アジア金属マル秘発掘報告 〜インドネシア|GODDESS OF FATE〜

アジアのメタルシーン
埋もれた秘宝を発見せよ!世界各地にはまだまだ知られざるバンドがうごめいている。ここではアジア圏に的を絞って探りをいれて掘り起こし、簡単な調査報告をしていく。その価値は未知数。
今回はインドネシアのプログレッシヴ・デス・メタル・バンドGODDESS OF FATE
金属名:バンドGODDESS OF FATE
産出地:ジョグジャカルタ特別州

インドネシアからGODDESS OF FATE

2019年11月14日に新宿のWidlSide Tokyo、翌15日も新宿地域のAntiknockと東京で2公演行ったインドネシアのバンドがいた。

その名はGODDESS OF FATE

特別知名度が高いというわけではないが、あらゆるエクストリーム・ミュージックからアコースティックまでの幅広い音楽要素を盛り込み、起伏に富んだプログレッシヴな音楽を演奏するバンドで、彼らのあつかう歌詞の世界も興味深いものがある。

それでは、バンドのスポークスマンで創設者、ベースを担当するOkta(Ahmad Okta Oerdana)に話を聞いてみることにしよう。
Okta

Okta

GODDESS OF FATEのベーシスト
まずは簡単にGODDESS OF FATEの成り立ちについて話してもらった。

Okta:バンドの皆を代表して俺が答えよう。このGODDESS OF FATEは2008年に結成したんだ。俺とSaka(ギター)が高校生の時にね。それ以前は、TRIVIUM、LAMB OF GODとかそんな感じのバンドをカヴァーしていたんだよ。00年代中期にはそういうのが人気だったから。でも2、3カ月して俺の友人Dicky Faizalがヴォーカルをやりたいと言ってきた。そして、Fiqih NA(ギター)とImanuel Dedhy(ドラム)が加入したことでGODDESS OF FATEの第一期が出来上がったんだ。バンドの初期は、アメリカのメロディック・デス・メタル(誤解を避けるために“メタルコア”とは言わないよ)とDREAM THEATERSYMPHONY Xのようなモダンなプログレッシヴ・メタルからかなり影響を受けていた。それから時が過ぎて、メンバーと音楽の変更が何度も行われていくことになる。今はあらゆるものから影響を受けている。俺たちは何でも聴くんだ。現在のメンバーは俺Okta(ベース、バッキング・ヴォーカル)と、 Dicky Faizal(ヴォーカル)、Revanda Verdian(ドラム)、Yogi Yudistira(ギター)、Saka Pramudita(ギター)。ツアーやライヴでの演奏は、友人たちの助けを借りこともある。俺たちはそれぞれに仕事や家庭での役割を果たさなければならないからね。で、いつも手伝ってくれるのはDEADLY WEAPONLEFTY FISHJohanes Arya(ドラム)、そしてShanif Ridha Jaya(ギター)だよ。

GODDESS OF FATE
Dicky Faizal:ヴォーカル
Saka Pramudita:ギター
Yogi Yudistira:ギター
Ahmad Okta Oerdana:ベース、バッキング・ヴォーカル
Revanda Verdian:ドラム

ライヴ/ツアー要員
Shanif Ridha Jaya:ギター
Johanes Arya:ドラム(DEADLY WEAPONLEFTY FISH
GODDESS OF FATE

GODDESS OF FATE

運命は絶対。バンド名はゲーム『キングダム ハーツ』から

GODDESS OF FATE(運命の女神)というバンド名は少々意味深な感じもする。なにか特別な理由でもあるのだろうか。

Okta:俺たち全員ゲーマーなんだよ。Sakaは日本のRPGの熱烈ファンでね、彼のお気に入りのひとつは『キングダム ハーツ』シリーズなのさ。で、そのゲームのミッションに“Goddess of Fate Cup(運命の女神カップ)”というのがあるんだけど、ある日のリハーサルに彼がそのゲームを持ってきたことがきっかけで、今までずっとその名前が使われているんだ。まぁ、始まりはそういうことなんだけど、もしも、それがバンドにとってどのような意味を持つのかと言うのならば、こう答えよう。俺たちはこの世界ではただの操り人形に過ぎないと思っている。この考えを広めたかったんだ。というのも、この世界で人々が何をしようが意味はないんだ。世界を支配しているのは我々じゃない。この広大な宇宙では無意味な存在なんだよ。支配しているのは“運命”なんだから。“運命”は永遠。“運命”は絶対なのさ。

