タイのメタルにエールを 第9回

アジアのメタルシーン
近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。
今回はメタルコア、ポストハードコア周辺のバンドのパート6。

メタルコア、ポストハードコア、ニューメタル、モダンロック系パート6

DEAD RABBIT

古くは古事記にも登場し、一昔前は小学校で飼われていた定番動物のひとつ。近年では、モフモフ・ブームの一環としてペットしても人気。町中には直接触れ合えるカフェもあれば、ほぼ無名だった広島県の大久野島では700羽もうろちょろしているということで世界中から人が集まって賑わったり。そう、それは可愛い可愛いうさぎさん。

バニーガールを例にあげるまでもなく、うさぎパワーは強烈。普段は地味でおとなしい印象の女性でも、うさ耳を装着してパーティに参加するだけで注目を浴びる存在になれるし、もともと美人で有名ならば、うさ耳一発で男性諸君はメロメロ。今年2月に来日したCHTHONICのDoris嬢を思い出して欲しい。彼女がうさ耳帽をかぶって登場した時の衝撃を。私のように「はやく人参になりたい!」(妖怪人間風に)とまで思ったかどうかはともかく、会場にいた男性ファンのハートは完全に射抜かれてメロメロになってしまったのは事実だろう。

なんだか話がよくわからない方向になってしまったけど、要するに“うさぎ=可愛い”というイメージが一般的ということだ。なのに、バンド名がDEAD RABBITとはこれいかに。ひょっとして、大量のゾンビ化したうさぎがぴょんぴょん襲ってくるイメージなのだろうか。まさかデジタル・ハードコアをミックスしたJ-POPアイドル・グループDESURABBITSの姉妹バンドでもあるまい。その答えは……

「うちのギタリストが大好きなアメリカの映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』に登場するギャング団の名前から取ったんだ」

まったく可愛くなかった。『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年公開)はレオナルド・デカプリオやキャメロン・ディアスが出演していることで比較的認知度が高い映画ではないだろうか。内容は、19世紀のニューヨークを舞台にアイルランドからの移民“デッド・ラビッツ”と地元民“ネイティブ・アメリカンズ”というギャングたちの抗争を描いたもの。

そういえば、米国アリゾナ州のメタルコアTHE DEAD RABBITTSのCraig Mabbittもこの映画が好きらしい。

さて、元はと言えばこのバンド、パブなどに集まってカヴァー曲を演奏していた仲間たちだった。けれども2013年にヴォーカリストとしてNuiが加入したタイミングで、DEAD RABBITとしてオリジナル曲を作り始める。「もう長い間カヴァーを演奏してきたし、そろそろ自分たちの曲が欲しくなった。それにただのカヴァー・バンドとして認知されたくはなかったから」ということだ。

2015年に入るとすぐに、夢を探し求めることをテーマにしたミュージック・ビデオ「ฝันสุดท้าย(Last Dream)」を発表する。これはバンドにとって最初のオリジナル曲で、彼らが昔から聴いてカヴァーをしてきたDEFTONES、CREED、RAGE AGAINST THE MACHINE、LIMP BIZKIT、FOO FIGHTERS、AUDIOSLAVEといったバンドの影響が感じられるものだった。

そしてその1年後。確かに彼らの基本となったのは今挙げたバンドたちではあったが、さらにSLIPKNOTやSYSTEM OF A DOWN由来のヘヴィさを持ち込み始める。新しい自分たちなりの曲を作っていきたいという気持ちが少しづつサウンドに反映されて彼らなりの雰囲気も出てきたように思う。

2016年6月に発表された「นิทาน(Fairy Tale)」は、明らかにイソップ童話で有名な『ウサギとカメ』を題材にしたアニメーションで結末はブラック・ユーモア全開。原作に込められた教訓に関しては、“油断大敵”、“能力の程度に関わらず努力を続ける”、“競争ではなく自分が到達すべき本来の目的を失わない”などを始めとしたいくつもの解釈がなされている。しかし、彼らがこの曲で訴えていることは、「思い上がりを戒める曲だよ。油断大敵という意味も込められているけど、この物語に出てくるウサギのようにうぬぼれて他人を侮辱するのは良くないってことだね」と非常にシンプル。よって、ねちっこさもなく本来の話よりも衝撃もダイレクト。小さな子供には即効性があるだろう。ひょっとしたら就寝前の読み聞かせにこちらを採用しようと考えてしまう親もいるかも知れない。ただ、間違った解釈をして大人になった時に力で解決しようとする人間になる可能性もありえるので情操教育という観点からは原作を強く勧めておく。

