【あれから2年】 鈴木“あんぱん”政行(LOUDNESS/ds)インタビュー

──そんな夢の中にいる状態でステージに立ってドラムを叩いて、インタビューも受けていたのですね。それも驚きです。

あんぱん：今日、飛行機に乗って来たのですが、機内で「よくこれまで飛行機に乗って東京まで来てたな」って笑っちゃいました。2018年末のライブの時は、イベントが終わってタクシーに乗るまでは問題なかったのですが、ホテルの名前や場所が言えなかったんですよ。頭の中に「絵」は浮かぶのに、口に出てこない。タクシーの運転手さんに「どこに行きますか？」言われても、言葉に詰まっちゃって「降ろしてください」としか言えなかった（笑）。タクシーから降りて困ったけど、頭にある「絵」を頼って自力で何とかホテルまでたどり着けました。

頭の中がクリアになると、ドラムが思うように叩けなくなっていたのを実感して面白くなかったんですよ。好きなドラムが思うように叩けないのがこんなに辛いんだって。生きてる意味がない、人生が面白くないって。でも、そこで日記を読み返したら、別の意味でも回復してきていると実感しました。LOUDNESSのメンバーと会った楽しい記憶が蘇ってきて、それが分かるってことは回復していることだって励みにもなって。回復していることが楽しいことに直結したのは大きかったです。それで「まだドラムを叩ける」って考えられるようになりました。ドラムを練習して凹んだら、日記を読んで励みにして、その繰り返しで回復してきました。（2019年6月の）札幌でやった西田さんとのドラム・バトルのイベントも刺激になったし、希望にもなりました。ゴールではないですが、そのイベントをやって光が見えたんですよ。今はその光に向かって歩いていくぞって。それで自分を見つめ直すことも出来たし。
その頃、毎日凄く疲れていたんですが、それは早く完全復帰したいって毎日ドラムを叩いていたからかなと。冷静になったら、毎日気合入れて叩いていたら疲れるよねって。リハビリの先生に相談したら、普通の人もそんなことしたら疲れるよって。それで1日休みを入れたら、身体がリセットされるのか自分でもプレイの違いを実感しました。トレーニングもストレッチとかも早く回復したい一心で焦っていた時があったのですが、日記を見てやり方を見つめ直しての繰り返し。今はドラム叩いて3時間もすれば疲れが抜けていく感覚になってます。

──傍から見ているとみるみる回復していく様子がはっきりと分かって、驚いています。

あんぱん：個人練習よりもLOUDNESSのバンド練習の方が遥かにエネルギーを使うんですよ。他のメンバーは練習の時から凄まじいエネルギーを放出していますから。個人練習で出来ていたのが、LOUDNESSのバンド練習では身体が思うように動かなくなるなって。皆のエネルギーに負けまいと自分のエネルギーを使っているからだなと、それが分かる様にもなってきた。自分のダメな面が分かるってことは課題が分かるってことで、それが逆に嬉しいんですよ。
それにLOUDNESSのメンバーはズバッとダメ出ししてくれるからありがたいです。ここで優しく、「あんぱん、それでいいよ」ってなったら回復も途中で止まっていたと思う。病気に甘えさせない厳しさは僕にとっては本当にありがたくて嬉しいです。まだまだこんなもんじゃない、やれるぞってなります。

──札幌で（2019年）6月に2日間『Ampan Night』と『Dragon Night』に分けて『Ampan vs Dragon』と冠の付いたイベントがありましたが、特別な思いはありましたか？

