タイのメタルにエールを 第8回

アジアのメタルシーン
説明:近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。
今回はメタルコア、ポストハードコア周辺のバンドのパート5。

メタルコア、ポストハードコア、ニューメタル、モダンロック系パート5

SUDDEN FACE DOWN

人生、何が起こるかわからない。
ある日突然、手に入れたものを一瞬にして失うことがあるかもしれないその一方で、宝くじや遺産相続などで大金が転がり込む可能性もある。また、不治の病が治ることもあれば、体の機能に大きな制限がかかることもある。誰も明日のことなど、いやそれどころか1秒先のことさえもわからない。

そんな“人生の不確定”さをバンド名に取り入れているのがこのSUDDEN FACE DOWNだ。適当に辞書を開いて決めるという極めて古典的な手法を用いたとのことだが、開いたのは紙の辞書ではなく、携帯電話をツールとして使用したというのが現代的……か。それでもなんとなく安易な気がしてしまう。ところが、このバンド名の意味するところは突然襲いかかる“死”であると聞いた。少々人生に悲観的な感じもしなくはないが、おそらくそれは、「調子に乗って軽率な生き方をしないように」という戒めが含まれているのではないかと推測する。

バンド結成のきっかけとなったのは、現在唯一残るオリジナル・メンバーのArt(ヴォーカリスト)が中学生の頃に遡る。当時仲が良かった友人のBoyを自宅に招き入れて音楽を一緒に聴いていたところ、SYSTEM OF A DOWNがその友人の感性を刺激したらしい。Boyの方から「メタル・バンドを結成しようぜ!」と声をかけてきた。その後Boyはバンドの初代のベーシストとなり、2人でメンバーを集め始めたのが2005年。ただ単に楽しめればいいという10代ならではの気楽な感じで開始したということで、初期の頃はBUTCHERYやOVERDAZEなどバンド名もあまり定まっていなかった時期もあったが、今年でバンドは14年も生き延び続けていることになる。

SUDDEN FACE DOWNとして活動を続け曲も増えてきた2011年、デビューEP『The Origin of Radical』を発表する。この頃はまだ若かった為、“ヴァイオレンス”をコンセプトにしていたとことから、音楽性はデスコア、メタルコア、ニュー・メタルを混ぜたようなエクストリーム・メタル。さらにはアートワークもエクストリーム。可愛らしい女性が微笑みながら台所に立っている姿が写っているのだが、手にしているのは血が滴る男性の生首。「美しく見える女性でも内面には狂気とも言える残忍さが潜んでいるという事実を伝えたかった」とArtは言っている。このアンバランスさ、ただの作られたイメージとは言え、ある意味、生首アートワークで有名なBRUJERIAの『Matando Güeros』よりも猟奇性を感じるかも。もちろん、LAST DAYS OF HUMANITYのようなゴアグラインド系のそれらに愛着を持っている御仁には子供だましのようにも見えるだろう。しかし、“好色一代男”を地で行く女性経験豊富な男性なら、『The Origin Of Radical』のアートワークを見て縮み上がる方も少なくないはずだ。

SUDDEN FACE DOWN「เหยียบฐานตัดเศียร(Beheading The Sign)」

2011年の『The Origin Of Radical』EPから。
作詞を手掛けたのはEBOLAのヴォーカリストAey。
バンドはデビューEPからミュージック・ビデオを発表する傍ら、AS BLOOD RUNS BLACK(2012年)、MEMPHIS MAY FIRE(2013年)、CHELSEA GRIN(2013年)などのバンコク公演の前座を務め、技術を磨いていく。そして前作から約4年後の2015年にフル・アルバム『เดรัจฉานนรกานต์(地獄の獣)』を発表。まるで地獄からやって来たかのような悪魔や邪悪な存在を表現しているというこのアルバム・タイトルが意味するところは、“人は皆それぞれの心の中に邪な存在がある”ということ。そのことを彼らは伝えたかったのだとか。

