藤木昌生の密かな楽しみ Vol.1 ~ 偉大なるソングライター、ダミアン浜田陛下
皆さん、こんにちは。元BURRN!編集部の藤木昌生です。
雑誌の編集部の方を離れて10ヵ月ほど経ちましたが、新しい年もスタートしたということで、このBURRN! ONLINEで『藤木昌生の密かな楽しみ』と題したコラムを始めようと思います。不定期のコラムではありますが、僕が最近聴いて良いと思った音楽、以前から良いと思っていた音楽、音楽に関する思い出話、興味深いと思った発見や疑問など、様々なことについて書いていけたらなと思っております。イージーな感覚で(なかば思いつきで?)書いていこうと思っておりますので、時間つぶしにでも目を通していただければ幸いです。
さて、このコラムの第1回目に取り上げるのは、昨年11月にちょうど1年振りの新作「魔界美術館」をリリースしたDamian Hamada's Creatuesのブレインであるダミアン浜田陛下。
以前にBURRN!でも何度か書いたことがあるけど、僕は聖飢魔Ⅱが1985年にデビューした頃からダミアン浜田陛下(当時は殿下だった)の作曲センスに心酔していた人間だ。
聖飢魔Ⅱのことを初めて知ったのは、まだ彼らがデビューする前、テレビの深夜番組に出ていたのを観た時で、その時はデーモンと名乗る奇妙で愉快な男の存在と聖飢魔Ⅱというバンド名が記憶に残っただけだったが、その後、BURRN!のレビューで聖飢魔ⅡのデビューEP「悪魔が来たりてヘヴィメタる」が0点を付けられているのを見て、「なんだ、そういうしょーもないバンドなのか」と思ってしまった。
ちなみに、僕はBURRN!のことはもちろん創刊の時から知っていたが、1987年の後半までは立ち読みで済ませていた不届きな読者だった。(笑) レビューの評価は当然参考にはしていたが、そこまで強く信頼していたわけではなく、他の雑誌のレビューと比べてみたり、ラジオで耳にした曲で判断したり、あるいは、友達のクチコミをアテにしたりしていた。ただ、やはり0点となると、よっぽど酷いものなのかという先入観を持ってしまった。
しかし、望んだわけでもないのに聖飢魔Ⅱの曲を耳にする機会が訪れた。僕が70年代後半からよく聴いていた深夜ラジオ番組『オールナイトニッポン』の合間に流れるCMで、聖飢魔Ⅱのコンサートの宣伝をやっていて、そのBGMに流れている曲がやたらカッコ良かったのだ。「これって聖飢魔Ⅱの曲なの? それとも単なるCM用のBGM?」と疑問に思った僕は、行きつけのレコード屋さんに行って、聖飢魔ⅡのデビューEPのさわりを試聴させてもらおうと思ったのだが、当時はもうアナログ盤でも新品はシュリンク(ビニール)で密封さているスタイルが台頭していて、残念ながら聖飢魔Ⅱもそのパターンで、試聴は叶わなかった。
そこで僕は、「まあ1,500円だし、もしハズレだったとしても笑い話のネタになればいいか」と腹をくくり、聖飢魔ⅡのデビューEPを買って帰った。そして、ディスクをターンテーブルに乗せて針を落としたところ、1曲目に入っていた”魔王凱旋”がまさにあのCMのBGM曲で、「やっぱり聖飢魔Ⅱの曲だったんだ! 」と快哉を叫んだのだった。
アルバムを通して聴いてみると、音質は悪いし、ヴォーカルもいっぱいいっぱいな感じだったが、カッコいい曲がいくつもあって、けっこう気に入った。そして、作曲クレジットを見ると、多くの曲にダミアン浜田という名前が。でも、バンドにはそういう名前のメンバーはいない。この時点では聖飢魔Ⅱのことを「メタルをネタにしたコミック・バンド」みたいな感じだと思っていたので(帯タタキには”抱腹絶倒” ”宇宙一の超娯楽ヘヴィメタルバンド”といった文言があったので制作サイドにそういう意図があったのは間違いない)、ダミアン浜田というのは制作サイドが雇った作曲家がペンネームでも使ってるのか?なんて思ったりもしたが、その後、聖飢魔Ⅱのインタビュー記事か何かでダミアンが「デビュー前に脱退したバンド創設者」ということを知ったと思う。
話は逸れるが、聖飢魔Ⅱのデビュー直後、1985年10月10日に僕は彼らのライヴを生で体験する機会を得ている。SILVER MOUNTAINがスペシャル・ゲストで出演するということで観に行った『第5回ジャパン・ヘヴィ・メタル・フェスティヴァル』に聖飢魔Ⅱも出ていたのだ。ANTHEM、MARINO、RAJAS、FLATBACKERといった日本のちゃんとした(笑)メタル・バンドに混じって出演していた聖飢魔Ⅱのショウは、僕としてはなかなか楽しめるものだった。演奏力云々はさておき、エンタメ性のあるギミックがいくつも仕込んであったし、何よりも「引っ込め~」「化粧を取れ~」といった観客の野次にいちいち応戦するデーモン閣下が愉快で、場内にもかなり笑いが漏れていた。野次を飛ばす方も、真剣に聖飢魔Ⅱを非難するというよりも、おちょくって反応を見てやろうみたいな半笑いの態勢で、会場は何とも言えないアットホームな空気に包まれていた…というのは僕が単に記憶を美化しているだけかもしれない。
