アジア金属マル秘発掘報告 〜タイ|TRAGEDY OF MURDER〜

アジアのメタルシーン
埋もれた秘宝を発見せよ!世界各地にはまだまだ知られざるバンドがうごめいている。ここではアジア圏に的を絞って探りをいれて掘り起こし、簡単な調査報告をしていく。その価値は未知数。
今回はタイのデスコアTRAGEDY OF MURDER。ヴォーカリストのJeddyはメタル・サイトHEADBANGKOKを運営する人物でもある。
金属名:TRAGEDY OF MURDER
産出地:バンコク

タイでメタル情報サイトHEADBANGKOKを立ち上げ、国内外のバンドのニュースを発信することで、メタルの活性化を促そうと奮闘しているJeddy Tragedy

彼はデスコア・バンド、TRAGEDY OF MURDERのヴォーカリストでもあり、その存在はタイのメタル界でも重要な位置にあるといえる。

今回はTRAGEDY OF MURDERの歴史をJeddyに語ってもらった。
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弾けないギター・ヒーロー、バンドを結成す

まずは、どのようにしてTRAGEDY OF MURDERが結成されたのかを尋ねてみた。


Jeddy:TRAGEDY OF MURDERは、当時大学生だったギタリストのBankが始めたもので、彼がメンバー全員を集めたんだ。ある日、Bankに「どんな音楽が好きなんだ」って言われたから「メタルが好きだ」と答えて歌も歌えることを伝えた。そうしたら「バンドに加入しないか」って誘われたというわけ。俺は3番目のメンバーで、加入したときにはすでにドラマーがいた。それから、リズム・ギターのNun、ベーシストのNuiを見つけることができたんだけど、メンバーが揃うまでの間はリハーサルでどんな曲を演奏するのかを話し合っていた。それとBankはギター・ソロを弾きたかったって言っていたんだよ。


その話し合いの結果、彼らは「AS I LAY DYINGKILLSWITCH ENGAGESHADOWS FALLAVENGED SEVENFOLDといったメタルコア・バンドの曲を演奏するようになった」のだという。

ところが、この出だしの段階でちょっとしたハプニングが発生する。


Jeddy:そして3度リハーサルを行ったんだけど、その後Bankはリハーサルにはやって来なくなった。時間がないからバンドを辞めるということになったんだよ。それで、彼の友人に、「Bankはバンドでソロを弾きたかったんだけどね」って話をしたら、すごく驚かれたよ。「だってあいつはギターなんか弾けないんだぜ」って笑いながらその友人は言ったんだ。これってすっごく奇妙な話だよね。


いきなり突飛な結成ネタをブチ込まれて面食らってしまうが、一度走り出したバンドは解散することなく活動を続けていくことになる。これもまた運命だったのかもしれない。

メタルコアとデスコアの間で

現在、デスコアとして知られるTRAGEDY OF MURDERは、メタルコア・バンドのカヴァーからのスタートだったことがわかった。オリジナル曲を演奏するようになった後でもライヴではSUICIDE SILENCELAMB OF GODSHADOWS FALLBRING ME THE HORIZONなどの曲をカヴァーしているのだが、具体的にどんなバンドから影響を受けたのだろうか。


Jeddy:俺たちは、AS I LAY DYINGKILLSWITCH ENGAGESHADOWS FALLLAMB OF GODといったメタルコア・バンドの曲をカヴァーすることから始めて、デスコア時代に育ったバンドなんだよ。そういう流れがあって、SUICIDE SILENCEBRING ME THE HORIZONWHITECHAPELCARNIFEXなどのバンドからインスピレーションを得てきたんだ。


大学生だった彼らがバンドを結成したのは2006年である。世界では、ちょうどメタルコアの高まりからデスコアの流れが大きくなり始めた頃なので、この変化は時代の流れそのもの。

しかし、デスコアと言っても彼らの場合は変化の末でのこと。よってこれまでの流れを見ると、曲ごとに多少印象が異なり、比較的柔軟な姿勢でバンドの音楽性を維持してきたようだ。その理由を彼はこう説明する。


Jeddy:音楽性に関して、今はデスコアなんだけど、それはメンバーそれぞれの趣味が違うからね、クロスオーヴァーしたスタイルがいいのさ。俺たちのバンドは一本調子ではなくて、常に新しい実験ができるんだよ。


ちなみに、彼らがバンドを始めた2006年頃のタイ・ロック/メタル界では、どのようなスタイルが主流だったのだろうか。


Jeddy:俺たちがバンドを始めた頃はエモの時代だった。当時のタイではメタル・コンサートに1,000人ほどのファンが集っていたんだよ。でも、もうロックがメインストリームに戻ることはないね。

Beautyなんて軟弱!メタルならMurderだっ!

