仰天!インドのメタル・シーンの今 第6回

アジアのメタルシーン
実は人知れず伝統と革新を交えながら成長していたインドのメタル。そんな「今」、知っておくべき新世代のバンドたちを紹介していく。第6回は北東部7姉妹州、ヴィシャーカパトナム、マンガロール、プネーのバンドたち。ここからメタルの新時代を切り開くニュー・ヒーローが誕生するかもしれない。

インド北東部7姉妹州のメタル・バンド

そうなのだ。繰り返すようだがインドは広い。

うっかり見逃しがちなのは、我々日本人にも馴染み深いお茶の産地であるアッサム州やインパール作戦が行われたマニプル州を始め、アルナーチャル・プラデーシュ州、メーガーラヤ州、ミゾラム州、ナガランド州、トリプラ州を含めた北東部の7姉妹州(セブン・シスターズ)という地域。

国の形としてお馴染み逆三角の部分からは飛び地のように離れていて(正確にはわずかに繋がっているが)、ミャンマー、バングラデシュ、ブータン、チベットに囲まれた場所にある。

山岳地帯かつ紛争もあったことで最近まで他国からたどり着くのも容易ではなく、「インド最後の秘境」などと呼ばれていた地域だ。山間に広がる農村や田畑。ここにはモンゴロイド系の人々が住んでいて、信仰する宗教もキリスト教がメインとなる州があるなど、文化も宗教もいわゆるインドと聞いてイメージするステレオタイプのものとは異なる。

さて、そんな7姉妹州にもここ数年は簡単には無視できないバンドが出現してきいるのでその一部を名前だけでも挙げておこう。

メロディアス・ヘヴィ・メタルのECLIPSE(アッサム)。

オルタナティブ・メタルのLUCID RECESS(アッサム)。

メタルコアやパワー・メタルなどの要素をごちゃまぜにしたプログレッシヴなRECTIFIED SPIRIT(アッサム)。

スラッシュ・メタルではLUCIFER-X(マニプル)。

デス・メタル系ではPLAGUE THROAT(メーガーラヤ)、THIRD SOVEREIGN(ミゾラム)、SYPHILECTOMY(ナガランド)、SACRED SECRECY(アルナーチャル・プラデーシュ)、ALIEN GODS(アルナーチャル・プラデーシュ)。

アッサムの文化を取り入れたエクストリーム・メタルのSHADES OF RETRIBUTION(アッサム)。

クリスチャン・プログレッシヴ・ロックのDROP DOUBT(ミゾラム)などである。

アッサム州のメロディアス・メタル、ECLIPSE

州の中心都市であるグワーハーティーで2004年に結成されたECLIPSEは、これまでにEPとアルバムを1枚ずつ発表。70年代や80年代のメロディアスな王道ロック/メタルを下敷きに、伸びやかなヴォーカルがのるスタイル。

ECLIPSE - Rise Of The Dead (ROTD) OFFICIAL VIDEO

メロディック・メタル・ファン感涙の一発!

2015年に発表されたアルバム『Clandestine Resurrection』には、バラードやブルーズまで幅広く収録されていてどれも心地良いのだが、まず最初にメタラーの心を掴むのはやはりこのビデオ・クリップになった曲だろう。

アッサム州のプログレッシヴ・パワー・メタル、RECTIFIED SPIRIT

こちらもまたグワーハーティのバンド。オリジナルの結成は2004年までさかのぼるが、相次ぐメンバーの離脱を経験し、2011年から新体制となってアルバムを2枚発表している。

楽曲はメタルコア、スラッシュ、パワー・メタルの要素を複雑に取り入れつつ、ヴォーカリストもグロウルからクリーンまで声色をいくつも使い分ける器用さをみせている。実はこのヴォーカリスト、シッキム州のAROGYAのRainjong Lepchaと同一人物。彼の多彩さには舌を巻く。

RECTIFIED SPIRIT - Once Below A Time (Official Lyric Video)

2015年発表のセカンド・アルバム『The Waste Land』収録の曲。

メーガーラヤ州のデス・メタル、PLAGUE THROAT

州都であるシロンにて2008年に結成。オールドスクールを基調にモダンさを絶妙にブレンドしたデスメタルで、これまで、2013年にデビューEP、2017年にフル・アルバム、そして2019年にEPを発表している。

2014年にはインド代表としてW:O:A Metal Battleへ出演。国内ではBangalore Open Airへも出演。その他、CANNIBAL CORPSEのバンガロール公演やPSYCROPTICのシロン公演の前座なども努めていることから、比較的名の通ったバンドであることがおわかりになるだろう。

