アジア金属マル秘発掘報告 〜インド|DEVOID〜

アジアのメタルシーン
埋もれた秘宝を発見せよ!世界各地にはまだまだ知られざるバンドがうごめいている。ここではアジア圏に的を絞って探りをいれて掘り起こし、簡単な調査報告をしていく。その価値は未知数。
今回はインドのデスラッシュ・バンドDEVOID
金属名:DEVOID
産出地:マハーラーシュトラ州ムンバイ

インド産スラッシュ・メタル

インドから来日したAMORPHIA

2019年、2020年と続けてインドからAMORPHIAが来日、<TRUE THRASH FEST>を中心に大阪と東京でライヴを行ったことは衝撃だった。それはただ、“インド”からというだけではなく、南インドに位置するケーララ州アラップーザ県という大都市から外れた地域のバンドだったということもあるのだが。

彼らは初期のSODOMKREATORSLAYERをメインに、MERCILESSSADUSACCUSERDEMOLITION HAMMERなどからの影響を反映したオールドスクールなスラッシュ・メタルを標榜する3人編成のバンドだ。

2019年の来日時は、ベーシスト不在ながらギター兼ボーカルのVasu ChandranとドラムのVivek Prasadによる二人だけでの演奏。続く2020年は3人で来日したものの、実は正式ベーシストのFaizan Mecciがビザの問題で来日できず、代役にSujay Subhashを起用してのパフォーマンスとなった。

少々話はズレるが、Sujay Subhashはセッション・プレイヤー(ギター/ベース)として活動している人物。彼はバンドと友人関係にあるのみならず、これまでにもAMORPHIAで演奏したことがあったために選ばれたのだが、他にも元MOTHERJANEのギタリストBaiju Dharmajan率いるBAIJU DHARMAJAN SYNDICATEの一員としての経験もあることから、その腕は確かなことがわかる。

閑話休題。このように、どちらの来日公演も完全な状態ではなかったのだが、彼らのパフォーマンスはこの類の音楽に必要不可欠なエネルギーの迸りを存分に感じさせるものだった。

おそらくAMORPHIAのライヴを体験したメタル・ファンの中には、インドにはどのようなスラッシュ・メタル・バンドが存在するのか気になり始めた人もいるだろう。

ムンバイのDEVOID

細かいバンドは省くが、ここ数年国内外のマニアから注目を集めているスラッシュ系に属するバンドとなると、AMORPHIAと同じケーララ州出身で先輩にあたるCHAOS、西ベンガル州コルカタのARMAMENT、カルナータカ州ベンガルールのINNER SANCTUMTHEORIZEDSPEEDTRIP、マハーラーシュトラ州ムンバイのCARNAGE INC.SABOTAGESCEPTRESYSTEMHOUSE 33、そして最近はモダンなリフとグルーヴを強めに効かせるようになってきたが初期の頃はスラッシュ色も強かったZYGNEMAも仲間に入れても良いかもしれない。

ほんの一部だが、今、名前を挙げた中からも推察できるように、西のムンバイと南のベンガルールという大都市はメタルのバンド数も多く、名前の通ったスラッシュ・メタル系のバンドも他の都市よりも排出している。

そんな中で今回取り上げるのは、経済、商業、ボリウッドで有名なムンバイ出身のデスラッシュDEVOID

彼らの結成は2005年。2013年結成のAMORPHIAよりも前の世代だ。

同期のバンドで言うと、同じ2005年にはCHAOSTHEORIZEDBRUTE FORCE(マハーラーシュトラ州プネー)。2006年にはZYGNEMASKRYPT(テランガーナ州ハイデラバード)など。

比較的若い世代ならARMAMENTMORTAR(コルカタ)、ARMED ARK(ハイデラバード)、SABOTAGECARNAGE INC.HALAHKUH(プネー)、LUCIFER X(マニプール州インパール)など。

