タイのメタルにエールを 第6回

アジアのメタルシーン
近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。
今回はメタルコア、ポストハードコア周辺のバンドのパート3。

メタルコア、ポストハードコア、ニューメタル、モダンロック系パート3

KLUAYTHAI

近年、健康をテーマにしたメディアの特集で取り上げられることの多いバナナ。栄養価の高さと入手のしやすさ、さらには手を汚さず簡単に皮が剥けてすぐに食べられるという手軽さが魅力となっているのは言うまでもない。最近では国産バナナも少量だが出回るようになり、中には皮ごとまるかじりできる品種もあって多忙な人から無精者まで幅広く愛される果物の一つと言える。

しかし、そんなもてはやされ方をするバナナも日本国内で出回っているそのほとんどはフィリピン、台湾、エクアドルなどからの輸入である。よって、日本人のイメージではバナナと言えばその辺りの国と直結してしまうのだが、実は生産量だけ見ればインド、中国、インドネシア、ブラジルなどが世界の上位だったりする。

ということで、冒頭からバナナの話で「ロックやメタルとまったく関係ないじゃないか!」と憤慨された方もいるかもしれない。しかし、ここで叩き売り……否、お薦めしたいのはタイのバナナ。日本のロック、メタル・ファンにピッタリの1本をご用意しておきました。
その名はKLUAYTHAI(THAI BANANA)。そう、そのまま"タイのバナナ"という名のバンドだ。「なんじゃそりゃ?」となること必至だろうが、どうやら、タイで活動するバンドのほとんどが英語名を使用していることに疑問を持ち、母国語でシンプルかつ"簡単"な言葉にしようとした結果とのこと。当然ながらタイにおいてもバナナは庶民の生活に溶け込んでおり、その手軽さや食べやすさから慣用句の一部として"バナナ"という単語を用いて"簡単"とか"余裕"といった意味を表すので、まさに"タイ語"で"簡単"なバンド名となったわけ。

そんなバンドの結成は2002年。メンバーは同じ大学に通い西洋音楽を専攻して学ぶ仲間だった。00年代初頭のタイは、ニューメタルからメタルコアやエモコアへの移行時期に当たるが、KLUAYTHAIはニューメタル・ムーヴメントからのスタートでSLIPKNOT、LINKIN PARK、LIMP BIZKITなどのバンドを尊敬し憧れを抱いていたという。

ライヴ盤やベスト盤、EPなどを除き、2002年のデビュー以降、これまで3枚のスタジオ・フルレングス・アルバムを発表してきた。そのどれも注目度は高く、社会問題を扱った2002年の『กล้วยไทย(Kluaythai)』では第16回Season Awardsのベスト・ニュー・アーティストとベスト・ニュー・ロック・アーティストにノミネートされ、戦争や自然災害をテーマにした2005年の『เพลงรักระดับโลก(Worldclass Love Song)』では第18回Season Awardsのベスト・ロック・アーティストとFat Awardsのベスト・パッケージ・デザインにノミネート。そして12種類の動物を使って社会風刺をした2009年の『สิบสองสัตว์(Twelve Animals)』では第22回Season Awardsのベスト・ロック・ソングと最優秀ロック・アーティスト部門を受賞。さらに、Thai Headbanger Zine Awardにおいては、ベスト・アーティスト、ベスト・アルバム、ベスト男性歌手の3部門を受賞することとなった。

このように非常に評価も高く人気もあるバンドなのだが、2009年の『สิบสองสัตว์(Twelve Animals)』以降はフルレングスのスタジオ・アルバムは発表されていない。メンバーたちはそれぞれに家庭を築いて子供を儲けたことで、生活費を稼ぐ必要が出てきたため、バンド活動を行いながらアルバム制作に時間を割くことは困難な状況にあったという。よって、近年発表されていたのは単発のシングルがメインということになる。

しかし、だからと言ってバンドの創造性まで停滞していたわけではない。歌詞のテーマとして、タイ人の生活に影響を与えるあらゆる問題を取り上げていくという姿勢はそのままに、音楽性は徐々に変化してきている。バンドの根幹となるのはニューメタルではあるものの、初期の骨太なスタイルからより繊細なアレンジや印象的なメロディも増え、さらにはタイの伝統的な音楽を取り入れる割合が増えてきた。バンド自身も、「ロックやメタルを基本にしながらも新たな要素を導入してさらに濃密な曲を作っていきたい」と語っている。

