仰天!インドのメタル・シーンの今 第5回

アジアのメタルシーン
実は人知れず伝統と革新を交えながら成長していたインドのメタル。そんな「今」、知っておくべき新世代のバンドたちを紹介していく。第5回はケーララ州、西ベンガル州、シッキム州のバンドたち。ここからメタルの新時代を切り開くニュー・ヒーローが誕生するかもしれない。

ケーララ州のメタル・バンド

歴史やインドそのものに興味がない人にとっては、まったくどこにあるのかわからないと思われるのが、このケーララ州。おおよその場所でいうと、鋭く尖った逆三角形の先端部分の西側。つまり南インド南西端に位置する南北に細長い州だ。

緑豊かな熱帯地帯ではあるものの、この沿岸に点在する町は古代から海上交通や貿易の要となっており、様々な文化や宗教にさらされてきた。よって、比較的キリスト教徒やイスラム教徒が多いのも特徴。意外に思われるかもしれないが、識字率やインフラ面でも国内屈指だという。

なお、公用語はマラヤーラム語。東側にはタミル・ナードゥ州のマドゥライやカルナータカ州のバンガロール(註1)といった都市があるが、山脈で遮られるような地形のため、独自の文化を形成している。

カルナータカ音楽の旋律を大胆に導入、MOTHERJANE

さて、そんなわけで一般的に知られるような大都市からは外れてしまうが、第4回で紹介したTHE DOWN TRODDENCEを排出したこのケーララ州にも興味深いバンドは存在する。

その中でもとくに重要となってくるのは、やはり南インドの古典音楽であるカルナータカ音楽の影響を色濃く出したプログレッシヴ・ハード・ロック、MOTHERJANEの存在。

彼らは州都コーチを拠点として1996年に結成され、2008年のセカンド・アルバム『Maktub』でそのスタイルを確立。音楽雑誌が開催するアワードの各部門(ベスト・アルバム、ベスト・バンド、ベスト・プレイヤーなど)を総なめにした。

さらに、当時のギタリストBaiju Dharmajanのプレイ・スタイルはインド各地のロック/メタル・ギタリストに大きな影響を与えることにもなったのだ。

MOTHERJANE - Chasing the sun

2008年発表のセカンド・アルバム『Maktub』に収録。

南インドの大地に根ざした精神と人間味のあるサウンド。
しかし、バンドの顔となっていたギタリストやヴォーカリストが2010年以降に脱退したことから、現在は新たな布陣にて、より時代に適合したサウンドを目指しはじめている。

MOTHERJANE - Clay Play

2015年に発表されたシングル。

新生MOTHERJANEとしての姿があらわになった。

MOTHERJANE – NAMASTE feat. Ullas & Bhoomi

2018年発表の新曲。

新作は2019年に発表される見込みとか。

マラヤーラム・ロックの代表、AVIAL

また、MOTHERJANEが『Maktub』でブレイクした2008年に、AVIALというバンドも地元の言葉マラヤーラム語で歌うアルバム『Avial』を発表。

州都コーチのさらに南に位置するティルヴァナンタプラム(トリヴァンドラムとも呼ばれる)で2003年に結成。マラヤーラム・ロック・バンド郡の中でも、"オルタナティヴ・マラヤリ・ロック"というジャンルの開拓者と知られる大物だ。

AVIAL - Nada Nada

スラッシュ・メタル・シーンを牽引する、CHAOS

さらに近年では、2005年にティルヴァナンタプラムにて結成され、これまで2枚のアルバムを発表したCHAOSの存在が目立つ。

PANTERAやSLAYERの影響を色濃く反映したサウンドで、インドのスラッシュ・シーンを牽引するような勢いを見せているのだ。

その知名度は、マラヤーラム語の映画『S Duruga(Sexy Duruga)』のサウンドトラックに起用されたことでもわかるだろう。ロックならともかく、スラッシュ・チューンがそのような場に採用されるのは稀だ。

CHAOS - All Against All (Official Music Video)

さあ、ヘッドバンギングのお時間です!