デビューEPでもEBOLAのAeyが作詞で関わっていたが、今回は「1939」という曲でその歌声を披露。SUDDEN FACE DOWNからすれば、活動も長くアンダーグラウンドからロック界のトップに上り詰めたEBOLAはアイドル的な存在でありつつ尊敬する兄貴といった存在。けれども、長い付き合いがあるようで、気軽に声をかけてこのようなコラボレーションが成立したとのこと。さらに、逆パターンでEBOLAのステージにArtが参加して歌うこともある。

世代的な観点からすれば彼らがメタルコアやニュー・メタルからの影響を受けているのは明白だ。しかし、冒頭で触れたSYSTEM OF A DOWNのような海外のバンドのみならず、実は、EBOLA、DEZEMBER、MACCARONI、COCAMRAM、PLAHNといった90年代タイのアンダーグラウンド・シーンでエクストリーム・メタルを築いてきた重鎮たちからの影響があることもArtは話してくれた。

よって、例えばアルバムからビデオ制作もされた「เห็นแก่ตัว」「ถึงวันหักหลัง」「สัตว์มนุษย์」、さらには、EBOLAのAeyが参加した「1939」など、そのほとんどは先達のアングラ精神を受け継ぐかのようなヘヴィで激烈な曲だ。ただ、SUDDEN FACE DOWNの音楽性は徐々に変化してきていることをこのアルバムからは感じることができる。ほとんどの曲が前作からの流れを汲むなか、いくつかの曲ではグロウルではなくクリーンでラップ調に歌う箇所が設けられるようになっている。特に「Thailand Only」という曲はアルバム全体からすれば少々異彩を放つ存在。ここでは、タイ国内で発生している不公正であったり社会から抹殺された事柄を積極的に語ることで、彼らは皆に自国でどのような問題が起こっているのかを認識してもらおうとしているのだという。確かに彼らの音楽性の基礎やこのような歌詞の内容を鑑みればラップを取り入れるのはごく自然な流れなのかもしれない。試しに聴いてみて欲しい。

SUDDEN FACE DOWN「Thailand Only」

2015年2月に発表されたアルバム先行シングル。
これ以降、アルバムの発表はしていないもののシングルは毎年発表し続けている。いくつか紹介しよう。例えば、悪事を働いて旨味のある報酬は得られる人がいるのに、正しい行いを続けてもその見返りはほとんどなく生活が困窮している人々がいるのがこの社会だ、と因果応報に疑問を呈した「คุณฆ่าความดี」(2017年)。Artが性悪女と出会った実体験をネタにしてエロティックな映像が目を引く「ดอกฯ」(2018年)。そして「พ่อมึงตาย」(2018年)ではタイの危うい交通事情について。バンコクは渋滞が酷いことでも有名だが、彼らがここで言っているのは運転手を始めとする通行者たちのマナー。皆が同じように互いのことを思い遣って親切になればトラブルは回避できるはずなのに、現実社会では、自分中心に考え、自分以外の道路上にあるすべてが悪く思え苛立って相手を傷つけてしまう事例が多い。この問題を彼らは指摘している。

SUDDEN FACE DOWN「พ่อมึงตาย」

2018年12月に発表されたシングル。
ギター・リフは依然として凶悪であるし、ヴォーカルも力強いままなのだが、近年の印象はずいぶん変化してきた。その要因はかなりの回数繰り返し行われてきたメンバー・チェンジによるものが大きい。先に述べたようにヴォーカルのArtのみがオリジナル・メンバーで、次に古いのは2011年に加入したドラマーのKrit。それ以外はかなり変わっている。よって、バンドのコンセプトや曲作りの方法も初期に比べれば大きく変化したのだとか。

そうえば、先ほどのビデオにもチラッとその姿が登場していたように、2018年、Artはマスクを着用してステージに上がっていた時があった。なにか深い意味があるのだろうかと思ったが、「年食った顔を隠すためかな」などと冗談を飛ばしつつ、「特に意味がないことだってあるよ。俺はやりたと思ったことはなんでもやってみるのさ」ということだった。確かに、今年(2019年)EMMUREの前座を務めた時にはもう素顔で歌っていたことから本当に自由気ままに表現しているのだろう。

