タイのメタルにエールを 第5回

アジアのメタルシーン
近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。
今回はメタルコア、ポストハードコア周辺のバンドのパート2。

メタルコア、ポストハードコア、ニューメタル、モダンロック系パート2

BOMB AT TRACK

「時代は巡る」という言葉もあるように、音楽にも一周りして戻ってくる流れを時々見かける。
例えば、90年代後半から00年代前半に一世を風靡したニュー・メタルのスタイルを継承するバンドがここ数年増えてきてリヴァイヴァル感を醸し出すのみならず、ポストハードコア系などの新しい音にも取り込まれているのはご承知の通り。

そして現在ヒップホップ全盛のタイにおいても、あの頃を彷彿とさせるサウンドをBOMB AT TRACKという若者が創り出してなかなかの注目を集めている。

ファンの反応を見ると、「AGAINST THE MACHINE、LIMP BIZKIT、DEFTONES、KORNのようだ」という意見もあり、バンド側も「確かにRAGE AGAINST THE MACHINEにはかなり影響されているし、メンバー5人それぞれの好みの要素を組み合わせているから、部分的にはリスナーから名前の挙がっているバンドを彷彿とさせるのはわかる。ただ、俺たちはそういったバンドと自分たちを比較しながら活動しているわけではないけどね」とのこと。

さらに、音楽的にはニュー・メタルというくくりでも間違いではないが、自分たちの楽曲にはすべてラップ・パートが組み込まれているので、もっと明確に"ラップ・ロック/ラップ・メタル"とカテゴライズしていると語っている。

そんな彼らが結成されたのは2016年。Mek(ギター)、Khon(ベース)、Nin(ドラム)の3人はマヒドン音楽大学の新入生だった頃から一緒にバンドをやっていたという。ところがある日のイベントにMekが出演できず、Ninがチェンマイの高校に通っていた頃からの友人で、当時シラパコーン大学の音楽学部に通っていたPui(ギター)を誘ったことからバックのメンバー揃う。そして、現在フロントマンとして活躍するTaeだが、大学時代にはドラムを専攻しており、友人であったNinの練習場にいつも訪れていた。そんなドラムの練習中にNinがTaeに歌ってみることを勧めたことがきっかけで、Taeはバンドのヴォーカリストになるのだ。

このように音楽を学んできた彼らだから、大学を卒業した現在もROCKADEMYという音楽学校にて楽器を教えている。Puiはギター、Khonはベース、Ninはドラム。ここまではバンドでの担当楽器と一緒だが、Tae、Mekはドラムを教えているという。

ちなみに、このROCKADEMYは、90年代中期から00年代初期までBARBIES(GREEN DAYの前座の経験もある)というバンドのギタリストだったPatとベーシストだったSigが2012年に創設した学校だ。
話を戻そう。2016年に結成したバンドは即座に2本のミュージック・ビデオを発表するという勢いの良いスタートを切るが、2017年の躍進ぶりは凄まじい。デビューEPの『Bomb At Track』を発表、Warner Music傘下のWayfer Recordsに所属、台湾ツアー、韓国のBusan International Rock Festival出演、香港ツアー、タイ国内では数十バンドが集結するCat Expoに出演、ミュージック・ビデオ発表など、到底新人とは思えないスケジュールだ。おそらく、Wayfer Recordsというメジャーな会社と契約したことも大きいと思う。

ただ、Wayfer Recordsというと、ヒップホップ/R&BのWONDERFRAMEやD GERRARD、ポップなSLAPKISS、エレクトロR&BのLUSS、シンセポップのTELEx TELEXs(なんとSUMMER SONIC 2019に出演予定!)などのバンドで有名であり、ラップ混じりとは言え、BOMB AT TRACKのようなヘヴィなバンドが所属するというのは場違いのような気もした。しかし、その後すぐにあのANNALYNN(『タイのメタルにエールを 第4回』を参照のこと)までも所属してしまったのである。

これまでこのレーベルが持っていた特色とはズレはじめているような気もしたのだが、「実は才能のあるバンドをジャンルに拘らずサポートするという目的があるのです。将来的にはさらなる驚きがあるでしょう」というコメントをWayfer Records側からいただいている。この先どのようなバンドが所属するのかはわからなくとも、売れる可能性を大いに広げてくれる会社であることは間違いないので今後もヘヴィなバンドが所属してくれることを期待したい。

