アジア金属マル秘発掘報告 〜台湾|BLOODY TYRANT(暴君)〜

アジアのメタルシーン
埋もれた秘宝を発見せよ!世界各地にはまだまだ知られざるバンドがうごめいている。ここではアジア圏に的を絞って探りをいれて掘り起こし、簡単な調査報告をしていく。その価値は未知数。
今回は、台湾のフォークメタルBLOODY TYRANT(暴君)。
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金属名:BLOODY TYRANT(暴君)
産出地:南投県


昨年末に開催された<萬華大鬧熱(Roar Now Bangkah)>にて、CHTHONIC(閃靈)フレディ・リム(ヴォーカル)とジェシー(ギター)がFLESH JUICER(血肉果汁機)のステージに登場。彼らが共演した「關閉太陽(Turn The Sun Off)」がシングルとして今年1月から配信となっていることはニュース欄にてHowling Bullの小杉氏がお伝えしているとおり。

この企画は台湾メタルに興味を持っているファンを歓喜させたはずだが、ここ1年ほど振り返ってみるとフォーク要素を加味した台湾のメタル・バンドたちが良作を連発していることに気がつく。

2020年は、ORCHID SWORD(蘭花刀)のシングル「你的夢 Your Dream ft. MANDARK」「是故空中無色 Emptiness Without Form ft. 奏手候 お優美 OYUMI」

CRESCENT LAMENT(恆月三途)の3rdアルバム『噤夢 Land Of Lost Voices』

BLOODY TYRANT(暴君)の5thアルバム『島嶼神話 (Myths Of The Islands)』

2021年にはFLESH JUICERがかなり音楽性を広げた3rdアルバム『GOLDEN 太子 BRO』をリリースした。

いずれのバンドも素晴らしい魅力と実力を持ち合わせている。その中でも今回はBLOODY TYRANTを取り上げることにする。

というのも今年1月にリズム・ギターを担当していたジョン・チャン(Jon Chan)が脱退。その後、2月20日のライヴをもってヴォーカリストのケネス・ヤオ(Kenneth Yao/饒亞哲)、ギタリストのアンディ・リン(Andy Lin/林祈安/林老屍/Lin Chi An)、ドラマーのクリス・イエ(Chris Yeh/葉濬誠)も相次いでバンドを離れてしまうという衝撃のニュースが発表されたからだ。

結成時からの不動のメンバーというわけではないものの、これでベーシストのウィリー・クリーグ・タイ(Willy  Krieg Tai/戴敬緯)が1人残されたというのは厳しい状況だろう。

しかも彼らの新作『島嶼神話 (Myths Of The Islands)』は、2020年6月にデジタル、12月にフィジカル(CDとLP)でリリースされたばかりなので、この脱退はかなりの痛手のはず。

このような状況なので深い話は難しかったが、バンドのリーダーで主に楽曲制作も手掛けてきたベーシスト、ウィリーの話を伺いながらこれまでの作品を簡単に振り返ってみよう。

BLOODY TYRANTは希少動物

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BLOODY TYRANT(暴君)のベーシストWilly。
まずBLOODY TYRANTの特徴として挙げられるのは南投県出身のバンドであること。しかし、台湾通でもないかぎり南投県がどのような場所なのかイメージしにくいはず。


ウィリー:海に面していない唯一の県が南投なんだ。この地域にはあまり人が住んでいないので、観光地以外はほとんど混雑を感じることはないよ。それに南投にはバンドもあまりいないから、BLOODY TYRANTは希少動物のようなものだね。


南投県は台湾のちょうど中央に位置しており、“内地”とも呼ばれる。22の行政区別人口順位を見てもここ数年は10位以下。常に上位を占めているのはやはり新北市、台中市、高雄市、台北市、桃園市、台南市といった直轄市である。2019年の統計を参考にするならば、南投県の人口は最も多い新北市の1/8程度となっている。なお、南投県は新北市の約2倍の面積を有する。

このように人口はけっして多くない地域なのだが、茶葉の産地として有名であり、日月潭という神秘的で大きな湖があるのは大きな魅力だ。さらにその近くには九族文化村という台湾原住民たちの文化が学べる博物館も存在する。このような場所がウィリーの言った観光地だろう。

ここからわかるのは自然が豊富で落ち着いた場所だということ。となると、彼が言うようにロックやメタルといったバンドはほとんど出てこないだろうし、活動もままならないはず。最近ならばプログレッシヴ・デスメタルのPSYCHOPRESSがこの南投県出身だったが、現在は台中市を拠点としている。では、ほかにはどのようなバンドがいるのだろうか。

ウィリー:以前はDEMISE(薨)というデスメタル・バンドがいた。最近までBLOODY TYRANTのギタリストだったアンディが在籍していたバンドで10年ぐらい前まで活動していたんだ。かなり有名だったよ。

運良く2009年8月のライヴ映像がまだ残っていたので参考までに紹介しておく。

DEMISE(薨)「自殺」ライヴ

メタルシーン皆無の中からブラックメタルの産声

すでにDEMISEの存在が知られていた南投県から頭角を現し、後に、南投=BLOODY TYRANTというイメージを植え付けた彼ら。結成は2009年頃のようだが、あまりメタルとは馴染みのなさそうなこの地域で彼らはどのようにして出会ったのだろうか。