ここで言う“運命”とは、わずかに悲しさもはらむ宿命とも言えるようなもの。自分自身ではどうしようもない、人智を超えた“なにか”を彼は信じていることになる。

THE FACELESS、NECROPHAGISTのように:『Irrational』デモ(2010)

GODDESS OF FATE『Irrational』デモ

GODDESS OF FATE『Irrational』デモ

収録曲
01.Praxis 02:01
02.Putaran Sistem 02:58
03.Anubis 03:47
結成の翌年からシングルを出していたようだが、バンドにとって初となるまとまった音源は、「Praxis」「Putaran Sistem」「Anubis」の3曲を収録して2010年に発表した『Irrational』というデモということになる。今から約10年前だ。最初の回答にあったように、現在までに彼らは音楽的な変化を何度か行ってきた。この当時はどのようなスタイルだったのだろうか。

Okta:実のところ『Irrational』は、THE FACELESS『Planetary Duality』、そしてNECROPHAGIST『Epitaph』でやったことをコピーしようとしたものなんだ。レコーディングしたのは2009年で、その頃、俺たちは19歳だったから今聴くとかなり恥ずかしいね。しかし、このデモの後、バンドは長い道のりを歩むことになる。レコーディング・スタジオに入ったのはあの時が初めてでさ、どうしたら良いのかわからなくて、何をやっても上手くいかなかった。それでも俺たちは心の底から誠実にやったんだ。後に、このデモによってバンドがジョグジャカルタで知られるようになったことがわかったよ。「Praxis」「Putaran Sistem」の頃から俺たちのことを知っているって言ってくれる多くの人々に出会うことになったから。

伝統音楽や伝統工芸、80年代にフュージョンが流行ったことをなどを含めて、インドネシア人は昔から緻密な作業やテクニカルなものが得意、もしくは好む傾向があるように感じられるが、彼らもまた、THE FACELESSNECROPHAGISTといったテクニカル志向のバンドに憧れ、追随しようとした。

ジョグジャカルタってどんなところ?

『Irrational』デモの翌年、バンドは『A Reversal Civilization』EPにてデビューとなるのだが、その直前、EXHUMATION(デス・メタル)、そしてNOCTURNAL KUDETA(デス・メタル)といったジョグジャカルタのバンド仲間とスプリット・アルバムを発表している。

話は前後してしまうが、彼らの地元ジョグジャカルタはインドネシアの古都とも呼ばれる。首都ジャカルタがあるジャワ島のほぼ中央の南海岸に位置する特別州で中心となるのはジョグジャカルタ市。しかし、そこがどんな町なのかすぐに思い浮かぶ人も少ないだろう。彼の口から直接語ってもらうことにした。

Okta:ジョグジャカルタは、現在も君主制を維持しているインドネシアの州の一つで、20世紀以前は王国だった。ここは、舞踊、バティック(ろうけつ染め)織物、演劇、文学、音楽、詩、銀細工、視覚芸術、操り人形劇のワヤンなど、古典的なジャワの芸術と文化の重要な中心地と見なされている場所なんだよ。それにインドネシアでもっとも落ち着いた町の一つだね。多くの人々がジョグジャカルタで歳を重ねたいって言うんだ。俺たちはとても穏やかな人々だから。

このように王宮や伝統文化や芸能が残され、かつてはジャワの中心として栄えたことから古都と呼ばれているのだ。また、周囲にはプランバナンやボロブドゥールといったヒンドゥー教や仏教の世界的に有名な遺跡も点在している。

それでは音楽シーンについてはどうだろう。

Okta:ジョグジャカルタの音楽シーンが知りたいのならこの町にいなきゃダメさ。俺の言っていることを信じてくれないだろうけど、ここにはあらゆる音楽の要素があって、数多くの音楽シーンがあるんだ。ズブズブのアンダーグラウンド・メタルからメインストリームまでね。この町のシーンでもっともクレイジーなのは<Jogja Noise Bombing>というアジア最大のノイズ音楽フェスティヴァルがあること。想像できる?もうジョグジャカルタの人々は音楽なんて聴かないくらいにぶっ飛んでるのさ。だって俺たちは“ノイズ”を聴いているくらいなんだからね。もちろん、メタル・バンドもたくさん存在している。2020年2月8日には<INDONESIAN DEATHFEST - Chapter Jogja ->があった。ここのメタル・シーンを知りたいならDEADLY WEAPONHEADKRUSHERWARMOUTHCLOUDBURSTを聴いてみて。あと、俺たちの友人でもあるEXHUMATIONは3枚目のアルバム『Eleventh Formulae』をリリースした。今年最高の1枚になると思う。