あんぱん：その時は開き直りではないですが、考えても仕方ないなって。まだ思うようなプレイからは程遠かったし。

──それでもファンの人は『Ampan vs Dragon』とあるからにはプレイを比べますよね？

あんぱん：その時はプレイ云々を超えていて、この気持ちをどう伝えたらいいか上手く言えないのですが、とにかくこのイベントは楽しかったんですよ、特に『Dragon Night』が。身を乗り出して両手を振り上げて楽しんじゃって。そうしたらファンの皆がビックリして「あんぱん！」って呼んでくれたり。（高崎）晃さんが手を振ってくれて、「わ～、晃さんが僕に手を振ってくれてる」って（笑）。メンバーだけどファンの感覚で楽しんで、フロアからステージを観るって面白いなって。
LOUDNESSを客観的に観て楽しかったし、ステージにいないのにメンバーとファンと一体になれる機会なんて体験出来ないでしょ。このイベントをネガティブになればプレイを比べられるって落ち込みますが、西田さんが上手いのは昔から知っているから（笑）。そこで比べられたとしても、だったら西田さんと負けないプレイまで持っていくぞってリハビリにも力入りますよ。それも自分の中で励みになります。

──LOUDNESSや西田さんの存在って本当に大きいですね。

あんぱん：こんな人たちと勝負しなくちゃって思ったら、ネガティブな気持ちなんて軽くどこかに飛んでいきますよ。実は、西田さんには初めて会った時にも助けられているんですよ。当時やっていたバンドが上手くいかなくて、しかもその時も身体を壊していてって時でした。「もう全員死んでしまえ」ってヤケになった時に初めて西田さんと会ったんですよ。親身になって説教してくれて、「ああ、この人と同じ土俵で勝負したいな」って、ドラマーとして気力がそこで復活しました。その後、会うチャンスがなかなかなくて、このタイミングでLOUDNESSって舞台で再会してというのは不思議な縁だなと思います。そんな西田さんと比べられてネガティブな気持ちになるなんてないですよ。救世主ですし、その西田さんに恩返しするには完全復帰して、そこで「勝負」することだって分かってますから。（ボソッと）西田さん強敵ですけどね（笑）。
初めて西田さんに会った時に言われたことを今もよく覚えているんですよ、「身体に良い叩き方をしなさい」って。その時にそれまではバカみないな叩き方をしていたんだなって反省しました。でも、「年齢と共に叩き方を変えなさい」って言われた時は「おっさんに言われたくない」ってバカにしたら、「お前もそうなるんだぞ」って強く言われて。
今、その言葉を噛み締めています（笑）。

──その西田さんと今度は同じ日（2019年12月28日）に同じステージに立ちますね。

あんぱん：同じ日に同じステージに立てるのはミラクルだと思います。昔、助けてくれた救世主が今も助けてくれて、しかも同じステージに立ってくれるなんて普通はないですよ。本音は早く西田さんを驚かせるレベルでプレイしたいのですが、今はまだその時じゃないので同じステージに立つミラクルをファンの皆が楽しんでくれたらなと。僕にとってこの日のステージは映画の世界に近いんですよ。豪華な役者が揃って、光り輝くステージに立っているんだから。今はそのステージを全力でやるとしか言えないです。ドラムのキャラクターも違いますからね。西田さんはプログレ畑で、僕はスラッシュ・キッズでしたから。その違いも楽しんでくれたらと思います。

──復帰してLOUDNESSのステージに何度か立っていますが、昔の曲をプレイしているのは何故ですか？

あんぱん：それは初心に戻ってというのがあるんですよ。10歳の時にLOUDNESSを初めて聴いた時の気持ちに戻って、キッズだったあの時夢中になっていた曲を叩いているんだぞってなりたくて。それに樋口さんのことも病気になる前よりもリアルに身近にいてくれる感覚になっているんですよ。樋口さんは僕の中ではまだ生きていて、LOUDNESSの昔の曲を叩くとそのパワーも身近に感じて、リハビリの励みにもなっています。
樋口さんのワンバスへのこだわりも同時に伝わってきます。僕はワンバスがあってのツーバスだと思ってますから。樋口さんが「こうなった時こそ基礎に戻れ」って語りかけてくれて、そうだよなって。今こんな状態になった僕が基礎を見つめ直すってことで、LOUDNESSの昔の曲を叩くというのは意義も意味もあると思います。