それではここ数年内に発表されたシングルで気になった曲をいくつか紹介しよう。タイならではのバンドに成長しているのがおわかりになるだろう。

2014年に発表された「สติมนุษย์สยาม(Siamese; as in people consciousness)」。ここには、「たとえどんな状況においても争いごとはすべて無益である。政治であろうが家庭内暴力であろうが、結局は周りの人々を傷つけてしまう。だから、なにか事を起こす前に考えて止めることができれば、事態はより良く収まるかもしれない」というメッセージが込められている。さらにこの曲ではAPARTMENT KHUNPAのヴォーカリストであるTulがフィーチャーされているが、彼もまた、KLUAYTHAIと同様の思いを抱きながら活動を行っているので、この曲で歌ってもらうには適任だったという。

KLUAYTHAI「สติมนุษย์สยาม(Siamese; as in people consciousness)」 feat. ตุล อพาร์ตเมนต์คุณป้า

2014年8月発表。
さらに同年、「ภัยมืด(Dark Threats)」という曲のライヴ・ビデオを発表。ここではP9Dというラッパーをフィーチャーしている。これはなにも、近年のラップ/ヒップホップ・ブームに乗ったわけではない。バンドはもともとニューメタルというカテゴリーからの出発であるのでラップを取り入れるのはとても自然なことであり、さらに言うなれば、この曲自体、現在のブームが訪れる以前の2003年に書かれたものだ。10年も前のものなので多少アレンジはされているが、KLUAYTHAIの初期の雰囲気を伝える曲として最近の曲と比べるとその変化の度合いがわかるだろう。

KLUAYTHAI「ภัยมืด(Dark Threats)」 feat. P9D

警察、政治家、将官のような人々が誤った方法で権力を利用していて、それは国や人々にとって脅威となっていると言う。P9Dはそんな権力者の腐敗を痛烈に批判している。
2015年には、「誰もが内に秘めている闇の部分を打ち破らないといけない」というメッセージを込めた「อำนาจฝ่ายต่(The Devil Inside)」を発表。もはや典型的なニューメタルとは違うものになっていて、中間部ではまるでモーラム(タイ東北部の伝統音楽)のような雰囲気に変化する。ここで使用されている楽器はタイでラナートと呼ばれるシロフォンのような鍵盤打楽器だが、バンド側も、「もしも、ケーン(東北タイのパンパイプ)をその部分に使ったらまさにモーラムになっただろうね」と言っていた。

KLUAYTHAI「อำนาจฝ่ายต่(The Devil Inside)」 feat.คิง พิเชษฐ์

この曲にフィーチャーされているKing Pichetという歌手は音楽オーディション番組『The Voice Thailand』にて有名になった人物で、大学時代からの友人であるという。
2016年のタイといえば、プミポン・アドゥンヤデート国王(ラーマ9世)の崩御に尽きる。皇室との関係も深かく、ここ日本でも大きく報道されたので記憶にある方も多いはず。激動の時代を国の安定のために尽力し、タイ国民から敬愛されていた国王だ。当然タイ国民の感情は揺さぶられ深い喪失感を覚えたことだろう。喪に服し様々な形で哀悼の意を表していたが、ミュージシャンたちの中には国王を称える曲を発表する者たちもいた。

KLUAYTHAIもそんな中のひとバンド。ラーマ9世にちなんでそのものズバリ数字の9を表すタイ文字で「๙(9)」というタイトルを冠した。失意に暮れる状況であっても希望の声を聞いて導きの光を見て進むこと。あまりにも感動的なコーラスはミュージシャンやミュージシャンでない者も含め約50名から形成されている。

誰しもに大切なものを失うその時はやってくる。それでも残されたものがとるべき道はただひとつ。志を引き継ぎ希望を持って前へと進むことだ。タイ国民でなくとも、この曲は挫けそうになった心に手を差し伸べてくれる力を持っている。

KLUAYTHAI「๙(9)」

2016年11月発表。
その他、2018年にはタイの若者を虜にしたオンライン・ゲーム・アプリ『Garena RoV: Mobile MOBA』のヴァージョン2.0の曲「We Are Valor」を手がけるなどバンドの人気の高さを証明している。

ほんの数曲のみの紹介だが、この数年で彼らは大きな成長を遂げているのがおわかりになったと思う。バナナだけに一皮むけたと言うべきか、いや、それ以上にズルムケ状態(バナナ・ジョーク!)で新しい何かが見え始めている。実は、10年振りとなるスタジオ・アルバムが2019年末に発売予定となっていて、そこでは新たに確立したKLUAYTHAI印のオリジナル・サウンドを届けてくれるはずである。