インドネシアはもとより、世界中からノイズ系のミュージシャンが集結するフェスティヴァル<Jogja Noise Bombing>は2013年から開始されている。

また、今年の<INDONESIAN DEATHFEST - Chapter Jogja ->には、ジョグジャカルタの大御所DEATH VOMIT(2015年12月に来日)のメンバーが在籍するVENOMED、ベテランのDEVOUREDを始めとしてDETRITIVORDEATH ARTERYANTHROPOPHAGUS DEPRAVITYHORUSHTUMENGGUNGVENOMOUSMURDER27DISGORGEMENTといった新旧交えた地元のバンド。他地域からはPARANOID DESPIREKILLER OF GODSPREDATORなどが参加したと思われる。ちなみに、デスフェストと銘打ってはいるものの、デスやグラインド系に混ざってTUMENGGUNG(ヘヴィ・メタル)やMURDER27(スラッシュ・メタル)も出演している。
INDONESIAN DEATHFEST - Chap...

INDONESIAN DEATHFEST - Chapter Jogja - 2020

ここではジョグジャカルタのシーンを知ってもらうため、Oktaの勧めるバンドがどのような音楽を演奏しているのかを紹介しよう。

DEADLY WEAPON - Only Lovers Left Alive (Official Video)

2019年に発表されたDEADLY WEAPONの『Hell Or High Water』EPから「Only Lovers Left Alive」

EXHUMATION "Mors Gloria Est"

2020年に発表されたEXHUMATIONの3rdアルバム『Eleventh Formulae』から「Mors Gloria Est」

RUSHのように:『A Reversal Civilization』EP(2011)

さて、ジョグジャカルタがどのような地域なのか少し理解していただいたところでGODDESS OF FATEの歴史に戻ろう。
GODDESS OF FATE『Reversal Ci...

GODDESS OF FATE『Reversal Civilization』EP

収録曲
01.Demolition 01:28
02.Anubis 03:47
03.Broken Conception 00:43
04.Praxis 02:02
05.Putaran Sistem 03:00
6.A Reversal Civilization 11:33
バンドは2011年12月25日に『A Reversal Civilization』EPを発表することでデビューする。収録されている曲の大半は既存の作品だが、EPを締めくくるタイトル・トラック「A Reversal Civilization」は新曲。Ⅰ.TEMPLE OF ATLANTIS、Ⅱ.Collaptionist、Ⅲ.Zeroと3つのパートから構成された11分を越える本作のハイライトと呼ぶにふさわしい力作だ。
これまでは2分から3分ほどのコンパクトな作風だった彼らはどうしてこのような大作を制作するに至ったのだろうか。

Okta:このEPの最後のトラックはTHE FACELESSの模倣から脱却して自分たち自身を見つけたときのもの。この曲をレコーディングした後、「俺たちは今後こういう音楽を演奏していこう」と決めたんだ。当時、俺とSakaは人類文明について多くのことを学んでいたんだけど、「我々は自分たちで生み出したすべての武器をもってして石器時代へと戻ろうとしているのではないか」ということに気づいたのさ。アインシュタインは「第三次世界大戦がどのような武器を用いて戦われるのかわからないが、第四次世界大戦は石と棍棒だろう」と言っている。テクノロジーへの依存度が高ければそれだけ原点に戻っていくということを俺たちは伝えているんだ。それと、そのとき俺はプログレッシヴ・ロックのコンセプト・アルバムをいっぱい聴いていたんだけど、この曲はRUSHニール・パートよ、安らかに)が「2112」でやったことを見習ったもの。おかげで何故に多くのプログレッシヴ・ロック・バンドたちが長い曲を作るのかが理解できた。彼らは言いたいことが多いんだ。当時の俺たちもそうだった。

