極上のハードロック・エクスペリエンス! 人間椅子<三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー>最終公演

人間椅子<三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー>


Report by 倉田真琴

Photos by 堀田芳香

2019年6月26日からスタートした人間椅子の<三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー>が7月26日、東京・豊洲PITにて千秋楽を迎えた。

日本のハードロック・バンド、人間椅子はここ数年、様々な面で絶好調である。バンドの充実ぶりがそのままアルバムに反映され、結果ライヴ動員もリリースの度に増加している。注目され始めたのは2013年のオズフェスト出演前後であったが、それから数年の間の活動と積極的なプロモーションによって、ここ豊洲の大きな会場ワンマン公演まで辿り着いたのである。

本日はソールド・アウト。この現象は間違いなく、彼らが30年間積み重ねてきた活動の結果だ。メジャー・デビューから30年。浮き沈みを経験したといっても、ここまで大きく浮上したのは初めてのことだ。とにかく、めでたいとしか言い様がないし、ただただ驚いてもいる。それは人間椅子の音楽性が大きく変わったことなど一度もなかったからだ。彼らの音楽を簡単に説明すれば日本語のハードロックとなる。ただそれをひたすら30年演奏し続けてきたのだ。

SEは新作の冒頭を飾った“新青年まえがき”。そして同じく新作に収録されている超絶ヘヴィな楽曲“あなたの知らない世界”からショウは開始した。

目の前にはこれまで見たことのない風景が広がっていた。大きな会場は天井が高く、ステージも広い。フロントに立つ2人の間隔がいつもより大きく離れているのだ。しかしこの大舞台に立つ3人の雄姿に感無量のファンも大勢いることだろう。

続いて新作のCDパッケージ版にのみに収録されていた“地獄のご馳走”。初期アイアン・メイデンを彷彿させつつも、彼ら独自の疾走感が加わり、異常なテンションを放つ楽曲で、非常にライヴ映えしている。個人的にもお気に入りである。“鏡地獄”は江戸川乱歩の短編怪奇小説を題材にした楽曲で、新作のアートワークは、この小説に登場する病的なレンズ狂に繋がっている。

MCによれば、新作『新青年』はオリコンのチャートで過去最高位を記録したという。ファンとしてもこれ以上の喜びはないはずで、場内からもひときわ大きな拍手が巻き起こっていた。

1991年作『桜の森の満開の下』収録の“盗人讃歌”、2006年作『瘋痴狂』収録の“幻色の孤島”といった、これまで滅多に演奏されることのなかったレア曲でオールドファンを歓喜させた。

そして中盤で披露されたのは、最新作からの“無情のスキャット”。個人的に今日の公演における楽しみのひとつが、この曲だった。哀しみや切なさが、暗く重くのしかかるように一挙に迫り来る歌詞、一曲の中にいくつの楽曲が混ざっているのかと錯覚してしまうほど展開の多い大作であり、この30年を積み重ねてきたからこそ生み出された傑作である。これぞ人間椅子ともいうべき、本領が発揮された恐ろしくも痛快な楽曲だと感じた。

彼らの音楽はハードロックとしか言い様がない。すべての楽曲が日本語で歌われており、横文字もほとんど出てこない。そして作品の多くが文学から着想を得ているのも大きな特徴である。この純日本的なハードロックが2010年代に突入してから受けまくっているというのが、実に最高な出来事なのである。

NINGEN ISU / Heartless Scat (LIVE) 〔人間椅子/無情のスキャット・ライブ映像〕

さらに、その評価は世界規模に拡大されつつある。

YouTubeで公開されたミュージック・ビデオの動画再生回数はすでに200万回を超えている。海外の視聴者からのコメントも多く、まだまだ数字は伸びそうな気配である。さらにこの日の公演はYouTubeで生配信されており、期間限定でアーカイヴ配信もされているという。人間椅子の場合、このような時代の先端を行くプロモーションを積極的に行ったことが非常に効果的だったのだろう。

メンバーは和嶋慎治<Vo&G>、鈴木研一<Vo&B>、ナカジマノブ<Vo&Dr>の3人。

最小編成のバンドから鳴らされる轟音がたいへん心地よく、アンサンブルも常に完璧である。いや完璧ではないのかも知れない。当サイトで行われたインタビューで鈴木が語っていたように、「ハードロックはズレてナンボ」であり、そこにカッコ良さがあるわけだ。人間椅子の演奏は3人で出している音とは思えぬ迫力という感想をよく耳にするけれども、耳を凝らして聴くと、緻密に計算された演奏が展開されているようにも感じる。だから敢えてズレを演出したりしていることもあるのかもしれない。そういった細かなことが30年の時間を積み重ねてきたバンドの味となっているのだろう。同じことをやり続けていても、進化はしているのである。そしてようやく時代が彼らの存在に気づいたわけだ。

