BACK TO THE BEGINNING:オジーとBLACK SABBATH最後の地となった空前絶後のステージをレポート

 これは普通のライヴではなかった。よくありがちな、「最後」と銘打ちつつも恐ろしくシニカルな市場調査の一環などではなく、今度こそ本当にこれがBLACK SABBATHの最後のライヴ・パフォーマンスとなる『BACK TO THE BEGINNING』がいよいよ開催されるという前の晩、私が乗った列車がバーミンガムの駅に着くと、1人のアメリカ人女性が彼女の宿泊先ホテルへの行き方を尋ねてきた。話をしてみると、彼女はアストン・ヴィラFCの本拠地である『Villa Park』でバーミンガム出身の4人の男達が行なう最後のパフォーマンスを見届けるために、アメリカはフロリダ州タンパから遥々飛んできて、チケット1枚のために600ドルを支払ったのだという。「とんでもない散財だわ」と彼女は笑った。「私、1年中テイラー・スウィフトの追っ掛けをしていたから、それ以外に使える現金なんて殆ど残ってないのに」 こんな一例からでも、これが普通のライヴではないということが判ってもらえるのではないだろうか。

 翌朝、ライヴ会場に向かいながら、私はとても重要な、そして並外れた何かがここで始まろうとしているという感覚が町全体を包んでいるのを感じていた。至るところで様々な外国語が飛び交い、町の中心にある、既に何度も写真に収められてきたBLACK SABBATHの壁の前には多くのファンが集まっていた。「トルコから来たんですって?」と、TV局の記者が信じられない様子でインタビュー相手にマイクを向ける。「イスタンブールです」と答えた3人組は、ギタリストのトニー・アイオミ、ヴォーカリストのジョン“オジー”オズボーン、ベーシストのテリー“ギーザー”バトラー、そしてドラマーのビル・ワードがBLACK SABBATHという名を最初に名乗った1969年にはまだ生まれてもいなかっただろう。バンドの初代マネージャーのジム・シンプソンが提供した写真が壁面に大きく描かれたパブ『The Crown』は彼らが1969年に初めてのライヴを行なった場所で、このバンドがどれほど長くバーミンガム市民の生活の一部となってきたかを示している。その写真の中のオズボーンは信じられないほど若くハンサムだ。現在の4人の年齢を合わせると305歳にもなるバンドが遥かに若い世代にもこれほどまでに魅力的な存在であり続けているというのは、とても現実とは思えない。しかし、それが真実である証拠はバーミンガムのあちこちに散らばっており、あらゆる世代の人々が今から起こることに興奮しているのも手に取るように判った。

 サッカー場『Villa Park』のスタンド席に着いてみると、9時間半にも及ぶ苛酷なライヴに耐えられるだろうかと不安を抱えながらもヘヴィ・メタルの歴史の一部になろうと途轍もない大金を払ったファンの中に、30歳以下の若者も多く見受けられた。BLACK SABBATHの音楽は時を超越するのだ。ここには、それぞれの人生を形作ってくれた音楽に敬意を表するために4万人が集まっていた。とはいえ、自分を誤魔化してはならない。このバンドはそれでもやはりマイナーな存在だ。同じ時期に再結成OASISがイギリス各地のスタジアムで7万人を動員する公演を複数回行なっている事実がそれを証明している。この状況はむしろ我々に相応しいものに思える。1つのバンドに敬意を表するためにイギリスに集まった大勢のアウトサイダーの一員であるという感覚は強烈で、団結の意識は本物だった。サッカー場で過ごす最も苛酷な状況下でも、ここにいる全員が前向きで朗らかな気分を保ち続けていた。信じられないかもしれないが、ビールを買うために1時間も列に並んだり、便器がすぐに溢れ返るせいで観客の大半を占める男性が中世のようなトイレ施設に耐えなければならなかったりと、人々の忍耐力は1日中試されていたのだ。これは400ポンドを超えるチケット代に見合う扱いではない。

 驚くようなことではないが、期待を膨らませた観衆はポジティヴな面だけに目を向け、オジーの取り巻きの男が1人ステージ上に現われて、ヘヴィ・メタル・ショウの開演直前によくある煽情的な演説を始めると、熱狂的な反応を見せた。我々はその髭面の男に“motherfuckers”と呼ばれ、この日はその後も幾度となくそう呼ばれることになるのだが、彼を始めとするアメリカ人はこの言葉を親愛の情を示す言葉だと考えているらしい。しかし、この町出身の私の友人がその言葉よりもずっと不快感を示したのは、ステージに上がる多くのアメリカ人が彼の故郷を「Bir-ming-HAM(バーミングハム)」と言うことに対してだった。「Hは発音しないんだよ」と、彼は何度も繰り返し、憤懣やるかたない調子で私に言った。

私の友人の気分は、オープニング・アクトとしてアトランタ出身のMASTODONがステージに出てきても明るくはならなかった。初期BLACK SABBATHの様子とバーミンガムの陰鬱な工業地帯の歴史をまぜた映像が流れた後、午後1時に彼らのショウはスタートした。彼らの発音は典型的に酷く、容赦なくアグレッシヴでヘヴィなその音楽はお粗末なライヴ・サウンドに埋もれ、元々聴き取りづらい曲に輝くチャンスを殆ど与えずじまいだった。「これは俺達の人生で最高に栄誉ある瞬間だ」とベーシスト兼ヴォーカリストのトロイ・サンダースは述べ、バンドは“Black Tongue”と“Blood And Thunder”という2曲のオリジナル曲をプレイした後、この日これから何曲も披露されることになるSABBATHカヴァーの最初の曲に突入した。ドラマーのブラン・デイラーは1972年作「VOL.4」収録の“Supernaut”を歌うためにヴォーカル用マイクを引き寄せたが、彼のドラムセットの後ろから向けられたカメラがスネアのヘッドにマーカーペンで書かれた歌詞を巨大スクリーンに映し出し、秘密をばらしてしまった。まあ、そんなことはどうでもいい。SABBATHのクラシック・ナンバーをプレイするデイラーには、GOJIRAのマリオ・デュプランティエ、TOOLのダニー・ケアリー、SLIPKNOTのエロイ・カサグランデによるパーカッションがサポートに付いた。MASTODONは今日が少々普通ではない1日になりそうだという予感を我々に与え、それなりの喝采を受けてステージを後にした。

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1996年にMETALLICAが発表した問題作「LOAD」をジェイムズ・ヘットフィールド、ラーズ・ウルリッヒ、カーク・ハメットがそれぞれ現在の視点で振り返る貴重なインタビュー

【IRON MAIDEN】
1980年から1992年までの楽曲を披露する『RUN FOR YOUR LIVES WORLD TOUR』のフィンランド公演の模様を現地からリポート

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