今年に入ってからインド、中国との国境地帯に両国の軍隊が集結して緊張が高まっていたが、6月16日に衝突起こり、死者が出た。しかしこの時に使用されたのは重火器ではなく石や警棒などだったとか……

丁度良いタイミングでこんなニュースが出てきたのでについ取り上げてしまったけれども、これは今の話にあまり関係ないだろう。

ともかく、テクノロジーが発達すれば、それだけ強力な武器が作れてしまう。それを身勝手に使用してしまえば世界を一掃してしまうことにもなりかねない。そのなかで仮に生き残った人々がいたとしても、あとに残るのは文明とテクノロジーの残骸、ガラクタだ。しかも生活のほとんどをテクノロジーに依存するようになった人々は生きるための根本的な知識や技術を失っている。ポストアポカリプスのような世界で「衣食住」といった基本、つまり原始から学び始める必要があるということか。どれほど高度な技術を手に入れても思慮深さを欠いた使い方をすれば無意味となってしまう。

さらに、ここ数年で真実味を帯びてきたシンギュラリティ(技術的特異点)も気になるところ。今のところ表向きには便利に使いこなす方向で開発され使用されている人工知能(AI)ではあるが、技術は指数関数的に驚くような速度で進歩していると言われ、人類を超えた知能を持つのも時間の問題だとされる。その時の人と人工知能の力関係はどうなっているのだろうか。トランスヒューマニズムの世界に移行するのだろうか。それとも映画『ターミネーター』のような世界だろうか。

そういえば、本作のアートワークはロボットが町を破壊している様子が描かれている。

Okta:これはロボットが人類を乗っ取ろうとしているところ。描いてくれたのはTata Wijana。もう何年も連絡が途絶えているけど元気でいてくれればいいね。映画『ブレードランナー』のコンセプトを彼に伝えて制作してもらったんだ。

なるほど、Okta『ブレードランナー』のようなディストピア的世界観を反映させたかったのか。映画のストーリーは控えるが、こんなEPを12月25日に届けてくるとはなんとも皮肉めいたクリスマスの贈り物である。

物質にとらわれた文明は崩壊してゆく

 (27177)

「Not everything that can be counted counts, and not everything that counts can be counted」(Einstein)

これは3面開きの紙ジャケットの中央に収納されているCDを取り外すと現れる言葉だ。

意味合いとしては「数えられるものすべてが重要なわけではなく、重要なものすべてが数えられるわけでもない」ということで一般的には、アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)の言葉として広まっているようだが、本来は社会学者のウイリアム・ブルース・キャメロン(William Bruce Cameron)の言葉とされる。

ここでは誰が言ったかはともかく、含蓄あるこの言葉を取り上げた理由が気になる。数字に操られ、目の前のことを機械的にスピード処理するだけで精一杯となった忙しい現代人には耳が痛い。

Okta:俺がこの言葉をどのように見ているかというと、まず、この世界は形ある物質と形のない非物質から構成されている。人類は概して物質的に世界を見てきた。そこに物体があるならば、その物の長さ、幅、高さなどで証明する必要がある。物質はその意図なしにはありえないということに彼らは気づいていないのさ。で、ここで言う意図とは、非物質のことなんだよ。我々はそれを見ることもできなければ感じることもできない。つまり、俺たちが伝えたいのは、その背後に意図や真意といったものがなければ無価値になることがあるということ。このEPではその考えを聴き手に投げかけたいんだ。人間は最も進んだ文明を持つことができるけれど、そこに気づかなければその文明は崩壊していく。そう、我々はことごとく失敗し続けることになる。

太古の昔、現在よりも遥かに高度な文明が栄えていたという学校で習うことのない超古代文明。しかし、おごり高ぶった者たちは堕落して滅びるか、さらに大きな力に滅ぼされるか、私利私欲にまみれて争い潰し合うか、蝗害のように食い散らかしてしまうか。いずれにせよ、そのどれもが消滅。見た目ばかりの大きな発展、調和を無視した巨大な力と引き換えに大切な何かを失ったのだろう。人類の歴史はこのような繰り返しなのだという話もある。