そして、そんなWayfer Recordsから2018年11月にファースト・フル・アルバム『White』を発表。
アルバムのアートワークは赤外線写真のようなモノクロで、まるでRAGE AGAINST THE MACHINEへのオマージュのようにも受け取れるが、中央に写っているのはコウモリ。彼らは闇夜で超音波を駆使して獲物を捕食するコウモリという存在そのものがお気に入りなうえ、バンド名の頭文字だけを取り出して略称にした時にBAT(コウモリ)となるというのがこのようなアートワークになった理由。

そして、アルバム・タイトルの『White』。これは、"世界で起きるすべての事柄は何もない場所で誕生してなすがままになる"という着想から生まれたという。その意味するところは、我々が社会で生活していくうえで芽生える愛憎などのあらゆる感情で染められていく以前の状態のこと。それは空虚であり、色に例えるなら"純白"ということだ。

このように考え方も純粋で音楽性も第一世代のラップ・メタルをピュアに継承するようなスタイルのアルバムは市場で高く評価された。残念ながら受賞は逃したものの、知名度や人気を上げた新人のひとつとして、The Guitar Mag Awards 2019のNew Wave Of The Yearにノミネートされている。というのも、メンバーとほぼ同世代の人気ラッパーRapazeやベテラン・バンドのSILLY FOOLSの三代目ヴォーカリストとして近年加入したRimをフィーチャリングした曲もあって注目も集めやすかったというのもあるだろう。

けれども、このバンドはそういう表面的な部分のみだけではない。歌詞では政治や社会問題を取り扱っており、その様子を見ているとタイの抱える社会問題を自分たちの歌を通して改善していこうという気概すら感じる。それに対して彼らは、「表現することは人としての当然の権利だ。でも俺たちはアーティストとしてこういうバンドをやっているから、アグレッシヴなサウンドにのせて叫んだりラップで伝えることで、よりインパクトも強くなって耳を傾けさせることができるんだ」と言っていた。そんなバンドのメッセージがきちんと伝わっているからこその人気、そしてノミネートへとつながったのだろう。

そんな彼らの曲の中に今の全世界に共通する問題をテーマにした歌がひとつあり、誰もが理解できる状況にあるので紹介しておく。

BOMB AT TRACK「ฆาตกรคีย์บอร์ด(Trolls)」

2016年発表のセカンド・シングル。
「今は誰もがSNSに投稿するだけで人を非難できてしまう。けれども実際にはネットで噂になっているような間違いは犯していないこともあるだろう。他人の人生を簡単に崩壊させてしてしまう危険性があることを心に留めておくことだ」 
そう彼らは注意を喚起している。
かなりバンドのお堅い部分を押し出してしまったが、実は、政治や社会問題のみで聴き手とのコミュニケーションを図ろうとはしていないという話も聞いた。なんでもごく初期の曲作りではラブ・ソングも作っていたものの、ちょっとしたきっかけで社会問題をメインに扱う流れになったとのこと。ひょっとしたら今後はもっと違ったテーマの曲も登場する可能性もあるかもしれない。

BOMB AT TRACKはその音楽性から、現在ヒップホップ全盛のタイの音楽シーンにおいても上手い具合に受け入れられているように見える。しかし、この流行もいつまで続くのかはわからない。その時彼らはどうするだろうか。

「今の時代、ロックはメインストリームではない。音楽は言わば流行りのファッションのようでその時代ごとにそれぞれのスタイルがある。けれども一つだけ変わらないのは音楽は俺たちの生活の一部ってことさ。俺たちはこのやり方を信じているし、タイ、台湾、韓国、香港、日本にだって俺達のファンがいてくれるんだからね」

彼らにとって流行なんてなんの関係もなかった。ただひたすらに己の道を歩むのみなのである。

BOMB AT TRACK「คำตอบ Feat. Repaze」

2018年のアルバム『White』より。
ラップのTV番組で有名になったRepazeをフィーチャーした曲。
まるでアイドルのようなポップでキュートな装飾に目がクラクラするが、持てる者と持たざる者、現実社会の不完全さと不条理を指摘するシリアスな曲。

G6PD

タイ北部の都市チェンマイを代表するメタルコアと問えば、ほぼ間違いなく「G6PD」と答えが返ってくるだろう。

彼らのスタートは2002年。同じ学校に通い、良質のアルバムを買ってきては一緒に楽しんでいた仲間だった。SEPULTURA、MACHIENE HEAD、PISSING RAZORSのようなバンドを好んで聴いているうちに、「自分たちも作品を作って、クレイジーに演奏しながら好きな音楽を広めてみたい」という衝動が次第に沸き起ってきたことでバンド結成に至った。