ウィリー:バンドの発起人は学校のクラブや地元の楽器店でそれぞれのメンバーと知り合ったんだよ。そしてインターネットで音楽を探し、見つけたものをお互いに共有するというのが俺たちの日常だった。当時はステージで演奏しているバンドも見たことがなくて、南投にはメタルシーンなんてものはなかった。


たしかに当時の南投でメタルのライヴを行うのは難しかったのかもしれない。前述のDEMISEも2008年11月12日にライヴを行っているが、それは台北でのこと。

ところで彼ら、初期の音楽性はファストでアグレッシヴなブラックメタルだった。なぜこのようなエクストリームメタルを演奏することにしたのか。


ウィリー:俺たちはかなり練習を積んだし、メタルが自分たちの目的に合っていると思ったことと、そしてそのメタルのアグレッシヴさが好きだったから。

暴君の由来はIMMORTALにあり

そして彼らは自分たちのバンドにBLOODY TYRANT、漢字表記で暴君と名付ける。エクストリームミュージックにはピッタリなバンド名だとは思う。しかし、暴君=Tyrantであり、Bloodyはどこから来たのか、なぜ漢字表記にその意が含まれていないのかが気になる。


ウィリー:バンド名の由来はとても面白いんだよ。当時、俺たちはブラックメタルが大好きで、その中でもみんなのお気に入りがIMMORTALだった。だから、フロントマンがIMMORTALの有名曲「Tyrants」からTYRANTをバンド名にするのがいいんじゃないかと提案した。でもTYRANTというバンド名はたくさんいるだろうから、“Bloody”を付け加えてみただけというのが真相だよ!


なるほど。それなら漢字表記でBLOODYに当たる部分はなく、暴君とシンプルに表記されるのも納得だ。

この世の終わりをもたらすのは。『末日黎明 (Dawn Of Doomsday)』(2011)

BLOODY TYRANT(暴君)『末日黎明 (Daw...

BLOODY TYRANT(暴君)『末日黎明 (Dawn Of Doomsday)』

収録曲
01.烏溪
02.暴君
03.末日黎明
04.血霧林
05.喪鐘
06.戰
07.死城
結成後、彼らはほかのバンドと共同でショウを開催する以外にもフェスティヴァルへ参加申し込みをしながら積極的に活動を続け、2011年4月に1stアルバム『末日黎明 (Dawn Of Doomsday)』 をリリースする。

この頃はどのような音楽性だったのか今一度説明してもらおう。


ウィリー:バンドを始めた頃はただ普通にブラックメタルをやっていただけだから、速くて邪悪、そして攻撃的なものになるようにベストを尽くしていた。このアルバムの制作に大きな影響を与えてくれたのはBEHEMOTHBELPHEGORDARK FUNERALMARDUKをはじめとしたこの種のジャンルのバンドたち。


一般的に言って、まさかこれほどに強烈なバンドが南投から出現するなんて思いもよらないことだと思う。おそらく何かしらのインパクトを台湾のメタルシーンに与えたのではないかと想像する。


ウィリー:台湾のメタルシーンではブラックメタルはあまり好まれないんだ。ほかにもたくさんのジャンルがあるからね。ごくわずかな人たちだけがBLOODY TYRANTの存在に気づいてくれたんじゃないかと思う。きっと「おや、台湾にこういう類のバンドがいたなんて知らなかったな」という程度のものだろうけど。


これは少々残念に思う。先程、彼は「ただ普通にブラックメタルをやっていた」と言ってサウンド面に関することだけを述べていた。しかし、このアルバムのテーマの一つは独裁政権に関することだと聞いたことがある。つまり1945年をもって日本の統治時代が終わり、1996年までの長きに渡って国民党による一党独裁体制となった台湾の状況を伝えるアルバムでもあったはずだ。


ウィリー:そう、このアルバムでは国民党の独裁が暗示されていたんだ。タイトルにある“Doomsday(この世の終わり)”とは、国民党が台湾の人々にもたらすものを意味している。


しかしこのアルバムは政治的な問題のみを扱っている作品ではない。彼らが高校生の時に身近で起こった事件を題材にした「烏溪(The Black River)」という曲もある。


ウィリー:俺たちの学校の近くを流れる川で頭部のない死体が発見されたんだよ。で、そのニュースを見てフロントマンが「なんてこった!こいつはとんでもなく残忍だ!!!これを歌にしたい!!」と言ってできあがったというわけ。

BLOODY TYRANT(暴君)「烏溪(The Black River )」

ブラックメタルからの脱却

2010年のデビューアルバムで政治的、そして残忍な事件をテーマに邪悪さと攻撃性を重視したブラックメタル・サウンドを放ったBLOODY TYRANTが、そのわずか1年後の2012年に『水沙漣 序 (The Overture Of Sun-Moon Lake)』EP、2015年には『沙漣傳奇 (The Legacy Of Sun-Moon Lake)』をリリース。彼らの地元にある日月潭という湖にまつわる民話や伝説をテーマにフォーク要素を取り入れたサウンドへと変化していく。