そもそも人間そのものが物質と非物質から成り立っているという考えや、万物に意識が宿っているという汎心論。さらに、人が見ることのできる物質は宇宙の4%のみで、あとは未知のダークマターとダークエネルギーが占めているという説もあることから、形として見えるものだけ、物事の表層だけを捉えて判断したり、わかったつもりになるのは崩壊を招く一歩となるのかもしれない。

こんなことを言うと少々怪しい話になりそうだが、なにも小難しい言葉を持ち出してこの話をする必要はないのだ。

「こころで見なくては、ものごとはよく見えない。かんじんなことは目に見えないんだ」という『星の王子さま』(サン゠テグジュペリ著)に出てくるきつねの名セリフが簡潔に説明しているように思う。さらに、古来から万物に魂や神が宿ると考えてきた日本人ならば目には見えないものの存在と重要性を直感的に理解できるのではないか。

ところが残念なことに、現代はファストなもの、安価で使い捨てが可能なものが便利であるともてはやされ溢れかえっている。このように即物的で合理的な社会が推し進められている状況では、そんな基本的なことすら忘れ去られようと(忘れさせようと)しているかのようにも見えるのだ。

だとするならば、一見、豊かに発展した時代へと進んでいるようでも、実は崩壊へと歩みが進められているとするのもうなずける話だ。

もしもこの発展と崩壊の繰り返しこそがどうにも回避不可な人類の“運命(Fate)”だとしたらなんと悲しいことか。“運命の女神(GODDESS OF FATE)”は人類を慈しんではくれないのだろうか。

数えられるものすべてが重要なわけではない

前述のOktaの解説は少々理解するまで時間がかかるかもしれないので勝手に適当な解釈をしてみたが、それが正しいとは言い切れない。ここで今一度、「数えられるものすべてが重要なわけではなく、重要なものすべてが数えられるわけでもない」という言葉、そして物質、非物質との関係について説明してもらうことにした。

Okta:俺はそこで何が実在していて何が実在していないのかについて言及している。人々は五感で知覚できるできるものが実在しているものだという。つまり、聞くこと、見ること、触れること、味わうこと、香りを嗅ぐことができるもの。唯物論は、存在するものは物質とエネルギーだけであり、すべてのものは物質で構成され、すべての行動はエネルギーを必要とし、すべての現象は物質の相互作用の結果であると考えている。しかし、そこから問題が生じてくる。アイデアや思考、架空のキャラクターの場合はどうだろう。例えば、世界中の子供たちは“実在”した歴史上の人物よりもスーパーマン(アメリカン・コミックスのヒーロー)を模範としてきた。この事実は、ほかの模範的な人々よりもスーパーマンをより現実的なものにしただろうか。ときとして、それが実在(従来の意味合いで)しているかどうかなんて関係ないことだってある。重要なのはそれが人々にどのような影響を与えるのかだよ。実際の人間は物質的な対象として数えることができるけど、なんら影響を与えない場合だってある。DCコミックス(アメリカの漫画出版社)は1993年にスーパーマンを殺すことを決定し、ピープル(雑誌)やワシントン・ポスト(新聞)といった主要メディアで大きく取り上げられることになった。そしてDCコミックスの郵便受けにはファンからの怒りの手紙が山のように届けられたんだ。これは実態のない架空のキャラクターだよ。まさに「数えられるものすべてが重要なわけではない」ということを示しているよね。

復活へ向けて

GODDESS OF FATEがフルレングス・アルバム『Spiral Orchard Pt.1』を発表するのは2018年5月31日。『A Reversal Civilization』EPから6年以上の月日が経ってのこと。

Okta:2011年に『A Reversal of Civilization』EPをリリースした後、個人的な問題でFiqih(ギター)とDedhy(ドラム)が脱退したから新しいメンバーを探さなければならなかった。しかし、俺たちのやっているような音楽に興味を持ってくれる人を探すのは簡単なことではないんだ。俺たちと同年代の人々の多くはプログレッシヴな音楽を演奏することに興味がないんだよ。正直なところ、これでこのバンドは終わりだと思っていた。その頃は俺の新しいプロジェクトCLOUDBURSTに幸せを感じていたんだ。ちなみに、このバンドのドラマーJustiawan Yudhaは、2012年から2013年にGODDESS OF FATEのアディショナル・ドラマーとして手伝ってくれたこともある。で、2013年初頭にRevanda Verdianがドラマーとして加入してくれることになった。それで俺は再びやる気を取り戻すことができてバンドを復活させたのさ。それに友人のMade DharmaDEADLY WEAPONWARMOUTHSUNLOTUS)もギターで手助けしてもらったよ。彼がGODDESS OF FATEに在籍した時間は短いけれど、彼はほかにもやることがあるからね。その後、ドラマーにRevan、ギタリストにSaka、ヴォーカリストにDicky、そして俺がベースという布陣で2015年から『Spiral Orchard Pt.1』を制作し始めたんだ。