さて、そんな彼らは現在のタイにおけるロック/メタル・シーンをどのように見ているのだろうか。

「確かに一般的にはラップ/ヒップホップが人気だね。それとメタルコアやポストハードコアなんかもかなり長い間シーンで奮闘している。俺たちは多くのバンドが色んな要素を取り入れて自分らしさと素晴らしいものを作り上げようとしている姿を見てきた。10年前よりもそういったクロスオーバーのスピードが速くて一体今、どんなジャンルが人気があるのかは把握できない。でもその一方で、このような状況はいつでも新たなジャンルの登場を可能にしているんじゃないかな。ロックやメタルが低迷しているとは思っていないし、進化して成長もしているから有望だよ」

なんとも頼もしい言葉だ。しかし、これは虚勢を張ってのことではない。KLUAYTHAI自体が新しいものを取り入れて進化してきたバンドであるのと同時に、ヴォーカリストのS(エス)はBanana Recordを2002年から運営しているのでシーンそのものを演者という視点とはまた違った角度からも見ている。そんな彼が「有望だ」という言うのだから、タイのメタル界にもまだまだ多くの可能性を秘めたバンドがいることが伺える。

また、これまでBanana Recordには、EX'S AND OH'S、FALLING IN BETWEEN、BREAK THE KIDS、UGOSLABIER、IN VEIN、FATHOMLESS、SUDDEN FACE DONW、ROSE FALLといったメタルコアからポストハードコア、デスコアまで所属。さらに、彼らのアルバムを発表するのみではなく、ファンや観客が一緒になって観たいフェスティバルを作っていくというBanana Mahachon Fest(Banana Public Company Fest)などの企画も行っており、タイのメタル・シーンにおいては重要な役割を担っていると言える。

この他にもヴォーカリストのSは、サイド・プロジェクトとしてESKIMO PROJECTを企画。ここでは作詞家としての技量を見せている。KLUAYTHAIとはまた違った音楽性で、ヘヴィな要素は排除し、ポップでバラード調の曲がメインだが、第2回Seed Awardのベスト・アーティストにノミネートされたり、Fat Award 2006ではベスト・パッケージ・デザインに選ばれるなど高い評価を得ている。

シーンをリードするバンドの一つであるKLUAYTHAI。何はともあれ、今年は約10年振りとなる新作の発表に期待が高まる。

BREAK THE KIDS

90年代後半に結成し、デス・メタルからメロディック・デス・メタル、そしてブルータル・デス・メタルへと音楽性を少しづつ変化させてきたDEATHGUY。一度活動を約10年に渡って停止するものの、近年になって復活。今後どのようなサウンドを聴かせてくれるのか楽しみである。

そんなバンドのベース兼ヴォーカルを担当するJoeは中心メンバーというのみならず、LERMAN、SHE'S GORE、BREATHLESSなどのプロジェクトも立ち上げているので必然と彼に注目は集まる。しかし、バンドの初期からずっと支えてきたギタリストのOngも功労者であり、そのセンスはなかなかのものだ。DEATHGUY停止中の2007年に彼は、より時代に則したジャンルであるメタルコア・バンドを立ち上げる。それがこのBREAK THE KIDSというわけだ。

AS I LAY DYING、TRIVIUM、BULLET FOR MY VALENTINE、そしてAVENGED SEVENFOLDなどに強く影響を受けたサウンドで、2010年に『Coup d'état』、2013年に『Night Life』という2枚のEPを発表。活動が表立って活発化するのはこの2013年前後からのようので、ミュージック・ビデオでシングルを発表していくほか、UNEARTH、AS BLOOD RUNS BACK、I KILLED THE PROM QUEEN、BLESSTHEFALL、MISS MAY Iといった海外有名バンドのバンコク公演の前座を務めている。

2019年前半での最新メンバーは、ヴォーカルにPalm、ギターにバンド創設者のOng、もうひとりのギターであるLouisとベースのTossの両者は共にビートダウン・ハードコアのKEEP UPに在籍していた人物、そしてドラムはジェントなリフを多用するでモダン・プログレッシヴ・メタルのTHE CREATION OF ADAMに在籍していたDewという布陣。

しかし残念なことにメンバー個々の多忙さが原因として今年は主だった活動はできていない。よって、今のところ一番新しいシングルは2018年8月に発表された「1,000 Miles」。「何があろうとも前進して戦い続けるんだ」というメッセージを込めた曲で、ラップ・パートを組み込んだのが新しい試みとなっている。ちょうどヒップホップが音楽シーンを席巻していたこともあり、これをバンドの楽曲に取り入れたらさらにクールになるのではないか、とメンバー全員の意見が一致。そこでヴォーカリストPalmの親友であるTravisという人物を起用したという。