ひょっとしたら『末日黎明 (Dawn Of Doomsday)』リリース時にはこの方向へ転換することが決まっていたのだろうか。初期の頃の熱心なファンには衝撃だったかもしれない。


ウィリー:実際のところ『水沙漣 序 (The Overture Of Sun-Moon Lake)』がリリースされるまでは、それほど多くのファンがいたわけではないからショックを受けた人もそんなにいない……というのは意外に寂しいものだけど。……ともかく、1stアルバムをリリース後に今度はもっとメロディックな曲にしていこうと決めたんだ。


やはり周りの反応から純然たるブラックメタルのままでは将来的に難しいと感じたのかもしれない。彼らはただメロディックというだけでなく、中国伝統楽器の一つである琵琶を導入し始めた。これはバンドにとって大きな転機をもたらすことになる。


ウィリー:ある夜、俺はダラダラしながら『十面埋伏(邦題:LOVERS)』(2004年の中国映画)を見ていた。実はこのタイトルになっている“十面埋伏”は、中国の古典音楽界で非常に有名な琵琶の独奏曲でもあるのさ。その時だよ、「俺たちの音楽に琵琶を取り入れればいいんじゃないか?今まで誰もやったことがないぞ!」と思いついて、このEPができたんだ!面白いことに、その映画自体は琵琶とはまったく関係がないんだけどね!


この時期、音楽面以外にもう一つ大きな変化が見て取れる。それはライヴ時に必須だったコープスペイントを止めたこと。もはやブラックメタルではないという明確な意志の表れなのだろうか。


ウィリー:少し馬鹿げた話に聞こえるだろうけど、本当のところ、ライヴの度にコープスペイントをするのは面倒だったんだ。それに俺たちはもう完全なブラックメタルとしてやっていこうとは思っていなかった。2019年に開催した10周年記念ライヴではコープスペイントもしたけどね。

日月潭の伝承。『水沙漣 序 (The Overture Of Sun-Moon Lake)』EP(2012)

BLOODY TYRANT(暴君)『水沙漣 序 (Th...

BLOODY TYRANT(暴君)『水沙漣 序 (The Overture Of Sun-Moon Lake)』EP

収録曲
01.水沙漣 序
02.水社浮煙
03.水沙漣傳奇
04.鳥啼之時
転機となった『水沙漣 序 (The Overture Of Sun-Moon Lake)』EP(2012年)と『沙漣傳奇 (The Legacy Of Sun-Moon Lake)』(2015年)で彼らがテーマにしたのは南投県を代表する湖、日月潭(じつげつたん/にちげつたん)にまつわる物語。

日月潭周辺は、さらに南に位置する阿里山を超えてサオ族(邵族)が移住してきたと伝えられる土地であり、古くはその地域を水沙漣と呼んでいた。ということはサオ族に伝わる日月潭付近の伝承を取り扱っているということになるはずだ。


ウィリー:そう、サオ族の話だよ。俺たちは南投でバンドを始めたわけだけど、この場所の物語をどうしても伝えたいんだ。それに、台湾の人でもこの話を知っている人はあまりいないと思う。基本的にはインターネットを駆使して情報を集めた。2匹の龍が太陽と月を飲み込み、土地は荒らされ、人々は殺されていった。その後、人々はどのようにして龍と戦うのかという物語なんだ。


さらにこのEPに関して、売上を小学校に寄付したという情報を見つけた。

ウィリーによれば、「自分たちの力は微々たるものだけど、アルバムを売ってお金を稼ぐだけではなく、人助けにも参加したいと思っている」とのこと。メンバーの人柄が感じられるエピソードだ。

日月潭の伝承。『沙漣傳奇 (The Legacy Of Sun-Moon Lake)』(2015)

BLOODY TYRANT(暴君)『沙漣傳奇 (The...

BLOODY TYRANT(暴君)『沙漣傳奇 (The Legacy Of Sun-Moon Lake)』

収録曲
01.渡頭 / The Jetty
02.迷途夜影
03.孤城十三
04.血肉生根
05.落雨賦
06.明潭終戰 lyrics
07.飲山林 / Wistful Nocturne
バンドのメインソングライターであるウィリーが兵役で1年間従軍していたことで序章となったEPから2年以上の歳月を経て、2015年に『沙漣傳奇 (The Legacy Of Sun-Moon Lake)』はリリースされた。これはすでに彼が説明した通り、サオ族に伝わる日月潭付近の伝承をさらに補完し完成させたものだという。

しかし、なぜアルバム2枚に分けて同じ物語に挑んだのだろうか。


ウィリー:EPを制作する段階では試しているだけだったんだ。当時は自信も経験もなかったから、まずはEPとして試すことにしたんだよ。


そのかいあってかフルレンス・アルバムとなった今作はより充実している。チェロやヴァイオリンとった弦楽器や笛も効果的に使用されるようになり、壮大さとフォーク要素が増してきた。もちろんトレードマークである琵琶も存分に登場する。ただ、中華の伝統楽器を使い、歌詞のテーマを自国の物語にしてもヨーロッパ的な雰囲気を多分に感じるのだ。やはりヨーロッパの大物フォークメタルからの影響も大きいということか。