そんなArtは写真家としての一面も持ち合わせており、SUDDEN FACE DOWNを開始する以前からバンドのライヴを撮影し始め、現在では国内のバンドのみならずタイで公演を行う海外のバンドも撮影して雑誌にも使用されている。

「俺たちはいくつもの波や世代を超えて生き抜いてきた。今、周りを見渡せばヒップホップが盛んな時代で、メタルは停滞気味になってしまったことがわかる。確かに規模は縮小されたけど、それでも根強いファンはいまだに存在しているんだ。何事にも浮き沈みはあるものさ。だから再びメタルが人気を取り戻す時が来るはずだよ。でも、そういう流行り廃りを深刻に捉えて一喜一憂はしていなのさ。俺たちはやるべきことをやるだけなんだから」

SUDDEN FACE DOWNはこのArtを中心としてゆっくりと歩みを進めており、次なるアルバムもそのうち作るだろうと話してくれた。案外、この気負わない感覚のほうが上手くやれるのかもしれない。

また音楽性に関しても、現状はエクストリームさとラップを交えたニュー・メタル/メタルコアといったスタイルだが、今後もこのままなのかどうかは定かではない。けれども、何が起こるかわからない人生の不確定さを表現したバンド名SUDDEN FACE DOWNを背負う彼らは、己を律しながら人の内面に潜む邪や社会問題にヘヴィに切り込んでいく。この1点は確かなことだと思っている。

FALLING IN BETWEEN

今から2年ほど前、フラッと立ち寄ったバンコクの片隅で、黒尽くめの衣装に身を包み熱いパフォーマンスを繰り広げている彼らを見かけた。なかなか気合の入った奴らだったので気になって今後の予定などを尋ねてみた。

「2018年にはCDを出す予定だよ」

ちょっとした雑談の中で確かにそう言っていたと記憶しているが、あれから2年近く経った今でもCDは出ていない。もちろん責めているわけではない。ヴォーカリストのPopによるとメンバー・チェンジが原因で音源の制作に遅れが出ていたのだとか。

彼らは、ASKING ALEXANDRIAなどに大きな影響を受けつつも、CRYSTAL LAKEのようなジェントなリフを使ったメタルコア・バンドも好きなんだとか。「攻撃性と美しさが同居するのがこのメタルコアというジャンルであり、そうじゃなければ俺はこの道に進んでいない」とまで言い切るPopが2014年に開始したのがFALLING IN BETWEENというバンドである。

この2014年はメタルコアをやり始めるにはちょうど良い時期だったと言っていたので、さぞかし幸先の良いスタートだったのだろうと思った。しかし精神面においては、「すべてが憂鬱で暗い状態。俺たちはまさにそこにできた隙間に入り込んでいた時期だった」と吐露する。一体何があったのかはわからないけれども、なにもかもが悪いことばかりではない。その時のバンドの状態を言葉にすることでこのFALLING IN BETWEENなるバンド名が生まれたのだ。

「音楽性にもピタリとハマっていて気に入っている。だからこの名前を思いついた時はなんだか嬉しくなったよ。なんというか感情の狭間みたいな、そういう感じを表している」

彼らの曲はデスコア並の凶悪なヘヴィさからポスト・ハードコアのエモーショナルさまで織り交ぜた楽曲であり、まさにこのバンド名は的確と言える。

結成からさほど時間を空けず、2015年1月にバンドは「A New Beginning」というミュージック・ビデオを発表。一緒に過ごす時間が長く仲が良かったというHOPELESSのNoomが登場するほか、当時はPERFECT STRANGER、現在はPAPER PLANESのメンバーとして活動する傍らスタジオ・エンジニアとして新世代のロックを牽引するTunwa Ketsuwanがエンジニアとして関わっている。

