祝30周年! 人間椅子『新青年』発売記念 初登場・鈴木研一、一万字インタビュー“30年目の初挑戦、伝説、そして野望”
鈴木研一 それは結局、落ちてるか落ちていないかという差で。いっぱい曲を作ってもアルバムからあぶれた曲もあるんです。
──ああ、なるほど。
鈴木 あ、でも、そう言えばいつもより多く作りましたね。
──ということは、やはり鈴木さんのやる気が上がっているということなんですね。
鈴木 和嶋君に触発されたというのが、あるかも知れませんね。和嶋君がツアー中にMCで「30周年だから凄いアルバムを作ります」みたいなことを言っちゃってるんですよ、どの会場でも。
──わははは!
鈴木 「皆さんを戦慄のどん底に陥れます」みたいなこと言ってて、こんなにハードル上げていいのかなあと思って(笑)。でも和嶋君は口に出すと、願いは叶うという信念があるみたいなんですね。
──言霊の力を信用しているんですね。
鈴木 だからなおさら言ってるんでしょうけど。
──有言実行タイプなんですね。たしかに実行されている感じがしました。
鈴木 それに負けないように作らないとバランスが悪いだろうし。
──今回も暗くて湿っていましたね。
鈴木 ああ、良かった。
──今年はNWOBHMが40周年なんですよね。
鈴木 お、全然“ニュー”じゃないけど。
──IRON MAIDENの最初の自主制作シングル「SOUNDHOUSE TAPES」がリリースされたのが1979年だったんですよ。そして人間椅子も30周年です。
鈴木 1979年って自分は中学生でしたけど、ロックに関しては激動の年だったような印象がありますよね。ディスコが流行ってて、色んなバンドがそういう曲をやっていた。
──KISSまでもがやっていました。
鈴木 そう、あとジューダス・プリーストの“You've Got Another Thing Comin'”もディスコ調と言えなくもないですし。
──『復讐の叫び/Screaming for Vengeance』は1982年リリースですから、もう少し後になります。
鈴木 ああ、そうか、凄いですね、ちゃんと歴史が頭に入ってるんですね。
──この仕事やってると頭に入っちゃうんですよね(笑)。鈴木さんは昔のことはあまり覚えていないんですか。
鈴木 全然。先日、渋谷公会堂の思い出を聞かせてくださいと言われたんですけど。渋谷公会堂で演奏した記憶が抜けててね。
──え、何度かやってるはずですけど。
鈴木 演ったらしいですね。変なことは覚えていますよ。長崎行ったら、お客さんが10人しかいなかったとか。そういうのは凄くよく覚えていますよ。この10人に感謝して、いつもより良いライヴをやってやろうと思って頑張った記憶があります。
人間椅子がデビューした1989年とは
──人間椅子がデビューした1989年というのは、すでにヘヴィ・メタルが成熟していた時代ですよね。
鈴木 メタリカは『メタル・ジャスティス/...And Justice for All』とかもう出してたのかな。
──そうですね(※1988年8月発売)、米国でハードロック、ヘヴィ・メタルの売上が凄かった頃です。モトリー・クルーやスキッド・ロウが全米アルバムチャート初登場1位になったりとか、1989年はそんな時代に突入する少し手前ですね。
鈴木 ああなるほど。あの頃の、シンデレラとかポイズンとか、そういうの聴くと懐かしいですよね。でも当時は軟派な感じがして聴くのが恥ずかしかったんですけど。聴くと“あれ、カッコいいな”って思うんだけどねえ。
──1989年のデビュー当時から人間椅子のハードロックは独特でしたよね。
鈴木 TVに出て名前が知られるようになる前からこういう曲ばかりやっていましたけど、その頃から他のバンドとは違う曲調なんだなと感じていました。自分たちとしては王道のハードロックを演っているつもりなんですよ。だけど、この感じだと、どうやら王道じゃないようだと思うようになって。あの頃って日本のロックの主流は関西メタル系だったんですかね?