では、2005年より以前に結成されたスラッシュ・メタルはどうか。00年代に入ってからはドラマーが女性(Yasmin Claire)ということで話題になったMYINDSNARE(ベンガルール)や、完全なるスラッシュとは言えない部分もあるがPRESTORIKA(ニューデリー)も。90年代後半にはSCEPTRETHREINODY(ベンガルール)、DEMENTRA(ムンバイ)、METAKIX(ムンバイ)、SLEDGE(ハイデラバード)。そして90年代前半に結成されたBRAHMA(ムンバイ)やCRANIUM(コルカタ)もインドのメタル史上、重要な位置にあるバンドだと思う。また、1986年に結成されたMILLENNIUM(ベンガルール)も曲によっては十分にスラッシュ・メタルの範疇で語れるものをリリースしている。

となると、DEVOIDというバンドは、インドのスラッシュ・メタル史において、現時点では古くも新しくもない中間に存在することになる。なおかつ彼らはオールドスクール復興と現代的なヘヴィさ、ブルータルさの高まりの中で成長をしてきた。

DEVOID結成、共通項はSLAYER

バンドの中心となるArun Iyer(ヴォーカル、ギター)は、仲の良かった友人Shubham Kumar(ドラム)と大学時代にDEVOIDを結成する。その後、ギタリストのKeshav Kumarが加入。一時期、ハード・ロック・バンドHUMAN ABSTRACTNinad Kawaleがベースを務めたこともあったが、現在ATMOSFEAR(デス・メタル)として活動するバンドの初期メンバーだったFrank Pawarが加入することでラインアップは安定する。

当時、Arun Iyer(ヴォーカル、ギター)はスラッシュ・メタルとデス・メタルに入れ込んでいてSLAYERMETALLICAMEGADETHSEPULTURAWITCHERYCANNIBAL CORPSEDECAPITATEDDEATHなどを好んでいたようだ。Shubham Kumar(ドラム)はIRON MAIDENに始まってSLAYERへ。Keshav Kumarはメロディックなスラッシュ。子供の頃タブラ奏者だったというFrank Pawar(ベース)は、パンクに傾倒したこともあったが、IRON MAIDENKREATORSLAYERまで興味の幅は広がってきたのだという。

このようにそれぞれの音楽の好みはわずかに異なるが、彼らの共通項はSLAYERということで、ライヴでは「Angel Of Death」をカヴァーするだけのみならず、2011年9月24日には“インドで初”という触れ込みのSLAYERのトリビュート・コンサートを企画したこともある。ショウの中間では、同じムンバイを拠点とするDEMONIC RESURRECTIONZYGNEMABHAYANAK MAUTATMOSFEARのメンバーが参加することで華を添えた。

話を戻してバンド結成直後の2006年。当時は、インドの大学間で行われる<Campus Rock Idols>というアマチュア・ロック・バンドのコンペティションが毎年開催されており、そこに出場したDEVOIDはムンバイ地域で優勝。その後、『We Are The Scene』シリーズ、『Absolute Indian Metal』『All Indian Metal』などのコンピレーション・アルバムにシングル「The Obolete」「Poems Of Death」「Black Fortress」「Kali」などの曲を提供しながら徐々にヘヴィさを強めてきた。

デビュー・アルバム『A God’s Lie』(2010)

DEVOIDが頭角を現すきっかけは、同じムンバイでDemonstealer Recordsを設立する以外にも、<Resurrection>なるフェスティヴァルを開催してインドのメタルを認知させようと積極的に働きかけたDEMONIC RESURRECTIONの中心人物Sahil Makhijaとの出会いであることは間違いない。

彼との出会いからバンドは地元以外でのライヴの機会を得ているが、2007年にはムンバイで開催された<Resurrection Ⅶ>にも出演。この時はバングラデシュからSEVERE DEMENTIAを迎えて行われた。なお、この<Resurrection>シリーズには、KRYPTOSEXHUMATIONCOSMIC INFUSIONTHIRD SOVEREIGNMYNDSNAREなどが出演してきた。

