20年振りとなるTANKの来日公演『RE-IGNITION JAPAN TOUR 2019』7月14日ライブレポート
Report by 別府 “Veppy” 伸朗
「NEW WAVE OF BRITISH HEAVY METAL」(以下、N.W.O.B.H.M.)が誕生して40年の今年、そのムーブメントで活躍したTANKが再来日公演を行った。彼らの初来日公演となった日比谷野外音楽堂でのN.W.O.B.H.M.20周年ライブから数えても20年、待ち続けたファンも多かったであろう。
オリジナル・メンバーであり強烈な個性を放っていたアルジー・ワードがいないTANKなんてといったファンの気持ちも分からないではない。そのアルジー率いる「TANK」も存在しているが、状況的に言えばミック・タッカーとクリフ・エヴァンスのギター組率いるTANKが安定した活動を行っていると言える。
この日の会場となった新宿HOLIDAYには多くのファンが詰めかけ、TANKが始まる頃には後ろまでギッシリと入った感じで熱気もかなりのものであった。
トップバッターは新作「RAGING SOLDIER」が好調なDÜEL
Hyodo<b,vo>の野太いベース音と“Outlaw Horses Comin'”でショウはスタート。哀愁のツイン・ギターを軸にロックンロール的な速さで爆走していくDÜEL節は健在で、フロアは様子見の観客も巻き込んで序盤から盛り上がりも上々。入口でDÜEL団扇を配っていたが、それが応援グッズとして機能してそこかしこで曲のサビに合わせて振り上げられていた。
新メンバーであるMasa<ds>もMachya<g>のプレイも目を引いたが、特にMachyaのプレイには驚いた。彼が在籍しているOUTBURSTはスラッシュ・メタル色の強いもので、プレイは上手かったが正直DÜELの音楽性には合わないのでは、と思っていたからだ。Yoshi<g>と共に哀愁のツイン・ギターを奏で、グイグイとステージを引っ張っていくMachyaのパフォーマンスに目を奪われ、DÜELの新しい血となっていることに驚いた。
6曲と短いセットだったが、ファンにはお馴染みの定番曲から新たなDÜELの一面を見せた“Standing Alone”までフロアの盛り上がりも上々でラストは殺傷力タップリの爆走ナンバー“D.U.E.L.”で締めくくり、曲の最後にHyodoはベースをもう一本フロアに持ち出して誇らしげにネックをクロスさせていた。
2019年7月14日@新宿HOLIDAY
<SETLIST>
01.Outlaw Horses Comin'
02.Tower Of Stone
03.Standing Alone
04.Raging Soldier
05.Ace-No.1
06.D.U.E.L.
新世代王道ヘヴィ・メタル・バンド、期待のZERO FIGHTERが2番目に登場
“This Day Would Come ”、“Wild Ones”辺りで曲に入る時に呼吸が合わなかったのかほんの少し妙な間ができてしまったのと場内にダレた感じが出てしまったのが本当に残念で、“Sunrise”と“We Will Go”でショウのクライマックスに向けての畳みかけでファンをヒートアップさせてかなり盛り上がっていただけにその思いが強かった。
厳しいことも書いたが、こういったバンドが出てきたというのは素直に嬉しいし今後の展開が本当に楽しみだ。場内のファンの反応からもそれを強く感じた。
ZERO FIGHTER
2019年7月14日@新宿HOLIDAY
<SETLIST>
01.Flight To Salvation
02.I'll Be Back
03.The March In Snow
04.This Day Would Come
05.Wild Ones
06.Sunrise
07.We Will Go
日本組ラストのHELLHOUNDは貫禄のステージ
日本組ラストに出演はHELLHOUNDでオープニングのSEが流れた瞬間からステージ前の圧がグッと高まり、かなりの声援が飛んでいく。幕が開くとメンバーは後ろ向きでスタンバイ、そこから“The Oath Of Allegiance To The Kings Of Heavy Metal”が勢いよくプレイされる。続くACCEPTを想起させるヘヴィさのある“Metal Nation”ではCrossfire<g,vo>は両手を広げフロアを一体化すべく煽っていく。