FALLING IN BETWEEN「A New Beginning」

デビュー・シングルから少々間は空いたが、2017年11月には「Never Look Back」を発表する。

FALLING IN BETWEEN「Never Look Back」

ここでは、「同じことを何度も繰り返して立ち止まったり過去を振り返ったりせずに前に突き進んで行くんだ!」という前向きな戦いを奨励している。Popによれば、ポストハードコア寄りの曲だからエンジニアは上手くそれに合わせた音作りをしてくれたと言っていた。そのエンジニアとは後にHOPLESSのギタリストとなるTahであり、彼はHOPELESSのほか、SINNERS TURNED SAINTS、LIKE A SECRET SEEN、GIRLFRIEND FOR RENT、ROLLING ATTACKなどのミュージック・ビデオの制作に関わっている。

この2本のビデオをご覧いただければお気づきになると思うが、彼らの衣装は黒を基調としている。ここにはかなりのこだわりがあるようで、「そこに俺たちらしさが良く表れているんだ。黒はシンプルで派手さはないけど、威圧的かつ官能的な雰囲気も同時に醸し出すからね。でもいちばん重要なことは、これがメタルの伝統ってことさ(笑)」と、その理由を話してくれた。

セカンド・シングルを発表した後、バンドが好きで聴いていたというMISS MAY Iのバンコク公演の前座を務める機会に恵まれるが、先に述べたようにメンバー・チェンジがあったためにこの時期の活動は控えめだ。

しかし、2018年にはメンバーも固まり、KLUAYTHAIのヴォーカリストS(エス)が携わるBanana Record(『タイのメタルにエールを 第6回』を参照のこと)に所属してレーベルの企画するフェスやギグにも参加。

さらに今年2019年に2月に「Diamond」、6月に「Awakening」というシングルを発表。日和ることなく、モダンさとヘヴィさに磨きをかけたうえに洗練された楽曲で活動が波に乗ってきたかのように見えたが、YouTube上にあげられていたビデオが突然削除され、2019年9月上旬の現在も依然として状況は変わらない。ファンたちは困惑したが、これはなにか特別大きな問題があったというわけではない。ただ、1年弱所属していたBanana Recordを離れたことにより、レーベル側で管理していたビデオを削除しただけで、近日中にバンド自身が再度アップし直すと聞いている。気になる方は是非ともこまめにYouTubeをチェックしてもらいたい。ただ、この2曲ともSpotifyでは問題なく聴ける。
追記:上記の理由から本記事更新時に「Diamond」を紹介できなかった。しかし、9月19日から再びミュージック・ビデオが公開されたので埋め込んでおいた。ぜひご覧になって頂きたい。

FALLING IN BETWEEN「Diamond」

2019年9月19日公開。
ちなみに、これらの新曲の歌詞の内容も少々聞いてみたが、彼らがこれまでの楽曲を通して伝えたいことは、過去をうまく清算して立ち止まらずに明日へ向かう勇気を与えることだと感じた。これは、バンド名の由来にもなっているように、鬱屈とした心の隙間でモヤモヤしている状態、そこからの脱却を促しているのかもしれない。

バンドは近々、さらなる新曲を発表する予定がある。「もう彼らなしにはやっていけないよ」とPopが言うほどに今までで最高の布陣ということで、FALLING IN BETWEENの状態は非常に良好のようだ。ここでメンバーに目を向けてみると、2人いるギタリストの1人Bamは音楽学校Rockademyでギターの講師をしながら、デスコアのTHE CREATION OF ADAMでも活動する人物。さらに新たに加わったBossというドラマーはTHE 90’sというロック・バンドや、今ノッているおしゃれ系ポストハードコア・バンドPAPER PLANESのサポート・ドラマーでもある。このようにしっかりとしたメンバーに囲まれているのだから唯一残るバンド創設者のPopも喜びを隠せないのだろう。

昨今は、録音技術やミュージック・ビデオの映像クオリティもタイのバンドは世界で堂々と渡り合えるレベルまで上がってきていると言うPop。そんな彼らがまもなく発表する予定の新曲には期待せざるを得ない。

