JINJER 来日公演レポート
レポート&撮影●奥村裕司 Yuzi Okumura
2025年2月12日(水):赤羽 ReNY Alpha

現バンド・ラインナップは2019年と変わらず。紅一点シンガーのタティアナ・シュマイルク以下、ロマン・イブラムハリロフ(g)、ユージン・アブドゥハノフ(b)、ヴラド・ウラセヴィッチ(ds)という4名は、2016年からずっと不動だ。その音楽性は激烈にしてテクニカルかつエモーショナル。LACUNA COILとMESHUGGAHがGOJIRAを触媒に合体して、メタルコアへ大きく舵を切ったかのよう。LACUNA COILと異なるのは、男女シンガーを擁するのではなく、タティアナがクリーンからグロウル、スクリームまで自在にコナすところ。MESHUGGAHとの最も大きな相異は、ロマンが多弦ギター使いではなく、しかもシングル・ギター編成という点だ。以前はJINJERもツイン・ギター・バンドだったが、2015年にセカンド・ギタリストが脱退してからは、ずっとロマンが唯一のギタリストとして気を吐いている。




東名阪を廻った今回のジャパン・ツアーでは、その人気がどんどん高まっていることも強く感じられた。東京公演はほぼ満員の入り。初来日時から会場のキャパが倍になっていたのに、開演前、場内はまさにスシ詰め状態となり、「もう少し前へ詰めてください〜」というアナウンスが何度もあったぐらいだ。まぁキャパ600だから、地元ヨーロッパの状況と比べればまだまだ…ではあるが、今後さらにファンベースが拡大していくのは疑うべくもない。
彼等はいわば叩き上げのライヴ・バンドだ。年間100本以上、年によっては2日に1回に近いペースでライヴをやりまくり、アグレッシヴでエネルギッシュな“生”のインパクトでもって、世界中でファンを増やしてきた。とにかく、ライヴを観れば誰もが一発で虜になる──要はそういうこと。今年2月リリースの最新アルバム『DUÉL』に伴う世界巡業が、日本公演を含むアジア/オセアニア・ツアーからスタートしたのにも注目したい。中東はUAEのドバイ公演を皮切りに、日本の前にインドとタイ、日本のあとには韓国、台湾、フィリピンを廻った彼等にとって、アジア圏の開拓はきっと急務なのだろう。


しかし、その目的・目標は──少なくとも日本においては、一定の成果を挙げることが出来た。東京公演の集客と、オーディエンスの凄まじい盛り上がりっぷりが、何よりそれを証明している。ショウは思い掛けず、2016年発表のセカンド・フルレンス『KING OF EVERYTHING』収録の「Prologue」のショート・インストをイントロ代わりに、同作から「Just Another」でスタート。のっけから場内は熱狂に包まれ、続いてやはり『KING OF〜』の「Sit Stay Roll Over」が炸裂する頃には、フロアにはモッシュの嵐が吹き荒れ、クラウドサーフも大発生していた。そんな好反応に、ステージ上のメンバーが満足気な表情を浮かべる。

いつも黒衣装とのイメージがあるタティアナは、意表を衝く白衣装で登場。しかも、ちょいとエレガントな雰囲気があって、鬼気迫る表情から放たれる野太い咆哮とのギャップが何とも強烈だ。ただ、どこかエキゾティックな響きの歌い上げクリーンにも定評があり、時にコケティッシュに、また時には突き放すようにも響くそれが、激しいだけ、ヘヴィなだけではないJINJERサウンドの最大の肝になっているのは言わずもがな。しかも、その硬軟/清濁の切り替えがまた絶妙過ぎる。あまりに自然過ぎて、スムース過ぎて、逆に凄いとは思えないぐらいに。何ら前情報なくスタジオ音源を初めて聴いた時、男女ツイン・ヴォーカルや、タイプの異なるシンガー2人を擁するバンドだと勘違いした人も、きっと少なくないのでは…?

その凛とした佇まいには、強固なカリスマが宿っており、観ていて思わず釘付けになるとはまさにこのこと。基本ロマンとユージンは自分の持ち場を離れないので、ステージ中央はずっとタティアナの独壇場だ。お立ち台の上から観客を煽り、アジり、鼓舞しまくる彼女の、そんな苛烈さの一方で、大きなアクションに合わせてキュートに揺れる三つ編みポニーテールにも目を奪われること請け合いだ。(風車ヘドバンではぐるんぐるん荒れ狂うが…)
ステージ奥のスクリーンにイメージ映像が常に映し出され、一部楽曲では歌詞を投影していたのも実に効果的だった。演奏と照明のシンクロ具合も見事で、リズム・チェンジやブレイクでライティングを落としたり、文字通りの目潰しライトが閃いたり、激唱&激奏する4人がシルエットになって浮かび上がったり、まるでストップ・モーションのように感じられたり…と、タティアナ以外は動きの少ないバンドに躍動感やスケール感を与えている。いやはや何とも、見せ方/魅せ方を心得ているというか何というか…!