BREAK THE KIDS「1,000 Miles」 featuring Travis

2018年8月に発表されたシングル。
バックコーラスにはDEATHGUYのJoeも参加。
やはりこのBREAK THE KIDSも結成から12年経つのにきちんとしたフル・アルバムは制作していない。その理由としては、じっくりと腰を据えてアルバムを制作する時間が割けないということ。そして、メタルコアではお金が稼げないからしばらくの間は無駄な出費を抑えて本当に気に入った曲だけを単発で発表していくことに決めたとのこと。

どうやら年内に発表予定の曲ではタイの政治に関する内容になるようだ。

UGOSLABIER

ここ日本では第三次クラフト・ビールのブームということで、以前にも増してビアフェスに訪れる若者を見かけるだけではなく、近頃はちょっとした住宅街にもマニアックなクラフト・ビールを飲ませるお店、さらにはマイクロブルワリーまであって酒飲みの秘密基地のようになっている。

これまでタイで飲むビールと言えば「シンハー」「チャン」「レオ」といった代表的な地元の銘柄と海外の大手のものが少々といった感じだったとは思うが、ここ数年バンコクでもクラフト・ビールを取り扱う店が増えきたのはとても素晴らしいこと。ここまでロック/メタルの種類が増えて細分化されてきたのだから、やはりビールもいろんな味を楽しみたいし、なによりこの手の音楽にビールは欠かせない。
それはさておき、当然タイのミュージシャンにも多くのビール好きがいる。ここで紹介するポストハードコア系のUGOSLABIERもその中のひとつ。

このバンドのリズム隊は、ライヴ後はもちろん、ライヴ中でもどちらか片方は酔っていることが多いという。果たしてそれはどこまで本当のことだろうと思いつつメンバーの話を聞いてみたら納得するエピソードが出てきた。

彼らは、ハードロックカフェが主催する世界規模のバンド・コンテスト、Hard Rock Rising 2014のバンコク予選で見事優勝した経験を持っているので、その時の様子を尋ねてみた。

「ひとつ認めざるを得ないのは、その時どうやって優勝したかなんてことは記憶ないほど酔っ払っていたってこと。覚えているのは素晴らしいバンドたちと素晴らしい時間を過ごしたことくらいだ」

このようにキッパリ言われてしまった。せっかくの優勝経験なので、もう少し詳しい話を聞きたいところではあるけれど、まぁ、酒飲みのミュージシャンとしては至極まっとうな生き方と回答だと思うので、これで良し!

そんなホンモノのバンドの始まりは、ヴォーカルのPaul、兄弟ギタリストのOae、Oatが在籍していたハードコア系のHOUSETRAPが解散したことがきっかけ。この3人で新たなバンドを開始するために知り合いを誘ったところ、ベーシストにメタルコア系のBREAK THE KIDSからKun、サザン・メタルコアのEMPTY GLASS MEANS NOTHINGからドラマーのSupermonが参加し、2011年頃にジャム・セッションを開始する。

そしてセッションを重ねていたある日のこと、練習終わりにメンバーのひとりが一番年下のKunに「You go sue beer」("sue"とはタイ語で"買う"の意)とビールを買ってくるよう優しく(?)指示。その瞬間、その言葉が今は消滅した連邦共和国のユーゴスラビアにそっくりで、さらには解散したバンドから集まった自分たちを連想させたという。しかもその言葉の響きは一般的なバンド名ではない何か別のもののような感じがしたので即座に気に入ってUGOSLABIERというバンド名に決めたということだ。

彼らの音楽は一応、ポストハードコア系に分類されて語られることが多いが、バンドとしては特に方向性を定めているわけでもないようだ。というのも、「各メンバーが異なった経歴を持って集まったから進むべき方向性もわからないまま始めて、今現在でもどうなるのかわからないままのさ」という大雑把な姿勢で活動しているからだ。とは言え、彼らは90年代のグランジから00年代初期のハードコアの雰囲気を大切にしており、EVERYTIME I DIE、LETLIVE、GLASSJAWといったバンドを崇拝しているというからおおよその雰囲気は掴めるだろう。今のところは……

バンドは2012年に『The Republic Of Ugoslabier』EPを発表。「Closer Than Ever」という曲はミュージック・ビデオも制作され、業界の先輩であるEBOLAのヴォーカリストAeyをフィーチャーしている。もちろん、このような有名人を起用する意図は新人バンドに少しでも注目を集めることだが、だからといって強引に依頼したものではない。EBOLAとは別のレーベルに属しているものの、AyeはギタリストOaeの大学の先輩であり、ヴォーカリストのPaulに関しては20年前から彼を知っていたのだとか。おかげで、彼らのレパートリーの中でも知名度の高い1曲となっている。