DEAD RABBIT「นิทาน(Fairy Tale)」

2016年6月発表。
2018年になると2月に「กลั่น(Love)」、12月に「ไม่รักอย่ากั๊กไว้」と2曲を発表。複雑ではなく誰もが聞くことができる曲を作りたかったというバラード「กลั่น(Love)」では、まるで母親が子供に抱くような純粋な愛を表現。「ไม่รักอย่ากั๊กไว้」は経験豊富なミュージシャンと一緒に作業をして学びたかったということから、BIG ASSのベーシストOakのスタジオで制作されている。こちちらは打って変わってヘヴィな曲。男性を愛すことなく手玉に取り利益だけを得ようとする女性を描いている。暖かく包み込むような愛の曲から金銭目当ての偽りの愛までかなりの振り幅である。今日も夜のお店でしこたま搾り取られてしまったという男性は就寝前に安酒をあおるのではなく「กลั่น(Love)」を聴きながら床に就くのがいい。ここではハードな方をご紹介させて頂きますけど。

DEAD RABBIT「 ไม่รักอย่ากั๊กไว้ 」

2018年12月発表。
彼らが歌のテーマにするのは愛や恋だけではない。今年8月に発表された「#2557」では政治家の汚職問題を取り上げている。2557という数字はタイの仏暦のことで、西暦に変換すると2014年。タイでは軍事クーデターが起こった年だ。また、映像にはこれまで起こった騒乱を伝える役としてウサギの被り物をした人物が登場する。彼が手に持っているのは赤、白、黄色の3つの風船。ときには赤と黄色の発煙筒を振り回す。細かい話はさておいて大雑把に言えば、赤色はタクシン派(反独裁民主戦線)、黄色は反タクシン派(民主市民連合)。赤や黄色のシャツを着たデモ隊や集会は一時期ニュースで盛んに取り上げられていたのでほとんどの方がおわかりになるだろう。では、白が何を表しているのかと言うと、メンバー曰く「この国の若者たちの未来」ということで、バンドは政治の腐敗が次の世代の人々に大きな影響を与えてしまうことも懸念している。

また、この曲では90年代前半から活動を始めたアンダーグラウンド・メタル界の大御所、DEZEMBERのヴォーカリストAofがフィーチャーされているが、そこは「大先輩だけど知り合いだし、一緒に何かできたら楽しいと思った」という単純な理由であった。

DEAD RABBIT「#2557」

2019年8月発表。
DEZEMBERのヴォーカリストAofをフィーチャー。
DEAD RABBITは2013年にオリジナル曲を演奏するバンドとして始動して以来、まだ5曲しか発表していないもののメンバーに変化はなくしっかりと結束を保っていて、PARADISE FESTなどの大きめのフェスティヴァルにも参加するようになってきた。彼らは急いて失敗するタイプではないのだろう。今後の予定として、「これまでの曲をまとめてEPを発表するつもり」という話を聞いてはいるけが、「できれば年内に作りたいけど、実際どうなるかはわからないなぁ」といった感じなのだ。死んでゾンビ化したウサギのようにノロノロとした動き……否、しっかりと自分なりの目標を見据えて己の道をカメのように進んでいくのが彼らDEAD RABBITのスタイルなのかもしれない。

KISS AND DEMISE

日本人はタイに訪れてその文化に触れると、いっきにタイ贔屓になってしまうことが多い。食べ物や雑貨はもちろん、タイ音楽を紹介するDJたちまで存在する。けれどもここまでこの『タイのメタルにエールを』シリーズに触れていただいた方なら、それ以上にタイ人の多くが日本の文化に興味を持っていること、そして当然のように音楽方面にまで注目してくれていることがおわかり頂けたはず。

すでにお気づきになっているかもしれないが、KISS AND DEMISEというバンド名は日本のバンドからの影響によるものだ。それはメタルコア/スクリーモにエレクトロを融合した先駆者として認知され、今では世界を駆け巡るまでに大きな存在となったCROSSFAITHである。その彼らのセカンド・アルバム『The Dream,The Space』(2011年)に収録されているブルータルなイントロが特徴的な「Demise And Kiss」(coldrainのvo.Masatoがゲスト参加)がバンド名の由来なのだ。これには何か特別に深い意味が込められているわけではないものの、「CROSSFAITHが好き」という純粋な気持ちの表れと、この言葉自体の語感にクールさと美しさを感じたことによる。

KISS AND DEMISEを形成したのは、2010年に2つのグループからの3名ずつの寄せ集めで始まったプロジェクト。そしてこの時、バンドが手本としていたのがCROSSFAITHだった。彼らは比較的早い段階で音源の制作に取り掛かり、2012年6月には『Novel In Colours』とタイトルされたEPを発表。当初、その自身の音楽性をどのジャンルに当てはめて良いものかわからなかったようだが、便宜的にエレクトロニック・メタルコアと呼んでいた。この作品では、取り扱う物語を様々な次元と色で伝える小説のような作りをイメージしたもので、その物語の内容は詳細を限定せず、受け手によって自由に解釈が可能になっているという。