ウィリー:例えば、TURISASELUVEITIEFINTROLLなど。これらのバンドは今でも俺たちに大きな影響を与えているんだ。

BLOODY TYRANT(暴君)「明潭終戰 Final Battle of Sun-Moon Lake」

メンバーと作曲について:楽曲制作の中核を担うウィリー

ここでは、2017年にリリースされる『孤鷹行(Solitary Eagle)』へと話を移す前に、曲作りやメンバーに関して少しだけ情報を追加しておきたい。

2014年にドラマーが陳玉龍からクリス・イエ(Chris Yeh/葉濬誠)に、2016年にはヴォーカリストが蕭逸からケネス・ヤオ(Kenneth Yao/饒亞哲)へとメンバーが交代しており、ライヴのサポートギタリストとしてジョン・チャン(Jon Chan)が関わるようになっている。

バンド結成から数年が過ぎ去り、メンバーにも変化が生じたが、今でも彼らは全員が南投に住んでいるのだろうか。また、琵琶奏者はバンドの正式なメンバーなのだろうか。


ウィリー:いや、実際、俺たちは別の場所に住んでいて、南投出身のバンドと呼ばれているのは、南投で出会ってバンドを結成したからなんだ。あと、琵琶奏者の瑜子(Yuzi)は正式なメンバーではない。ジョンは2016年にライヴギタリストとして加入して2017年に正式メンバーとなったけど、曲作りには参加していないんだ。

その曲作りはどのように行われてきたのだろうか。


ウィリー:ほとんどの曲は俺から始まって、ギタリストのアンディが修正していくのが主なスタイル。だから初期段階のデモは俺が1人で仕上げて、それからほかのメンバーと相談しながら進めていく。基本的には結成時から変わらずこの方法でやってきたよ。


では歌詞はどうだろう。2018年の『葉隱 (Hagakure)』をさかいに中国語から英語を使用するようになる。


ウィリー:英語で歌詞を書くようになったのは、より多くの人に自分たちが何を語っているのかを知ってもらいたいと思ったからなんだ。『孤鷹行(Solitary Eagle)』の作詞は俺が引き継いでいるんだ。


ブラックメタルからフォーク系へと路線変更したBLOODY TYRANTはアジアとヨーロッパの要素を巧みに融合させた。バンドの指揮官であるウィリーはバンドの音楽性をどのように見ているのだろうか。


ウィリー:俺たちの音楽はヨーロッパのサウンドを取り入れたフォークメタルだけど、アジア的ひねりを加えたものだね。

天高く飛ぶ鳥は知っている。『孤鷹行 (Solitary Eagle)』(2017)

BLOODY TYRANT(暴君)『孤鷹行 (Soli...

BLOODY TYRANT(暴君)『孤鷹行 (Solitary Eagle)』

収録曲
01.遠望
02.步履
03.荊棘
04.落葉
05.驟雨
06.山洪
07.振翅
08.焦土 (feat. Fran法蘭)
09.遠望 (Orchestral Version)
10.步履 (Orchestral Version)
11.荊棘 (Orchestral Version)
12.振翅 (Orchestral Version)
2017年にリリースされた『孤鷹行(Solitary Eagle)』の音楽的特徴を一言で述べるなら“シンフォニック”であること。映画のサウンドトラック、もしくはクラシックそのものの豪華さもある。


ウィリー:今回のアルバムは今まで以上にシンフォニックにしたいと思っていたんだ。当時の俺たちはクラシック音楽にとても興味があって、バッハベートーヴェンラフマニノフに大きな影響を受けていたのさ。

BLOODY TYRANT(暴君)「步履(Far Journey)」

さらに、このシンフォニックさが演出する壮大なスケール感は今作のテーマにも繋がってくる。

どうやらこの時期、ウィリーは登山の話に入れ込んでいたようで、徐如林(シュ・ルリン)の書いた『孤鷹行』という本を参考にして、それを1枚のアルバムに仕上げたという。

徐如林はアルパインガイドの経験を持つ台湾の自然を扱う作家であり、古道探訪や登山、史跡の研究者として知られる女性。そんな彼女の著書の1つがアルバムタイトルと同名の『孤鷹行』(1993年)。徐如林が若かりし頃の登山体験や自然談義を綴ったものとなっている。

そんな彼女の作品を下敷きに、このアルバムでは大自然の神秘と脅威、災害、さらには人間の狭く低い視線ではなく、孤独でありながらも天高く自由に飛ぶ鷹/鷲の目を通して環境保護を暗に語っているのだとか。

もうひとつ注目すべき点は、アルバムの最後を締めくくる8分の大作「焦土(Devastation)」Frandé(法黛蘭)Fran(法蘭)という女性ヴォーカリストを起用していること。彼女はポップス畑のミュージシャンなので、このようなエクストリーム・メタルの作品に参加するのを不思議に思うファンも多いだろう。


ウィリー:実はFrandéの超大ファンで、自分の作った曲にFranが出演することが俺の夢の一つだった。そしてその夢がここで叶ったというわけ。「焦土(Devastation)」のイントロでは軽やかにふわふわ舞うような女性の声を必要としていたんだけど、彼女はまさに完璧な選択だ!