MCでは「TANKまで体力を残すなよ」と言い放っていたCrossfireだったが、それもまんざらではないと思わせるフロアの熱狂ぶりで、“Sign Of Heavy Metal”ではヘヴィ・メタルの象徴とも言えるメロイック・サインがステージからもフロアからもいくつも突き上げられる。そこから間髪入れずキャッチーな“Mr.Heavy Metal”に流れ、CrossfireとLucifer's Heritageのギター・ソロ共演はかなりの見せ場となっていた。
「俺たちは死ぬまでヘヴィ・メタルだぜ!」と言い放ってから解き放たれた高速ナンバーの“Heavy Metal Till I Die”では、そのスピードで曲が崩壊するのではとハラハラするところもあったが、この曲は「スピードこそ命」とばかりに強引に持っていったところが逆に曲の印象と強くした感じだった。ラストは盛り上がり必至で初めて聴いた人も一緒に歌えるキャッチーなサビが強みの“Metal Psycho”と“Metal Warrior”で締めくくった。
楽曲、パフォーマンス、キャラクターとファンのハートをガッチリと掴んでいて、TANK目当てと思われる初見の人も彼らのパフォーマンスに満足している印象を受けた。バックステージではHELLHOUNDのパフォーマンスをTANKのメンバーが絶賛していたとのことだ。
HELLHOUND
2019年7月14日@新宿HOLIDAY
<SETLIST>
01.The Oath Of Allegiance To The Kings Of Heavy Metal
02.Metal Nation
03.Sign Of Heavy Metal
04.Mr. Heavy Metal
05.Heavy Metal Till I Die
06.Metal Psycho
07.Metal Warrior
20年振りにTANKが再びこの日本のステージに立つ!
定刻を10分程過ぎた頃に場内暗転、1stアルバム「FILTH HOUNDS OF HADES」のオープニングと同じく「ウンバ、ウンバ」の掛け声がSEとして流れる。
そのまま3rdアルバムのタイトル曲“This Means War”が始まるのは、私の記憶が確かなら、20年前の日比谷野外音楽堂での初来日公演と一緒。勢いよくステージに飛び出してきたメンバーと共に曲は始まり、ミック・タッカーとクリフ・エヴァンスのギター・コンビの哀愁と男臭さ溢れるメロディが早くも会場をヒートアップさせていく。デヴィッド・リードマンが歌えるヴォーカルということもあって、この曲の表情もガラっと変わった感じ。野太く味のあるアルジーの声と違い、表現力豊かなデヴィッドの声がアルジー時代の曲にまた新たな息吹を吹き込んだ感じで、「WAR!」の掛け声と共に盛り上がっていく。
続いて勇壮な“Echoes Of A Distant Battle”で更に会場は一体となっていき、この曲ではタイトなボビー・シュトコウスキーのドラミングがギラリと光る。アルジーと袂を分けてリリースされた「WAR MACHINE」から“Judgement Day”へと続く。ドラマチックなイントロから英国らしいメロディを導入したこの曲を聴けば、ミックとクリフがそれまでのTANKで表現してきたもの、そしてそこにプラスしていきたかった世界を感じることが出来るだろう。勿論、そこにはTANKらしい男臭さや勇壮さが盛り込まれてというのが前提でだ。
哀愁、力強さ、ヘヴィ・メタルの高揚感が一体となった名曲“Honour And Blood”が続いてプレイされると待ってましたとばかりに声援を上げるファンも多かった。ここで次にやる曲を間違えて他のメンバーに突っ込まれるデヴィッドが苦笑いして始まったのは砂埃を巻き上げて暴走していくクラシックの“Just Like Something From Hell”で野太いバレンド・クルボワのベースが曲を引き締める。