しかし、フルレングス・アルバムの発表までにはかなり時間を要しており、リスナーは2017年まで待たなければならなかった。もちろん、EPとは違った経験に戸惑っていたというのもあるだろうが、どうやらメンバーにとって辛い時期だったらしく、バンドの存続さえ危ぶまれる中でのアルバム制作となったという。そういった事も含め、かなり気持ち(心)が入った作品ということで、アルバムには『Brew Heart』というタイトルがつけられた。ここでもビールの醸造に使う言葉"Brew"を使用しているのはサスガである。けれども決してふざけているわけではない。アートワークには焚き火の写真/絵が用いられていて、くべられた薪はメンバーを、燃える炎は熱望を表現している。まさに熱いハートによってじっくりと醸された楽曲がこのアルバムには収められているというわけだ。

UGOSLABIER「Window A.」

2017年の『Brew Heart』より。
今作に収められている曲の中では、EX'S AND OH'SのMalとLASTHOPERのArtという2人のヴォーカリストをフィーチャーした「Minute Of Minutes」がミュージック・ビデオも制作されて再生回数も比較的多いのだが、我々日本人にとってそれ以上に興味を惹かれる曲がある。それが「Alrighty, Righty」という曲で、ここには日泰混合ハードコアパンク・バンドLowFatのメンバーが参加して歌う日本語詞のパートが挿入されている。これがまた最高にゴキゲンでキャッチー。他の国の人が聴いてどう思うかはわかりかねるが、日本人的にはこんなのライヴでやられたらビール片手に歌って踊りださずにはいられなくなるだろう。

なお、本アルバム制作期間が長かったこともあってその間にバンドの音楽性も少し変化している。バラエティに富んでいるとも言えるが、ひょっとしたら統一感に欠けると感じる方もいるかもしれない。しかし、より激しく速くコンパクトな楽曲へと移行する途中の様子が収められているのがドキュメンタリーの様相を呈しているようで、かえって興味深いではないか。

聞くところによれば、近々バンドは(アジアの某有名バンドと)スプリットEPを発表する予定があり、そこでは変化した新しいUGOSLABIERが聴けるとのこと。

UGOSLABIER「F」

2018年に発表されたシングル。

LowFat

「自分たちの音楽に他のミュージシャンを参加させるのは楽しいことだからね。で、そう考えたらLowFatのSanoしか思い浮かばなかった。俺たちはかなりの回数一緒に演奏してきたし、お互いの音楽も好き。だから共同作業をするのにちょうど良いタイミングじゃないかと思ったのさ」

これは先に紹介したUGOSLABIERの言葉だ。彼らの「Alrighty, Righty」という曲にLowFatのSanoという日本人ヴォーカリストが参加した理由を述べている。ここからUGOSLABIERと日泰混合ハードコアパンク・バンドLowFatの親密な関係が窺い知れるだろう。メタルとは少々ずれると思う方もいるかも知れないが、アンダーグラウンドでマニアックなエクストリーム・ミュージックとしては同じカテゴリーだ。良い機会なので現地でバンド活動を長年続けてきたSanoに伺った話に基づいてLowFatと彼らを取り巻くシーンについても紹介しておこう。

UGOSLABIERとLowFatの関係はUGOSLABIERの前身バンドだったCATFIGHT時代から続いているそうなので、もう10年ほどの付き合いがあることになる。ちなにみ、CATFIGHTにはヴォーカルのPaul、ギターのOae、ドラムのSupermonが在籍していた。

LowFatのステージ・パフォーマンスは全身全霊のエネルギーを爆発させる熱さが評判だが、そのSanoですら、彼らの演奏を見て「こいつらは、凄い!」と思い、LowFat企画のライヴを行う際には殆ど声をかけるのだとか。そして、SanoはPaulとモデルとしてファッション・ショーのランウェイを歩いたり、SupermonとはPoorFolksというバンドを一緒にやった経験もあるということで、ライバルであり仲間であり、共にタイのシーンを熱くしていきたいと思える関係ということだ。

まずは、Sanoが参加したUGOSLABIERの「Alrighty, Righty」に関して。これはPaulの方から、大雑把な曲の説明と共に「ここからここまでスペースあるから自由に使って!」と言われただけなので、自分なりに解釈して日本語詞とメロディーを作って歌ったのだとか。きっと信頼しきってのことだろうけれども、なかなか大胆な注文だ。それでも結果としては、まったく破綻せずにインパクトのある効果が生まれていることから、お互いに通じ合える仲ということがよくわかる。