LIKE A SECRET SEEN

事の大小に関わらず人は誰しも秘密を持っている。墓場まで持っていかねばならぬ話もあるかもしれない。とは言え、秘密を守り続けるのは難しい。ポロッと漏らしてしまうこともあれば、秘密にしていたつもりが周囲にはバレバレだったこともあるだろう。例えば、子供がお皿を割ってしまった。テストの点数が散々だった。親のパソコンで大人の動画を観てしまった。これらをなんとか隠そうとしても親はそのすべてを知っているものだ。それでもまだこの程度なら可愛い。

しかし、社会に出てから大人が持つ秘密はエグ味を増し、周りに大きな影響を及ぼすことも少なくない。個人間で行われる“金妻”ごっこ程度ならいざ知らず、企業、政治家、権力者、国家が頑なに隠そうとする秘密には良いサプライズよりも犯罪めいたものが多くなりがちだからだ。

ここで今一度言おう。悪事を隠し通すことは困難だ。本人は上手くやれていると思っていてもいつか誰かが暴いてそれは広まっていく。

「お前らが隠れてやっていることなんてお見通しだぜ」

このように社会風刺の意味を込めて命名されたのがLIKE A SECRET SEENなのである。

2012年、大学生の頃に知り合った仲間がエモなオルタナティヴ・ロックをやるために結成された。

2014年末にデビュー・シングル「Seasons」をTrust Recordsから発表。Tunwa Ketsuwan(PAPER PLANES、ex-PERFECT STRANGER)がオーナーを務めていたレーベルだ。歌詞の内容はどうしようもなく変化していく愛という感情を季節の移り変わりに例えたもの。

LIKE A SECRET SEEN「Seasons」

2014年11月発表。
いかがだろう。タイでは珍しくエモいハイトーン・ヴォーカルが特徴となるバンドだ。このBeerというヴォーカリストはA SKYLIT DRIVEやQUEENが好みのようで、そこはいかにもといった感じだが、正式なヴォーカル・トレーニングを受けたという話は聞いたことがなく、メンバーの話では、ゲームをやりながら歌の練習をしているのだとか。それでこれだけいろんな声が出れば世話ない。

2015年5月には前回に引き続きTrust Recordsからセカンド・シングル「MonaGate」を発表。この曲ではSLIPKNOTのようなヘヴィなリフを念頭に置いて制作したようだ。ここで疑問に思うのは、エモなオルタナティヴ・ロックを目指していた割にはかなりヘヴィ路線なのではないかということ。実は、これ以降は徐々にヘヴィさが薄れていく。

2016年はメンバーの友人である女性に歌で参加してもらったというミュージック・ビデオ「Someplace To Hide」Feat. BUBIXを発表。まだヘヴィさやグロウルは健在だがメロディ的にはポップに歩み寄ってきた曲で、若手バンドとしてはそこそこの再生回数となっている。そのほか、タイ東部に位置するチョンブリー県のポストハードコア・バンドTHE WORST IN MEがBeerの声質を気に入っていたことから「Heal」という彼らの3本目のシングルにフィーチャーされた。ちなみに、このTHE WORST IN MEは残念ながら現在活動休止中となっている。

そして2017年になると、彼らの活動は加速。「The Condition」と「Alone」というミュージック・ビデオをYouTubeにあげた後、古い曲はリマスターを施すなどして、これまで発表してきた曲をまとめた5曲入りEP『Revival』を発表する。このタイトルには「あの素晴らしきエモをもう一度」という気持ちが込められているという。

ここで、彼らが気に入っているという「Alone」を紹介しよう。この曲で表現されているのは、恋人と別れひとりぼっちになって取り残された心情である。

LIKE A SECRET SEEN「Alone」

2017年7月発表。
ベーシストのCejayは、ギターが甘美で歌詞が切ないという理由から「Someplace To Hide」とこの「Alone」がお気に入りだそうだ。ちなみにここでエンジニアを務めたのは、メタルコア、ポストハードコア系に造詣が深いNong Noom(NOBUNA/TERESA)である。良い曲だと思うが、YouTube再生回数だけを見ると残念ながらさほど注目を集めなかったようにも思える。