彼の意外な好みが明らかになったところで、ミュージック・ビデオが制作された「振翅 (Eagle Fly Free)」を見てみよう。孤独な剣士が山を歩く途中で敵が襲いかかってくる映像が所々に挿入されている。これは登山の際に遭遇するあらゆる障害を暗示しているのだとか。

BLOODY TYRANT(暴君)「振翅 (Eagle Fly Free/羽撃く)」

「Eagle Fly Free」といえば当然HELLOWEENが思い浮かぶけれども、BLOODY TYRANTもそこに加えてほしい。

葉隠、その哲学へ。『葉隱 (Hagakure)』(2018)

『孤鷹行(Solitary Eagle)』からわずか1年あまりで4枚目のフルレングス・アルバム『葉隱 (Hagakure)』 がリリースされることになった。とても早いペースだと思う。メンバー同士が良い関係を築いていたとしてもアルバム制作には金銭面での問題もつきものだ。


ウィリー:その時期はこれまでの経験もあって音楽を作ることに自信が持てていた。幸運なことに俺とアンディの仕事は曲をレコーディングしてミキシングやマスタリングをすることだから、アルバム制作時の経費を節約できるんだよ。


彼らはQAQ Productionとして台北にスタジオを構えている。例を挙げると、スラッシュメタルのIRON FIST(鐵拳)KING NORMAN、シンフォニック・ブラックメタルのRAVEN SKULL(渡鴉之髏)、プログレッシヴ・デスメタルのPSYCHOPRESS、ブラックメタルのDESECRATINなどの作品制作にも携わってきた。ちなみに、アンディはCHTHONIC『Bú-Tik(武徳)』にコーラスとして参加した経験もある。
BLOODY TYRANT(暴君)『葉隱 (Hagak...

BLOODY TYRANT(暴君)『葉隱 (Hagakure)』

収録曲
01.步入虛空
02.葉隱
03.無心
04.劍理
05.不畏死
06.與世別離
07.悲傷之塔
08.反芻
今回のアルバムはタイトルが示すとおり、ズバリそのまま『葉隠』に関することが歌われているのではないかと想像できる。「武士道と云ふは、死ぬ事と見付けたり」という一説が特に有名だが、『葉隠』は、江戸時代中期、佐賀鍋島藩士である山本常朝が隠居後に語った「いかに生きて、いかに死ぬかという武士としての心得」を同藩の田代陣基が長い年月をかけて書きまとめた11巻からなる大著である。

一時は禁書扱いされていたようだが、仏教や禅などを礎に導き出したこの思想、哲学は、刀を持って主に仕えることのない現代人にとっても応用が利く教えが多く含まれているとして人気だ。とくにビジネス分野で紹介されることがあるようだが、すべての境界が曖昧となって混沌とした今、日本の男性諸君は“日本男児”として立つために今一度学んでみるのも良いかもしれない。

無心であれば死すら恐るるに足らず

このように日本人にとっては馴染みのある『葉隠』。しかし内容は多岐にわたる。はたしてその膨大な教えを冠した作品でなにを伝えようとしているのだろうか。


ウィリー:実はこのアルバムには特定のストーリーがあるわけではなく、“無心”というコンセプトからきたもの。だから伝えたいことも“無心。「無心であれば痛みは感じない。無心であれば死すら恐れるに足らない」ということを言っているんだよ。そして、これを説明するのに、サムライと禅の哲学がもっとも適していると思うんだ。

BLOODY TYRANT(暴君)「無心」

まさか“無心”であったとは!

一言で表すならば「心頭滅却すれば火もまた涼し(火自ずから涼し)」という言い方も可能だろうか。だとすれば“悟り”と同じ感覚かもしれない。ともかく焦点となるのは“無心”。その意味は「一切の雑念を取り払ってあるがままに行動する」ということになるはずだ。欲望はもちろんのこと、執着、プライド、理想、固定観念などすべてを捨て去って初めて見えてくるものがある。通常、我々の心はゴミ屋敷のようなものだ。きれいにすれば気持も新たに余裕を持って素直に受け入れることができるではないか。

かといって本当にすべてを空っぽにするため、長年蓄積した知識、経験から得た技術まで放棄することとは違うだろうし、思考を完全停止することでもないはずだ。ただ、すべてを自然体になるまで研ぎ澄ますことができれば、なにを行うにしても意識する必要すらないのだろう。そのとき、知識や経験といったものが消え失せる。「あるけれどない、ないけれどある」のである。ここまで到達できれば、とらわれなど皆無なのだから苦悩することもありえない。

心を空にすることですべてをあるがままに受容し万物と一体になる。それは自然の摂理のごとく無邪気。欲ある限り満足はないとする“無一物”の良寛が詠んだ「花無心招蝶 蝶無心尋花(後略)」(花は無心にして蝶を招き 蝶は無心にして花を尋ねる)という漢詩に集約されているように思う。その元は“無為自然”の老子が書いたとされる『道徳経』にあるようだが、ならばなおさらだ。