KISS AND DEMISE「Bermuda」

バンドにとって重要な一歩となったと語る2012年のデビューEP『Novel In Colours』。
EP発表後は、2012年12月1日に開催されたARGHH WARGHH YARGHH Grand Mosh Festival 2012に出演。このフェスティバルにはSUDDEN FACE DOWN、MACARONI、TAZZMANIAN、EX’S AND OH’S、HOPELESS、BORN FROM PAIN、LASTHOPER、DEZEMBER、TEN SECONDS SMASH FACE、SWEET MULLET、NEVERLAND、FATHOMLESS、BOOM BOOM CASH、QUAKE、PSYCHO SLIM、ECCENTRIC TOILETといったこの『タイのメタルにエールを』シリーズで紹介してきた、または今後これから紹介予定のバンドたちが複数のステージを使用して演奏を行った。KISS AND DEMISEはまだ新人ではあったが、これだけの優秀なメンツが集まるフェスティヴァルのオーディションに合格したことで気を良くし、自分たちがそれまで所属していたバンドを脱退。このKISS AND DEMISEとしての活動に専念することに決めたのだ。

けれども、初代ヴォーカリストのKangはTHE ROCKET WHALEという新しいバンドを立ち上げ、そちらの活動をメインとするためにバンドを脱退。その穴埋めとして現在パンク・バンドJIMMY REVOLTでベースを務めるBankが約2年間ほど在籍していたが、2014年からはTongがバンドのフロントマンを続けている。

2012年のEP以降、しばらく音源の発表はなかったが、Tong加入後からはシングルをYouTubeにて発表し始める。6月になるとTHE ROCKET WHALEのギタリストTorrieがディレクターを務めた「เส้นด้าย(Yarn)」のミュージック・ビデオを発表。バンド初のタイ語による曲でSir Poppa Lotによるラップ・パートまでフィーチャーされている。これは、ロック、メタル系のミュージシャンともコラボレーションするラッパーPP’Dreamsが開催したコンサートにてSir Poppa Lotのパフォーマンスを観て惚れ込んだKISS AND DEMISE側からのオファーによって実現したもの。なかなかヘヴィな曲調ではあるが、愛という感情がいかに脆いものなのかを表現しており、そのふたりの愛を織りなす糸がいつほころび切れるのかは誰にもわからないし、気づいたときにはもう手遅れかもしれない……と歌詞の内容は繊細だ。

同年末、「ระบาย(Wreak)」という曲のアコースティック・ヴァージョンを発表。実はこれ、ファンの反応を見るために試験的に制作したもので、正式な完全版は翌2015年の2月に公開となっている。ポップかつ憂いを帯びた歌のメロディーと突如として切り込むヘヴィなギターの対比が面白い1曲だが、自分のパートナーがいまだに別の人を心に引きずっている残酷さ、そんな気持ちのまま「愛」という言葉を言わないでくれと傷つく姿を描いている。これはシンセサイザー奏者Pupの経験が基になっているだとか……嗚呼!

KISS AND DEMISE「ระบาย(Wreak)」

2015年2月発表。
そして2017年3月には、「悪い感情を吹き飛ばすための風を呼び起こそう」という気持ちを込めた「สายลม (Wind)」を、2018年1月には有名女性ポップ・シンガーWONDERFRAMEの「อยู่ดีๆก็...」をカヴァー。これには少々面食らってしまうけれども、これまでバンドがやったことのないことをやってみたいという気持ちから挑戦してみたとか。ただ、この時期はちょうど新曲を制作するアイデアがあまり湧いてこなかったということと、バンドを広く認知させる目的があったとか。おかげで現在は30万再生を超えているのだから効果はあったということか。

デビューEP発表後はこのような感じで多少ポップな要素を入れたり恋愛をテーマにした歌詞を書いてきたKISS AND DEMISEだが、ここからは少しだけ表現の方法に変化が出てくる。

2018年になると7月に「Burned」、10月に「Unstoppable」の2曲を、2019年8月には「The Parasite」を発表して精力的に活動を見せ始めた。タイトルから察しがつくように再び英語で歌詞が書かれるようになる。というのも、タイ語の持つ独特の声調がヴォーカル・メロディに制約を与えてしまうことが理由。もしもそれを無視して思いついた歌のメロディを優先させてしまうと、タイ人の耳には奇妙だったり滑稽に聞こえてしまうのである。よって、タイ語を用いて納得するまでメロディを調整しようとすれば、かなり時間のかかる作業になるか、最悪の場合は中断さえもありえる。しかも彼らは社会や政治に関しても述べたい事柄があるということで、より多くの人に明確に意味が伝わるように英詞で歌う方向へと転換したのだ。そしてその歌詞はメンバーの身の回りで起こったこと、実体験から生み出されているという。

では、一体どのような内容なのだろうか。チューニングや歌い方の面で実験的なことをしてみたと語る「Burned」は、「笑顔の裏に悪意を隠している奴らを暴き出して焼き払う必要がある」という考えから生まれた曲。一方、「Unstoppable」はあっという間に仕上がった曲で必要だと思うものをすべて詰め込んだとか。ここで彼らはバンドの心意気を見せる。「俺たちは特別に凄いバンドでもなければ有名なわけでもない。しかし、それでも常に全力を尽くして活動していて、何人たりとも俺たちを阻むことなどできない。眼前に立ちはだかる壁という壁を強力な鉄槌で打ち砕いていくのさ」そんな熱い意気込みが詰まった曲だ。