バンドが悪かったわけではない。実は、彼らが所属していたTrust Recordsは2016年に閉めてしまったので2017年はインディペンデントでの活動となっていた。やはりレーベルによる宣伝効果というのは関係するのだろう。

ただ、2017年にはマレーシアはボルネオ島のコタキナバルで行われたPROGIG Borneoというライヴ企画に参加する機会にも恵まれた。地元からはパンクやハードコア系のバンドが参加していたが、目玉は英国のOi/ストリート・パンクBOOZE & GLORYとインドネシアのハイパーなテクニカル・デス・メタルDEADSQUAD(2018年に来日)の存在。そこにLIKE A SECRET SEENが加わるというなかなかカオスな状況となったが、バンドはこの初の海外公演をとても楽しめたようだ。

やはりBeerの特徴的な声とセンスを持ったバンドだけあってインディペンデントでの活動はほどほどに2018年半ばにはCapture Bomb Recrodsと契約。ただここはポップなミュージシャンが所属するレーベルなのだ。例えば、SUMMER SONIC 2019にも出演したシンセ/・ポップTELEX TELEXsといったポップやヒップホップ・ミュージシャンをメインとしていたWayfer ReocrdsがBOMB AT TRACKやANNLAYNNのようなヘヴィなバンドを獲得してレーベルとしての幅を広げたように、Capture Bomb Recrodsも同様の道を歩むのか。

いや、実はそうではなかった。LIKE A SECRET SEENはヘヴィな音楽をやるためではなく、タイ語の歌に挑戦してみたかったという理由からこのレーベルに加入したのだとか。そして2018年8月には「ไม่เหมือนแต่ก่อน」というバラード、2019年5月には「รักยังคงอยู่ (You & I)」という曲を発表しているので試しに聴いて頂きたい。

LIKE A SECRET SEEN「รักยังคงอยู่ (You & I)」 Feat. Fern RITALINN

2019年5月のシングル。
メタリックなエモ・パンクRITALINNのヴォーカリストFernをフィーチャー。
レーベル・カラーにふさわしくタイ語によるポップよりのロックとなっている。これにはヘヴィな楽曲を好むファンは落胆するだろうし、そうじゃなくとも以前から彼らの音楽を聴いていたファンは驚かざるを得ない。しかし、よくよく聴いてみれば、イントロや中間部はまるでCOLDPLAYやCOPELANDのような幻想的で浮遊感のある繊細さを持ち込み、かなりのエモさを醸し出している。

新たなレーベルに移って発表した2曲、その歌詞もこれまでと同じく基本的には恋人同士の別れ。いつまでも同じような関係は保てないという内容だ。実は彼らの書く歌詞はメンバーの実際の生活に基づいている。つまりそれだけ彼らは切ない印象的な別れを体験しているということだ。比較的サラッとした恋愛を良しとして「次、行ってみよう!」(いかりや長介)的な切り替えの早い現代の人間関係からすれば、気持ちを引きずって、いや、愛の名残を慈しんでそれを歌詞にしてしまうなんてキモいと言われそうだ。しかし、それだけ彼らは真剣に恋をし心に残る相手と出会ってきた、もしくは意識せずに離れていく自らの気持ちにかえって傷つき、感傷的になったのだろう。これがエモくなくて何がエモいのか。

しかし、彼らがやりたかったエモなオルタナティヴ・ロックとはこのタイ語によるポップよりの方向なのだろうか。その部分に関しては現段階で見極めることは不可能だ。バンドは今、8曲の英詞による楽曲を用意して来年発売を目処にアルバムの制作をしているという。基本姿勢はエモなオルタナティヴ・ロックということだが、ヘヴィなリフも登場するしシングアロング・パートもあるらしい。

先に紹介したように、Beer(ヴォーカル)はA SKYLIT DRIVEとQUEENを好んでいる。では、ほかのメンバーはどうかというと、Cejay(ベース)はTHE BEATLES、OASIS、RADIOHEAD、Jay(ギター)はエリック・クラプトンとCOLDPLAY。Tae(ドラム)はTHE WHOとJETなのだとか。これを聞いてしまうと初期のあのヘヴィさはどこから出てきたのか悩むところ。

