【HR/HM談義無法地帯 Vol.3】
まさにエキサイティング! 映画公開40周年&リメイク盤発売記念 “トランスフォーマー・ザ・ムービー” をメタル・ファン目線で語れ!!
文:斎藤新吉(BURRN! ONLINE)
自我を持つ変形ロボットたちが2つの勢力に分かれて戦う物語を描いたアメリカ生まれの『トランスフォーマー』は、2007年にマイケル・ベイが監督した実写映画が公開されて以降、現代日本でも幅広い世代に支持されるコンテンツとして定着している。トランスフォーマーというブランドの歴史は映画シリーズの2倍以上の長さを誇り、80年代中盤にはアニメ/コミック/玩具のメディアミックスで一大センセーションを巻き起こした。その後は一時的な停滞を挟んだこともあったが、各種メディアで多種多様なストーリーラインが作られ続け、今や『スターウォーズ』もかくやの巨大なユニヴァースが形成されている。
その長い歴史の中でも、1986年公開の劇場用アニメ『THE TRANSFORMERS: THE MOVIE』は際立ってアイコニックな評価を受けている。そして同作が公開40周年を迎える今年、同作のサウンドトラックが丸々リメイクされることになった。単に大昔のサントラがリメイクされるだけならここで取り上げることもないだろうが、実はHR/HM目線で見てもこのサントラは語り継ぐべき傑作なのだ。
ダグ・アルドリッチ大活躍の名テーマ
『THE TRANSFORMERS: THE MOVIE』はシリーズ初の劇場版で、1986年12月に公開。シーズン1&2と好評を博したTVシリーズの後のストーリーが描かれ、新シーズンに向けてメイン・キャラクターの大半が次世代に交代するという重要なイベントを含む映画だった。ヴィジュアルは日本の東映動画が制作することでシャープに整えられ、いろんな意味でユルい素っ頓狂具合も味だったTVシリーズとは違い、お馴染みのキャラクターが次々命を落としていく衝撃的ストーリーが大スケールで展開する、ファンにとってはこれ以上ないほどのお祭りだったのである。実際のところ興業面ではなかなかの苦戦を強いられたそうだが、劇中で放たれる数々の名台詞がミーム化するなど、アメリカのポップ・カルチャーそのものに強い影響を残すことになった。
同作のサウンドトラックもまた名盤として知られている。この「THE TRANSFORMERS: THE MOVIE」にはウィアード・アル・ヤンコビックや、『ロッキー4』などで知られる映画音楽の巨匠ヴィンス・ディコーラとさまざまなアーティストが関わっているが、アルバムの中心軸にあるのは紛れもなくヘヴィ・メタルなのである。
1986年当時のジャケット。
「THE TRANSFORMERS THE MOVIE」
1986年
1. The Touch/Stan Bush
2. Instruments Of Destruction/N.R.G.
3. Death Of Optimus Prime/Vince DiCola
4. Dare/Stan Bush
5. Nothin's Gonna Stand In Our Way/SPECTRE GENERAL
6. The Transformers (Theme)/LION
7. Escape/Vince DiCola
8. Hunger/SPECTRE GENERAL
9. Autobot / Decepticon Battle/Vince DiCola
10. Dare To Be Stupid/Weird Al Yankovic
11. Unicron Medley/Vince DiCola
12. Moon Base 2 - Shuttle Launch/Vince DiCola
13. Megatron Must Be Stopped (Parts 1 & 2)/Vince DiCola
映画のメイン・テーマ(エンディング曲)である “The Transformers (Theme)” の担当アーティストをご覧いただきたい。そう、ダグ・アルドリッチ〈g〉やカル・スワン〈vo〉が在籍した悲運のL.A.メタル硬派軍団LIONだ。ディコーラとヤンコビックも所属し、SURVIVORも抱えて映画音楽への強いコネがあった “Scotti Brothers” に籍を置いていたこともあってか、彼らはフル・アルバムのリリース前という新人の立場ながら、『THE WRAITH』(処刑ライダー)や本作といった映画タイアップにも駆り出されていたのである。
“Transformers” はLIONの完全オリジナル曲ではなく、TVシリーズの主題歌をカヴァーしたもの(日本放送時は独自の主題歌が流れていた)。アメリカのポップ・カルチャーではその原曲があまりに有名で、MUTEMATHなどもカヴァーしたことがある。LIONはこれをヘヴィ・メタルにアレンジしたわけだ。基本的にサビを繰り返すだけだった原曲とは違い、ヴァースの歌メロをつけることでサビへの盛り上がりを増強、ゲイリー・ムーア影響下にあるダグの弾きまくりソロを加えるなどして、オリジナル版より遥かにドラマティックに仕立て上げているのだ。YouTubeのファン動画などでもこのヴァージョンがよく使われており、メタル界隈以外にも浸透していることがわかる。