そして結成から5年。DEVOIDはこれまでに制作してきた曲を集めてデビュー・アルバム『A God’s Lie』SahilDemonstealer Recordsからリリースする。

彼らは本作を、Arun IyerMotor G Studioにてレコーディング、ミキシング、マスタリングまで行っており、自分たちの手でアルバムをリリースすることも考えていたようだが、やはり当時のシーンで勢いのあったレーベルから出すのが得策であるという結論に至ったのだろう。
DEVOID『God's Lie』

DEVOID『God's Lie』

収録曲
01.A Silent Death
02.Battle Cry
03.Possessed
04.Devoid of Emotions
05.Black Fortress
06.Hate Cult
07.New World Order
08.A God's Lie
09.Beersong
アートワークに描かれているのは、良くも悪くも圧倒的な力を持つシヴァ神、その妻であるカーリーだ。彼女は非常に好戦的なことで知られている。ストーリーは省くが、深く青みがかった黒色の肌に映える赤い舌。血をすするのが大好きで、複数の手には武器と生首。さらに半裸で生首を連ねたネックレス、腰回りには切り落とした手を巻きつけ、男性を踏みつけている狂気じみた姿を描いた絵はヒンドゥー教を知らずとも一度は目にしたことがあるのではないか。実はあの踏みつけられている男性は旦那のシヴァ神だ。かかあ天下どころではない、なんともぶっ飛んだ女神じゃないか。それ故インドのメタルを表現するにはふさわしいイメージ戦略と言えよう。

しかし彼らは特定の宗教を賛美しているわけではない。もっと広く宗教の枠組みを超えた多次元的宇宙の中での存在というものを意識して注意喚起した歌詞もあれば、新世界秩序やビールに関する曲もアルバムには収録されている。

曲に関しては、当然SLAYERからの影響は明らかだが、ギターのKeshav Kumarが初期に書いた「Black Fortress」はメロディックで少々CHILDREN OF BODOM風であったり、Arunが好きなDEATHからの影響を感じさせる歌いまわしの曲もあるが、過去5年間でも比較的新しく書かれたという「Hate Cult」「A God’s Lie」は他に比べて激しさが増している。また、ボーナス・トラックの「Beersong」はキングフィッシャーやバドワイザーといったビールの銘柄も出てくる爽快なヘッドバンギング・ナンバーだ。

Devoid - A God's Lie [Full Album]

『A God’s Lie』は国内のメタル・ファンから高く評価され、Rolling Stone Metal Awards 2011のファンが選ぶ「ベスト・アルバム」を受賞。

2011年4月にはベンガルールにてINNER SANCTUMBLIND IMAGEなどと共にCRADLE OF FILTHの前座を務めるほか、5月にはDECAPITATEDNERVECELLSYBREEDCYANIDE SERENITYを招聘してハイデラバードで開催された<Deccan Rock 2011>にも参加している。

ただ、このアルバム発表を境に、新たなギタリストとしてSanju Aguiarが加入、Keshav Kumar(ギター)とFrank Pawar(ベース)が脱退して、Abhishek Kamdar(ベース)が加入するというメンバー・チェンジが2012年初頭までに行われることに。

Sanju Aguiar『A God’s Lie』「Beersong」でギターを弾いていた人物なのだが、YouTubeでョン・ペトルーシ(John Petrucci)「Glasgow Kiss」を弾いているのを見かけて声をかけたのだとか。実際、彼はギター講師も務める腕前を持つフルタイムのミュージシャンで、プログレ、ジャズ、ブルーズ、ファンクなどなんでも弾きこなすことができる。

エイリアンが攻めてくるぞ!『The Invasion』EP(2013)