……などとそれっぽい言葉を並べたところですべては妄想。

駄文につき合わせてしまって大変申し訳ない。なにしろ私は悟ったこともなければ無心もほぼ未体験だと思うからだ。もちろん時間や我を忘れて物事に没頭するという集中状態は経験あるけれど、それが禅で言うところの無心かと問われれば、残念ながらその境地からはほど遠い気がする。そに至るまでのなにかが圧倒的に足らないのだろう。物事を愚直なまでに突き詰めていくとき、ふとした瞬間にその境地まで飛べるのかもしれない。ただし、そこが終着点になるのではなく、あくまでも過程であり、なおかつ出発点である。だとするならば、武道、華道、書道のような“道”にもヒントがあるではないか。

そう、だからこそウィリー“サムライ”“禅”“葉隠”を用いて“無心”の重要さを説こうとした。

ここでは僧侶や哲学者の説明ではなく芸術に携わった人の体験をみてみよう。

先日(2021年3月1日)107歳で他界した美術家(墨象の画家)篠田桃紅が著書『103歳になってわかったこと』に遺した言葉を大雑把に要約して拾ってみる。

すると、「100歳を過ぎてみて、創作時になにも思わなくなり、筆が勝手に動いて無意識のうちに自然にできあがっていた」「人は老いて、日常が無の境地にも至り、やがて、ほんとうの無を迎える。それが死である」「考えるのをやめれば、なにも怖くない。ただ無になる。歳をとるにつれ、日常に無の境地が生まれてくる」などの言葉がある。そう、完全に無心であったのだ。さらにその境地において新しいことに挑戦し続け、「日々新しい自分でありたい」と100歳を超えた彼女は謙虚な気持ちをもって語っている。

そして興味深いのは正岡子規。彼の晩年は結核でひどく苦しんでいた。その最中、「悟りという事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思っていたのは間違いで、悟りという事は如何なる場合にも平気で生きて居ることであった」という。これもまた紛うことなく禅。そしてこの平常心は無心だと思う。

私自身はまだ無心をまったく理解せず、語ることもままならないことを痛感したが、みなさんはいかがだろう。ウィリーはとてつもなく深淵でありながらも生きる上で大切な手がかりを投げかけてくれたのではないか。

ここまで考えてみたことで『葉隱(Hagakure)』というアルバムで演出された雰囲気をより感じられるようになったはず。“無心”という禅の世界をテーマにしたことで、できる限り無駄を削ぎ落とし、悟りを促すような静の佇まいが全体に漂っている。


ウィリー:このアルバムを作る上でもっとも大きな影響を受けたのはINSOMNIUMAMORPHISのスタイル。これまでとは異なり、もっとゆったりとして雰囲気のあるものがここでは欲しかったのさ。


それではミュージック・ビデオが制作された「葉隱 (In The Shade Of Leaves)」をご覧いただこう。
「アルバムの中でもこの曲は俺にとってもっともメロディックだ。“無心”とは何か。そして、その状態がいかに死というものへ臆することなく向きあえるのかを伝えたかった」とウィリーは言っている。

BLOODY TYRANT(暴君)「葉隱( In The Shade Of Leaves)」

アナログ楽器でよりフォーキーに。『島嶼神話 (Myths OfThe Islands)』 (2020年)

BLOODY TYRANT(暴君)『島嶼神話 (Myt...

BLOODY TYRANT(暴君)『島嶼神話 (Myths OfThe Islands)』

収録曲
01.Genesis(創世)
02.Black Wings(黑翼之神)
03.Two Burning Suns(射日)
04.Colossus(巨人)
05.Sacred Lake(鬼湖)
06.Transformation(變獸)
07.The Antlers(公鹿)
08.The Deluge(洪水)
09.Whale(鯨魚)
2020年6月に5枚目のフルレングス・アルバム『島嶼神話 (Myths Of The Islands)』 をリリースした。

前作でも多少感じられたが今作はよりAMORPHIS的な手法を取り入れているように感じる。よって、コーラスパートはよりキャッチーで耳を惹くようになっており、すっかりフォークメタルへと転身したことがわかる。


ウィリー:そうだね。今でもAMORPHISは好きなバンドだし、ここ数年はELUVEITIEも多くのインスピレーションを与えてくれた。これが“ちょっとした変化”が起きた理由だよ。


そう言われれば、笛の使用頻度も増えたような気がするだけでなく、電子楽器以外の生楽器も多く使用されている。琵琶、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、オーボエ、パイプオルガン、そして口琴の音色も聞こえてくる。ちょっとした味付け程度に登場するものもあるが、それらのアコースティック楽器があることで華やかなサウンドになっている。


ウィリー:ヨーロッパのティン・ホイッスルも使っている。実のところ『孤鷹行(Solitary Eagle)』には『島嶼神話 (Myths Of The Islands)』 以上に多くの楽器の音色が収録されていたんだけど、それらはソフトウェアを使ったものだった。だから今回はできるだけ本物の楽器を使用してレコーディングしたいと思ったのさ。

BLOODY TYRANT(暴君)「 Two Burning Suns(射日)」

確かに適度な音の隙間を感じる『島嶼神話 (Myths Of The Islands)』に比べると『孤鷹行(Solitary Eagle)』は音が密に詰め込まれていた印象がある。こういう聴き比べも新たな発見があって面白い。