一体どのようにして曲を作っているのだろうか。彼らは休みの日にCejayの家に集まって作業を行っている。やはりギタリストであるJayが主な作曲者になるようで、まずはJayとCejayがギターでリフを作ってそこにドラム、歌と歌詞という順番で制作するようだ。特定の誰かがリーダーシップを取って曲作りはしていないらしく、全員で話し合いながら進めていると言うのだが、現在影響を受けているバンドを尋ねるとTHE BEATLES、OASIS、RADIOHEADからだと言っていた。ひょっとするとこのバンドはCejay色が強めなのではないかと思わされる。

さらに、面白いのは自分たちの音楽性を“Sceak N' Roll”と表現していること。もちろんこれは造語で、その意味するところは、“Screamo + Punk and Rock N’ Roll”なのだと言う。これは音楽性というよりも精神性を表しているのだろうか。これまでとこれからの姿を考慮するとますます混乱してくるけれど、その答えは来年発表される作品にあるはずなので、楽しみに待つとしよう。兎にも角にもLIKE A SECRET SEENというバンドは、感傷的なエモい楽曲を提供し続けてくれだろうことには違いはないのだから。

SARYN

2018年夏、雑誌THE GUITAR MAGが主催したコンテストのひとつにImperial Music Awards 2018があった。これは15歳から22歳までの若者を対象に新たな才能を発掘して賞金を授与するほか、活動の機会も積極的に与えようとする趣旨のもと開催され、SARYNも参加した。

「俺たちはNORTHLANEの「Dispossession」と「Quantum」を演奏したんだ。でも結果は残念賞だったけどね(笑)」

マジか!? 彼らならば高い評価を受けて当然だと勝手に思っていただけに少々驚いた。なにしろそのコンテストの1年後、2019年8月にはこんな曲を発表しているのだから。

SARYN「Nothing But Echo」

「Nothing But Echo」はSARYNにとってのデビュー・シングルだ。もちろん、先のコンテストでこのオリジナル曲を演奏したわけではないけれど、この曲を先に聴いてしまうと、1年前とはいえ、この手のモダン・プログレッシヴ・メタルコアな曲を作って演奏できる技術を持ったバンドがコンテストで上位に入賞できなかったことが信じられなくなる。しかし、若い人は成長も早い。当時はいろいろと未熟な部分があったのだろう。

彼らが一気に成長したように、未熟とは大いなる可能性を秘めている言葉であり、大概の人々が成熟や円熟へ向かって努力をしていくものだと思いたい。ただ、基本的に人はいつまで経っても未熟なままであるという考え方もある。このように慢心することなく己の未熟さを理解できるまで成長し、その上での至らなさを楽しむことができれば面白いだろうが、そこまで到達するのは容易ではない。

一方で己の未熟に気づけない未熟さは恐ろしい。皆、どこか奥底で薄っすらと感づいていはいても、悲しいかな欲や傲慢さが支配してそれを邪魔する。学校でも会社でも人間関係において些細な出来事、イラつきから悪態をついたことはないだろうか。弱く未熟な心のままでは周りが自分の脅威に見えてしまうこともある。さらに、表面的な速さと認知度があらゆる事柄の価値基準とみなされるようになった現在、誰しもが他よりも上に立ち目立とうとする。そのために行われるのは他者を蹴落とし排除することだ。面と向かって悪意をぶつけるのはもちろん、今はインターネットを通じて直接攻撃することも、誹謗中傷を遠回しにばら撒くことだって造作もない。自分にとって邪魔な人や気に入らない人を簡単に傷つけ希望を奪うことができてしまう。
さて、今一度「Nothing But Echo」のビデオを観て頂きたい。

「ここで取り上げているのは、人に対して皮肉や非難、失望させるようなことばかり言っている嫌な奴のことさ。でも、そんなことされたって関係ない。奴らがそういうネガティヴな行動をとっている間にも俺たちはもっと素晴らしい価値あることをやっているんだから。それに、悪い行いは最終的に行った本人へ返っていくんだよ」

