「普通の」点数だろう。だから、KHYMERAの今回の新作は頭抜けて「今イチ」な印象を読者に与えてしまっても不思議ではない。

僕としては、単にこの作品のレビューを振られた平野さんにとっては「自分にはピンと来ないしグッと来るものがない」「自分はこういう音楽にそれほど価値は見出せない」ということであの点数になったんだと思うし、そういう評価の仕方は頷ける。僕もレビューを書いていた時代はそういう手法を取っていたから。つまり、「音楽としてはきちんと作られているしクオリティに問題はないけど、自分の感性からする面白くない」という作品に対しては点数を抑えるということ。これの逆をやってしまうのはマズくて、「自分は好きじゃないけど、きちんと作られている(歌も演奏も下手じゃないし音質もまともな)作品だし、多くの人に支持されてるアーティストだから」みたいな基準で良い点数を付ける手法を取ってしまうと、何でもかんでも高い点数になってしまう。いや、今「これをやるのはマズい」と書いたけど、別にマズくはないかもね。それは、自分はどういう姿勢でレビューを書くべきか、という各人の判断だから。

これは以前BURRN!本誌にも書いたことかもしれないけど、改めて書いておこう。よく「主観的なレビューはやめろ」「レビューはもっと客観的に書け」というクレームを頂戴していたのだが、それはかなり無理な相談だということ。そういうクレームをしてくる人のほとんどは、自分の好きなアーティストや気に入った作品が予想以上に低い評価をされた時に限ってそういう要求をしてくるようで、評価が予想どおりかそれ以上だった時にはまず文句は言わない。「自分の大好きな××がレビューで絶賛されてたけど、ああいう客観性を欠いた書き方はやめてもらいたい」みたいな意見は今まで見聞きした覚えがないし。(笑)

じゃあ、客観的なレビューとは何なのか? 極端な話、客観的なレビューを目指せば形容詞の類は極力使用を控えざるを得ない。「ドラマティックな」「スピード感のある」「哀愁が漂う」「LAメタルを想起させる」「ヴォーカルが弱々しい」…これらの表現はすべて主観であって、客観的事実ではないから、客観的なレビューには不向きなワードになる。一方、「××がプロデュサーで、ギタリストの××が5曲を作曲」「4分台の曲は5曲、6分以上の曲は3曲」「2曲目はBPM200で、8曲目はBPM160」「歌詞のテーマは北欧神話」「このバンドは5年の歳月をかけて本作を完成させた」…これらは客観的事実だからOKだ。そんなレビューが役に立ちますか? そういうことですよ。

それで、自分がどう感じたかをレビューに書いて伝えようとすると、「自分の好みで評価するな、客観的に書け」と文句を言われるという…。(笑) だったら、誰のどんな作品のレビューでもとりあえず褒める方向で、悪いことは書かないようにしよう、そうすれば誰も傷つかないし、自分もクレームを付けられたり誰かに恨まれたりせずに済むから、となるのが人情なんでしょう。そうやってレビューの平均点がどんどん上昇していく…。まあ、昔のBURRN!のレビューのスタイルが特殊すぎたんでしょうね。それがBURRN!というメディアが多くのリスナーに受け入れられた理由の1つ、大きな魅力の1つだったとしても…。

以前、日本のそこそこビッグなメタル・バンドの事務所の社長さんと話をした時、「ジャーナリズム云々という話も判りますけど、やっぱりメディアとアーティストが持ちつ持たれつの関係で仕事をしていく、それが日本の音楽業界なんだと思いますよ」と言っていて、なるほどやっぱりそういう考え方なんだなと思った。その言葉を強引に翻訳すれば、「メディアは提灯記事を書くべきで、ケチを付けるようなことは書くべきではない」ということ。だから、ケチを付けるようなメディアは「敵」になって、取材をさせない、みたいな論法になっていくのかもしれない。もしかしたらアーティスト自身もそういう環境が当たり前になってしまって、ケチを付けるメディアは敵、ケチを付けるファンは本当のファンじゃない、みたいな感覚になっていくのかもしれない。

僕の友人で、日本のある人気バンドの大ファンがいるんだけど、その友人は「新作やライヴについて、ファンの間では絶賛しなきゃファンじゃない、批判的なことを言うのはタブー、みたいな雰囲気になっていて気持悪い」と言っていて、さもありなんと思った。

おっと、話がどんどん逸れていってしまいましたが、肝心なのは、KHYMERAの新作はプリティグッドなので是非チェックしてみてください!ということです。ジャケは相変わらずキツくて、 一歩間違えばMANOWARだけど。(笑) とにかく、何の新鮮味もないお決まりのメロハー・スタイルの中に微妙な差異を見つけて、「これは最高!」「これは今イチ」とやってるのが我々の楽しみなわけですし(笑)、僕にとっては今回のKHYMERAの新作は「今回はひと味違うぞ」という感触だったので、ここで紹介させていただきました。
KHYMERA
「HOLD YOUR GROUND」

2023年2月22日発売

<収録曲>
1. Don't Wait For Love
2. Firestarter
3. Hear Me Calling
4. Sail On Forever
5. Our Love Is Killing Me
6. Hear What I'm Saying
7. Believe In What You Want  
8. On The Edge
9. Could Have Been Us
10. Runaway
11. Am I Dreaming
12. Our Love Is Killing Me(acoustic version)*
*日本盤ボーナス・トラック

Line-Up:
Dennis Ward - Lead Vocals, Bass, Keys
Michael Klein - Guitars
Eric Ragno - Keyboards
Michael Kolar - Drums
Pete Newdeck - Backing Vocals
 
Khymera (ft. Dennis Ward)
- "Firestarter" - Official Music Video

 
Khymera (ft. Dennis Ward)
- "Hear Me Calling" - Official Lyric Video

 
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