──その頃はもうジャパニーズ・メタルのブームも下火になりつつあったと思います。Xの人気はすでに爆発していて、後にヴィジュアル系と言われる人達が出てくるようにる直前くらいだったような気がします。
鈴木 その辺の記憶はあまり無いんですけどねえ。Xは髪立てて凄く暴れる人って印象がありましたが。
──おっしゃる通りだと思います。見た目のインパクトは強烈でしたし、“最強”ってキャッチフレーズだったし。そこからヴィジュアルが始まるんですけど、人間椅子は真逆の方向へ行ってたような気がします。
鈴木 いや、最初の頃は真逆とも感じていなくてね。結構、そっち系のファンも来ていましたよ。アンケートの“他にどんなバンドを聴きますか”って項目に“MALICE MIZER”とか書いてあってね。GACKTのファンも来ていたんですよ。だから真逆じゃないんですよ。
──そんなことがあったんですか。ま、人間椅子もビジュアルと言えばビジュアルかもしれませんけど…。
鈴木 その意味じゃなくても、自分も痩せていたし。まあ二人共もうちょっとカッコよくて、ヴィジュアル的にも人気があったんですよ。
──失礼しました。それにしても30年経ってどう思いますか。
鈴木 びっくりするくらい曲の感じが変わっていませんね。全然変わっていない。でもネタはまだまだあるんだなっていう気がしていますね。
──創作意欲は衰えていないということですね。
鈴木 そうですね。アルバム出すじゃないですか、その曲を持ってツアーして、一年くらいするとその曲の演奏に飽きてくるんですよ。“またこの曲演るのか”と思って。じゃあそろそろアルバム作ろうかとなって、30年間その繰り返し。10回位演ると違う曲を作って演りたくなっちゃうんですね。
──歌詞はいかがですか。
鈴木 歌詞はほぼ和嶋君が書いてるんですけど、彼の頭の中の引き出しにはまだまだいっぱい色んなものがあると思いますね。文芸シリーズや、雑誌『ムー』のようなオカルト、純情な青春とか、いっぱい引き出しを持っているから、どんな曲にもいい歌詞をつけてくれますよ。
ホークウィンドをイメージした宇宙シリーズ
──鈴木さんはオカルトはあまり興味ないんですね。
鈴木 俺は全部嘘だと思って読んでいました。やっぱり自分で目にしないと、信じられないじゃないですか。幽霊とかUFOとか言ってもねえ。和嶋君は高校時代に宇宙船に連れて行かれたと力説していて、真顔で言う和嶋君がどこまで本気なのかわかりませんけど、そこから広がっていく不思議な世界の面白さはわかります。だから自分はその逆を行きたくなるのかな。そういう点ではツッコミ役になっているのかも。ボケボケだと良くないんでね。でもそういう話を聞いていると、すべての事柄を陰謀論に結びつけて語るから可笑しいんですよ。
──陰謀論好きな人、いますよねえ。ジョン・レノンが殺されたのは○○の陰謀だ、みたいなことを言う人とか。
鈴木 まあ少しわかる気もしますけどね。このアルバムに入っている“宇宙のディスクロージャー”って曲は、和嶋君の『ムー』的世界が思い切り出ています。“宇宙シリーズ”というジャンルが人間椅子の楽曲にあるんですけど、自分がホークウインド好きなもんで、そういう曲をやろうということでね。
──おおっ、いいですね。
鈴木 これを作った時はそういうつもりで書いてなかったんだけど、和嶋君がムー的歌詞を書いて。真ん中のギターソロに“ツァラトゥストラはかく語りき”が入って、テルミンが入ったりして、いろいろやっていたら宇宙シリーズになったんです。凄く嬉しいですね。
──ホークウインドが好きなんですね。
鈴木 好きなんですよねえ。
──僕はライヴ盤をよく聴きました。
鈴木 サイケなジャケットのやつですよね(1973年作『宇宙の祭典/Space Ritual』)。アレはレミーのベースがブイブイしてていいですよね。
──宇宙へイッちゃってますね。