民族的な文化を読み聞かせること

いっぽう、前作で禅の深遠な世界へと足を踏み入れた彼らが今作で扱ったのは、台湾各地に散らばる原住民たちに語り継がれてきた神話、伝承などの物語。それはそのままアルバムタイトルに反映されているので説明するまでもなくお気づきの方も多いだろう。

ここにきてもう一度自分の住む場所に伝わる物語を取り上げたのはなぜなのか。


ウィリー:ヨーロッパのフォークメタル・バンドたちが語るほとんどは、子供の頃に枕元で聞かされる話ではあるけれど、そこにはたくさんの民族的文化が盛り込まれていることがわかったんだ。となると、台湾でこのような土着の文化が含まれる物語が伝えられなかったのはなぜなのか疑問に思う。子供の頃にこういう物語を聞かせたっていいはずだ。そこが出発点だよ。


ということは、今回彼らがアルバムで取り上げた物語は一般的にはあまり認知度がないということになる。


ウィリー:残念なことに学校や両親は語ってこなかったから自分たちで見つけるしかないんだよ。俺たちは幸運にも人類学博士課程の友人がいるから物語収集の助けになってくれたけど。このアルバムを通して俺たちが住んでいる土地にはまだまだたくさんの物語があることを知ってもらえればと思う。


世界に散らばる神話、伝承の類は関連性が見られるという興味深い説もあるので異国の話を学びながら身近で埋もれかかった物語を掘り起こしていくのは大切だろう。しかし、なによりも重んじなければならないことは、生まれ育つことになる国の物語、先祖の体験を子供の頃に聞かせることではないか。そこには風土を含めた土地の歴史、民族の文化、思想、戒めなどが込められているのだから、それらの物語がその土地に住む人々の感性を養い、アイデンティティを形成する一端を担うことになるのは否定しようがない。

今の親世代が子供に見せたり読んだりしているものは一体どのようなものだろう。自分たちの民族の文化や歴史からかけ離れたものが大半をしめるのではないか。となれば、その土地に住む者としてのアイデンティティは希薄になり、やがては文化、民族そのものが衰退、消滅していくことに繋がりかねない。

もう一つ身近に感じられる例を見てみよう。仏教本来の意味とは違うが、食養で盛んに言われる“身土不ニ”、「人の身体と暮らす土地は一体。その土地のものを食べたほうが健康に良い」というスローガンに込められた意味と近いものがあると考える。いくら美味しくとも、これまでの歴史で食べてこなった風土の異なる食事をするようになった我々はどのようになっただろうか。一見、華やかで豊かに見えても、それはただの“まやかし”なのかもしれない。

あらゆる文化が混在することを悪いとは思わない。北センチネル島でもない限り、文化交流はどこでも行われてきたはずで、それを取り入れたり刺激を受けたりしながらその土地の文化が形成されているのは紛れもない事実。民族楽器や食文化もそうだろう。だが、昔とは違い、あまりにも無差別に怒涛の速度で流入、もしくは侵食されているのが現在の状況。自身の本質、素性、起源、祖先といったものを基盤にした依って立つものがなければあまりにも危うい。

ウィリーの気づきを聞かされたことで、現代人が失いつつあるもの、そして必要不可欠なのは、根幹をしっかりと据えたうえで柔軟に対応していくことだと考えさせられた。

話を戻そう。今作には9つの物語が収録されている。その中からウィリーのお気に入りを教えてもらうことにしよう。


ウィリー:俺が好きなのは「The Antlers(公鹿)」プユマ族に伝わる話だ。少女と鹿の恋物語なんだけど、最後は追い詰められて自殺してしまう。悲劇的な話なんだけど、なぜかすごく美しいと思うんだ。


彼の感性では「The Antlers(公鹿)」に美しさを感じると言いつつも、今回ミュージック・ビデオが制作されたのは「Black Wings(黑翼之神)」という曲。


ウィリー:これまでと同じように、アルバムの中からフォーク色の強い曲を選んでビデオにしている。映像には伝染病に感染した人が登場するけど、これは人々が物語の中で間違った儀式を行った場合にどうなってしまうのかをほのめかしたもの。ロケ地となった美しい浜辺は台湾東部に位置する南澳(ナンアオ)にある。

BLOODY TYRANT(暴君)「Black Wings (黑翼之神)」

ライヴに関すること

BLOODY TYRANTは比較的、海外公演の機会に恵まれたバンドという気がする。

2011年7月に、わずか7回目のライヴにして韓国の地を踏んでいる。この時ウィリーは「俺たちにはこれからも海外ツアーをやれる機会が巡ってくるぞ!」と思ったという。

そして彼の予感は的中することになる。大きなところを取り上げると、2016年には<ANAAL NATHRAKH Japan Tour>で、2017年には<Pagan Metal Horde Vol.1>で来日。2018年になるとフィリピンのフェスティバル<Pulp Summer Slam>に出演。2020年にはKALEVALA(ロシア)の前座としてヨーロッパツアーを行っている。