男女の出会いに「第一印象から決めてました!」なんて告白があるくらいなのだから、音楽との出会いでも最初に目に飛び込んでくるバンド名のイメージは大切なはず。

彼らの場合はTRAGEDY OF MURDERというベタなまでにエクストリーム系の音楽性であることを示すバンド名を選択しているが、どうやら最初は違った名前だったのだとか。


Jeddy:実は最初のバンド名はTRAGEDY OF BEAUTIFULだったんだ。その名前で2回コンサートをやったこともあるんだけど、「文法的に“Beautiful”は間違いだから“Beauty”に直したほうが良い」と友人が指摘してくれた。でも、“Beauty”ってメタル・バンドにふさわしい単語じゃないからね。なんだか美容院とか化粧品なんかのブランドみたいでさ。そういう経緯があって“Murder”に落ち着いたというわけ。


もちろん、“Beauty”をエクストリーム系のバンド名に使用した例はいくつもあるとは言え、TRAGEDY OF BEAUTYよりはTRAGEDY OF MURDERの方が響きもそれっぽくて良い。“Beauty”のままで長年バンド活動が継続できたかの保証はない。ひょっとしたら「かけめぐる青春」の一コマで終わっていたとも考えられる。文法的な間違いがかえって良い方向へ導いたのだ。
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ギタリストNunとベーシストBezt。

2007年から2020年までの発表曲

TRAGEDY OF MURDER『Tragedy O...

TRAGEDY OF MURDER『Tragedy Of Murder』EP

収録曲
01.Deciding The Breathe
02.The Patient
03.The Last Scene
04.The Selfish Man
05.Consciousness
06.Bonus Track
2006年のバンド結成からこの原稿を書いている2020年10月までの間にTRAGEDY OF MURDERがリリースしたアルバムはセルフ・タイトルのEP、『Tragedy Of Murder』(2015年)のみとなっているが、シングルとしてはEPに収録されていない曲もYouTubeなどのウェブ上で発表している。

ここではJeddyからの情報を基に、彼らが発表してきた曲を簡単に整理してみた。

2007年
デビュー曲「Not Die Today」をMyspaceで発表。この頃のスタイルはメタルコアだった。そして同年末に「Humanity Will Be Lost」

2008年
「Fake Faces Everywhere」「War Never Ending, Peace Never Beginning」「Wake Up The Lifeless」の3曲を発表。これらの曲は5バンドを集めて翌年Banana Recordからリリースされるコンピレーション・アルバム『Banana Suck II』に収録された。彼らのほかには、TILL DEATH DO US PARTDON'T DRINK AND DANCESLAVE OF FEARWHISPER FROM THE NEXT ROOMが参加していた。

2009年
「The Last Scene」発表。彼らが作ってきた曲の中でもっとも複雑だとか。

2013年
「Deciding The Breath」「The Patient」を発表。

2014年
「The Selfish Man」発表。

2015年
「Consciousness」発表。この曲がバンドとして初のミュージック・ビデオとなった。
また、10月には2009年から2015年までに発表したシングルをまとめたEP、『Tragedy Of Murder』を100枚のみコンサート会場で販売し、完売。

2017年
「Hater」を発表してミュージック・ビデオを制作。

2019年
「The Upside Down」発表。元ADABELPloyがコーラスで参加。ミュージック・ビデオのプロデュースを手掛けたのはBIG ASSのベーシストOak

2020年
「Human Parasite」発表。ミュージック・ビデオは前回同様にBIG ASSのベーシストOakがプロデュースを行ったのに加え、BIG ASSのギタリストのMooがディレクターを務めた。HANGMANのギタリストKayがゲスト参加。