メタル・ファンの中には、彼らこそチェンマイにおけるメタルコアの代表格にして先駆者でもあるという認識を持っている人たちも多い。しかし実際は、ほぼ同時期にいくつかのバンドが出現してシーンを形成していることから、いったいどのバンドがメタルコアの先駆けだったのかは明確な判断はつかないだろう。バンド自身も「ファンは俺たちが先駆者だと思っているけど、メタルコアというジャンルが始まって成長してきた段階とG6PDが出現した時期が上手くハマっただけ」と冷静な分析をしている。

ただし、チェンマイにおけるメタルコアの第一世代で、アルバムを発表しながら現在まで生き残れているバンドは極めて少ない。さらに、G6PDは初期の段階でDay One Recordsと契約できたことも大きい。このレーベルはタイ北部が誇るDONPHEEBINのドラマーを務めたSomsakが立ち上げたことで知名度は十分。00年代後半は、チェンマイのシーンのサポートしながらタイのメタル・シーンの中核に食い込んだレーベルのひとつであった。そんなことからG6PDはチェンマイを代表するメタルコアとなっていったのだ。

事実、Day One Recordsから『Past Of Pieces』(2006年)、『Grand Murder』(2007年)とアルバムを発表し、好評を博した彼らは2010年に米国のメタリックなハードコアFIRST BLOODやHEAVEN SHALL BURN、2011年にはTRUTH CORRODEDのバンコク公演の前座を務めている。しかしながら、時々YouTubeにシングルを発表するも活動のテンポはゆっくりとなっていき、3枚目のフル・アルバム『Do Not Believe In Fairytales』が発表されるのは前作から10年の歳月が経過した2017年となってしまった。

チェンマイの現状を2019年の春にギタリストのNatに聞いたところ、「今は昔のように多くのアルバムが作られるようなこともなくてかなり静かだね。最近チェンマイでポピュラーなジャンルと言えば、ここ2年くらいはパンクとハードコアかな。若い世代から注目されているし音源も作って売ってるからね」ということで、所属レーベルもなくバンド自身で制作から販売までを取り仕切った2017年のアルバムは、メタルコアというジャンルで活動するG6PDにとってみれば苦戦を強いられている状況下での発表だったといえるだろう。

しかし、時代におもねることなく己のスタイルを貫いて再スタートした彼らは何か吹っ切れたものがあったのかもしれない。バンドは長いブランクを開けることなく現在、2019年後半の発売を目標に新しいアルバムの制作を行っている。しかもそれはよりメロディックでなおかつデスメタルに影響されたようなブルータルさも増していて、ミックスとマスタリングを担当するのはCANNIBAL CORPSE、HATE ETERNAL、MASTODONなどを手掛けてきたWest West Side MusicのエンジニアAlan Douchesだという。

さらにNatは、若い頃から親しんでいたという日本の著名な漫画『ベルセルク』を題材にしたコンセプト・アルバムになると教えてくれた。これは彼らにとって大きなステップアップになることは容易に想像できるし、我々日本人としてはとりあえずチェックしなければならない作品と言えるだろう。

「G6PD結成当時はシーンのみんなが曲を作ってそれを流通させてショウを行おうとしていたから、めちゃくちゃ楽しかった。だからいろんなショウを観たいと思っていたし一緒に騒いだ。パンクやブラック・メタルも一緒にやっていたんだよ。境界線や制約もなくて、親交と楽しみたいというただそれだけの純粋なエネルギーで俺は毎回笑顔になれた。またそんな日が近い将来訪れたらいいんだけどね」

このように古き良き日を懐かしむ言葉もNatの口から漏れたが、そんなシーンを再び甦らせるのは逆境に負けず長年バンドを維持し、チェンマイを代表するメタルコアとなった君たちG6PDなのではないか。

G6PD「น้ำตาไม่มีประโยชน์อะไร」

2017年の『Do Not Believe In Fairytales』より。

LOOK YOUR FATHER

ここでひとつ関連バンドも紹介しておこう。
G6PDが3枚目のアルバムを出す直前の2016年、ヴォーカリストのTleは少し風変わりなアイデアを形にしたくなった。けれどもそれらの楽曲はG6PDの作風とは合わないことから、LOOK YOUR FATHERなるプロジェクトを開始する。