それにしてもSanoのキャッチーなメロディーを作れる才能は気になるところ。実はLowFatの特徴のひとつとして日本の童謡からの影響というのがある。確かに、童謡ならではのシンプルかつ覚えやすいメロディーからヒントを得ることによって、タイのシーンにおいて独自性を出しやすくなるのは理解できる。その点については、「過激な方向に進んで、結局何をやっているのかわからなくなることを防ぐ。そのためには一度聞いただけで口ずさめる童謡のメロディーがいいと思い、リフの中に取り入れた」と語っている。
この部分はLowFatの強みになっている。しかし、彼らの楽曲を聴いているとどうもそれだけにとどまってはいないように思えたのでもう少し話を聞いてみると、子供の頃に流行っていたアニメの主題歌やゲーム音楽などからも着想を得ることもあったらしい。しかし最近では、童謡を基にしてリフ作りを行うことは少なくなっており、「今のLowFatでやるべきリフを試行錯誤しながら探っていて、バンドの延長線上にありながらも新しいものを追求している」らしい。しかもこの部分に関して、戸川純がインタビューで語った「予想を裏切って期待に応える」という言葉を引き合いに出しながら「まさにそんな感じ」でやっていると答えてくれたのが印象的だった。

さて、そんなLowFatは、FAILURE TRACEというグラインドコア・バンドに在籍していたSanoがブラスト・ビートに飽きて2006年に結成したのが始まり。他のバンドが行っていないLowFatならではの曲作りを常に念頭に置いていて活動しているというが、それがどういうことなのかここまで読んで頂けた方なら理解できるはずだ。ちなみに、LowFatというバンド名も、"シンプル・イズ・ベスト"で余計なものを削ぎ落としながらも"旨味"をそこに残すという意味があると言う。これも納得だろう。

さらに、「未来を変えるには次の時代を担っていく子供たちに訴えかけなければいけない」と考えるSanoは、過激な表現に走り、暴力一辺倒にするのではなく、キャッチーさやユーモアのセンスを取り入れながら子供たちが立ち止まって耳を傾けてくれるものを作ろうとしているのだとか。よって、彼が考えたり経験した事柄を歌詞にしていても、ユーモアを交えたり、抽象的な表現をしてリスナーが自分自身に置き換えて考える余地を残してそれぞれに意見を持ってもらえるようにしている。実際に彼らの曲を聞いてもらえれば、嫌らしいねちっこさや押し付けがましさが感じられないことに気づくだろう。

LowFatはこのような理念に基づき、多くのコンピレーションやスプリットに参加しながら、『Fresh Wasabi For Rotting Sushis』(2007年)、『憎まれっ子世にはばかる』(2011年)、『Too Big Target』(2013年)、『Hello, My Slaves!』(2014年)、『Dive! Survive!!』(2018年)と5枚のフルレングス・アルバムを発表。マレーシア、ベトナム、ラオス、日本、インドネシアなどでもツアーを行ってきた。

ここで少しだけメンバーについても紹介しておく。これまで何度もメンバー・チェンジを繰り返してきたLowFatは、結成当初、Sano以外はタイ人であった。しかし現在は、Sano(ヴォーカル)、Yusuke(ギター)、Takaya(ベース)、Van(ドラム)というメンツで、Vanのみがタイ人だ。

実は、ギタリストのYusukeはSanoも在籍したFAILURE TRACEでベースを務めていたこともあるが、日本にいた頃は千葉のメロディック・パンク、SNATCHERとして2000年に『Last Yell, First Cry』というアルバムを発表している。さらに、2013年に公開となった映画『クーカム(運命の人)』の日本語主題歌「Hideko」を歌って有名になった人物でもあるのだ。YouTubeなどで聴いてもらえればわかるが、パンクなイメージとはかけ離れたとても優しいバラードに驚くだろう……いや、一般的にはこんな優しいバラードを歌う人がハードコアパンクでバリバリやっていることに驚くのかも。それはともかく、この『クーカム(運命の人)』は、タイの女性作家トムヤンティが60年代に書いた小説で日本では『メナムの残照』という邦題で知られている。内容はバンコクを舞台に戦時下における日本人の軍人とタイ人女性との非愛を描いていて、これまで幾度となくドラマ化と映画化になっている超人気作品だ。
ベーシストのTakayaはPOCATIESというこれまた日泰混合のユーモア溢れるちょっとストーナー風味のバンドでも活動している。

タイ人ドラマーのVanはこれまでにFROM THE MAKERS OF CASABLANCAでドラム、GHOST STORYでヴォーカル、ベーシストとしてAIREというバンドを経験しており、現在はFAUSTUSにてベースを弾いているマルチプレイヤーだ。