以上がこれまでに発表してきた曲である。ひょっとしたら細かい部分で間違いがあるかもしれないが、Jeddyからの情報を優先した。ひとつ例を挙げると、「The Last Scene」の発表は2009年と彼は伝えてくれたが、YouTube上では2013年4月と記載されている。ただ、流れは合っているはずなので、ここではおおよその全体像を把握していただきたい。

なお、上記コメントにあるように、2015年にリリースした『Tragedy Of Murder』EPは早い段階で完売しているが、2019年に再プレスされた模様。

それでは、TRAGEDY OF MURDERにとって初のミュージック・ビデオ、そしてEPを制作した2015年のシングル「Consciousness」を見てみよう。

TRAGEDY OF MURDER「Consciousness」

よりストレートに、より力強く

今一度繰り返すが、彼らはメタルコアとして始まるも、それぞれの趣味が異なることから「クロスオーヴァーしたスタイル」と「新しい実験」を常に続けてきた末にデスコアへとたどり着いたバンドだ。

その間には“プログレッシヴ・デス・メタル/ハードコア”と自身の音楽性をカテゴライズしていた時期もある。


Jeddy:そう名乗ったのはプログレッシヴで複雑な「The Last Scene」からだった。けれども、オーディエンスは俺たちのやりたいことをあまり理解できなかったようだからデスコアへと改良してみたんだ。そうしたらより多くの賛同を得られるようになったというわけ。

TRAGEDY OF MURDER「The Last Scene」

このようにバンドは周りの反応も見ながら細かい改良を重ねて成長してきた。やはり、その音楽性の鍵を握るのはオリジナル・メンバーであるヴォーカリストのJeddyとギタリストのNunということになるだろうか。さらに彼らはここ数年、ギタリストを1人増やしたトリプル・ギター体制にしてライヴでも厚めのサウンドを作り出そうとしているようにも見える。

Jeddy:そう、確かに曲作りは俺とNunから始めていたけど、最近ではみんなでブレインストーミングを行うようにしたんだ。ほとんどの曲はギターから始まってベース、ドラム、そして最後に俺が歌詞を書くという方法。あと、ギタリストを3人にしたのは何かほかとは異なったサウンドにしたかったのと、WHITECHAPELや初期のCHELSEA GRINのような力強いリズムにしたかったからさ。

以下が現在のメンバー。
ヴォーカル:Jeddy
ギター:Nun
ギター:Best
ギター:Boss
ベース:Bezt
ドラム:Ryu
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これまで、曲ごとに新たな実験をしてきたTRAGEDY OF MURDERJeddyはどういう方向性の曲を気に入っているのだろうか。


Jeddy:「Consciousness」「The Upside Down」「Human Parasite」の3曲だね。ミックスやマスターも良くて自分たちの曲にピッタリの優れたサウンドになっているし、ポップ・ミュージックのような構成になっているから聴きやすいと思うんだ。


「Consciousness」は2015年の曲だが、「The Upside Down」は2019年、「Human Parasite」は今年(2020年)発表されたシングル。ということは、バンドが近年目指しているのはヘヴィさを加えながらも平易で親しみのある構成にして聴きやすさを保つ、ということになるだろうか。

シングル「The Upside Down」(2019)

それではJeddyもお気に入りだという2019年12月に発表された「The Upside Down」から見てみよう。

彼のコメントにもあるように、「The Last Scene」から数年間はプログレッシヴで複雑なスタイルとなっていたが、ここからよりストレートなデスコアへと舵を切り始めた。

TRAGEDY OF MURDER「The Upside Down」Feat. พลอย Ex. ADABEL

かなり重くのしかかってくるような暗い曲調となっている。いったいどのような内容を歌っているのだろうか。


Jeddy:この曲は『ストレンジャー・シングス』シリーズがきっかけになっている。物語に出てくる“アップサイド・ダウン”という言葉から着想を得て、それを人間の持つ邪悪な側面の思考へと転換させて表現した。これはもう一方の正反対である側面に隠れているもの。プロデュースをしてくれたBIG ASSOakはさらに深く広い奥行きと暗い感じを望んでいたからPloyを精霊たちとのコーラス・パートに採用したんだ。