鈴木 うん、イッてる。CDだとポエトリー・リーディングは、絶対に飛ばすんですけどね。“宇宙はナントカで~”、グワングワンみたいなやつ(笑)。英語で何言ってるのかわからないし、絶対に飛ばしますね。
──ホークウインドといえば“SILVER MACHINE”が有名ですけど。
鈴木 それほどホークウインドにハマってない和嶋君も「あれは良い」って言ってましたね。自分的にはホークウインドの本筋じゃないと思うんですけど。
──アレはファーストに入ってたんですかね。
鈴木 たしかシングルの曲で『Doremi Fasol Latido/ドレミファソラシド』のボーナストラックに入ってると思います。プロコル・ハルムの“青い影”みたいな。“青い影”がアルバムの1曲目に入ってたりして。
──ああ、そういうことありますよね。レコード会社が勝手に曲順変えちゃう(※プロコル・ハルムの場合は米国盤のみ)。
鈴木 でも今回のアルバムはレコード会社の提案でボーナストラックが入ってるんです。14曲目“地獄のご馳走”は元々入っていなかったんです。なんとかCDを売りたいというレコード会社の希望でね。みんな配信で買っちゃうから、CDを買わないと聴けない曲を入れたいということで、その提案を元に、無事このボツ曲が音源になったんです。
──え、ボツだったんですか。この曲、すごくカッコよかったですよ。
鈴木 全然ボツ曲で、リズム録りの時もやっていなくて。ギター録りの時に狭い場所にドラムを運んで、ほぼ一発録りのような形で録音したんです。だからちょっと他の曲と音が違うんですよね。
──ああ、確かに生々しかったですね。そしてアイアン・メイデンっぽかった。
鈴木 そうそう、俺のメイデン趣味が出ましたね。頭からドラムで入って、歌い出しがモロにポール・ディアノだなと思ったけど(笑)。ここまでメイデンっぽくしたからもういいやと思ってそのままにした。
──あの生々しさはポール・ディアノ時代のメイデン感なんですね。
鈴木 1枚目と2枚目ばかり聴いてますから。頑張って3枚目までかな。
──僕は4枚目も好きですね。
鈴木 4もいいですよね。あまり有名じゃない曲で“Quest For Fire”とか、アレはいい曲だなと思うんだよねえ。自分はとくに2枚目(『キラーズ/killers』)が好きなんです。ボーナストラックって意外と良くて、あのアルバムの“Twilight Zone”って本当はアルバムの曲じゃないでしょう。本当はシングルの曲だけど入ってる。あのアルバムの中ではいちばん好きなんです。だからボーナストラックって案外いいポジションなんですよ。ボツ曲だったけど、徳間さんのおかげで生き返って、さらにいい場所に置いてもらって幸せな曲ですね(笑)。
──最近はは配信じゃないことをフィジカルとかパッケージとか言いますけど、限定の特典って各アーティストやレコード会社が考えながらやっていますね。
鈴木 別に配信で聴いてもらってもいいんだろうけど、バンド側としてはジャケットとか歌詞カードに凄いこだわり入れたのに、買ってもらえないというのはちょっと残念なんですよねえ。
──デザインとかよく練られていますからね。
鈴木 こういうの見ながら聴くのがいいじゃないですか。歌詞カード読んだり。
──最近は老眼になっちゃったんで、LPジャケットの方が良くなってしまったりするのですが(笑)。
鈴木 ああ確かに。これからツアーがあるので、新曲の練習で歌詞カード読もうとするんだけど、全然読めないじゃないか、とかブツブツ言いながらやってます(笑)。
──老眼になると世の中の細かいことが、どうでもよくなってきますよね。それが大人になるということなのかなと思いますが。
鈴木 それはある。デビューした頃はお客さんの批判とか気になるんですよ。その後、インターネットが発達して、色々悪口も言われたんですけど、今は全然気にならないんですよ(笑)。もちろん読まないようにもしますけど。