KISS AND DEMISE「Burned」

2018年6月発表。
それでは発表されて間もない新曲「The Parasite」はどうだろう。ヘヴィさを維持したまま曲の構造をシンプルにする試みが成功して、メンバー自身、今一番のお気に入りとなったらしい。そしてその内容だが、国民と国のためだとと偽って、社会のシステムを破壊し、己の利益にだけなることを見つけた権威と権力を持っている人々に関する話だという。

ヴォーカリストのTongによれば、「俺はこのようなタイプの奴らを比喩的に 「寄生虫(Parasite)」 と呼んでいる。なにしろ我々の社会を長い間食い物にしてきたんだからね。バンドのおかげで歌詞やメロディを自由に書くことができたから、今回はこのようにして俺自身の不満を完全に発散することがでた。そしてもっと重要なのは、最高のメッセージを伝えるためにNOBUNAのVirgilに助けてもらって英語の歌詞を上手く演出してもらったことだよ」とのこと。

少し話はずれるが、このことからNOBUNAのドラマーVirgilは英語が堪能であることがわかる。さらに、NOBUNA(『タイのメタルにエールを』第4回、第6回を参照)というバンドに関してもう少し触れておくと、近年発表されたシングル「Burned」「Unstoppable」「The Parasite」の製作作業は同じくNOBUNAのヴォーカルを務めるNoomのNong Noom Studioにて行われている。Noomはデスコア/メタルコア系のTERESAでも活動していることからこの手の音楽に精通していて、KISS AND DEMISEが意図した通りの音に仕上げてくれる信頼の置ける人物だとか。

改めて話を「The Parasite」に戻そう。このミュージック・ビデオでは、演奏をする舞台やメンバーの服装も含めてシンプルかつスタイリッシュで洒落ている。この曲に込められた歌詞の内容は強烈だが、それすらも洗練された演出をもって伝えられるのだ。最初、彼らの着ているTシャツは純白。それが曲の進行とともに汚れていき、最後には真っ黒になってしまう。これに関してTongは、「無邪気で自由な状態で生まれた純真無垢な人生の始まりを白いTシャツで表現している。ところが時間が経つにつれ、寄生虫どもはゆっくりと俺たちの権利、自由を食い物にして最後には何もかも吸い尽くして黒くしてしまうんだ」と説明してくれた。

KISS AND DEMISE「The Parasite」

2019年8月発表。
動画が表示されていない場合は下に表示されている「via www.youtube.com」から直接YouTubeへ移動して御覧ください。
一時期に比べるとここ1年ほどはかなりモダン化とメタルらしさに拍車がかかってきたように思えるKISS AND DEMISE。シンセコアやトランスコア的な視点からも捉えることができる2012年の『Novels In Colours』EPの頃と今とではバンドの方向性に違いはあるのだろうか。

「俺たちは未だにエレクトロニック・メタルコアに固執している。けれども、ちょっとバランスが違うかな。『Novels In Colours』の頃は、かなりシンセ・サウンドに力を入れ過ぎていたように思うけど、今は他の楽器とのバランスが対等になったんだよ。そして歌も楽器もヘヴィさを増すことで、より良いエネルギーを曲に与えることができているんだ。CRYSTAL LAKEやARCHITECTSなどからも影響を受けているからね」

先程NOBUNAのメンバーの多才さに触れたが、実はKISS AND DEMISEのTongは、SWEET MULLETのビデオグラファーとしても働きながら、SWEET MULLETの応援があってRebirth Productionsという会社を設立。バンドのミュージック・ビデオやライヴ映像を制作している。

せっかくなので他のメンバーに関しても触れておくと、Pup(シンセサイザー)とTop(ベース)は国内のニュースを扱うウェブ・サイトで働いていて、Yoo(ドラム)はテレビ番組制作関連。Tung(ギター)は音楽の先生で学生寮も所有。Putter(ギター。2017年加入)はヌードル・レストランを経営しているということだ。タイのミュージシャンたちも多種多様な仕事に就いて生活しながらバンド活動を頑張っているのがわかるだろう。

ということで次の作品が出てくるまではもう少し時間がかかるかもしれないが、メタル・ファンとしては無視できない存在に成長してきていることは確かである。

CURSED IN WHITE

“白”。この単語を聞いて何をイメージするだろう。白子、白魚、白エビ、白焼き、白ワイン、湯豆腐、かぶら寿し。これは完全に飲兵衛の発想だ。それともなければ、白衣の天使だろうか。いや、白衣から病院や料理人、科学者などを連想して緊張してしまう人もいるかもしれない。色から受け取るイメージは人によって様々だ。しかし、“白=純粋、清潔、正義”というのが一般的な総意だろう。