2017年に発表したデビュー・アルバム『Oath Of The Ocean』では、メタルコア、デスコアを中心軸として、ラテン、フュージョン、レゲエなども混ぜ込んだ実験的なスタイルを披露。シーンを盛り上げるにはこういう変わり種も必要だろう。今後も活動が継続できれば、面白い存在になりそうなポテンシャルは秘めているように思う。

LOOK YOUR FATHER「มนต์เสน่ห์น้ำสีทอง」

2017年の『Oath Of The Ocean』からスカを取り入れたバカバカしくも魅力的な曲。
みんな大好き!魅惑の黄金(ビール)でメロメロのフニャフニャに。

IN VICE VERSA

バンコクは世界の名だたる都市の中でも外国人の訪問者数が非常に多いことで知られている。だとすれば、世界の国々との接点も多く存在するわけで、国籍多様な構成のバンドがいてもなんら不思議はない。そんなバンドのひとつがこのIN VICE VERSAというメタルコア/ポストハードコア・バンドだ。

結成は2011年ごろのはずであるが、この部分にバンドのこだわりはない。最初の音源は、2013年初頭に発表された「Veteran」というミュージック・ビデオ。しかし、その後ヴォーカリストが脱退することになり、新しいヴォーカリスト探しを開始する。バンド側から接触を試みて最終的にIN VICE VERSAのフロントマンの座に就いたのは、Michael Lawlerなる人物。彼はアメリカはニューヨーク在住で、実は、オーストラリアのメタルコア・バンド、NORTHLANEのヴォーカル・オーディションの最終選考に残ったほどの実力の持ち主だ。このMichaelが加入した頃から真剣に音楽活動に取り組むようになったということで、バンド側としては、ここが本当の意味での出発地点だと言っている。

実力のあるヴォーカリストを手に入れたバンドは早速EPの制作に着手し、2015年7月にそのEPからの先行シングルとして「Parasite」という曲を発表。結果としてこのミュージック・ビデオは話題となり、かなりの再生回数を叩き出している。

このいきなりの好反応についてバンドはその要因を詳細に分析してくれた。まずは、MichaelがIN VICE VERSA加入以前からOF MICE & MEN、THE DEVIL WEARS PRADA、PARKWAY DRIVE、BRING ME THE HORIZENといったバンドのヴォーカル・カヴァーをYouTubeにアップしていたこと。さらに女性ドラマーにしてオリジナル・メンバーであるMukiもバンド初期からBRING ME THE HORIZON、MEMPHIS MAY FIRE、THE DEVIL WEARS PRADAなどのドラム・カヴァーをYouTubeで披露して多くのファンを獲得していたこと。そして、Michaelはタイのロック/メタル・バンドに参加した最初のアメリカ人ヴォーカリストということ。他にも、メタル系ユーチューバーとして圧倒的人気を誇るJared Dinesが2015年に開催したBattle Of The Bandsに参加して3位を獲得したことも宣伝効果が大きかった、としている。

これで勢いづいたバンドは数ヶ月ごとにミュージック・ビデオを発表し続け、2016年2月に待望のEP『Empathy』を発表。さらにその数カ月後、驚くべきことにタイトル・トラック「Empathy」のミュージック・ビデオに吉澤友貴を起用してきた。血気盛んな若さ溢れる日本男児には説明不要だろうが、恵比寿マスカッツのメンバーでセクシー女優としても活躍しているあの吉澤友貴ということで、当然ここ日本でもひっそりと話題になっていた。ファンの方々には周知の通り、彼女にはタイの血も流れているのだが、実はドラマーのMukiとは縁あって近しい関係にあり、以前から親交があったことから自然な流れでビデオ出演と相成ったのだ。

IN VICE VERSA「Empathy」

2016年発表のEP『Empathy』からのタイトル・トラック。
切ない表情で涙をこぼす吉澤友貴嬢にグッとくる……
その後の活動もなかなか順調のようで、香港、シンガポール、台湾公演を行ったり、地元バンコクでもNORTHLANE、I SEE STARS、CROWN THE EMPIREの前座を務めている。

そんな中、バンドは新たな要素の導入と精力的な曲作りが可能になるようにと、ギタリストを2人にすることを決め、2017年に加入した人物がマレーシアでI, REVIVAL、そしてYOUNG THOUSANDSに在籍していたJustin Ang。これは、彼が新しい活動場所を探していることを知ったIN VICE VERSAからのアプローチだが、すでにMichaelはYouTubeでJustinのプレイを見て知っていたという。