──ああ、いいことですね。
鈴木 このアルバムの発売に先立って、“無情のスキャット”のMVが公開されたんですけど、担当者に“10万再生越えてますよ”って言われて(※現在は再生40万回オーバー)。俺も一票入れようと思って観たんですけど、コメント欄に“ベースのお兄さんが巨漢になったな”とか書かれてて。昔の自分だったらこんなんでも傷ついたのにな、と思ったんですけど、今は何とも思わなくて(笑)。むしろデブじゃなくて“巨漢”って優しい書き方だなと思ったりして。
──わはははは! ポジティヴですね。
鈴木 たまたまその時撮っていたカメラマンの人が特殊なレンズを持っていて、なんかグルっと手で回しながらシャッターを押していたんですよ。CG加工じゃなくて、アナログなんですよ。たくさん写真があったんですけど、奇跡的にこれがバランスがいいと思ったんです。
──確かにいいですね。
鈴木 ニューアルバムのタイトル『新青年』は江戸川乱歩も書いていた、昔の推理小説の雑誌名ですけど、収録曲も“鏡地獄”とか“屋根裏の散歩者”とか、江戸川乱歩のタイトルから取っているわけで、乱歩のレンズ嗜好にも合っているし。とくに「鏡地獄」って話は、球体の鏡の中に自分が入ったらどう見えるかって、入ってみた人が頭がおかしくなるという小説なんだけど、そう思うとこのアルバムのジャケットにはちょうど良い雰囲気だと思ったんです。
──楽曲の話に戻りますが、アルバム全体の印象は暗いんだけどスカッとしますよね。
鈴木 とくに和嶋君の作った曲は、キャッチーなサビがありますからね。逆に自分の曲は、サビはお経っぽいのかな。
──やはり初期IRON MAIDENの感じかもしれませんね。
鈴木 なるほど。
──関係ないですけど、僕はチャーハンは油っぽくてベチャッとしたやつが好きなんですよ。
鈴木 わかりますよ。パラパラって、なんか美味しいチャーハンの第一条件みたいに言うけど、そんなことはないと思います。パラパラ、誰が考えたんでしょうね。
──しっとりを越えてベチャッとしたやつが好きなんです。食べ終わった後、底に油が残るくらいのやつ。
鈴木 ベットリしたチャーハンは俺も好きですよ。油と塩と、あと中華料理屋でよく使ってる魔法の粉みたいなのがいっぱい入ったチャーハン。アレは良いですよね。
──人間椅子の音楽はそんなチャーハンの味がするんです。
鈴木 自分ではピンと来ないけど、読んでくれる人がそう思うならいいかなあ(笑)。まあ、カラッとはしていないですよ。聴いて癒やされても欲しくないしね。
──もちろんハードロックの爽快感はありますが。
鈴木 ああ、リフとかギターソロのカッコ良さとかはあるでしょうね。例えばブラック・サバスの『マスターズ・オブ・リアリティ/Master Of Reality』を聴いた後の、何とも言えない、爽快ではあるけれども体が重くなるような心地よい疲れみたいなのあるじゃないですか。そういう風であって欲しいかな。
2019年6月5日発売
徳間ジャパンコミュニケーションズ
初回盤(CD+DVD)TKCA-74791
通常盤(CD) TKCA-74792
<収録曲>
01. 新青年まえがき(歌唱:和嶋慎治)
02. 鏡地獄(歌唱:和嶋慎治)
03. 瀆神(歌唱:鈴木研一)
04. 屋根裏の散歩者(歌唱:和嶋慎治)
05. 巌窟王(歌唱:鈴木研一)
06. いろはにほへと(歌唱:和嶋慎治)
07. 宇宙のディスクロージャー(歌唱:鈴木研一)
08. あなたの知らない世界(歌唱:和嶋慎治)
09. 地獄小僧(歌唱:ナカジマノブ)
10. 地獄の申し子(歌唱:鈴木研一)
11. 月のアペニン山(歌唱:和嶋慎治)
12. 暗夜行路(歌唱:鈴木研一)
13. 無情のスキャット(歌唱:和嶋慎治)
※CDボーナストラック
14. 地獄のご馳走(歌唱:鈴木研一)
<DVD>
『新青年』への軌跡