それはともかく、僕がダミアン浜田の才能を確信したのは、1986年に出た聖飢魔Ⅱの2作目「THE END OF THE CENTURY」においてだった。冒頭の”創世記”も前作の”魔王凱旋”と同様にクールなオープニング序曲だったが、それに続くアルバム・タイトル曲のカッコいいこと! すっかり聴き惚れてしまった。ダミアン浜田、スゲーじゃん!と。
しかし、次作以降、元メンバーのダミアンの書いた曲は減っていき、それによってバンドの音楽的方向性も拡散していき…と歴史を書いていくとキリがないので、時代を現在に早送りするが、昨年11月にダミアンがDamian Hamada's Creaturesを率いてシーンの表舞台に戻ってきた時はもちろん嬉しかったし、2枚同時リリースとなった「旧約魔界聖書 第I章」「~第II章」を聴いて、その楽曲クオリティに「これだよ、これ!」とガッツポーズを取ったものだ。
そして、わずか1年のブランクで届けられた今回の「魔界美術館」は前作を上回る出来栄え。公式に発表されているように、この新作の曲はかつてダミアンが1996年にインディ・レーベルからひっそりと出していた幻の1stソロ・アルバム「照魔鏡」の曲をリメイクしたもの。1996年当時、僕も「照魔鏡」はゲットして聴いていたが、正直、(本人の)歌も演奏もプロダクションもいかにもインディーズといった感じの安っぽいもので、音楽スタイルは”らしい”と思ったものの、繰り返し聴くようなことはなかった。
しかし、それらの曲が今回こうしてきちんとした歌唱・演奏・アレンジ・プロダクションでリメイクされてみると、「こんなに素晴らしい曲だったのか!」と驚くことしきり。1996年当時にこれを感じ取れなかった自分の感性の貧弱さを恥じたりもした。特に先行シングルとなった”嵐が丘”は圧巻で、昨年末に知人のメロハー系サイトから「2021年度のベスト・チューンを選んでくれ」と依頼された際、迷わずこの”嵐が丘”をNo.1に挙げさせてもらった。
どこかスパニッシュな風情も漂う哀愁の旋律、強力なフックを孕みながら見事に展開していくアレンジ、キャッチーかつ煽情力に満ちたサビと、まさにダミアンの真骨頂。こんな曲、そんじょそこいらの作曲家には書けませんぜ、と思ってしまう。
「魔界美術館」には他にもカッコいい曲がいくつも収録されていて、オススメの逸品であることは間違いない。ただ、1つ不満を言わせてもらうと、曲が素晴らしいだけにサウンド・プロダクションがう~ん…という感じ。こういう音作りが最近の流行りなのかもしれないが、音源ファイルを思い切り圧縮したような音、グシャっと潰れたような音で…。前作「旧約魔界聖書」もそういう路線の音作りだったと思うけど、今回はさらに拍車がかかったように感じる。「お前の耳が古いんだよ」と言われれば、「ああ、そうですか」としか言いようがないが、そこだけは残念に感じた。
しかし、ダミアンの昔の曲がこうも劇的にカッコ良くなって蘇ったのを見ると、これまで聖飢魔Ⅱに提供した楽曲を集めてリメイクしたアルバムを作れば、さぞ素晴らしいものになるだろうと思うんだけど、どうでしょう? 聖飢魔Ⅱ本体も初期の曲のリメイクはやってきたけど、ダミアン独自の解釈でのリメイク、Creaturesとしてのヴァージョンを聴いてみたい。
なお、最近ダミアン浜田陛下に興味を持ったリスナーに是非ともチェックしていただきたい作品がある。それは聖飢魔Ⅱの『オール悪魔総進撃! THE SATAN ALL STARS』という映像作品だ。これは、1995年にバンドのデビュー10周年を記念して歴代メンバーが勢ぞろいしたライヴの模様を収録した作品で、ダミアンも登場している。個人的には、ライヴ映像の合間に挿入されるデーモン閣下とダミアンの対談シーンがめちゃくちゃ面白くて、この作品のハイライトだと思ってるんだけど。
ちなみに、僕が”嵐が丘”をNo.1に選んだ『2021年度のベスト・チューン10選』はこちらのサイトに載っていますので、興味のある方はチェックしていただければと思います。
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