DEVOID『The Invasion』

DEVOID『The Invasion』

収録曲
01.Prelude
02.The Invasion
03.Pandemonium is Now
04.Brahma Weapon
05.The Grand Design
Arun Iyer(ボーカル、ギター)、Shubham Kumar(ドラム)、Sanju Aguiar(ギター)、Abhishek Kamdar(ベース)という布陣となったDEVOIDは2013年2月3日に『The Invasion』EPをリリースする。

今回は、同郷ムンバイのKunal Choksiが2013年から開始し、主に国外へと積極的に働きかけるTranscending Obscurity Recordsからのディストリビューションとなった。

前作は結成当初からの曲の寄せ集めだったことから、テーマ、スタイル共に統一感が欠けていたが、今作はよりヘヴィネスを効かせたデスラッシュでまとめられたコンセプト作品。その内容は、得体の知れない地球外生命体の地球侵略を、不吉な予感を感じさせる序章から来襲、混乱、破壊、侵略後までを段階的に描いている。しかし、ただのエイリアン侵略ものとしてのサイエンス・フィクションというわけではなく、神や創造主の存在、人類の過ちが暗に含まれている。

この『The Invasion』EPは前作以上に評価されたようで、Rolling Stone Metal Awards 2013では、「ベスト・バンド」「ベスト・アルバム」「ベスト・ソング」「ベスト・ヴォーカリスト」「ベスト・ギタリスト」「ベスト・ドラマー」の6部門でノミネートされ、最終的にShubham Kumar「ベスト・ドラマー」を獲得。

さらに同年8月にはドイツでWacken Metal Battleにも出演するなど、2013年はDEVOIDにとって飛躍の1年となった。

Devoid - Brahma Weapon (Official Music Video)

われは偉大なり!シングル「God Complex」(2014)

『The Invasion』EPが高く評価され、国外の舞台も経験したDEVOIDは、2014年12月14日にシングル「God Complex」をリリースする。

これはタイトルどおり、「自分は神のごとく能力があると思いこんで横柄になること」。非常にシンプルでわかりやすい。

おのれの能力や特権を誇張して信じ切り、優越感に浸る者は自分の誤りを認めないどころか社会規範すらも無視して突っ走り、終いには自己破壊的な道へと進んでいく。そして、誰しもがそうなる可能性の種を内に秘めていることもまた事実であるとし、彼らは、そのような道を歩まないように警告しているのである。
DEVOIDはこのシングル・リリース後も順調にライヴ活動を続け、2015年にはドバイでSTIGMATA(スリランカ)、CREATIVE WASTE(サウジアラビア)、SMOULDERING IN FORGOTTEN(バーレーン)、MATICRUST(アラブ首長国連邦のフィリピノ・バンド)が集結した<Resurrection - Metal Night, Dubai>に参加。また、少し変わったところでは、IRON MAIDEN『Book Of Souls』のリスニングとツアー・ドキュメンタリー『IRON MAIDEN: Flight 666』を上映する会でDEVOIDIRON MAIDENのトリビュート演奏している。

この調子でこの先も活動をステップアップしていくかと思われたその矢先、ドラマーのShubham Kumarがドバイへ行くことになり、バンドを抜けてしまう。

Arunの長年の友人であり共にDEVOIDを立ち上げてここまで成長させてきたShubham Kumarの脱退はバンドの活動に大きく響いた。Arunは彼の重要性を認め、後任を探すのは後回しで曲作りを行うとするも、今後の活動はすべて未定となるのだ。

4年の歳月をかけてトリオ編成へと進化

それから1年、2年、3年……と何もないまま時は過ぎ去り、気づけば2019年もそろそろ終わろうかという11月28日に、彼らはシングル「Drop Dead, Gorgeous」をリリース。

その直後に11月29日から12月1日にかけてマハーラーシュトラ州プネーにて開催された<NH7 Weekender>に出演(11月30日)することで復活を果たす。ちなみに、このフェスティヴァルはメタルに特化したものではないが、OPETHも出演していたことを付け加えておく。