メロディアス・ハードの達人スタン・ブッシュによる “The Touch” と “Dare” はAOR寄りハード・ロックの名曲で、特に “The Touch” は80年代トランスフォーマー・シリーズを代表する曲と言い切ってもいいぐらいファンに愛されている。ブッシュは2009年にLINKIN PARKを意識した新アレンジのヴァージョンを発表したが、マイケル・ベイの映画に自分の曲が使われなかったことに対する皮肉と怒りの表明だったのではとも言われる。この後にも2010年のゲーム『TRANSFORMERS: WAR FOR CYBERTRON』に楽曲を提供するなど、ブッシュとトランスフォーマーの関係は深い。
“Instruments Of Destruction”を提供しているのはアルバムを1枚も出さずに消えてしまったN.R.G.なるバンドだが、もちろん韓流グループではない。このいかにも悪役キャラっぽい曲の人気も高く、『トランスフォーマー』のファンが集まるコンヴェンション “BotCn” にメンバーが招かれたこともある。ちなみにギターはかつてニューヨークの正統派メタル・バンドBLACKLACEでアルバムをリリースしていたカルロ・フラグニートだ。
そしてアグレッシヴなリフのグルーヴ感がたまらないハード・ロック曲 “Nothin's Gonna Stand In Our Wayと“Hunger” の2曲はSPECTRE GENERALという謎のバンドがプレイしているが、実態はそこまで謎でもなく、カナダのKICK AXEがその正体。メジャー・シーンに浮上してバンドにとっての黄金期を迎えていた頃の録音だ。ただしなぜ変名を使ったのか理由は謎らしい。
その他の収録曲に関しては──DEVOをパロったアル・ヤンコビックの “Dare To Be Stupid” や、ディコーラのダイナミックなインスト曲がメタルでないことは言うまでもない。ただ、このサントラ全体に言えるのは、当時のメタルではまず重視されなかったシンセサイザーの音が実に印象的なこと。シンセウェイヴを取り入れた現代のメタル・リスナーにはこういった音作りも普通に受け入れられるだろうし、昨今の80年代敬愛型メタル・バンドたちの中には実際にこのアルバムを愛聴する者もいるに違いない。
2. Doomsday Clock/The SMASHING PUPKINS
3. This Moment/DISTURBED
4. Before It's Too Late (Sam and Mikaela's Theme)/GOO GOO DOLLS
5. Pretty Handsome Awkward/THE USED
6. Passion's Killing Floor/HIM
7. What's It Feel Like to Be a Ghost?/TAKING BACK SUNDAY
8. Second to None (feat. Mike Shinoda)//STYLES OF BEYOND feat. MIKE SHINODA
9. End of the World/Cee-Lo Green
10. Retina and the Sky/IDIOT PILOT
11. Technical Difficulties/JULIEN-K
12. Transformers Theme
参考までに2007年のマイケル・ベイ版1作目のサントラを見てみよう。この「TRANSFORMERS: THE ALBUM」にはLINKIN PARKやDISTURBED、SMASHING PUMPKINSなどが参戦。ビッグバジェット・ムービーのサントラをNu-Metal勢が占拠していた時代を象徴するかのようにヘヴィでミクスチャーな1枚になっている(ちなみにここに参加しているJULIEN-Kでギターを弾くのは元ROUGH CUTTのアミア・デラク)。これに対して1986年版サントラはみんなが憧れた80年代アメリカらしい爽快なロック・サウンドが溢れている。トランスフォーマー界隈にはLIONやスタン・ブッシュを聴くと1986年の少年時代を思い出して目が遠くなるファンが多い模様だ。
メタル成分大幅増加した40周年盤
版権元のハスブロは今年、“Apology(謝罪)Tour”と題した『TRANSFORMERS: THE MOVIE』の再上映イベントを行なうことを発表している。前述のように主要キャラクターが次々倒されていく展開に衝撃(俗に言うトラウマ)を受けた当時の子供たちへのお詫びという、わかったようなわからないようなテーマで公開40周年キャンペーンを張るのである。そして “Reigning Phoenix Music“ との共同で、あの名盤サウンドトラックを丸々新規録音するという大胆な企画も立ち上がったわけだ。発売するレーベルがレーベルだけに、一気にメタル化が進行。何しろスタン・ブッシュが自らリメイクに乗り出した以外にも、セバスチャン・バック、DEATH ANGEL/KERRY KINGのマーク・オゼグエダ、WIND ROSEのフランチェスコ・カヴァリエリというキャラの濃いシンガー陣が参加しているのだから。
「THE TRANSFORMERS: THE MOVE: THE SOUNDTRACK: THE REFORMATTED EDITION」