では最後に、長年現地で活動してきたSanoがどのように現在のパンク、クラスト/グラインドコア・シーンを見ているのか聞いてみた。

「パンク・シーンとしては、BANGKOK ALCOHOLが解散(?)して以来、縮小してしまいましたね。カリスマ的なバンドがいなくなったので、求心力が失われた気がします。でも、THE DIE HARDSが精力的に動いていたり、CHAOS OF SOCIETYが復活したりして面白い波があるのも確かです。LICENSE TO KILLも頑張っていますね」

残念なことにタイにおけるパンクの立役者だったBANGKOK ALCOHOLのヴォーカリストTon(aka Nasty)が2019年2月13日に他界してしまったことが大きな衝撃となっている様子。ただ、次の世代であるTHE DIE HARDSやCHAOS OF SOCIETYが頑張っているので彼らの活躍に期待するといったところだろうか。

「先日、BANGKOK ALCOHOLのNastyへの追悼イベントがあり、久々にタイのパンクスが集まり、最初から最後まで盛り上がったということがありました。でも、その顔ぶれを見ると、演者と同世代の人たちばかりで、新しいファンが獲得できていないことが見て取れました。LowFatは6月末にインドネシアでツアーをしたんですが、STRAIGHT ANSWERやTURTLES.JRを見に中学生ぐらいの子達が集まっていました。こうならないとシーンは活性化しないし、継続もしませんよね。そこがタイのシーンの弱さかなと思います」
7月6日にTribute BANGKOK ALCOHOLというイベントが企画されて、THE DIE HARDSやCHAOS OF SOCIETYはもちろん、JIMMY REVOLT、LICENSE TO KILL、THE GREED(日泰混合パンク・バンド)、PUNiK(日本)をはじめとする多くのバンドが集まって盛り上がりを見せたようだが……インドネシアのシーンと比較すると、大概の国はやはり見劣りをしているように感じてしまうのは仕方ないのかも。話に出てきたSTRAIGHT ANSWER(ジャカルタのハードコア)とTURTLES.JR(バンドンのハードコアパンク)は共に90年代から活動するベテラン・バンド。このように世代が大きく違うバンドでも10代の若者が会場に集って暴れるのがインドネシア。ちょっとした奇跡を見るような感じだ。

「クラスト/グラインドコア・シーンは、SIX F GRINDER GROUPが精力的に企画をしています。チェンマイにも支部ができたので、海外から来るバンドにとっては、バンコクで1本、チェンマイで1本と、タイ国内で2本のイベントが組めるので以前よりも来やすくなったんじゃないかと思います。
注目株は、The RotSystemとFACE MELTINGですね。彼らのような若い世代が、いい楽曲、いいライブ・パフォーマンスを見せることで、タイのシーンがもう一回り大きくなってくれたらいいなと思います」

2009年に開始したSIX F GRINDER GROUPはその名の通り、ノイズグラインド、デスグラインド、クラスト、グラインドコア、ハードコアなどのバンドをタイ国内から掻き集めるのみならず、世界各国のバンドを呼び寄せて、THAILAND GRIND FEST、THAILAND FAST FEST、FIGHT FOR FUCK FESTなどのライヴを企画している。現在この手のジャンルでは一番頼りになる存在だろう。

しかし、彼の話で一番興味深かったのは、「タイ人の持つ"マイペンライ気質"が原因で、この国からは本物のハードコア/パンク・バンドが出てくることはあまりないかもしれない」という考察。

「マイペンライ」はタイ語に触れる際、最初の方に覚える言葉だろう。「問題ない」「大丈夫」「気にしない」という日本語訳が当てられることが多いが、この訳語を見ても分かる通り、あらゆる状況で使え、その意味するところは様々だとか。この部分を掘り下げると難しくなるので止めておく。ともかく、おおらかさや、衝突を好まず穏やか、というのがタイ人に対する一般的なイメージだろう。

「この"マイペンライ気質"があるお陰で、表立った大きな衝突が起きにくい環境にあると思います。ただ、最近は、前述のSIX F GRINDER GROUPが中心となって、軍事政権への反対イベントなどが組まれ、音楽を通して自分達の主張を表に出すようなことも始まっていて、一時的に拘束された者も出ました。イベント当日、警察からイベントを中止するように指示されたこともあります。いずれにしても、事情聴取ぐらいで済んでおり、大きな混乱もなく終わっているところがタイらしいと言えるんじゃないでしょうか。いわゆる反骨精神みたいなものはタイでは馴染まないかもしれませんが、それ故にタイ独自のハードコアやパンクが出て来る可能性はありますね」