CLOUDBURST - Numbers

GODDESS OF FATEのベーシストOktaがヴォーカルを務めるメタリック・ハードコア/マスコア・バンドCLOUDBURST。2016年の1stアルバム『Crying of Broken Beauty』に収録。

1stフルレングス・アルバム『Spiral Orchard Pt.1』(2018)

ドラマーRevan(Revanda Verdian)の加入によって解散の危機を脱したGODDESS OF FATEは、2016年12月から2017年10月まで約1年の時間をレコーディングに要して『Spiral Orchard Pt.1』を完成させている。

「A Reversal Civilization」で方向づけることになった複雑な構成のプログレッシヴなスタイルは、やはり一筋縄ではいかないものなのであろうか。

Okta:きちんとしたバンド構成員が4人いてもプログレッシヴ・メタルのアルバムを制作するのは大変だということがわかったよ。日々の仕事や、責任を持ってやらなければいけないこともそれぞれに抱えているから、練習したり曲をアレンジする時間を設ける必要がある。それに多くの構造によって長い曲になっているから時間がかかるんだ。それでもなんとか2016年末に曲を完成させることができだ。それで12月からWatchtower Studioに入って、翌年の10月にレコーディングを終えることができたんだ。レコーディングに時間がかかったのは、多くの修正があったことと、コラボレーターたちにスタジオの時間を提供しなければならなかったから。ジョグジャカルタのシーンで名のある人々が協力してくれた。プロデューサーのBable Sagalaには敬意を表すよ。

Bable Sagalaはスラッシュ・メタル・バンドMETALLIC ASSのドラマーだが、時折、Watchtower Studioでエンジニアを務めることもあるジョグジャカルタのシーンを支えている一人。

アルバムには、そのBable Sagala「Aromantic」にアコースティック・ギター、バッキング・ヴォーカル、パーカッションで参加するほか、HEADKRUSHER(スラッシュ・メタル)のギタリストAgustinus Aryo Lukisworo「Discovery」「Enshrouded In Crystals」に。DEADLY WEAPONのヴォーカリストJay「Enshrouded In Crystals」に。ノイズ・バンドASANGATAWednes Mandra「Aromantic」「Bipolar Elixir」 でヴォーカル、そして「Limbo」でプログラミングを。さらにOktaも関わっているLKTDOV(ポストロック/ポストハードコア)のメンバーで、さらにノイズ・ミュージシャンとしても活動しながら<Jogja Noise Bombing>の創設者の一人でもあるIndra Menusなどの名前が見受けられる。
今回はゲストも多彩だが、デス、ブラック、ハードコア、プログレッシヴな構成にとどまらず、アコースティックな「Aromantic Pt.1」「Aromantic Pt.2」、アンビエントな「Limbo」、クラシカルな「Pillars Of Autumn」などさらに音楽性を広げ始めた。音楽面でのコンセプトに何か変化があったのだろうか。

Okta:音響的には70年代のプログレッシヴ・ロック、90年代初期の(スウェーデンの)ヨーテボリ・デス・メタル、そして日本のロールプレイングゲームのサウンドトラックなどから影響を受けている。音楽は、まるでロードマップが進行しながらチャート化していくように不協和音のリフとデス・メタルのヴォーカルで演奏される陰気で内省的なもの。テンポは常に変化するけれど、味わい深さがある。アコースティックギターによるミッドテンポ・セクションは、より静かなヴォーカルの前後に織り込まれ、ほろ苦い穏やかさを感じさせる。そしてそれは聴くたびに清澄な小川の流れのように進行するのさ。

それでは、その変化に富みながらも流れるように展開する『Spiral Orchard Pt.1』がテーマにしたものとは何だろう。

Okta:テーマは精神的な問題を抱えている人に関するもの。だから曲のタイトルに「Bipolar Elixir」「Aromantic」「Limbo」というのがある。そして彼らはあがきがらも最終的にはそれを受け入れ、うまく付き合うようになっていくということ。その部分は「Enshrouded In Crystals」「Pillar Of Autumn」で表現されている。このアルバムはいわゆる寄せ集めの“名曲集”的なものではなく、最初から最後まで1つのことを提示したアルバムなんだ。
GODDESS OF FATE『Spiral Orch...