彼の言う『ストレンジャー・シングス』とは、Netflixで2016年から放送開始された『ストレンジャー・シングス 未知の世界』という人気テレビ・ドラマ・シリーズで、そこではズバリ、“アップサイド・ダウン(逆さま)”と呼ばれる裏の世界が登場する。その合わせ鏡のようにもう一つ存在する暗い裏世界の存在から思いついたのが、表立っては見ることのできない人の心に潜み染み付いた暗部の表現ということだろう。

また、話にあるように、この曲ではADABELに在籍していたヴォーカリストPloyをコーラスに起用している。ADABELは、女性のメタルコア・バンドでオリジナル曲ではなく、WHILE SHE SLEEPTHE DEVIL WEARS PRADAなどの曲をカヴァーしていたのだが、すでに活動を停止している。

シングル「Human Parasite」(2020)

「The Upside Down」から約半年後、2020年6月に発表された「Human Parasite」。こちらもJeddyのお気に入り。

TRAGEDY OF MURDER「Human Parasite」Feat. เก๋ HANGMAN

このミュージック・ビデオには一瞬だが、工場からの排煙、海洋ゴミ、河川に放出される汚水、死んだ海鳥やウミガメ、イルカと思しき映像が挿入されていることから、かなり明確で強いメッセージが込められた曲のように見受けられる。


Jeddy:ここで語っているのは、世界のいたるところにある多くの由々しき事態。たとえばそれらは戦争のように人の手によって生み出されたことに起因する。そして、多くの罪のない人々がその悪影響を受けるばかりか、森や川といった自然はいつだって人の手によって破壊されているんだ。


こんなことはもう何度も繰り返して言われていることであり、誰もが理解できることのはずなのに戦争は止むことなく、多くの人命を奪い、すべての生きとし生けるものが必要とする自然も破壊され続けている。たとえ今、戦争が行われていない国でも、不法排出や不法投棄が行われ、山、川、海といったかけがえのないものが汚されている。近ごろは太陽光発電や海洋プラスチックの問題が大きく取り上げられているが、恐ろしいことに放射性廃棄物さえも不法投棄されているという話はだいぶ前からされている。

タイも美しいビーチが各所にあることは有名だ。しかし近年は増えすぎた観光客の問題も相まって水質汚染や海洋ゴミが目立ってきたと報道されている。彼らも身近なところでその脅威を実感しているからこそ歌にしたのではないだろうか。我々は自ら進んで首を絞めているのだ。寄生虫のごとき欲望に取り憑かれ、旨味のみを追求すれば道徳なんてあったものではないところまで落ちてゆく。まして寄生虫は取り付いた者の心や行動までも支配し得るというのだから。

それにしても今回はメンバーのメイクも強烈。まるでブラック・メタル・バンドのように見える。


Jeddy:これはディレクターを務めてくれたBIG ASSMooによるアイデアで、彼は映画『マッドマックス』『ローン・レンジャー』のようなメイクにしたかった。泥の中から這い上がってきたようなメンバーの雰囲気を作りたいと思っていたんだけど、最終的にはブラック・メタルっぽくなってしまった。ハハハッ。でも結構気に入っているんだ。


どちらの映画にも白塗りのキャラクターが登場するが、ここでは楽曲のテーマに合わせ、汚染されたヘドロまみれの感じを追加表現したのだろうか。なんにせよ、インパクトがあることは確か。

そのほかの注目点として、今回の曲には、2007年にアルバム『Hangman』をリリースしたロック・バンドHUNGMANのギタリストKayが歌で参加。存在感と説得力のある印象的なメロディを担当している。


Jeddy:これはプロデューサーであるBIG ASSOakによる発案なんだ。彼はここでパワーのある声を求めていたんだけど、Kayは毎週日曜日に教会で歌っていることから適任じゃないかということになって、フックの部分で歌ってもらうことにした。ミュージック・ビデオにおける彼の役割は人間性を裁く判事のような感じかな。この曲はコンサートで俺たちと一緒にファンに歌ってほしいと思って作ったんだけど、思い通り上手くいったよ。


なお、Kayは近年、BODYSLAMBIKINIAREA 51GREEN BELLのメンバーらと共にTEETHINGというKORNのカヴァー・バンドでも活動している。

メタル復興だ!やるっきゃねぇ!NOW OR NEVER!