なるほど。確かに「マイペンライ」であらゆるものを許し受け入れてしまっては、反体制、反権力、反骨心を持つ音楽は生まれにくい。けれども、だからこそタイでしか生まれないハードコアやパンクの登場もありえる、というこの見解は面白い。タイのバンドに対する新しい角度からの視点を教えて頂いた。

補足:NOBUNA

『タイのメタルにエールを 第4回』でご紹介したNOBUNAが7月17日に新しいミュージック・ビデオ「Into The Light」を発表した。
あの織田信長同様に大きな夢をどこまでも追求し続けるということで、NOBUNAという名で活動している日本人にとってはどうにも気になるポストハードコア系のバンドである。

彼らは2017年にファースト・アルバム『Divide The Skyline』を発表。そして約2年の歳月を経て、今年(2019年)はセカンド・アルバムを発売する予定になっている。彼らは以前からリスナーを"驚かせる"ような音に変貌しているとしきりに言っていたが、果たして……

NOBUNA「Into The Light」

2019年7月発表。
これには驚いた。壮大でパワフルではあるもののヘヴィなギターの刻みや派手なソロはない。ここ数年、世界中で多くのロック/メタル・バンドたちがエレクトロ、EDM要素を取り入れるようになっているが、彼らもまた同様の変化を遂げたのだろうか。

おそらく、そういう流れもあるだろう。メンバーの話では、ずっと前からEDMを使った曲を作りたいと思っていて、Virgil(ドラマー)は、Perfumeを聴いた後でこの曲を作ったということだ。だから明るい曲調で即座に人の支えになってくれるような雰囲気を感じ取れるはずだと。

彼らにとっては完全に新しい世界観を持った曲への挑戦だ。そしてこの曲には大切なメッセージも込められている。

「人生に与えられたチャンスは一度きり。どんな損失、犠牲をも厭わずに若い人々には夢を追求する勇気を持ってもらいたい」

もちろんこの言葉はビデオで表現されている物語にも密接に結びついている。夢に向かって努力するひとりの女子学生。周りの人々はそんな彼女の夢を無謀だと決めつけ蔑みイジメている。そんな境遇の中、彼女は幾度となく失敗したり心が折れることはあっても決して自分の思い描いた夢を諦めようとはしない、という内容だ。

これはリスナーへ向けてのメッセージであると同時にバンド自身の信条でもある。彼らは自分たちの音楽が世界へ浸透するまで曲を作り演奏を続けていくと言う。そう、だからこそのポジティヴで支えになってくれるような大きく力強いメロディがこの曲の主軸になっているのだろう。

けれども、これから発売になるアルバムが全てこの様なEDM主体の曲調になるのかと言ったらそうではない。キャッチーさは増しつつヘヴィな曲もいっぱいあるのだとか。ただし、以前とはかなり異なったヴァイブがアルバムを包み込んでいるという。2018年8月に発表された「Show Me The Way」や2019年3月に発表された「Rocketship」のミュージック・ビデオを見ればその一端を理解できるかもしれないが、「リスナーたちを驚かせるのが待ち遠しい!」という発言を繰り返すところみるとまだまだ驚きの仕掛けがあるはずだ。

それにしてもこの1年でNOBUNAは垢抜けた。サウンド面のみならず髪型や服装を含めての総合イメージとして彼らは自らを上手くプロデュースしているように思う。この部分に関しても他のバンドたちとの差別化を図っていて、メンバーの話によれば、「黒い服で全身を覆うだとか、いわゆるロック・ミュージシャンとしてのありきたりの格好に固執する必要はなく、今という時代とバンドのアイデンティティを上手く組み合わせながら、もっと明るく華やかでスタイリッシュな方向性に挑戦している」ということだった。

バンドがこのような変化をし続けているのは、新しい事柄を探索しようとする姿勢と、それに伴って開拓したサウンドを喜んで受け入れてくれる新たなファンを獲得したいという思いによるものだ。

ここで、冒頭にて紹介したKLUAYTHAIの言葉を思い出して欲しい。おそらく、ファンやミュージシャンの規模としてのロック/メタル・シーンは一時期よりも縮小しているだろう。しかし、ミュージシャンたちは積極的に様々な要素を取り入れて、より素晴らしいもの、そして自分らしさを作り上げようと日々奮闘している。よって音楽スタイルとしては混沌としているものの、進化や成長しながら新たな音楽が生まれる可能性がある、とKLUAYTHAIが言っていた意味がここでも感じられるのではないだろうか。


『タイのメタルにエールを 第7回』へとつづく。