──昔からLOUDNESSを聴いてきたから身体が覚えているというのもあるのかなとも思います。

あんぱん：復帰してすぐの時はそれもあって、考えるよりも身体が先に叩いてくれたのは助かった部分がありました。それは否定しません。ただ、復帰後はプレイと頭のイメージが遠くで雷が鳴っているみたいにかなりズレていて、気持ち悪かったですよ。今は解消していますけどね。

──今は復帰に向けての焦りはないですよね。

あんぱん：今は自分の状態が分かるし、完全復帰に向けて上げていくだけですからね。こんな状態になってヤケになったし死にたいってことも当然ありました。でも、LOUDNESSや友人だけでなく、脳梗塞で入院してた時に知り合った仲間も応援してくれてますから。その仲間と比べたら自分の回復は早い方で、それでまだまだ遅いなんて言ったら罰が当たりますよ。子供の頃入院していた時の仲間も応援してくれています。病院の先生と話をすれば、僕のやり方は間違ってないんだなとも思うし。それに食事を大盛で食べられる様になったのが嬉しくて。僕の脳梗塞は生活が不摂生でなったのとは違うので、食生活は普通で問題ないんですよ。むしろモリモリ食べて体力つけていかないとなので。
病気で倒れる前、実はやっとLOUDNESSのメンバーと対等にバトル出来るレベルになったという実感があったんですよ。しかも世界同時発売になった「RISE TO GLORY -8118-」は曲も大好きで、メンバーとの曲作りも本当に楽しかったし。『Wacken Open Air』でNo.1になるって気持ちにしかならなかったですから。「世界、いくぞ！」って時に倒れたのは本当に悔しかったし、悲しくて涙も出ました。ちょっと話が逸れましたね（笑）。

今は自分の状態が分かるから、完全復帰は夏位になるかなって手ごたえもあるんですよ。（ボソッと）『Wacken Open Air』が復帰の舞台ならカッコいいですね。（笑）

──それは燃えますね！

あんぱん：まずは年末のライブ（2019年12月28日）をファンの人がどう思うか、それからですね。こんな状態の僕を待ってくれるファン、そしてLOUDNESSのメンバーも神ですね。その恩を返す為にもニュー・アルバムに向けてのフレーズの練習もしていますよ。晃さんがこうきたら、こう叩こう。山下さんがこんなベースを弾いたら、グルーブはこんな感じがいいかなとか。そんなイメージトレーニングも最近しています。夏のライブ完全復帰を目標にして、その勢いでLOUDNESS40周年に向けてアルバムリリース出来たらいいなと。それに向けての今はリハビリを頑張ってます。

──最後にファンの皆さんに一言お願いします。

あんぱん：（言葉を噛み締める様にゆっくりと）LOUDNESSは世界No.1のメタル・バンドになる（と右手人差し指を上げる）。僕がその起爆剤になります。その自信は絶対にあります。（自分のスマホを取り出して）見てください、この写真を僕は毎日必ず見ているんですよ。パワー貰って励みになって、この写真が今の僕を生かしています。つまずいたり、落ち込んでも大丈夫なんですよ、この写真があるから。この写真に誓ったんですよ、絶対にLOUDNESSが世界一のバンドになるって。僕のこれからの行動と結果を楽しみにしていてください。

　▲共にあんぱんのスマホを写したもの

インタビューが終わってからしばらくじっとスマホの画面を見ていたあんぱん。
そしてもう一度「大丈夫ですよ、必ずLOUDNESSが世界一になりますから」と優しい口調でポツリと一言。
それは私にではなく、あんぱんへ激励のメッセージを書いてくれた全ての人に向けてだろう。
大きな身体を少し小さくしてスマホを見つめていた表情は忘れられない。

完全復活に向けての階段を着実に上っているのは、LOUDNESSのライブで彼のプレイを目の当たりにしたファンなら分かるだろう。勿論、課題がまだまだあるのも事実だ。
しかし、携帯の画面を見つめるあんぱんの姿を見て、完全復活となる「X DAY」へのカウントダウンはもしかしたらもう始まっているのかもしれないと思った。

まずは5月、どこかの会場であんぱんは元気な姿を見せてくれるだろう。
あんぱん、世界が君を待っている！