では、このCURSED IN WHITEというバンド名にはどのような意味があるのか。バンドを立ち上げたヴォーカリストのEarthに聞いてみた。

「Cursed In Whiteというのは、俺自身の別の側面であり、人物。そして彼は憎しみの哲学でもあるんだ。まず、白という色が最初にある。これって大半の人々が潔癖や安全など、とにかくポジティヴな印象を受ける色なんじゃないかな。でも俺にとっては、たやすく汚されたり破壊されたり、時に孤独すら感じる色なんだ。例えば、愛のネガティヴな側面、身勝手さ、権力、欲望、宗教、または神のような見えないものなどによって人は消耗させられ汚されてしまう。そんな人という存在を白という色と重ね合わせているんだ。しかもその状況からは誰も逃れようがない。まるで呪われているかのように、この世に生を受けた瞬間からそうなってしまう。Cursed In Whiteという言葉にはそんな自分なりの視点があるのさ」

なるほど、これは深い。ネット上でくだらないサイトを見て貴重な時間を浪費しているとたまに出会う、「心が汚れた人には本来の姿ではなくエッチなものに見えてしまう画像」。大概はなんでもないものをエロを想起させてしまう構図で表現したものだが、毎度見事に私は桃色思考に誘導させられてしまう。嗚呼!「汚れちまつた悲しみに」……っていうのはまた違う話か。

それはさておき、人は生まれてから死ぬまでの間に酸いも甘いも知って成長していると思い込んでいるだけで、実は、生まれた時には純真無垢だった魂が徐々に傷つき曇り汚れていくだけ。さらにはそんなこともにも気が付かないまま一生を終えるのかもしれない。

それでは、この思考するミュージシャンがどのようにしてCURSED IN WHITEを始めるにいたったのかを見てみよう。

Earthは2014年に結成したMONSTERCOCKというバンドのリズム・ギタリストとして活動をしていた。ハードコア/オールドスクールなメタルコア系に属するバンドだったのだが、その頃、彼が個人的に好んで聴いていたのはジェントやモダン・メタル系のバンドだったとか。そこで大学の学科のプロジェクトとして2018年の半ばに立ち上げたのがこのCURSED IN WHITEだ。

しかし、MONSTERCOCKのリーダーからは「あれこれ手を出さずこのバンドに集中して欲しい」と言われていたため、こっそりとソロ・プロジェクトとして開始。「俺はリーダーが考えるているよりも上手くやりこなせるとわかってたからね」と自信たっぷりの発言をしているのだが、その約1年後にはMONSTERCOCKを脱退しているのでリーダーとしては複雑な気持ちだっただろう。そしてこの脱退と同時にCURSED IN WHITEもEarthのソロ・プロジェクトからバンド編成となり、数本の曲をYouTubeに上げた後、『Edge Of The Depth』と題されたデビューEPを今年8月に発表している。
それにしても他のバンドたちと比べてかなり歩みが速い。『ウサギとカメ』でいうところのウサギ・タイプになってしまうだろうか。いや、それはまったく違うことが今後徐々にわかるだろう。まず第一に、彼は2015年から作曲を続けていて、すでに60以上の曲がノート・パソコンに保管してあった。そこにはジェント系を中心にポストハードコア、メタルコア、モダン・メタルコア、ヘヴィ・メタル、スラッシュ・メタルまで様々なメタルのサブジャンルがあり、その中からCURSED IN WHITEに相応しい5曲を選んでEPを制作したという。早い段階からしっかりとした準備がなされていたわけだ。

ところでEarth率いるCURSED IN WHITEはジェント系のモダンなプログレッシヴ・メタルコアに属するとか。では、どんなバンドから影響を受けているのかを聞いてみた。

「厳選して国内外のトップ5を挙げよう。国外ならARCHITECTS、CURSED EARTH、NOTHLANE、THORNHILL、IN HEARTS WAKE。国内ならANNALYNN、FALLING IN BETWEEN、TERESA、THE DARKEST ROMANCE、NOBUNA。もっといっぱいるけど、それぞれのバンドが持つ雰囲気から良い影響を与えてもらたのは今挙げたバンドかな」

国外がCROSSFAITHも所属する今をときめくオーストラリアのレーベルUNFDのバンドで占められているのが印象的。タイ国内のバンドを見てみても、モダンでヘヴィなバンドがほとんどなので、やはり少し前のスタイルを踏襲していたMONSTERCOCKでは満足しなかったと思われる。

それでは、そんな彼らが発表したデビューEP『Edge Of The Depth』について触れていこう。まずは、そのタイトルについて語ってもらった。

「Edge Of The Depthが意味するものは、人の心の最も深い部分に埋もれたエネルギーのことで、カオスを意味している。人はカオスと共に誕生し身勝手に振る舞う。そしてそのカオスってやつはナイフの刃のようにいとも簡単に人々を傷つけてしまう。さらにそれは目で見ることができない。信仰におけるネガティヴな側面のようにね。それがこのEP全体のコンセプトだよ」
CURSED IN WHITE / Edge Of T...