ビデオには胸から上のマネキンが2度登場する。まず最初、覆われた黒い布からむき出しにしたマネキンの頭を(さらにはヴォーカリストに対しても)数人で取り囲んで罵り、汚い言葉を顔に落書きしたうえ痛めつけるのだ。為す術もなく地面に転がり落ちる姿はあまりにも無残。けれども曲の後半にもう一度登場したマネキンは以前とは違っていた。もう傷つきも汚されもしない。周囲の人間は同じように蔑んだ目で罵るのだが全ては徒労に終わる。陰湿な雑音には惑わされず、己の信じた道を歩むことができるようになったのだ。最後に映るマネキンは毅然とした態度でどこか誇らしげにも見える。

「これは実際にヴォーカリストのJamesが経験したことなんだよ。そして彼は多くの人が似たような経験をしているんじゃないかと思い、励まそうとしたのさ。だからもし、君がなにか大きなことに挑戦しようとした時、排除されそうになったとしても、周りの馬鹿げた声に耳を貸す必要なんてないんだよ」

このSARYNはバンコクにある国立のマヒドン大学の学生が結成したバンドである。1年生の時にJamesが、Bangpun(ギター)とFame(ドラム)にメタル・バンドを作ろうと話を持ちかけた。というのも新入生の中でこの2人だけがメタルを聴いていたからという至極シンプルな理由だ。その後、ベーシストは決まったもののヴォーカリストが見つからず、当初ギターを弾いていたJamesがヴォーカリストへ転身する。そしてバンド結成を画策してから1年後の2017年、バンドは正式に始動することとなった。2人目のベーシストが脱退したのと同時期にBig(ギター)というメタル好きの先輩の存在を知り、バンドに誘う。そしてそのBigがTae(ベース)を連れてきたことで現在のメンバーが揃ったのだ。

そして、2017年後半にはNORTHLANEのカヴァーを、2018年初頭にはISSUESのカヴァーをYouTubeにあげている。というのも彼らが出会った時からISSUESやNORTHLANE、MONUMENTSなどを聴いていたのだから当然の流れだろう。他にもARCHITECTSやPOLARISなども好きなようだが、この辺りはバンド名を挙げずともデビュー曲「Nothing But Echo」を聴けば彼らの目指す方向が良くわかる。

まだ結成間もないだけあって特筆すべき大きな出来事はない。今年は2月にパタヤで行われたギグに参加したのち、5月にバンコクで2回ライヴを行ったくらいだ。このバンコク公演のひとつは、初めて開催されたというクールなギター・リフを競うコンテスト、SUMEB Riff Wars。審査員は本コンテストを企画した雑誌THE GUITAR MAGからとANNALYNN、EBOLAのメンバーが務めており、コンテストのほかにバンドのライヴも行っていたのだ。この時にANNALYNNも演奏していたことから、「俺たちANNALYNNのひとつ前に演奏したんだぜ」と自慢気に話をしてくれた。そう、彼らは今年で20歳。昨今流行りの凄腕キッズ・ミュージシャンの話は置いておくとして、20歳なら子供ではないにしろ大人と言うほどでもなく、メタル業界ならまだ幼子に過ぎない。彼らにとって大先輩となるANNALYNNと近くで触れ合うのも大きな経験なのだ。

バンドは今後の活動も明確に出していて、年内にあと2、3回ライヴを行い、2020年にはデビューEPを発表する予定。どうやらそのEPに収録される楽曲の殆どは出来上がっているらしい。さらに、来年はフル・アルバムの制作を続けながら新曲を出していこうとしている。

「やることははっきりしている。他のバンドと目指すことろは同じだよ。国外でもショウをして世界中の人々にSARYNの曲を聴いてもらいたい。つまり俺たちが好きで聴いてきたバンドのような存在になりたいのさ」

このように若い情熱を滾らせる若者の登場はシーンを活性化させる。さらに彼らの辛い経験は糧となり強く包容力のあるバンドへと成長していくはずだ。


『タイのメタルにエールを 第9回』へとつづく。