実は今回このDEVOIDを取り上げた理由はここにある。長々とした前置きになってしまったが、いきなり「復活したぞ!」と言ったところで「なんのこっちゃ」となりかねないのでバンドの経歴を順を追って説明した次第。

さて、4年ぶりにシーンに戻ってきた彼らは、Arun Iyer(ギター、ヴォーカル)、Shubham Kumar(ドラム)、Abhishek Kamdar(ベース)という3人編成となっていた。現在それぞれが住んでいる地域は、ムンバイ、ドバイ、プネーとバラバラではあるが、オリジナル・ドラマーが復帰しているのは嬉しい。しかし、多彩な技術を持ったSanju Aguiarがいないのだ。

Arun:世界中のほかのバンドたちが進化していくのと同様に、DEVOIDはより柔軟性と結束力を得るためにメンバーを1人欠くことで進化した。こういう言い方では筋が通らないかもしれないが、俺たちの言葉を信じて欲しい。ただ、なにかスクープ記事のようなものを求めているならばこう言っておこう。残念なことに、活動に支障をきたすような見過ごせない個人的な不和があったのさ。しかし、現在のラインアップは完全で最大限のDEVOIDなんだ。

長いブランクの後、このような理由から3人編成とはなっているが、バンドとしてのまとまりは非常に良い状態での新曲「Drop Dead, Gorgeous」なのだろう。

Arun:俺たちは4年間活動をしていなかった。だからきちんと方向づけをして、まずは最新のものを届けたほうがいいのではないかと俺は感じたんだ。今、話したようにバンドが復活したときには4人編成ではなく3人編成だったわけだが、これによって演奏に支障をきたすことになってしまった。しかし、時間の経過とともに、なんとかこの3人でも自分たちなりのやり方を見つけることができたのさ。そしてその過程で俺たちはいくつかの曲を書いた。それが今回リリースすることにした「Drop Dead, Gorgeous」なんだ。

復活第一弾シングル「Drop Dead, Gorgeous」(2019)

Devoid - Drop Dead, Gorgeous (OFFICIAL LYRIC VIDEO)

前作「God Complex」あたりから顕著だが、初期の頃に比べると随分と骨太でどっしりとした楽曲になってきている。結成から約20年近くを経過してオールドスクールなスラッシュ要素よりもさらに現代的なヘヴィさやデス・メタルっぽさがかなり強調された。いったいどのようなバンドから影響を受けてこのような変化を遂げたのだろうか。

Arun:現在は、DYSCARNATEDECAPITATEDABORTEDなど。他にもあるけど、あまり明白ではないから選択肢に挙げる前に切り捨てた。

サウンドが現代的になってきたのと符合させるかのように、今回取り上げたテーマは現代のネット社会が人に及ぼす影響に切り込んだもの。

Arun:歌のテーマは非常に自明なんだよ。ソーシャルメディアでの生活が独自の形態となって、現実のアイデンティティーをこのソーシャルメディアに置き換えた時にどんなことが起こるのか。その世界で人々は自分のポジションに過敏になっている。そして、パーソナルブランディングのためにどれほどの時間と神経が費やされているのかということ。結果、大抵は見当違いの代償を伴うことになる。これが「Drop Dead, Gorgeous」の本質なんだ。

グロテスクなアートワーク

おそらくアートワークも皮肉めいた形で描かれていると想像できる。鏡の中から顔を剥ぎ取った人物がスマートフォン片手に自撮りし、その鏡の周りには機械と気味の悪い生き物が群がって取り囲んでいる。
DEVOID「Drop Dead, Gorgeous」

DEVOID「Drop Dead, Gorgeous」

このアートワークは元UNDYING INC.のベーシストReuben Bahttacharyaによるものだ。彼は、DEMONIC RESURRECTIONDEMONSTEALERCHAOSDYMBURZYGNEMAといったインドのバンドからSLEEP TERROR(アメリカ)、JINJER(ウクライナ)、TWELVE FOOT NINJA(オーストラリア)といった国外のバンドまで手掛けている。