ちなみに、YOUNG THOUSANDSの前身バンドでもあるI, REVIVALのアルバムは2012年にZestone Recordsより日本盤が発売されている。しかも、AUGUST BURNS RED、PARKWAY DRIVE、MEMPHIS MAY FIRE、BLESSTHEFALL、Crossfaith、PERIPHERY、ERRA、ARCHITECTSなどから影響を受けたバンドだったことからIN VICE VERSAには妥当な人選といえるだろう。

これによりIN VICE VERSAは、Chuth(ギター)、Ar(ベース)、Muki(ドラム)がバンドの拠点となるバンコク、Michael(ヴォーカル)はアメリカのニューヨーク、Justin(ギターは)マレーシアのクアラ・ルンプール在住という国際色豊かなメンバー構成となった。

となると、歌詞に関してもひとつの国に焦点を当てたものでないはず。これまでに、このタイ・シリーズで紹介してきたバンドを振り返ると比較的タイ国内の社会、政治状況を取り上げることが多かったように思うが、彼らは違う。政治に関する歌詞は書かないようにしているらしい。というのも、「政治は人々を分裂させてしまうし、俺達はただ音楽を楽しんで欲しいだけだから」というのが理由だ。さらに、「注意深く読んでもらえれば、誰もが自分の生活に関連付けることができるはず。歌詞の一文だけを拾ってみても、その解釈は読み手によって異なってくるだろうね」と付け加えた。多国籍なバンドならではと言ったところだろう。

もちろん、楽曲の制作に関しては今の時代、インターネットを通じてファイルのやり取りをすれば、国境を隔てた場所にメンバーが散らばっていてもさほど大きな問題にはならないだろう。彼らにしたって、曲作りはChuthが先陣を切って基本形を作り、そこにMichaelがヴォーカル・メロディと歌詞を加えていくというスタイルで音楽ファイルを幾度もやりとして完成させてきた。Justinが加入してからは彼も曲作りに参加し、2019年2月に公開された新曲「Devour」はJustinが手がけたもの。また、2018年7月に発表された「Wildfire」はChuthとJustinの共作であるという。

しかし、スタジオ・プロジェクトならいざ知らず、実際にライヴを行っているバンドとなると、かなり活動が困難なのではないかと考えてしまう。ところが、MichaelとJustinは可能な限りバンコクに訪れる努力をしているのだとか。例えば2週間、ときには2ヶ月間程滞在して、その間にリハーサルなどをこなしながら絆を深めているという。どういうわけか有給すら消化できない日本の勤め人にとっては驚くことかもしれないが、MichaelとJustinがどれほどこのIN VICE VERSAというバンドを大切にしているかが窺い知れる話である。

もちろん、そんな彼らはタイ国内に活動が縛られることはなく、先にお伝えしたように海外公演を行ってもいる。ただ、バンドの拠点はタイであることから、シーンの状況を尋ねてみたところ、「ここのメタル・シーンはちょっと変わっていて、クレイジーで良い状態の時もあるけど、ときにはまるで何もなくなってしまったかのような状態に陥ることもある。ただ、こういう現象ってジャンルに関係なく音楽ではありがちなことだよ。バンドにとって重要な事は常に改善しながら新しい音に挑戦し続けることなんだ」と語っていた。
確かに、IN VICE VERSAは常に新しい要素を加えるために最良のメンバーを加えてここまで歩んできている。そしてそのメンバーたちは皆それぞれに異なった音楽とバンドが好きであり、そんな人達が集まってバンドとして自分たちの好みの曲を形作っていくのが最高に面白いと感じているのだとか。だからこそ、IN VICE VERSAの音楽は型にはまらない変化に富んだものになっているという。この部分は実際に聴いてもらえれば理解できるはずだ。なお、参考までにMichaelはオーケストラのサウンドトラックに入れ込んでいて、ARCHITECTSやPARKWAY DRIVEなども好きだという。きっとこのバンドは今後も新しい音に挑戦して色彩豊かな表情を見せてくれるだろう。

しかし暫くの間は、アルバムよりはシングルを発表していくというのがバンドの意向のようだ。その方が注目を集めやすく、作り手側としても1曲に集中できるというメリットのほか、アルバムよりもシングルを単発で発表すれば長い時間待たせることなくファンの期待に応えることができるという考えに基づいているとのこと。

IN VICE VERSAは今後も枠にとらわれない国際感覚で聴手を驚かせるような仕掛けをしてくるはずだ。

IN VICE VERSA「Devour」

2019年2月発表のシングル。


『タイのメタルにエールを 第6回』へとつづく。