実は、今回のシングル「Human Parasite」Vom RecordsからNOW OR NEVERというプロジェクトでの発表となっている。これはどのようなプロジェクトなのだろうか。


Jeddy:BIG ASSのベーシストOakLABANOONのドラマーMayVom RecordsのCEO(最高経営責任者)なんだけど、タイのメタルをサポートしてこれまで以上にシーンを盛り上げていこうとしているんだよ。彼らはメジャーな音楽業界で成功した人たちだけど、それ以前はメタル・シーンで育ってきたからね。それで、NOW OR NEVERというプロジェクトを立ち上げて、TRAGEDY OF MURDERRITALINNHAREMM BELLLAST DREAMG6PDUGOSLABIERBORN FROM PAINEMPTY GLASS MEANS NOTHINGという8バンドを選出したんだ。


LABANOONは90年代後半に登場して一躍有名バンドの仲間入りを果たしたバンド。彼らの場合、ヘヴィな曲もあることにはあるけれど、ロック/ポップ・バンドという印象のほうが強いかもしれない。しかし、2006年に一度活動を停止し、数年後に復帰した際、新たに招かれた二代目ドラマーがMay。彼は00年代後半にエモ系のOBLIVIOUSに在籍していた人物だ。ライヴでもパワフルな演奏を披露している。

なお、長年活動を停止していたOBLIVIOUSだったが、シーン復帰第一弾シングル「Blacksmith」を2019年に発表しており、そこでドラムを叩いているのもこのMayである。

また、90年代後半から活動を始めたBIG ASSは、タイにおけるエモ、メタルコアという時代を通過しながらヘヴィな曲からポップな曲まで幅広く取り入れ、大人気ロック・バンドとして長年君臨している。

OakMayともにタイのトップ・バンドのミュージシャンとしてメジャー—ある意味ポップな世界—で成功者として活躍しているのにもかかわらず、このようなメタル復興プロジェクトを開始したということは非情に感慨深く、また、それだけの地位にある者たちが小さいながらもレーベルを立ち上げて音源の発表やライヴの場を提供しているのも頼もしい。

今回選出された8バンドを見てみると、デスコアのTRAGEDY OF MURDERG6PD以外は、エモやポストハードコア系から派生したバンドが多いが、少し変わったところでは、ラッパーのPP'DREAMSLASTHOPERによる新企画のニュー・メタル・バンドLAST DREAMがいる。また、EMPTY GLASS MEANS NOTHINGはタイでも珍しいサザン・ロックの影響下にあるメタルコア。今回発表した新曲「Standing Untold」はかなり洗練されてキャッチーになっている。

LAST DREAM「Ratchet Head」Feat. บอล ANNALYNN

ANNALYNNのヴォーカリストBonがフィーチャーされている。

EMPTY GLASS MEANS NOTHING「Standing Untold」

純粋なる情熱で奮闘するメタル情報サイトHEADBANGKOK

2019年に私がこのサイトで執筆を担当した『タイのメタルにエールを』シリーズで何度もお伝えしたように、現在のタイの音楽シーンにおいてメタルが多くのタイ人に人気がある音楽なのかと問われれば、そうではないと答えるしかない。それは先にJeddyが「もうロックがメインストリームに戻ることはないね」とコメントしたことからもわかるだろう。


Jeddy:今のタイではヒップホップがかなりの人気なんだ。それにフォーク・ミュージックも関心を集めている。これまでに流行はかなり変わってきているよ。エモの後に、レゲエやスカがきて、その後はポスト・パンク、ガレージ・ロック、そして、インディ・ロック、ポストロックといったようにね。


このようにメタルやロックの勢いが衰えて久しいタイの音楽シーンではあるが、この2020年からOakBIG ASS)とMayLABANOON)によるVom Recordsがヘヴィな音楽をサポートするという挑戦は評価に値する出来事だ。ただ、今年は、武漢由来の新型コロナ・ウイルスのパンデミックが世界のエンターテインメント界に水を差すことになったのが悔やまれる。

それでも長年にわたってメタルをサポートしてきた人たちもいる。例えば、KLUAYTHAIのヴォーカリストSBanana RecordBlackat Recordsで多くのバンドのアルバムをリリースしてイベントも行ってきた。BLAST Magazine<Yos Fest>などのイベントを立ち上げたYosもシーンでは重要な立場にいる。