PLAGUE THROAT「The Epoch Of Catastrophe II」

2019年発表の『Evolutionary Impasse』EPからのファースト・シングル。

ミゾラム州のプログレッシヴ・ロック、DROP DOUBT

山に閉ざされた町というか天空の町と呼ぶべきか……とにかく、とうてい素人にはたどり着ける気がしない奥地に突如として現れるのがミゾラム州のアイザウル。
そんな場所にだってロック、メタル・バンドは存在している。

例えばこのDROO DOUBT。アルバムでは英語の他、現地の言語であるミゾ語の歌も収録しているクリスチャン・バンドだ。ごく普通のポップなバラードもあるが、DREAM THEATERに強く影響を受けた大作が聴かせどころ。

Drop Doubt - Beneath The Thorn (Official Music Video)

こんな町にもヘヴィ・メタル

以上、簡単にではあるが、第1回から第6回までを通して主だった都市の有名バンドに加え、辺境の注目バンドの名前を列挙してきた。しかし、当然ながらここで名前を挙げられたのは氷山の一角である。

やはり比較的メタルが盛んな都市は、デリー、ムンバイ、バンガロール(註1)、コルカタという一部に限られてしまうが、すでに完成しているバンドから今後の成長が楽しみになるようなバンドまで、メジャー、マイナー問わずあらゆる都市に存在しているのは確かだ。

アーンドラ・プラデーシュ州のピュア・メタル、AGAINST EVIL

例えば、これまでまったく主だったバンドが出現してこなかった東海岸に位置するアーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナム。ここから、正統派ヘヴィメタル復興の旗手となりそうなAGAINST EVILが登場したのは驚嘆に値する。

彼らのデビューEPに続くフルレンス・アルバム『All Hail The King』(2018年)では、Jeff Loomis(ARCH ENEMY、ex-NEVERMORE)が1曲ギター・ソロでゲスト参加していることも相まって世界各地にAGAINST EVILの名が広まった。

AGAINST EVIL - Stand Up and Fight! (Official Music Video)

マンガロールのメロデス、MALOIC

そして、その反対側の西海岸に面するカルナータカ州マンガロール(註2)へと移ろう。

ここではメロディック・デス・メタルの若手、MALOICがマニアの間でひっそりと注目されている。
まだ1作しかアルバムは発表してないが、所々にフォーク・メタル調のメロディやインドらしいメロディを取り入れた耳を惹く作品を作っていて、今後の成長が楽しみだ。

MALOIC - Wasted Soul - Official lyric video

プネーのモダン・プログレッシヴ・メタル、NOISEWARE

さらに、大都市ムンバイから直線距離にして約120km南東に位置するマハーラーシュトラ州プネーにはTESSERACTやMESHGGAHのオープニング・アクトを努めたモダン・プログレッシヴ・メタルのNOISEWAREなるバンドがおり、世界に出ていけるだけの高品質なアルバムを作り上げている。

NOISEWARE - Iridescent (OFFICIAL MUSIC VIDEO 4K ULTRA HD)

2009年に結成。2011年に『Wake Up And Soar』EPを発表。
このPVは2018年のファースト・フル・アルバム『Clouds At Last』より。

プネーのポストロック、ASWEKEEPSEARCHING

なんとなくではあるけれど、ポスト・ロック系の音楽は、やはりバンガロールに多い傾向があるように思うが、ここにもASWEKEEPSEARCHING(出身はグジャラート州アフマダーバード)がいる。

2013年に結成し、これまでに1枚のEPと2枚のアルバムを発表。

このバンドは、時々挿入されるヒンディー語で歌われるメロディにインドらしさを感じさせてくれるうえに、それと相まってどこまでも広がっていく音はとても気持ち良い。

今年は、約1ヶ月をかけてドイツ、オランダ、ベルギー、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどを周る大規模なヨーロッパ・ツアーを行った。

aswekeepsearching - Hope Unfolds

この曲は、2017年に発表されたセカンド・アルバム『Zia』に収録。

プネーのオリエンタル・デスコア、DARK HELM

ペルシア帝国をテーマにしたアルバムを2012年にアメリカのレーベルから発表したオリエンタルなデスコア、DARK HELMも強烈な印象を残す。

しばらく大きな動きはなかったが、2017年にPSYCROPTICのオープニング・アクトを務めた後、セカンド・アルバムの製作も粛々と進めており、2018年末に『Hymnus De Antitheist』を発表した。