レコーディング中の貴重な映像や、アルバム完成直後のメンバー同士の対談インタビューを収録。
30年目にして初の指弾き“月のアペニン山”
──サード・アルバム、あの数十分の間、惹き込まれていく感じって何なんでしょうね。
鈴木 ブラック・サバスのファーストって凄く短い期間で作られているじゃないですか、セカンドも同じ年に録音されてて、おそらくファーストに入り切らなかった曲を入れてるんだと思うんだけど。3枚目は同じ系統というか雰囲気を引き継いでいるんだけど、でも4枚目に行くまでのちょっとした変化も見えるという、あの感じが良いんですよね。
──少し洗練されているんですかね。
鈴木 美しいアルペジオ入れてみたりね。音はね、ベースに関しては極悪ですよ。曲によっては、おそらくピックで弾いていますね。それがたまらない音をしてて。たぶん“Children Of The Grave”はピックで弾きですよ。
──あ、そうなんですか。
鈴木 ちょっと他の曲よりロウが抜けているじゃないですか。指で弾くとロウが必然的に出るんです。ピックで弾くとロウがなくなるけど、その分、中域とか刻みの下品な感じが出ているんですよね。
──へええ、それは気づかなかったです。改めて聴いてみたくなりました。
鈴木 ビブラートが他の曲よりえげつなくて、“Into The Void”は結構オーバーチョーキングしてますよね。アレがカッコよくて、真似してるんだけど(笑)。少しかければいいものを、少しじゃなくてわざと下品にするという技がたまらないんです。
──なるほど、そういうところに影響されていたんですね。
鈴木 そうですね、ギーザー・バトラーにはそういうところに影響されています。リフの感じもかなり影響を受けていると思います。スタイル的にはジーン・シモンズみたいな動きをしているんですけど。プレイ的にギーザーと違うのは、自分はピック弾きなので、そこが違うんだけど、かと言ってジーン・シモンズとも違う。自分としてはピック弾きの神様はボブ・ディズリーなんですけどね。あの人のピック弾きは最高だなと思ってね。オジー・オズボーンの『ブリザード・オブ・オズ/Blizzard Of Ozz』の“アレ”とかカッコよくて。
──ちょこっと入るフレーズがいちいちカッコいいんですよね。
鈴木 そうそうそう。
──鈴木さんはピックと指、どう弾き分けているんですか。
鈴木 全然していないんです。自分はずっとピック弾きで。30年目にして今回初めてやりましたよ。10曲目の“月のアペニン山”です。
──なるほど、バラードっぽい曲ですね。
鈴木 曲によって使い分けるみたいなことは自分らしくないというのもありましたけど(笑)。それにファースト・アルバムから刻みの細かい曲が多くて、ピックじゃないと弾けなかったんです。でも結果的にピック弾きにして良かったと思います。人間椅子はギターとベースのユニゾンが多いんですけど、よりユニゾン感が出るんです。指弾きはアタックがファジーだから、それほど合っていなくても、合っているように聴こえるんですよ。なんとなくその人達の、この言葉はあまり使いたくないんだけど“グルーヴ”が出るんです。ピックの場合はピタッと合わせないと。合った時の気持ちよさはピックの方がありますけどね。
──ユニゾンと言えば有名なところでアイアン・メイデンの“Phantom Of The Opera”がありますね。
鈴木 よく聴くと、結構ベースがズレてますよ。とくに1枚目が酷いですね。でもズレたから何だと思うし。そんな“俺がスティーヴ・ハリスだ”、“だから何なんだ、俺が正しいんだ”みたいな感じの弾き方が、偉そうで好きですねえ。
──ズレなんて、それほど重要ではないんですね。
鈴木 ハードロックはズレてナンボですよ。打ち込みでバッチリ合わせてるバンドも多いと思いますけど、その味気なさといったらないですね。まあ、自分たちもクリック使って録音してる時点で、まだまだ道を極めていないと思いますけど。その点、アイアン・メイデンは凄いですね。どんだけ走るんだ、どんだけモタるんだと。カッコいいよなあ。