しかしここでは、冒頭でもお伝えしたように、JeddyHEADBANGKOKというメタル・サイトを運営して国内外のメタル情報をタイ国内に伝える役割も担っているので、彼にHEADBANGKOKとは何かを尋ねてみた。


Jeddy:親友であるCharlieと一緒に2013年に始めたんだよ。俺が彼を誘ってウェブサイトを作って俺たちの好きなメタルのレビューや記事を書き始めた。趣味の延長みたいなものだったんだけど、すごく多くの人たちが興味を持ってくれたことに驚かされたよ。それから徐々に発展してきたんだけど、まだ収入はないんだよね(笑)まあ、お金は稼げないけど、タイのロックやバンドのプロモーターとしてこのHEADBANGKOKという場所を活用するのが目的なんだ。これを続けることで、タイの音楽業界がより良くなっていくことを願っているのさ。

種まく人

このように、JeddyHEADBANGKOKの運営を行っていることから、TRAGEDY OF MURDERはタイ国内のメタル・ファンにとっては馴染みのある名になっているが、国外での認知度はまだこれからといったところ。

けれども、わずかながらも兆しも出てきた。結局は健康上の理由から見送られることになったが、今から2年前、台湾の<Taiwan Death Fest 2018>に出演する予定もあった。さらに今年(2020年)の夏も台湾の<搖滾台中(Rock In Taichung)>に出演するはずだったが、パンデミックの影響から、オンライン形式で7月17日、18日に開催となった<搖滾台中(Rock In Taichung) STEP UP ! 做伙勇敢!>へ演奏したビデオを送ることに。

せっかくの海外公演の機会が二度連続して不運に見舞われてしまったが、海外で名前が挙がるようになってきたということは、今後さらに名が知られる可能性もあるだろう。

思い起こすと、まともにギターが弾けないのに発起人となってバンドを結成したギタリストのBankはハチャメチャだったかもしれない。しかし、これまでのあらゆる国におけるバンドの歴史を紐解けば、最初は楽器が演奏できずに弾いているふりだけしていたという話も出てくるわけで……。ともかくも、自身は離脱してしまったが、離散しても不思議ではない状況だったのにもかかわらず、結果としてBankが種を蒔いたTRAGEDY OF MURDERというバンドが残ったメンバーによって育てられ、タイのメタル界で生き残ってきたことが素晴らしいではないか。

そしてJeddyHEADBANGKOKで情報を、TRAGEDY OF MURDERで音楽を伝えながらメタルの種をタイに蒔いている。

思い浮かべるのはイエスのたとえ話か、ミレーの絵画か。

蒔かれた種のほとんどは、アスファルトの上で干からびるかもしれない。芽が出ても動物に食べられるかもしれない。育ちはしても日陰で養分が足らずに実をつけることなく枯れてしまうかもしれない。時季外れで肥沃な土地とは呼べないその場所では、それが関の山なのではないかと落胆することもあるだろう。明日の見えない我慢の時期だ。

それでもJeddyは自分の大切な大地に根ざして種を蒔き続ける。刹那を満たすために種を食べ尽くすことなく、いつかは実る大地を想い描きながら、明日を祈りながら。

ならばその姿はゴッホの描いた“それ”にちがいない。

燃ゆる夕日を背にして男は種を蒔く。暗く重い色調のミレーのものとは対照的に金色の色彩が全体から湧き上がってくるかのようだ。日が暮れようとしているのにもかかわらず異様なまでの輝きを放つ“それ”は、多くの先達が耕やしてきたこの大地にて、いつの日か必ず芽が出て実りがあることを確信させる希望の光である。

決して楽とは言えない状況の中、Jeddyの蒔く種はそういう種だ。いつの日か、貼り絵画家である深町めいしゅう『田園』に見られるような力強い躍動感と金色に揺れる稲穂という実りに溢れた世界が広がるはず。

けれども、ゴッホが長い年月をかけてその思想を『種まく人』へ投影させたように、深町めいしゅうが数十万枚もの紙を納得するまで貼り続けるように、それは気の遠くなるような道のりになるかもしれない。

それでも、Jeddyの努力によって生み出された因は、やがて縁によって大切に育てられ、成果へと繋がっていく。そんな道理が絵画のようにありありと目に浮かんできた。

今夜は少しばかり心軽やかな気分だ。ニガヨモギが入った酒をあおることにする。