台湾を飛び出して様々な国を訪れたからにはなにか面白い経験もしたかもしれない。


ウィリー:これまでに韓国、香港、中国、日本、フィリピン、ドイツ、ポーランド、チェコ、ハンガリー、フランスで公演を行った。どの国でもそれぞれに特別な経験があったよ。たとえば、ドイツのメルレンバッハでのライヴが終わった後、ドイツ人の老人がやってきて、俺たちのパフォーマンスと音楽に対する愛情を熱弁してくれたんだけど、普段どおりのドイツ語を話すだけで、俺たちには彼がなにを言っているのかさっぱり理解できなかった。そんなこともあったね。


彼らの音楽は東アジア的な要素を取り入れながらもヨーロッパのフォークメタルを基盤にしているので、ヨーロッパの人々からすれば、馴染みやすさとちょっとした新鮮味が心地良いのかもしれない。

ところで、すっかりとフォークメタルのイメージが定着したBLOODY TYRANTではあるが、初期はブラックメタルであり、1stアルバムもそのスタイルでリリースしている。今となってはしっくりこない感じがするスタイルかもしれないが、ライヴでは初期の曲も演奏することはあるのだろうか。


ウィリー:多くのアルバムをリリースしてきたバンドはみな同じ問題を抱えているんだ。「俺たちはどの曲を演奏すべきなんだ?」っていうね。だからファンに喜んでもらえるような曲を演奏しなくてはいけないってわけ。前回1stアルバムから曲を演奏したのは俺たちの10周年記念ライヴのときだよ。

BLOODY TYRANT(暴君)「 Whale 鯨魚」

2020年2月に行ったヨーロッパツアーの様子を収録したミュージック・ビデオ。

種は弾けて拡散される

冒頭でもお伝えしたように、2021年1月にリズム・ギタリストのジョン・チャン(Jon Chan)が、そして2月20日のライヴを最後にヴォーカリストのケネス・ヤオ(Kenneth Yao/饒亞哲)、ギタリストのアンディ・リン(Andy Lin/林祈安/林老屍/Lin Chi An)、ドラマーのクリス・イエ(Chris Yeh/葉濬誠)も脱退。

ケネスは2020年に『Reincarnation』をリリースしたデスコアDARK CHARYBDIS(暴噬者)のメンバーなのでこれからもそちらで歌い続けるはず。

DARK CHARYBDIS(暴噬者)「 Murder Made Dreams」

そしてアンディジョンDHARMA(達摩樂隊)で活動を続けている。DHARMAはドラマーであるジャック・タン(Jack Tung)の発案でアンディと共に2018年に開始。尼僧を擁しサンスクリット語で真言を唱える仏教デスメタル。ヴォーカリストはカナダから移住してSTENCH OF LUSTREVILEMENTといった台湾のバンドで活動してきたジョー・ヘンリー(Joe Henley)。彼はキリスト教から仏教徒へと改宗してこのバンドに臨んでいる。ちなみにジャック・タンSTENCH OF LUSTREVILEMENTそしてDIMISEで活動していたのだから繋がりは必然的に見えてくる。

まだ結成してからさほど時間が経っていないものの、かなり特異なスタイルを持つDHARMAは、この1年ほどでかなりメディアの露出は増え、注目度は高まっている。今後さらに話題となることは間違いないだろう。

DHARMA(達摩樂隊)「Amitabha Pure Land Rebirth Mantra(往生咒 )」ライヴ

それでもBLOODY TYRANTは羽ばたき舞い上がる

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話をBLOODY TYRANTへ戻そう。現在残っているのは創設メンバーで曲作りの要でもあるベーシストのウィリー・クリーグ・タイ(Willy  Krieg Tai/戴敬緯)ただ1人。彼が今回のインタヴューに応じてくれたわけだが、果たしてこの危機的状況にどのように対応するのだろうか。“解散”という不吉な言葉が頭をよぎってしまったファンも少なからずいるだろう。


ウィリー:新しくメンバーを募って、今後はよりヘヴィでスピード感のあるものを作っていきたい。フォークメタルはヨーロッパのメタルファンが大好きなジャンルだけれど、残念ながらアジアではそうはいかないかもしれない。それでもヨーロッパのファンに地球の裏側からの物語を伝えたいと思っているんだ。今後は台湾だけではなく、アジアの神話や伝承が登場することだってあるはず。


バンドを継続する意志だけではなく、さらに前向きな言葉が返ってきた。 

今回のインタヴューではっきりしたことは、中華風味を加えたヨーロッパ的なフォークメタルを用いて台湾やアジアの風土が培った物語を多くの人々に伝えようとしていること。さらにはその重要性。やはりBLOODY TYRANTには活動を続けてもらわなければならない。


DHARMADARK CHARYBDISも魅力的なバンドではある。しかしBLOODY TYRANTにも10年の歳月をかけて築いてきた彼らならではの音楽性とファンがいる。もはや代えがきかない存在なのである。

千差万別、百花繚乱であらゆるバンドが存在できればそれほど良いことはない。

ウィリーはエンジニアとして音楽制作に携わりながらBLOODY TYRANTを指揮してきたが、2020年からはアトモスフェリック・ブラックメタルLAANG(冷)のメンバーとしても活動を開始した。

これから台湾のメタル界はより豊かな実りの季節を迎えるだろう。そしてウィリーはその立役者の一人でもあるのだ。