──“Aces High”は最初と最後でテンポが全然違いますよね。
鈴木 ハードロックはそうあるべきだと思うんだけど。とくにそれを感じるのがサバスの“Into The Void”。中間空けて3番に入ると、すっげえ遅くなるんですよ(笑)。同じことやってるのに。アレがカッコよくてねえ。人間椅子もクリックなしで録音したいなと思うんですけど、クリックにもメリットがあってね、ギターの被せが楽だから。
──なるほど、そうなんですね。
鈴木 ハードロックはいちいちテンポが変わるところがカッコいいと思うので。自分達もアルバムよりライヴの方がカッコよくやる自信がありますよ。もうすでになんでこの速さでやってしまったんだという曲が今回のアルバムにも入ってて、発売前から反省していますよ。ライヴだったらもっとカッコよくやれるのにっていう。
──演奏を重ねていけばその辺りが見えてくるんでしょうね。
鈴木 そうなんですよね、そこが楽しいんですけどね。あえて隙間を伸ばしてみようかなとか、ギターソロを倍にしてみようかとか、無駄に叫んでみようかとか、色々変わってくるんですよね。あらためてスタジオ盤を聴くとこんな曲だったかなとか、ビックリするんですよ(笑)。こんなに遅かったっけって。逆に速かったっけみたいなこともあるかな。
──遅い曲が好きなんですか。
鈴木 遅い曲のエイトのタメのようなものを上手く出す自信はありますよ。逆に言えば、そこくらいしか命をかけていないかもしれない。タメとかどよーんとしたうねりとか、ライヴではそこに命かけています。スタジオ録音と、いかに同じように弾かないか、というところですね。お客さんの期待を裏切らないために、ちょっと変えるくらいがいいんですけど。
──そういう話を聞くとライヴもより深く観ることが出来そうです。
鈴木 ツアーの頭とケツでずいぶん違うと思うのでね。今回は千葉で最後は豊洲だから観てほしいですね。
──行けないこともないですね。一度、そういうのやってみたいんですよねえ。METALLICAのワールドツアーの頭とケツを観るとか。
鈴木 だいぶ変わってるでしょうね。そう言えばKISSのファイナル・ツアーは続くんですかね。
──個人的にはKISSくらいになれば、人が入れ替わったとしてもずっと続いていけばいいと思います。あとQUEENも。楽曲が受け継がれていけばいいと思いますけど。
鈴木 いい意味でのベンチャーズのような状態ですね。
人間椅子の伝説とは
──ツェッペリンはジョン・ボーナムの代わりがいませんでしたけどねえ。
鈴木 ああ、いないですね。ま、人間椅子も和嶋君いなくなったら終わりだなあ。
──何をおっしゃいます、誰ひとり欠けてもダメでしょう。
鈴木 そんなことないでしょう。頭剃って白塗りにすればどうにかなりますよ(笑)。
──いやいや、難しいと思います。
鈴木 ところで倉田さんは最近どんなバンドが熱いんですか。
──最近またキャロルをよく聴いています。
鈴木 わははは。もっとBURRN!的なバンドの名前が出てくるかと思った。和嶋君がキャロル大好きなんだよなあ。
──え、そうなんですか。
鈴木 和嶋君によく“キャロルは良い”って言われたなあ。
──矢沢永吉さんの『成り上がり』はもちろん読まれましたよね。
鈴木 若い時にね、皆が回し読みしてて自分にも回ってくるんですよ。一応読みましたけどね。
──永ちゃんの伝説はたくさんありますけど、人間椅子の伝説は何かありませんかね。
鈴木 伝説が出来るほどではないですから、まだまだだなと思っていますよ。
──伝説は意識しちゃダメなんでしょうね。
鈴木 内田裕也さんみたいな伝説は作れませんね。
──タイプが違いすぎますから(笑)。
鈴木 伝説かあ、ないなあ。何かありませんか?