彼らの歌詞やこのPVで表現していることは、根深い社会問題を扱ったものだが、まずは、考えるより先に頭を振ればよろし。

2017年発表のセカンド・アルバム『All Against All』からのタイトル・トラック。

Vinodha Jeevitham | S Durga |Sanal Kumar Sasidharan | Basil C J | Chaos

映画『S Duruga(Sexy Duruga)』でも彼らの基本姿勢は崩さず!

もう一曲、もっと速い曲もあるけど、とりあえず映画の雰囲気がわかるこちらを。

西ベンガル州コルカタのメタル・バンド

視点を大都市に戻そう。

東部に位置する西ベンガル州コルカタはインド東部最大の都市。かつてイギリス領東インド会社の拠点があったことで今でも町中には西洋風の建築物も残っている。

清濁併せ呑むインドらしい混沌とした町ともいわれており、ノーベル文学賞を受賞した詩人タゴールや、マザー・テレサが熱心に活動し、最後を迎えた場所でもある。

ベンガリ・プログレッシヴ・メタル、ALIENZ

この怪しい魅力を放つコルカタにも古くからロック・バンドが存在していたが、少々保守的なロック・スタイルが多かったように思う。この西ベンガル州で使用されているベンガル語で歌うバンドには特にそんな印象がある。

しかし近年、ALIENZのプログレッシヴ・メタル化に拍車がかかり、ベンガル語ならではのメロディと相まって面白い存在となっている。

Maa (Official Video) | Jorimana | AlienZ | Bangla Band

2016年発表のセカンド・アルバムからのPV。

すでに結成10年を超えたALIENZは今後さらに成熟していくはず。

ラップ・ロック/メタル、UNDERGROUND AUTHORITY

英語を使用したバンドならば、もはやベテランの領域に達するUNDERGROUND AUTHORITYが有名。

2010年に結成した彼らは、インドのシーンにラップ・ロック/メタルをもたらしたことで知られ、今現在もイケイケでその方向性を迷いなく貫いている。ギャングじゃないぜ、ヤングだぜ!

UNDERGROUND AUTHORITY - You can't stop us (Official Music Video) | Indian Rap Rock

切れてきたメタルコア、CHRONIC XORN

そして彼らより若干先輩でコルカタを代表するメタルコアといえば、CHRONIC XORNだ。

最近はプロダクションや演奏にも切れが出てきたので、コルカタという枠を超えて注目を集める予感。

CHRONIC XORN - JUSTICE BY ACT OF VIOLENCE OFFICIAL LYRICS VIDEO

『For These Sins Who Must Die』(2017)EPからのPV。

ジェント系モダン・プログレッシヴ・メタル、YONSAMPLE

エレクトロな要素を取り入れてさらにお洒落なモダン街道を突き進むジェント系のプログレッシヴ・メタル、YONSAMPLE。

現在はメンバーがコルカタとムンバイに散らばってしまっているが、VEIL OF MAYAのムンバイ公演のオープニング・アクトも努めるほどの逸材。

YONSAMPLE - Februation (Official HD Audio)

2010年のデビューEPに続いて発表された2015年のファースト・フル・アルバム『Extropy』からの曲。

インド古典楽器をアクセントにするモダン・プログ・メタル、WHAT ESCAPES ME

興味深いのは、インド古典楽器を時折導入しながらメロディアスなモダン・プログレッシヴ・メタルを追究するWHAT ESCAPES ME。

2009年に結成され、まだ1枚しかアルバムを発表していないものの、楽曲や演奏の質は高い。さらに、曲によってはサンプルではなく、サーランギー、サロード、タブラといった本物のインド古典楽器をプロフェッショナルな演奏家が弾いている。しかも、タブラに関してはバンドのドラマーが叩いているのだが、彼の父は古典音楽の世界で活躍しているので、しっかりとした教育を受けているのは間違いない。そこで培った技術もドラム・プレイに活かされているようだ。

彼らはメタルコアを発端にしながらも徐々に幅広く豊かなサウンドへと変化してきている。今後どのような発展を遂げるてゆくのかが楽しみだ。

WHAT ESCAPES ME - THE TRUTH OF A LIE (OFFICIAL VIDEO)