GODDESS OF FATE『Spiral Orchard Pt.1』

収録曲
01.Aromantic Pt.1 03:06
02.Bipolar Elixir 07:54
03.The String's Eclipse 08:29
04.Aromantic Pt.2 02:49
05.Limbo 03:41
06.Discovery 04:55
07.Enshrouded in Crystals 10:18
08.Pillar of Autumn 04:49
ということは、エッシャーをサイケデリックにしたような雰囲気で顔がいくつも連なるアルバムのアートワークは混沌とした精神の世界と重なり合うさまざまな人格を表現したものだろうか。もう少し具体的にアルバムの内容を説明してもらおう。

Okta:アートワークはOik Wasfuk氏によるもの。俺たちが仕事をしてきた中でも最高のアーティストだね。彼はWATAIN『Trident Wolf Eclipse』(2018)も描いているよ。そんな彼と仕事ができて光栄さ。(*Oik Wasfukは地元のHEADKRUSHER、日本のABIGAIL、シンガポールのINFERNAL EXECRATOR、インドのTETRAGRAMMACIDEなども手掛けている)。『Spiral Orchard pt.1』の歌詞は精神疾患患者についての非常に具体的なイメージ、特性、状況を思い起こさせるものになっている。俺たちは深く広く共鳴する感情を探求する方法としてこのテーマを選んだ。ハッピーなアルバムではないけれど、だからといって悲しいものでもない。例えば「Enshrouded In Crystals」を例に取ってみよう。愛する人を守ることが、その人物をコントロールする必要性に変わるんだ。その人物というのが主人公の彼自身。だから彼は愛する人を守るために隠れる必要があり、自分自身を閉じ込めなくてはならない。このアルバムは精神的な問題に関するものだから、彼らの精神状態を理解する必要がある。彼らは皆さまざまな気分に対処するけど、時にはそれらが互いに反発しあう。彼らは幸せであるけど、悲しくて、怒っているし、落ち着いてもいる。そういう気持ちを表現するにはあらゆる音楽要素が必要なんだ。俺たちはCAMEL『Moonmadness』マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)『スリラー(Thriller)』OPETH『Morningrise』ブライアン・イーノ(Brian Eno)『Before and After Science』ニック・ドレイク(Nick Drake)『Bryter Layter』などを聴いているし、上松伸夫によるファイナルファンタジーのサウンドトラックのようなビデオゲームなどからもインスピレーションを得ているのさ。

なるほど。あらゆるジャンルの音楽を手本に、主人公の複雑で混沌とした精神状況を表現していることがわかった。しかし、精神疾患をコンセプトにしながらも、話(曲)が物語のように綴られて進行していくわけではなく、あくまでも一つのテーマとしてそれを取り扱ったコンセプト・アルバムとのこと。

ところで彼らはこのアルバムから「Aromantic Pt.1」というアルバムの序章部分となるアコースティック曲をミュージック・ビデオとして制作した。どうしてメタルではない曲を選んだのだろうか。

Okta:2017年12月に1stシングルとして「The String Eclipse」を発表しているんだよ。それは俺たちのメタルな側面を集約した曲。このアルバムは双極性障害を扱ったものだから2曲目はソフトな面を押し出した曲をシングルにしたんだ。実際、多くの人が驚くことになった。彼らは俺たちが音楽ジャンルを変えると思ったんだよ。でもそれが俺たちが望んでいた反応だね。逆らう性分なのさ。 

GODDESS OF FATE - Aromantic Pt.1 (Feat. Wednes Mandra)

孤独の中で:パート1とパート2を繋ぐシングル「The Orchard Gardener」(2019)

GODDESS OF FATE『The Orchard...