レコード会社担当K氏 鈴木さんは当時、バリバリ働きながら音楽活動されてて、僕が担当し始めた最初の頃は毎日のように夜10時から取材でした。
鈴木 ああ、そういやインタビューする人には悪いことしましたね。
レコード会社担当K氏 当時、高円寺のルノワールに週3で通っていましたから。ちょうどOZZFESTに出演した頃で取材も増えて。
──え、それって最近の話じゃないですか。
レコード会社担当K氏 そうですね。
鈴木 ちょうど4年前だ。
──ここに来て売上とか動員も伸ばしているというのは、本当に凄いと思います。働きながらバンドを続けている人もたくさんいますけど、40代後半で仕事辞めるって、もの凄いことですよ。
鈴木 仕事を辞めたのは、和嶋君が酔っ払う度に打ち上げの席で“仕事やめろ”って説得されて。“仕事なんかしてる場合じゃない、こんな機会をもらえるバンドは数少ないんだ”というようなことを毎回力説するんです。徐々に俺の気持ちを辞める方向へ持っていくという作戦だったんでしょうけど。まんまと嵌って仕事を辞めたんですけど(笑)。
レコード会社担当K氏 鈴木さんはお酒飲まないんですよ。ノブさんは寝ちゃうので、最終的に酔ったメンバーとスタッフ、それと鈴木さんという形になってしまうんです。
鈴木 だから最近は先に帰るようにしています。でも仕事辞めたおかげでレコーディングも自由に入れるし、フェスとかイベントの誘いも断らなくなったから、いろんな場所でライヴやれるようになったし。以前は毎週土日にライヴやっててギャラの二重取りみたいでずいぶん儲かってたんたけど(笑)。
──わはははは! やはり兼業は儲かりますか。
鈴木 上向きになるまではね、正直仕事しないとやっていけなかった。だから辞めるタイミングがね。自分としては生活が不安で仕事が辞めれなかったですね。
──いや凄いです、本当に。
鈴木研一、今後の野望
──そして30周年を迎えた今、鈴木さんの野望はありますか。
鈴木 金もないのにね、常にやりたい店がいっぱいあるんですよ。ハードロック喫茶もやりたいし、お化け屋敷もやりたいし、温泉もやりたいし、やりたいこと色々あるんですよ。
──え、温泉ですか? まさか掘るところからじゃないですよね。
鈴木 掘る所からですよ。
──わははは!
鈴木 あと、オンラインということは、これ海外の人も読んでますよね?
──はい、読んでます。海外の音楽関係者からもたくさんメールが届いています。
鈴木 俺らとしては是非、外国でライヴがやりたいんですよ。
──おおっ、それはいいですね!
鈴木 一回も行ったことないんです。どこでも行きますので是非呼んでくださいって書いておいてください。
──最近、ラムシュタインを聴いて思ったんですけど、やっぱり母国語でやるべきだと思いました。人間椅子は是非、日本語でやり通してほしいです。
鈴木 ああ、PFMもやっぱりイタリア語がいいんですよね。ピート・シンフィールドが入って英語詞にしたアルバム(1974年作『甦る世界/The World Became the World』)、ヒットしましたけど、やっぱりイタリア語のほうが良いんですよ。
──そうですね。それにしても鈴木さん、そんなに野望がいっぱいあるとは驚きです(笑)。
鈴木 温泉作らなきゃならないし、ロック喫茶も作らなきゃならない。海外ツアーもしなきゃならないからもう野望だらけなんですよ。
──素晴らしいです、期待しています! ありがとうございました。
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