【BURRN! 9月号ちょい読み】
MEGADETH(ライヴ・リポート編)──フィンランドで見せた “終わりなど見えない” パフォーマンス
by TIMO ISOAHO
1988年の夏は、今となっては遠い昔のことのように感じられる。あの年MEGADETHは初めてフィンランドの地を踏んだ。そして当時ティーンエイジャーだった私は、たった1つの理由から、故郷から数百キロもの道のりを旅してヘルシンキへ向かった。その公演を見逃すという選択肢は最初から存在しなかったのである。それから38年の歳月が流れたが、私の歩みとこのバンドの歩みはその後も幾度となく交差し続けてきた。
そうした数々の出会いを通じて私が学んだことが1つある。それは、MEGADETHは決して最も予測しやすいライヴ・バンドではないということだ。最高の夜には彼らはまさに手のつけようがない存在となる。しかし、あまり調子の上がらない夜には不思議なほど疲れ切っているように見えることもあった。まるでデイヴ・ムステイン〈vo, g〉とその仲間達が、記憶に残る何かを生み出すのではなく、ただツアー日程を1つ消化しているだけであるかのように。
だからこそ、現在のMEGADETHが絶好調であることを知っていたにもかかわらず、2026年夏のヘルシンキで開催される名門フェスティヴァル『TUSKA OPEN AIR METAL FESTIVAL』のステージに姿を現わすのは、果たしてどの “ヴァージョン” のMEGADETHなのだろうか?と私は考えずにはいられなかった。とはいえ、1つだけ確かなことがあった。この日の状況は、これ以上ないほど胸躍るものだったということだ。バンドの新しいセルフ・タイトル・アルバムは、MEGADETHが何故今なおヘヴィ・メタルを代表する存在であり続けているのかを世界に改めて示しただけでなく、『Billboard 200』で堂々の1位を獲得したのである。同時にバンドは、自らの輝かしいキャリアがいよいよ最終章へと差しかかっていることを公然と認めていた。その結果、MEGADETHのライヴはこれまで以上に重要であり、これまで以上に強く人を惹きつけるものとなっていた。
MEGADETHのこれまでの並外れた功績と現在の勢いを考えれば、この日のステージは最終的に『TUSKA』の歴史の中でも最も重要なヘッドライナー公演の1つとして語り継がれることになるかもしれない……と言っても決して大げさではなかった。それは決して軽々しく口にできる評価ではない。というのも、このフェスティヴァルはこれまでにもSLAYER、GHOST、SABATON、LAMB OF GOD、KORN、アリス・クーパーといった錚々たるアーティストを同じメイン・ステージに迎えてきたからである。そして、フィンランドのファンにとって、この夜が特別な感情を呼び起こす理由はもう1つあった。フィンランドが誇る天才ギタリスト、テーム・マントゥサーリが、MEGADETHのリード・ギタリストとして初めて母国のステージに立つ夜だったのである。彼がMEGADETHのリード・ギタリストの役割を勝ち取ったことに、もはや疑いの余地はない。ムステインは新たなギター・パートナーへの称賛を惜しむことはなく、「長い間ずっと探し求めていたギタリストだ」とまで言っている。マーティ・フリードマン、アル・ピトレリ、クリス・ブロデリック、そしてキコ・ルーレイロといった名だたるギタリストたちとステージを共にしてきたバンド・リーダーの口から発せられた言葉であるだけに、その重みは計り知れない。しかも、驚くべきことにムステインは決して誇張しているわけではない。テームはMEGADETHの悪名高いほど難易度の高い楽曲群を忠実に再現できるだけではなく、あらゆる時代の楽曲を驚異的な説得力で演奏しながら、そこに自分自身の揺るぎない個性を加えているのだから。彼がリズム・ギターとリード・ギターを自在に行き来し、時にはムステインとソロを掛け合う姿は、まさに現代メタル・ギター・プレイの真髄を目の当たりにしているかのようだ。精密さ、スピード、メロディ、そして絶対的な自信……その総てが、まるで何の苦労もしていないかのような余裕とともに披露されていたのである。
そのことはファンもよく理解しており、その一瞬一瞬を心ゆくまで味わいたいと願っていた。メイン・ステージ前には2万人を超える観客が集結し、MEGADETHのメンバーが姿を現わす前から既に「MEGADETH! MEGADETH!」「Teemu! Teemu!」というリズミカルな大合唱がフェスティヴァル会場全体に響き渡っていた。至る所でMEGADETHのTシャツが目に飛び込んでくる。ヴィンテージの「PEAE SELLS...BUT WHO’S BUYING?」、色褪せた「RUST IN PEACE」、そして真新しいセルフ・タイトル・アルバムのツアーTシャツ……観客の2人に1人は、まるでこの特別な夜のためだけに装いを整えてきたかのような光景だったのである。
ヘルシンキに夕暮れが訪れるにつれ、午後の陽光は厚い灰色の雲の向こうへと姿を消していった。フィンランドの真夏の夜が完全な暗闇に包まれることは決してないが、それでも近づいてきた雨が生み出した珍しい薄暮は、これから繰り広げられるものにとって、ほとんど完璧と言える舞台を用意してくれた。終わることのない白夜と競い合う代わりに、MEGADETHの照明演出は、ようやくそれにふさわしいキャンバスを手に入れたのである。
午後10時25分——予定されていた開演時刻ちょうどに、場内の照明が一瞬総て落とされた。映画のようなイントロダクションはない。オーケストラによるサウンドトラックもない。期待感を人為的に高めるための長々とした前振りも存在しなかった。
デイヴ・ムステインはただ静かに、闇の中からステージへと歩み出た。トレードマークである白いシャツを身にまとい、無駄な装飾を排したステージを横切っていく。背景には巨大なMEGADETHのロゴが掲げられ、その両脇にはアンプ・スタックが並び、ダーク・ヴェルビューレンのドラム・キットを挟み込むように配置されていた。凝ったステージ・セットはない。炎の壁もない。大掛かりな演出に大きく依存する現代のヘッドライナー・バンドとは異なり、MEGADETHにはそうしたものは一切必要なかった。観客が求めるあらゆる爆発的な興奮は、音楽そのものが生み出してくれるのだから。
ムステインは一言も発することなくギターを肩に掛け、“Tipping Point” のオープニング・リフを叩きつけた。数秒もしないうちに、ヴェルビューレン、マントゥサーリ、そしてベーシストのジェイムズ・ロメンゾも演奏に加わった。すでに新作を代表する楽曲の1つとして高い評価を受けている “Tipping Point” は、MEGADETHが結成から40年以上を経た現在もなお真に創造力あふれるバンドであり続けていることを雄弁に証明する楽曲でもある。キャリアの長いバンドで、ヘッドライナー公演の幕開けを、長年の代表曲と全く遜色のない存在感を放つ新曲で飾ることができるバンドはごくわずかしか存在しない。
第一印象は瞬時にして決定的だった。このラインナップは驚異的なサウンドを鳴らしている。MEGADETHはこれまでも常に卓越したミュージシャンを擁してきたが、この編成には明らかにこれまでとは異なる何かがある。約3年間を共に活動してきたことで、メンバー同士のケミストリーは完全に自然なものへと成熟していた。バンドは以前にも増して引き締まり、表現力を増し、そして目に見えて活力に満ちている。ひょっとすると、これまでで最も充実した状態なのかもしれない。それと同じくらい重要だったのは、ライヴ・サウンドが最初の1音から素晴らしかったことだ。それはフェスティヴァルでは決して当たり前とは言えない。今夜はそうした贅沢な条件が最初から整っていたのである。
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