CURSED IN WHITE / Edge Of The Depth

◆収録曲
01.Mindset Asylum
02.Absence (Tears Me Apart)
03.Brken Machine
04.God's Sake
05.Blind
では、この簡略化した図柄はなにを表しているのか。

「青い部分は傷。その傷の奥底にはカオスがあるのさ。だからEdge Of The Depthと呼んでいる。で、その傷だけど、ちょっとした秘密がアートワークには隠されている。アプリなどを使って色を反転させると本当の色が見えてくるよ。白地に青い傷だったものが、黒地に赤い傷へと変化するんだ。赤と黒はいつだって最もカオスな色だろう? 一見、白で安全そうに思えるけれど、カオスな面を持ち合わせているってこと。それはいつだって俺たちの心の内側にあるのさ」

漠然とかもしれないが、少しだけEarthの言わんとしていることが理解できてきたのではないだろうか。では具体的に曲を2、3取り上げてどんなメッセージが込められているのかを見ていこう。

バンドはEP発売前の2019年6月に「Broken Machine」、8月に「God’s Sake」という曲をYouTubeに上げている。

まず「Broken Machine」について、「この世界は壊れっぱなしの巨大な機械だと俺は感じている。人々はより強力なものや欲しいものを得るため、互いに騙し裏切りを続ける。それでもまだ飽き足らず、彼らは神に祈って欲望を満たそうとしているんだ。なぜこんなサイクルに属さなければならないのか。自己中心的な考えや行動は結果として自分たちの首を絞めていくことになる。それにいまだに戦争を作り出しているだろ。誰かが「神はすべての人を愛しておられる」と言ったけど、だったらなぜ神はこの世界をより良くしようとしなかったのか。本当に彼らは存在しているのだろうか。俺にはわからないね。今までこのような疑問を自分の頭の中だけで続けてきたけど、今度は皆に問うてみたくなったんだ」

CURSED IN WHITE「Broken Machine」

2019年6月発表。
「最大の病気のひとつは誰にとっても取るに足らない人でいること」というマザー・テレサの言葉が引用されている……
そして「God’s Sake」。「怒りの感情が吹き出している曲。神に対する疑問だよ。“For god’s sake”という言葉があるけれど、神って一体誰なんだ。なんでそんなことを言えるんだい。神のためならなんでもできるってわけかい。さらに“God hate us”という言葉にも着目している。もしも神が俺たちを憎むならなんでこんな場所に住まわせているんだ。もし彼らが俺たちを憎んで燃やし尽くしたとしても燃え残るのは人のネガティヴな部分しかないはずさ。とにかく、この2つの言葉から派生した曲だよ。“For god’s sake”なんて言葉は心の暗部に過ぎないっていうのが俺の見解だね」

かなり辛辣な見方ではあるけれど、日常見過ごされがちな事柄に疑問を持つことは大切だ。ここでさらにEarthの深い視点を見てみよう。

彼がプロジェクト立ち上げて最初に放った曲は「Absence」という歌詞付きのビデオで、2018年の10月に発表された。しかしこの年、短編映画形式でもこの曲が撮影されている。それは大学の仲間と手掛けたプロジェクトでもあったので作品を学校側に提出する必要があり、再びEarthの手元に戻ってきたのは翌年。そしてようやく2019年5月に「Absence(Tears Me Apart)」として公開となった。このビデオには演奏するバンド・メンバーが映っているのだが、撮影時はEarthのソロ・プロジェクトだったことから、ヴォーカルのEarth以外は本当のバンド・メンバーではない。撮影スタッフの手の空いた者が演じているだけだ。とはいえ、彼の学校はシラパコーン大学音楽学部なので皆、楽器の演奏は可能。それでも難易度が高いので本当弾くとなるとかなり練習が必要になるらしい。

「Absence(Tears Me Apart)」が表現しているのは人の身勝手と破滅。誰もが心の内に利己心を隠し持っていて、なにか圧力がかかった時に破滅が始まっていく。

CURSED IN WHITE「Absence (Tears Me Apart)」

2019年5月に発表。

以下、Earthによる物語の説明

このビデオに出てくるすべての人が自己中心的。彼らは俺を助けることもなく問題解決に向けて何も行動を起こそうとはしない。

物語は、帰宅途中に4人の乗った車が故障するシーンから始まる。幸運なことに比較的に近くにガレージを発見したので、俺(長髪の男)と10代のカップルが助けを求めに行くことにした。運転手が車中に留まったのは問題が解決するまで何もしたくなかったからだ。ガレージに着いてもカップルの男性はゲームに興じ、女性は空腹で怒り出す。もはや状況は悪化する一方。だから何か解決策を探ろうと俺はその場を出ていく。
<ここ(3分18秒)から曲が始まる>
しかし、その前に視聴者は俺と良く似た姿の悪魔を見ていることだろう。それがCursed In Whiteというもうひとりの俺なんだ。ただ、ここでは別の側面を持った俺が影として常に自分の中に存在していることに気がつかないのさ。そして俺は運転手に車をガレージの中に入れるようにと言いに行くんだけど、彼はすでに死んでいた。慌ててガレージに戻ると今度はカップルの男性が殺されて女性は怯えている。俺が出ていったスキにCursed In Whiteがやったのさ。だから彼女は俺を見て怯えたんだ。そしてガレージの中で俺は十字架を見てしまい、殺人鬼Cursed In Whiteへと変貌する。だけれども最後のシーンで道路に倒れて死体として発見されるのは俺。実は最初から死んでいたのさ。