Reigning Phoenix Music
2026年7月24日発売(海外)
2. Instruments Of Destruction/KNIGHTS OF UNICRON featuring Francesco Cavalieri
3. Death Of Optimus Prime/Vince DiCola
4. Dare/KNIGHTS OF UNICRON featuring Stan Bush & Vince DiCola
5. Nothin's Gonna Stand In Our Way/KNIGHTS OF UNICRON featuring Sebastian Bach
6. The Transformers (Theme)/KNIGHTS OF UNICRON featuring Brittney Slayes
7. Escape
8. Hunger/KNIGHTS OF UNICRON featuring Mark Osegueda
9. Autobot / Decepticon Battle
10. Dare To Be Stupid
※アーティスト名表記のない曲はすべてKNIGHTS OF UNICRONによる演奏
全曲の演奏を担当しているKNIGHTS OF UNICRON、その正体はEXHUMEDのマット・ハーヴェイ〈g〉、ロス・セゥエージ〈b〉、ガス・リオス〈ds〉である。彼らはハスブロが権利を持つ『G.I.ジョー』の劇中で悪の暴走軍団ドレッドノックが扮したCOLD SLITHERなるバンドを現実世界で再現していたので、「G.I.ジョーの次はトランスフォーマーも行けるだろ」ということで起用されたのだろうか。なお “UNICORN” ではなく“UNICRON” であることに注意。ユニクロンとは『TRANSFORMERS: THE MOVIE』最大最強の悪役の名前だ。昔のLIONの日本盤CDに付いていた歌詞カードでは「邪悪なユニコーン」になっていたので、あの悲劇を繰り返してはいけない。
同作から “The Transformers (Theme)” と “The Touch” が先行公開されている。スタン・ブッシュ本人歌唱による後者は、バックの演奏がやや骨太になっている以外、あの時代のキラキラ感もそのままに再生されている。
そして最大の目玉である前者では、カナダのUNLEASH THE ARCHERSのブリトニー・スレイズがヴォーカルを担当。こちらも曲構成はオリジナルそのままで、鍵盤の音がカットされパワー・メタル感が増した仕上がりだ。
日本でこそ “謝罪ツアー” を!!
さて、かような施策の数々でファンの熱が再燃している『TRANSFORMERS: THE MOVIE』だが、正直、日本では全然盛り上がっていない。
日本人にとって『トランスフォーマー』とは、単に海外のアニメを輸入したら売れたというだけの関係ではない。このシリーズの原点は『ダイアクロン』『ミクロマン』という日本の変形ロボット玩具にあり、これらをアメリカで売り出すに当たって設定を再構成したところ大ヒット。日本でも翌年から実質的に逆輸入という形で国内展開が始まり、アニメもシーズン1&2が『戦え! 超ロボット生命体 トランスフォーマー』として放送されるとすぐさまブームに。後年アメリカでTVシリーズが終了した後も日本独自のアニメが制作されるほどだった。大型で値段の張るトランスフォーマー玩具を持っていることは当時の子供にとってステイタスだったし、『TRANSFORMERS: THE MOVIE』時期の新展開プロモーションの1つだったと思しきファミコンソフト『トランスフォーマー コンボイの謎』は非ファンの子供達も挑戦し、あまりの難易度に血涙を流しかねないほどの大旋風を巻き起こしたのだった。
ただ、肝心の『TRANSFORMERS: THE MOVIE』が日本で上映されなかった。
重要キャラクターの死とトランスフォーマーの世代交代が描かれた映画だと言うのに大人の事情で公開されず(元々アメリカより大幅に遅れての公開予定だった上に最終的に中止)、本国でのTVシリーズ・シーズン3が『トランスフォーマー2010』として日本で放送開始すると、いきなり知らない新顔たちが普通に大暴れし始めたため、当時の子供達は大いに困惑した(と言うのは大袈裟で、本当は児童誌などで事前に特集されたので新キャラクターのことは皆知っていたけれども)。1989年に限定上映はされたものの、その頃にはシリーズが下火になりつつあった。なおアメリカで映画が公開され始めた頃、日本では代わりに「コンボイが死んだキャンペーン」というのがあって…という話を始めると収拾つかなくなるのでやめておきましょう。
つまり映画を観て衝撃の展開にトラウマを受けつけられた海外のキッズとは別の世界線で、日本のキッズは映画を観てもいないのにトラウマを植え付けられていたのであった。とか言いながら冷静になってみると、当時日本公開されなかったんだから40周年で盛り上がらなくてもしょうがないのか。ここはいっちょ日本でも「公開できずすいませんでしたツアー」をやってもらわないとファンは収まらないのでは。
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