意外性でウケを狙うイタズラ心満載のジョークか、はたまたメロディック・メタルの本質を突く慧眼なのか!? 企画の殿堂“Cleopatra Records”が豪華参加者を集めた“ヨット・メタル”プロジェクトがついにコンピレーション・アルバム「YACHT METAL」にまとまって登場（海外）！

いまでは“ヨット・ロック”というカテゴリー名で呼ばれるようになっている、主に70年代の米国シーンを支配したAORやソフト・ロック。リゾート地のヨット・ハーバーの船上パーティに相応しいロック、ということでいかにもアメリカンな発想の古き佳きロック／ポップスへの思慕がこめられた音楽観だが、それは同時に日本を含む世界中のある程度の年齢のロック／ポップス・ファンにも広く共有されている感覚でもある。

この分野と、一見真逆の熱気や爆発力を備えたメタルの世界を組み合わせようという野心に基づいて米国の“企画モノの達人”老舗レーベル“Cleopatra Records”が打ち出したコンセプトが、“ヨット・メタル”。すでに2025年前半からレーベルの声がけで実現したメタル系ミュージシャンのコラボレーションによるヨット・ロック人気曲のカヴァーが順次公開されてきていたが、コンピレーション・アルバム,その名もズバリ「YACHT METAL」のリリースで企画の全貌が姿を現わした。

選ばれている楽曲はいずれも70年代～80年代初頭のいわゆるAOR系名曲の数々。一方招集されている顔ぶれは“Cleopatra Records”（及びその傘下の“Deadline Records”）所属のさまざまなメタル／ハード系バンド：LEADER OF DOWN、BULLET BOYS、TANTRIC、THORらに加えてジョー・リン・ターナー、グラハム・ボネット、ドゥギー・ホワイト、ロニー・ロメロ、ティム・“リッパー”・オーウェンスらメタル／ハード・ロック界のヴェテラン・シンガーたちやロン・“バンブルフット”・サール、ジョージ・リンチ、ヴィニー・ムーア、スティーヴ・モーズら個性派ギター名手たち、そして現在URIAH HEEPのフェアウェル・ツアーを延々遂行中の大御所ミック・ボックス、元MANOWARのロス・ザ・ボスや元MEGADETHのクリス・ポーランド、元OZZY OSBOURNEのフィル・スーザンとボブ・デイズリーのような懐かしの仕事人たちに至るまで、じつに豪華かつ多彩。皆が原曲の“ヨット・ロック”イメージに付かず離れずの距離感のもと個性を感じさせるパフォーマンスで羽を伸ばしているのが楽しい。

BULLETBOYSとミック・ボックスとボブ・デイズリーの共演による爽快アメリカン・ロック代表THE DOOBIE BROTHERS、という食い合わせ無視カヴァーのMVが公開されている。

基本的に「出落ち」感キョーレツなエンタメ企画ではあるのだが、メタル／ハード・ロック・シンガーたちの優れた歌唱表現力をあらためて堪能できると同時に、メタルの世界における「メロディック」意識の源泉が70年代のポップ感覚と深く共鳴していることを実感することもできるだろう。

最近のSNSやYouTubeにはファンが生成AIを用いて創り出した想像の産物の音楽モノ動画や写真があふれているが、こちらは生身のミュージシャンを熱意で実際に動かして実現したリアルのプロジェクト。かつて大ヒットを記録した名曲のメロディック＆ポップ・テイストを味わいながら、いまさまざまなメタル・シーンの現場で活躍する参加ミュージシャンたち一人ひとりの顔を思い浮かべて楽しむのも一興なのでは!?