DARK HELM「Obey」

2018年の『Hymnus De Antitheist』より。

プネーのヴェディック・メタル、LAST RITUALS

また、LAST RITUALSという濃厚にインドの香りを発散するヴェディック・メタル・バンドも存在している。
古典音楽から影響を受けた歌メロが強烈な印象を残す。

LAST RITUALS 「Kaalhasti - Shiv Tandav Stotram」

ヴェディック・メタルとは

ついでに、この「ヴェディック・メタル(Vedic Metal)」について簡単に触れておこう。

このジャンルのバンドが取り扱うテーマは、「知識」を意味し、神々への賛歌や祭儀儀礼、対話や問答形式の哲学などが記されている古代インド最古の文献「ヴェーダ」に関する事柄である。

それは紀元前に編纂され、後のインドにおける思想や哲学、宗教を形作っていく原点となった重要な文献なのだ。「ブラフマン」「アートマン」「オーム」というどこかで聞いたことがあると思われる単語を並べればなんとなくその深淵な世界の一端がイメージできるだろうか。

ゆえにマントラの詠唱のような神秘的な雰囲気のコーラスが挿入されることもある。さらに、インド二大叙事詩にしてヒンドゥー教の聖典とされる『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』などを始めとする神話もテーマとして取り扱われる。

なお、このヴェディック・メタルなるジャンルを認知させるのに大きく貢献したのはシンガポールの大御所RUDRAだ。

気づきは始まっている

現段階においてはあまり表立って取り上げられることのないインドのメタル・シーン。
おそらく熱心なメタル・ファンと言えども馴染みが薄い方も多いはずだ。

しかし、一部ではあるものの、インド国外のレーベルと契約を交わし、ツアーも行っているバンドも増えてきた。言うまでもなく、ヨーロッパ圏とアメリカのメディア、レーベル、マニアからは意識され始めているのはもう十分おわかりになっただろう。

大手のメディアのみならず、アンダーグラウンドの鋭敏な嗅覚とネットワークの強さがシーンをボトムから支えているのもまた真実。

ここ日本では、その道に通じているマニアックなブロガーが情報を提供するのみならず、ABIGAIL、ANATOMIA、DEFILED、DESECRAVITY、兀突骨(Gotsu-Totsu-Kotsu)、SETE STAR SEPTといったエクストリームなバンドたちがインドでライヴを行ってミュージシャン同士の交流を深め始めている。

メタルの新たな可能性はインドからやってくる

正直なところ、世界有数のメタル大国と比べてしまうとインドのメタルのスタイルにはまだ偏りがあると言わざるをえない。

けれども、この10年ほどで音質を含む技術的な部分も向上し、世界に引けを取らないジェント系のモダンなプログレッシヴ・メタルから、インド文化をテーマに古典音楽を融合した他国には成しえない、この国ならではの特色を活かすバンドが充実してきている。また、まだ数は少ないものの、質の高い正統派ヘヴィ・メタルやブルータル・デス・メタル、マス・ロック系も登場して裾野を広げ始めた。

60年代からロックやジャズをはじめとするあらゆるミュージシャンたちを魅了してきたインドの古典音楽。しかしこれからは、長い伝統の中で育まれた若い世代のバンドがインド・スタイルのメタルを構築して世界に影響を与えていく可能性は十分にある。

すでに下地は整っているのだ。一度目を向けたら離すことが出来ない多様性に富んだバンドたち。
今後、あらゆる角度からインドのメタル・シーンに光が当たり、この国ならではのユニークなバンドが世界に飛び出していくはず。

もはや、「インド人もびっくり」なんて冗談を言っている場合ではないだろう。

「インド人(のメタル・センス)にびっくり!!」

と世界中が騒ぎ出す。
そう確信できる流れが今のインドでは起こっているのだ。

いかがだろうか。

「インド=映画と古典音楽とカレー」

確かにそのイメージは間違ってはいないだろう。
しかし、ここまで知ってしまった我々メタル・ファン……
否、メタルヘッズが頭に刻印すべきは、これだ。


「インド=メタルの未来」


メタル新時代の幕開けとなるキーワード。

覚えておいて損はない。





1)2014年11月1日にカルナータカ州の12の都市名が改名された。バンガロールはこれまでの英語表記から、地元の公用語であるカンナダ語のベンガルールとなった。しかし、本文では、改名前と改名後の両時期をまたいだ話題のため、異なった表記では混乱が生じる可能性と、いまだに英語表記が定着していることを考慮してバンガロールで統一した。

2)2014年11月1日にカルナータカ州の12の都市名が改名された。マンガロールも英語表記から地元の公用語であるカンナダ語のマンガルールとされたが、ここでは、バンガロールに合わせて英語名のマンガロールとした。