藤木昌生の密かな楽しみ Vol.4 ~ 去年のブライテスト・ホープはNESTORじゃないすか?

ロシアの大統領がとんでもない暴挙に出て、世の中は大変なことになってますが、ウクライナといって即座に思い出すのがヴィタリ・クープリ。最近の彼の活動状況はチェックしてないんだけど、祖国がこんな風になってしまって、さぞ心を痛めていることでしょう。

さて、今回このコラムで取り上げるのはスウェーデンの新鋭NESTOR。新鋭といっても、写真を見ればそれなりのヴェテラン(実績があるかどうかはさておき)であることは想像がつくけど、彼らのデビュー・アルバム「KIDS IN A GHOST TOWN」が素晴らしいことを、つい最近知ったのです。

彼らのアルバムが日本発売されたのは去年の12月だったけど、僕が彼らの音を聴いたのは今年の1月下旬だった。去年の終盤から「NESTORが昔ながらのメロハーで良い」という噂は見聞きしていたし、普段やり取りしてる友達の中にも「NESTOR最高っすよ!」と言ってる人間がいたので、ふと思い出してネットで試聴してみたら、そりゃもう©脱糞&ガッツポーズでしたね。リリースされた時期にちゃんとチェックしていたら、黒田さんのサイトの「2021年度のマイ・ベスト」企画でも絶対に取り上げたのにな~。

これだけ素晴らしいNESTORなのに、BURRN!2月号の『編集スタッフ&ライター陣の2021年度マイ・ベスト』でNESTORの文字はどこにも見当たらなかった。1月号のアルバム・レビューでは90点が付いていたけど、世間的にはそれほど評価されてないのか?と心配になって、このコラムで1人でも多くのリスナーに注目してもらえればと思ったわけです。

NESTORを聴いて僕がまず思い浮かべたのがFROM THE FIRE。メロディ派マニアなら知ってるであろう幻のバンドだ。(近年復活して新作を出してたけど) そのFROM THE FIREの音楽をさらにグレードアップしたような、哀愁のメロディとキャッチーなフックが満載の、叙情的で胸に染みてくるメロディアス・ハードをやっているのがNESTOR。マイルドな声でエモーショナルに歌うヴォーカルも良いし、古くはUNIVERSEを想起させる雰囲気もある。ドイツのじゃないよ、スウェーデンのだよ。要するに北欧的な透明感もあるってこと。FROM THE FIREとの大きな違いの1つはギター・ソロも秀逸だという点かな。さすがギタリスト王国のスウェーデン、テクニカルかつスリリングに曲を盛り上げるギター・ソロを聴かせてくれる。

バイオグラフィーを読むと、NESTORは1989年に結成されたが、あまり上手くいかずに数年で解散。(まあ、あの時代にこういう音楽をやっていたなら上手くいかなくても意外じゃないけど) その後、メイン・ソングライターのトビアス・グスタフソン<vo>は職業作曲家としてそれなりに成功し、数年前にNESTORを再結成してグランジ系の音楽をやっていたが、売れなかったから今の音楽スタイルに鞍替えしたらしい。

ということで、彼らがこの手の音楽を心底愛してるのか、それとも「お前らこういうのやってりゃ喜んぶんだろ」「今の時代は中年向けにこういう音楽をやった方が稼げる」みたいな感覚で商売としてやってるのかは定かではないが、結果としてNESTORが圧倒的に素晴らしい曲を作ってることに疑いの余地はない。動機とか思いとか、そんなのどうでもいいんですよ、結果として素晴らしい音楽になっていれば。心血注いで1年かけて作った曲よりも、売れ線狙いで5分で書いた曲の方が遥かに素晴らしいことだってある…というのが僕の個人的な考えなので(そりゃもちろん様々な思いが加味されてた方がベターなのは言うまでもないけど)、NESTORも素晴らしいんです、間違いなく。

NESTORの場合、80年代要素が満載のMVも評判らしいけど、僕としてはあれはちょっとスベってる…とは言わないまでも、やり過ぎていて笑えない、というのが正直なところ。自虐的に80年代を描くのはいいけど、やっぱり匙加減が重要なんじゃないかと。匂いをプンプン漂わせるのはいいけど、「あるあるネタ」を次から次へと詰め込み過ぎると、単にお笑い狙いのネタ・バンド?みたいな感覚にもなってくる。そのへんは人それぞれセンスが違うから、何とも言えないんだけど。

80年代リヴァイヴァルなバンドとして、ようやくCRAZY LIXXに比肩し得る存在(イメージだけでなく音楽的なクオリティでも)が登場した感じで、次のNESTORのアルバムが今から楽しみだ。

Nestor
- On The Run (Official Video)

 
Nestor
- 1989 (Official Video)

 
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