楽器隊については、やはり各人の並み外れたテクニックこそが最大の観どころ。派手なソロはないが、複雑で緻密なリフ・ワークだけでも常人にはとても弾けないと痛感させられるロマン、手数の多さとズバ抜けたタイトさ、スプラッシュ・シンバルなどを駆使した小技で圧倒しまくるヴラドは、いずれも淡々と、飄々とプレイする見た目とのギャップが面白い。殊に前者は、パッと見「やる気ないの?」と思ってしまうぐらい脱力系だったり。いや、言うまでもなくそんなワケないのは、みんなよ〜く分かっているが。唯一、プレイ面で熱さを感じさせるのはユージーンだけで、ヘドバン気味に大きく体を揺らし、ふいに持ち場を離れてステージ中央付近でタッピングをキメたりする彼の存在が、少なからずアクセントとなっていたことも付け加えておきたい。


演目は、『DUÉL』収録曲がかなり多め。というか、全11曲を収める同作から6曲も披露され、彼等がニュー・アルバムに絶大な自信と誇りを持っていることが伝わってくる。実際、新作にはこれまで以上に彼等の様々な思いが込められていた。そう──ロシアによる母国侵攻後、初めて制作されたアルバムなのだから当然だ。絶望の奥底から放たれる憤怒と悲憤は深刻なまでにリアルさを増し、オーディエンスはその激情を全力で受け止めるのみ。きっとファンの側も色々な感情が渦巻く中での、これまでにないライヴ体験となったに違いない。
また同作には、タティアナ個人にとってのセルフ・セラピーになった楽曲も収められている。フランツ・カフカの人生に自分を投影した「Kafka」もそうだし、アルコール依存症に向き合った「Green Serpent」や「Duél」もまた然り。「Duél」でタティアナが“決闘”に臨むのはタティアナ自身。これはアルコールに逃げていた自分に対する心理的“決闘”の曲なのだ。今回、彼女は初めて自らのパートでプリ・プロダクションに取り組み、直感やひらめきに任せたこれまでの方法を採ることなく、レコーディング本番に向けヴォーカル・ラインをじっくり事前に練り上げていったという。それ故『DUÉL』は、彼女自身にとって過去イチ思い入れの込められた作品となり、そんな中でもより強い気持ちを注ぎ込んだ上記3曲が、すべてセットリストに組み込まれていたのは必然だったろう。

意外にも、ひとつ前の『WALLFLOWERS』(2021年)から選曲されたのは、わずかに1曲──「Copycat」のみ。現メンツになる前の初期作からのセレクトはなく、EP『MICRO』(2019年)とサード・フル『MACRO』(2019年)から2曲ずつ、『KING OF EVERYTHING』からは4曲(+イントロも)プレイされたが、エモさ際立つアンコール曲「Pisces」(終盤にちょっとだけ観客のシンガロング・パートあり)も同作収録で──つまり今回のセトリは、『KING OF EVERYTHING』で始まり、新作をたっぷり堪能したあと、また『KING OF EVERYTHING』で終わる構成となっていた。(アウトロは『MICRO』表題曲)
全75分の中で特筆すべきは、本編ラストを飾った『DUÉL』からの「Rogue」だ。ここで歌われる“ならず者”とは、ウクライナ侵略のあの張本人。歌い(吼え)始める前、タティアナはそのことを説明したり、強調したり、政治的メッセージを発したりはしなかったが、敢えてブルータルこの上ないこの曲で本編を締め括った理由は…推して知るべしであろう。

戦時下に世界中をツアーして廻り、母国のおかれている悲劇的理不尽な状況、そして他でもない平和希求を強く訴え続けているJINJER。彼等がステージでプレイしているその瞬間にも、理不尽で無慈悲な攻撃が止むことなく、多くの人命が危険に晒され、バンドに近しい人達が犠牲となっているかもしれない…。それでも彼等は活動し続け、これからも我々の心を激しく揺さぶり続けることだろう…!!

<SET LIST>
1. Prologue Intro(SE)〜Just Another
2. Sit Stay Roll Over
3. Teacher, Teacher!
4. Fast Draw
5. Green Serpent
6. Retrospection
7. On The Top
8. Duél
9. I Speak Astronomy
10. Someone's Daughter
11. Kafka
12. Copycat
13. Perennial
14. Rogue
[Encore]
15. Pisces
16. Outro:Micro(SE)
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