GODDESS OF FATE『The Orchard Gardener』シングル

彼らは2019年10月にシングル「The Orchard Gardener」を発表した。これは『Spiral Orchard Pt.1』と今後予定している『Spiral Orchard Pt.2』の間の“インターミッション”という説明がされていたがどう見ても繋がりがあるように思える。

Okta:あるよ。『Spiral Orchard Pt.1』の最後で主人公は隔絶された状態にある。「The Orchard Gardener」は、その孤独の中で過去の行動を回想するんだ。詳しくは話せないけれども、『Spiral Orchard Pt.2』でこの話は終焉を迎えることになる。アートワークはサークル・オブ・ライフ(人生の環)が描かれていて、我々は主人公が生まれた日から骸骨になるまでを見ていることになる。これは俺の友人のMORS / Imago Mortisの手によるもの。彼はブラックメタル・アーティストでFALLENLIGHTというバンドを持っていて、DARKTHRONEFenrizがキュレーションしていたBand Of The Weekにも選ばれたことがあるんだよ。

プログレッシヴ・ミュージックは革新

アルバムから約1年。基礎となる部分に大きな変化はなくとも、より主人公の心理状況を反映させたような複雑な感情表現が演奏に反映されており、バンドとしてさらに一歩進んだところにある。

Okta:これからはこれが俺たちの音楽になると決めた。プログレッシヴ・ミュージックとは革新ということであって懐古ではないんだ。そうだな、OPETHは70年代のプログレッシヴ・ロックに向けた完全なトリビュートをしていてクールだとは思うけど、俺たちは進歩しなければならない。これまでにやってない音楽を作らないといけないのさ。これが俺たちにとってのプログレッシブの定義。革新だよ。

現メンバーに関して

音楽面では行き着くところまで行ってしまって、もはやアジア最大のノイズ・フェスティヴァルが開催される町になっているとOktaが話していた古都ジョグジャカルタ。

面白い表現だと思う。それでは、この地で、柔軟かつ貪欲に音楽の要素を取りれながら“プログレッシヴ=革新的”なメタルを演奏するGODDESS OF FATEとはどのような人たちの集まりなのか。

Okta:ベーシストの俺はマスコア・バンドCLOUDBURSTで活動していて、そこではヴォーカルを担当している。他にはポストロックのLKTDOVでもベースを弾いているよ。最近はエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージックをたくさん聴いている。

ギタリストのSaka Pramuditaは、すでに話したとおりビデオゲームの大ファン。そして俺の知る限り最高のDREAM THEATERファンだね。

ヴォーカリストのDicky Faizal Hudaはひょうきん者でバンドではコメディアンさ。

ドラマーのRevanda Verdianはグラム・メタルの大ファン。東京に行ったとき、彼はLOUDNESSのCDが欲しくてたまらなかったんだけど、残念なことに売り切れていたんだ。

ギタリストのYogi Yudistiraは物静か。彼がほかのバンドでベースを弾いていたとき、俺にベースの弾き方を教えてくれた人物なんだよ。

ライヴのときはJohanes Aryaにも手伝ってもらっている。彼はグラインドコアのDEADLY WEAPONやジャズグラインドのLEFTY FISH、シューゲイズのANNIE HALLで叩いているドラマー。そして、Shanif Ridha JayaSekolah Musik Indonesiaで講師をしているギタリスト。
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ヴォーカリストDicky Faizal
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ギタリストYogi Yudistira
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ライヴでのサポート・ギタリストShanif Ridha Jaya

初めての海外公演は日本だった

冒頭で触れたように、GODDESS OF FATEは2019年11月14日、15日と東京でライヴを行った。これは[Spiral Road Tour 2019]とタイトルされたツアーの一環で、第一弾を7月にインドネシアはジャワ島の主要都市で開催し、11月に第ニ弾として日本、シンガポール、マレーシアと海外公演を行った。おそらく彼らにとって初の海外公演が日本となったのではないか。

Okta:そう、初めて海外で演奏したのが日本なんだ。日本で演奏するのは夢だったんだよ。2公演とも最高だった。今でも信じられないよ。日本の人々に俺たちのことを広められるなんて凄いことさ。日本のバンドもみんな最高で、それにくらべたら俺たちなんて大したことないね。俺たちは日本が大好き。またすぐに戻るよ!

バンドは『Spiral Orchard pt.2』のプロダクションを年末から開始するつもりでいるようだ。
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ベーシストのOktaとヴォーカリストのDicky