これがこのビデオの物語だよ。ああ、わかってる。まだ釈然としないよね。それはこの続きの作品で解明されることになる。

ところで、なぜCursed In Whiteは女性を殺さなかったのかというと、男性を全員殺して女性を1人にすることで恐怖心に落としれたんだ。狂ってしまうか死ぬまで怖がらせてやろうという考えだよ。自分を神の使いだと思い込んでの仕業さ。神がそう望んでいるんだとね。実は彼、「神は我らすべてを憎んでいる」という言葉が頭にこびりついて常にその事を考えていた。そんなある日、神と出会い、神を殺めてしまう。そして自分が神に成り代わるんだ。これが次の作品の内容だよ。これを見ればなぜCursed In Whiteが残酷な行為にいたったのかが理解できると思う。
Earthは大学卒業したての若者のはずなのに深みのある作品を作る男だ。ちょっと気難しそうなイメージもしてしまうけど、意外にもBLACKPINKの「Kill This Love」や、これまたBLACKPINKからJennieのソロ・デビュー曲「SOLO」をカヴァーする茶目っ気を見せている。

このBLACKPINKは2016年に結成された韓国のYGエンターテインメントに所属する4人組ガールズ・グループ。世界的に人気が高く、SUMMER SONIC 2019にも出演しているので説明は不要かもしれないが、実は多国籍グループでLisaというタイ人もメンバーである。

余談ついでにもうひとつ。YGエンターテインメントは90年代前半に爆発的な人気を誇ったソテジワアイドゥル(SEO TAIJI AND BOYS)のヤン・ヒョンソクがバンド解散後に創設した会社。そして、ソテジワアイドゥル(SEO TAIJI AND BOYS)とは、90年前後に韓国ヘヴィ・メタルの大御所SINAWEでベースを務めたソ・テジが率いた革命的なダンス・グループ(ヘヴィなギター・リフもあり)だ。

少々話が脱線気味になったが、モダンなジェント系プログレッシヴ・メタルコアを標榜するCURSED IN WHITEがいわゆるK-POPアイドルをカヴァーするなんて少し奇妙かもしれない。もちろん、このように(ネット)世界を席巻する曲のカヴァーを行うことで認知されるきっかけを作るというのは常套手段ではある。Earth自身もそういう期待を込めていないわけではないと思う。けれども彼はもっと別の視点を持っているのだ。

「BLACKPINKはタイでも人気があるし「Kill This Love」は流行ったんだ。でも俺はK-POPファンじゃないよ。好きではあるけど、ダイ・ハードなファンじゃない。ただ、それらの音楽のサウンドが好きってだけさ。俺の場合は他の人達のように物理的にアーティストが好きなわけじゃないんだ。プロデューサーとしての視点だよ。アレンジ面なんかでね。で、彼女たちの曲を聴いている時に、ジェントな感じにしたらどうなるんだろうって思いついて1時間後にはジェント・スタイルの「Kill This Love」が出来上がっていたってわけ。で、それを俺のバンドの公式なカヴァー曲として発表したんだ。CURSED IN WHITEというバンドがどんな特徴を持っているのかを知ってもらうためにね。Jennieの「SOLO」は「Broken Machine」を発表した後なんだけど、ただ、退屈だったからやってみただけ。2時間で仕上げて翌日には公開できたよ。こっちは趣向を変えてポストハードコア・スタイルにしてみた」

CURSED IN WHITE「Kill This Love」(BLACKPINKのカヴァー)

2019年5月発表。
Earthはとても意欲的に活動をする男で作業も早い。かなりの曲のストックがあるためか、デビュー作を発表したばかりなのに、すでに3作目の準備に取り掛かっていると聞いている。しかも今の彼の話の中で気になるのは“プロデューサーとしての視点”という言葉。彼はただのミュージシャンではないのか。

「俺はやる気に満ちた男なのさ(笑)なにか不得意なことであっても全力を尽くして万事に当たる。かなり鍛錬してきたからね。実のところ、18歳からプロデューサーとしての道を歩み始めた。きちんと先生に就いてね。で、メタルのプロデューサーになりたいという意思を伝えたところ、2ヶ月ほどDAWソフトウェアの使い方を教えてもらった。その後、メタルのあらゆるサブジャンルの曲を1日1曲作ってくるように宿題を出されたんだ。例えば、今日エモだったら明日はポストハードコア、明後日はドゥーム・メタルという具合にね。それがしっかりとできるようになるまで訓練は続いたんだけど、結局2年かかったよ。本当に疲れる宿題だった。でもそのおかげで頭の中で曲作りが可能になったんだ。そんなわけで俺は基本的にメタルヘッドなんだけど、音楽はジャンルに拘らずに聴く。新しいものを偏見なく受け入れてそれらを使って何か美しいものを作るというのが好きなんだ。だからポップスやジャズなんかもやろうと思えばできるけど、仕事として選ぶならロックかメタルになるね」