クラシック2連発にオールド・ファンはかなり盛り上がっていたがデヴィッドは満足しないのか「東京、寝てるのか?」とファンを煽りヘヴィな“W.M.L.A.”へと流れていく。ずっしりとした重厚なリズムが腹に響き、絶品以外の言葉が見つからないクリフのギター・ソロには聴き惚れてしまった。この曲でのデヴィッドの歌唱は絶品の一言で、こんな曲だったけと驚いた位に曲の印象を変えていた。聴かせる“Make a Little Time”に荒々しい“Walking Barefoot over Glass”と新旧違うタイプの曲が続いたが、どちらもデヴィッドのヴォーカルが引っ張っている印象が強かった。
このメンバーになって初めてという“That's What Dreams are Made Of”がプレイされると体感温度が更にグイっと上がった感じで、場内の声援もそれに合わせた様にどんどん大きくなっていく。ドゥギー・ホワイトが歌ったドラマチックな“War Nation”では彼とはまた違う味付けで新たなスパイスを加えてファンを魅了していくデヴィッド。その彼が一番好きな曲と言って始まったのは“Power of the Hunter”で、彼がこういった暴走ナンバーを上げたのは意外だった。リズム隊もかなりタイトということもあって、オリジナルのドタドタ感を残しつつパンキッシュな面が後退して、整合性がグンと増していた。
そのままドラム・ソロに雪崩れ込んだが、途中でもう十分だといった風に笑いながらランディ・ヴァン・ダー・エルセンを呼び込みここからドラムとベースの二人旅。ランディはRUSHの“YYZ”のイントロからMOTÖRHEADの“Ace Of Spades”のフレーズを織り込みながらベース・ソロを披露してファンの声援を浴びていた。因みに、今回のツアーのオーガナイザーがRUSHが大好きということで狙っていたのかと思ったが全くの偶然が生んだマジックだった。他の日にはYESの“Roundabout”が織り込まれたとのことだ。
ドラム・ソロ~ベース・ソロが終わるとデヴィッド、ミック、クリフがステージに姿を現し「もっと騒げ!」と本編最後となる“(He Fell in Love With A) Stormtrooper”が始まった。やさぐれた男の哀愁感は後退してがメロディアスさが強調され、この名曲も新たな魅力を引き出されていて、ファンはヘッドバンギングにサビでは一緒に拳を突き上げて歌う等かなりの盛り上がりを見せていた。
一度引っ込んだメンバーだったがファンはアンコールを求め、関係者がステージに登場して煽ると更にその声は大きくなっていく。「もっと聴きたいか?」と嬉しそうにデヴィッドと煽り「準備はいいか?」と“Blood, Guts And Beer”の渋いリフが場内に鳴り響く。ミドル・テンポで勇壮さと渋みがギュッと詰まった曲をデヴィッドが感情豊かに歌い上げる。英国ならではの湿り気タップリのメロディアスなギターを奏でるミックとクリフのギター・チームに合わせてエア・ギターを楽しんでいるファンもチラホラ見かけた。
ラストは必殺の“Shellshock”が炸裂、オリジナル版よりも1.5倍増しの体感速度で暴走していく。フロアの熱気も最高潮の中で彼らの20年振りとなる来日公演は終了した。
ライブ終了後には無料でミート・アンド・グリートが行われメンバーもファンも楽しそうに言葉を交わしながらサインに記念撮影を行っていた。
ミック・タッカーとクリフ・エヴァンスの創造する英国の誇りを感じさせるTANKも素晴らしいと思わせた夜で、このギター・チームが奏でる男の哀愁をギュっと溶かし込んだ様なメロディに何度もハートを掴まれた。
アルジーの男臭い少しやさぐれたヴォーカルがTANKの音楽性に合っているというのは勿論否定しないが、しっかりと歌い上げしかも今のTANKの音楽性に合っているデヴィッドが新たにTANKに持ち込んだものも多かったとこの来日公演で示したであろう。90分のライブが終始盛り上がり、ミート・アンド・グリートでファンが長い行列を作りライブの感想をそこかしこでメンバーにライブの感想を伝えていたのがその証拠とも言える。
大阪公演の翌日には日本を後にしたTANKだが次は20年という長いブランクを開けずに日本の地を踏んで再び素晴らしいパフォーマンスを繰り広げて欲しい。その時には今回ライブを体験出来なかったファンも足を運んでくれたらと思う。
TANKと共演バンドによる記念撮影
「VALLEY OF TEARS」
2015年
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