2016年に発表されたファースト・アルバム『Egress Point』の最後を締めくくる曲。

邪悪さは技術より生まれる、EVIL CONSCIENCE

若手では、アメリカのSlaughterhouse RecordsからEPを発表したテクニカル・デスコア/デス・メタルのEVIL CONSCIENCEも強烈だ。

間もなく完成しそうなファースト・フル・アルバムに期待がかかる。

EVIL CONSCIENCE - Sweet Pleasure Butchery (Single audio)

この曲は2015年の『Death Is Only the Beginning』EPから。

過激なウォー・メタル、TETRAGRAMMACIDE

ここ2年ほど世界のエクストリーム音楽界を騒がせたバンドのひとつがこのコルカタに存在しているのはご存知だろうか。

ドイツのデス、ブラック・メタル系レーベルのIron Bonehead Productionsと契約を結んだTETRAGRAMMACIDEがそれだ。ノイズにまみれた高速のブラック・メタルで過激なサウンドではあるが、マニアからは非常に高い評価を得ている。

2017年の『Primal Incinerators of Moral Matrix』からはロシアのマルチ・プレイヤーSadist(JYOTIṢAVEDĀṄGA、MISANTHROPIC ART)がギタリストとして参加。

TETRAGRAMMACIDE - Cyberserking Strategic Kalpa - Terminator

『Primal Incinerators of Moral Matrix』(2017)からの1曲。

君に無慈悲の意味を教えてあげよう。

ダージリンのデス・メタル、SYCORAX

また、コルカタの遥か北には、美しい景観とお茶の産地として馴染みのあるダージリンがある。
そんな地域にも、2015年にインド代表としてW:O:A Metal Battleへ出演したSYCORAXというバンドが存在。

展開に起伏があるのは山岳地帯だからなのか、紅茶同様に高品質なデス・メタルである。この新鮮で若々しい香りは茶葉でいうところのファースト・フラッシュ。今後はさらに味がのって、通を唸らせるバンドになることを予感させる。

SYCORAX - The Fallen Miscreation

諸事情にて予定よりもアルバムの制作が遅れているようだが、小出しにされているデモ曲を聴くと期待せずにはいられない。

シッキム州のメタル・バンド

「分け入っても分け入っても青い山」と詠んだ山頭火はどう表現するだろうか。

ということで、さらに深くダージリンの北部へ分け入っていくと、ブータン、チベット、ネパールに隣接する山岳地帯であり、40数年前まで王国として独立していたシッキム州がある。人口が少ないことでも知られているが、メタル・バンドはしっかりと存在している。

スラッシュ・メタル、CRYSTAL AND THE WITCHES

例えば、スラッシーなCRYSTAL AND THE WITCHES。
彼らは2006年結成。コルカタなどの都市でもライヴを重ね、現在は年内の発表を目指してデビュー・アルバムの制作に取り掛かっている。

CRYSTAL AND THE WITCHES - OCEAN

メロディアス・ハードロック、AROGYA

彼らはインド生まれのインド系ネパール人ということで、これまではネパールの音楽市場を主な活動場にしていたが、今年、2作目となる『Arogya Ⅱ』も発表し、今後はもっと幅広く活動していく予定のようだ。

ASTITWA | AROGYA | OFFICIAL MUSIC VIDEO | 2018

2018年発表の『Arogya Ⅱ』から、もっともメタル色が強い曲。

こんな曲がこんな場所から生まれるなんて!

シッキムから飛び出した正統派ハードロック、GRISH & THE CHRONICLES

なお、現在バンガロール(註1)で活動するGRISH & THE CHRONICLESというハード・ロック・バンドもシッキム州出身である。

ロック黄金時代の美味しいフレーズを心得ているので、年輪を重ねたファンの心をくすぐってくれる。

I wanna get that lovin' again - Girish & The Chronicles - Music Mojo Season 3 - KappaTV



『仰天!インドのメタル・シーンの今 第6回』へとつづく。




1)2014年11月1日にカルナータカ州の12の都市名が改名された。バンガロールはこれまでの英語表記から、地元の公用語であるカンナダ語のベンガルールとなった。しかし、本文では、改名前と改名後の両時期をまたいだ話題のため、異なった表記では混乱が生じる可能性と、いまだに英語表記が定着していることを考慮してバンガロールで統一した。