このように足元を固めた彼は、Sound Story Productionを設立し、スタジオ・ワークを行うまでになっている。彼が比較的速いテンポで創作活動を続けられるのは、鍛えられて熟れた作詞作曲技術はもちろん、各楽器の演奏、録音、ミキシング、マスタリングまですべてを自分で行えるからなのだ。そして現在は、Sound Story Productionの最高経営責任者であり、ロックとメタルのプロデューサー、さらにマーケティングとアーティストのマネージメントも行っている。

これだけで十分に多忙なはずだが、今年8月からはPUPPETSというニューメタル・バンドのヴォーカルも兼任することになった。ある時、PUPPETSのヴォーカリストに用事ができてライヴに参加できないということで、ヘルプとしてEarthがしばらく代役を務めていた。ところが、そのヴォーカリストがそれ以来戻ってこなくなってしまったので、彼がそのままPUPPETSに加入する流れになったとか。
最後にバンド・メンバーも簡単に紹介しておく。

Pee(ギタリスト)
Earthの妹の彼氏。妹はSUDDENLYというバンドでドラムを叩いていることから、バンコクで行われたLuke Hollandのドラム・クリニックに行くことになり、着いて行ったEarthはPeeと対面。Earth同様にジェントでプログレッシヴなメタルが好きだとわかった。Peeは、クールなギター・リフを競うSUMEB Riff War(『タイのメタルにエールを』第8回のSARYNでも触れている)で準グランプリを獲得しており、その才能はお墨付き。

James(ギタリスト)
彼もまたMONSTERCOCKに在籍していた時期があり、その頃からEarthと一緒に住んでいるため、彼が極秘に進めていたCURSED IN WHITEの楽曲もある程度知っていた唯一の人物。インストゥルメンタルのプログレッシヴ・ロック・バンドACOUSLIMATEで活動をしているが、メタルもやりたくなってEarthに声をかけた。もっともEarthを理解しているメンバー。

Peaw(ベーシスト)
本当のニックネームはIceなのに、顔がシンセ・ポップ・バンドのPOLYCATのベーシストPure Watanabeに似ていることから大学ではPeawと呼ばれていた。SOKYU UNDERGROUNDというポストロック・プロジェクトを行っているが、Peeは以前彼とバンドをやっていた経験があることから誘った。

Tae(ドラマー)
Peeと同じ大学に通っていた友人で、「CRYSTAL LAKEやARCHITECTSのような音楽をやりたいんだけど一緒にやらない?」と声をかけてきたことから逆にCURSED IN WHITEへと誘う。HEY! STIFLERやTHE AMBULANCEなどでも活動していて、さらにエンジニアとしての経験はEarthよりも上ということで、バンドのエンジニアを担当。

このメンバーが揃ったのが2019年前半なので、まだバンド全員が映っているビデオは制作されてはいないが、年内にミュージック・ビデオを発表できるように準備していると聞いた。そして、すでにヴォーカル以外の録音は終了しているという2枚目の作品は2020年に発表予定。しかも、内容は人の内面にあるネガティヴな部分に深く切り込んで、より暗くヘヴィなものになるのだとか。

CURSED IN WHITEは人や宗教の持つ闇の側面に焦点を当てる。それはEarthが日頃目の当たりにしたことであり、投げかける疑問は現実的で痛烈。とは言え、日々生きていくための仕事に縛られている人々だらけのこの世の中で、いったいどのくらいの人が立ち止まって考えるだろうか。麻痺しているのか催眠状態なのか、我々の思考は家畜のように停止して狭い檻の中で廃棄処分同然の餌を取り合っているだけなのかもしれない。それはきっと我々の“白”が気が付かないうちにすっかり汚れてしまっているからだろう。例えば、マザー・テレサの言うように「不幸せな顔をしている者は、まだ何かにしがみついている者」だとするなら、釈迦が説くように執着を捨てることができれば何かが変わるだろうか。果たしてこの呪縛から解き放たれる時は来るのか。誰かわかる者はいないか。

正直なところ、彼らはタイのシーンにおいてまだ目立つ存在ではない。けれども心理学や哲学にも通ずる思考を持つ若いミュージシャン/プロデューサーの行く末は大いに気になるのだ。

補足:FALLING IN BETWEEN

バンド側の諸事情によりミュージック・ビデオ「Diamond」を一度YouTube上から削除したため、前回の『タイのメタルにエールを 第8回』の更新時に紹介できなかった。しかし、9月19日から再び公開されたので紹介文中に埋め込んでおいた。ぜひご覧になって頂きたい。


『タイのメタルにエールを 第10回』へとつづく。