     ナカジマノブ<ds,vo>

          鈴木研一<vo,b>

          和嶋慎治<vo,g>

人間椅子の特徴のひとつに、彼らの敬愛するKISS同様、全員が歌えるということがある。鈴木は「ジーン・シモンズに捧げます」と宣言し、“瀆神”を披露し、ナカジマが“地獄小僧”で激しくパワフルにドラミングをしながらヴォーカルをとる。たった3人ではあるけれども、楽曲の色彩に広がりが生まれる。
 
和嶋のギター・ソロは表情豊かに様々な音色をかき鳴らしていく。アンコールの“月のアペニン山”ではジミー・ペイジばりのダブルネック・ギターを操っていた。テルミンも操るし、ジミヘンばりに歯で弾いたりもするのである。彼は新時代のギターヒーローだ。ここまでのテクニックを持つギタリストが、これまであまり注目されなかったことが信じられない。いや、注目されていたのだろうけれども、そんなものでは足りなかったと言うべきか。とにかく和嶋のギターにはハードロックのカッコ良さが詰まっているし、50年に及ぶロックの歴史すらも凝縮されているような深みもある。

NINGEN ISU / Blasphemy (LIVE) 〔人間椅子/瀆神・ライブ映像〕

2000年代以降、メタル界はポストモダンの時代に突入した。“何でもアリ”の時代をとっくに迎えていたはずなのである。なのに、人間椅子が注目されるのは遅すぎた。もちろん、まだまだ注目され足りないと思っている。様々な要素が絡み合い、現在のブレイクに繋がったことは間違いない。

混沌とした時代の中で、このバンドが存在感を示しているという事実を嬉しく感じると同時に、どんなに混沌としていようとも本物が認められない世の中などあり得ない、とも思っている。公演のラストでは2019年12月13日に中野サンプラザにて30周年記念ワンマン公演の開催が発表された。時は来た。この極上のハードロックを体験するなら今だ。

そして人間椅子の進撃はまだまだ続く。いや、続かなければならないのである。

人間椅子
2019年7月26日(金)東京・豊洲PIT
<SETLIST>

01. あなたの知らない世界
02. 地獄のご馳走
03. 鏡地獄
04. 地獄の料理人
05. 盗人讃歌
06. 幻色の孤島
07. 無情のスキャット
08. 太陽黒点
09. いろはにほへと
10. 瀆神
11. 今昔聖
12. 地獄小僧
13. 地獄の申し子
14. 超自然現象
15. 針の山
ーencore 1ー
16. 月のアペニン山
17. 地獄風景
ーencore 2ー
18. どっとはらい

人間椅子
「新青年」

2019年6月5日発売
徳間ジャパンコミュニケーションズ
初回盤(CD+DVD) TKCA-74791
通常盤(CD) TKCA-74792
*ジャケ写は、初回・通常共通

<収録曲>
01. 新青年まえがき(歌唱:和嶋慎治)
02. 鏡地獄(歌唱:和嶋慎治)
03. 瀆神(歌唱:鈴木研一)
04. 屋根裏の散歩者(歌唱:和嶋慎治)
05. 巌窟王(歌唱:鈴木研一)
06. いろはにほへと(歌唱:和嶋慎治)
07. 宇宙のディスクロージャー(歌唱:鈴木研一)
08. あなたの知らない世界(歌唱:和嶋慎治)
09. 地獄小僧(歌唱:ナカジマノブ)
10. 地獄の申し子(歌唱:鈴木研一)
11. 月のアペニン山(歌唱:和嶋慎治)
12. 暗夜行路(歌唱:鈴木研一)
13. 無情のスキャット(歌唱:和嶋慎治)
※CDボーナストラック
14. 地獄のご馳走(歌唱:鈴木研一)

<DVD>
『新青年』への軌跡
レコーディング中の貴重な映像や、アルバム完成直後のメンバー同士の対談インタビューを収録。

人間椅子30周年記念完全読本
『椅子の中から』

2,200円
 
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