Arun:Reuben (aka Visual Amnesia) は歌詞の意味を汲んで上手いことやってくれたので、曲のテーマがアートワークに見事に溶け込んでいる。彼自身の言葉によれば、「このイメージは、鏡の中で自撮りをするためにマスクを外した(ジェネレイティング・ボットのような)インフルエンサーの一人を描いている。鏡の反射は、世界がこのメディアを通じて消耗しているスマートフォン画面の比喩だ。そしてこの画像は悪魔のようなゾンビとして描かれている自己増殖アルゴリズムを持つ有毒な機械の群れからぶら下がっている」ということだ。

踊るインフルエンサー

インターネットの登場とソーシャルメディアという存在が現代社会の生活様式を一変させた。彼らの年代ならば、その移り変わりを身を以て体験している。故にその魅力や利便性を十分に理解したうえで、浮き彫りになってきた仮想社会における危険性に目を向けさせているわけだ。

ネット上には無数の個人とおびただしい数の情報が氾濫している。だからといって無理に交流を持ったり目立つ必要はないのだが、何もしなければ誰からも注目もされないために孤独を感じやすい。人はチヤホヤされて嫌な気分になるはずもなく、そのためには多少なりとも良い格好をしたいと誰しもが思うはずだ。また、ビジネスにおいては少なからず注目される必要もあるだろうから、あらゆる手段を講じることになるだろう。

アートワークにも登場しているが、DEVOIDがその象徴としたのがインフルエンサーだ。

彼らは歌詞の中で、以下のようにそれを表現する。広告付きのコンテンツ。パペット・マスター。着飾るだけではなく、加工するほどまでに見栄えを気にし、世間から注目され、一瞬バズることで満足して富んでいく独創性を脱ぎ捨てた猿。

タイトルも含め辛辣な表現ではあるが、ただやみくもに非難しているわけではないはず。

ネット社会で何かを行うならば、ある程度の自己顕示、パーソナルブランディング/セルフブランディングが重要となってくることは言うまでもない。当然、インフルエンサーには必要不可欠だろう。

しかし、それなりの地位を得てそれが過激化し、巨大化すると先のシングル「God Complex」のような人物となり、権威を振りかざす教祖と催眠状態にかかった信者のような構図が出来上がってしまうことも十分にありえる。

もちろん、そこまでの地位などなくとも、仮想世界で等身大の自分ではないものを使って飾り立てた自分を見せようと躍起になっているうちに、現実の、そして本来の自分という本質を見失っていく。しかも、本人は気持ち良く優越感に浸りながら人々を誘導し操っているつもりではいても、実際は自分もまた操り踊らされているひとりなのである。

とは言え、インフルエンサーのすべてが悪いわけではないし、ネット社会が現実社会とここまで関わりを持ってしまった現在は、それを受け入れたうえでさまざまな技術をもって対処していくことが必要だ。大事なのはバランスと関わり方。現実世界という地に足をつけること。

そこでもう一歩進めて、彼らが危惧しているのは、人々の生活や価値観の比重が現実世界と仮想世界が逆転していくことではないだろうかと考える。

もっとも我々が今、現実世界と呼んでいるこの世界ですら仮想だという説もある。そうなるともはや本当の自分がどこに存在しているのかわからなくなり、思考の迷宮に入り込んでしまうが、ひょっとしたらほとんど仮想世界に身を置くことだけで問題なく生活できる時代が今後訪れる可能性もあるだろう。

もしくは、仮想世界に人工知能を持たせたアバターもしくは架空のキャラクターを設定してすべてをまかせれば、あとはアリの巣を観察するような傍観者となれる。我々が直接努力して何かをする必要などないし、自分自身が道を踏み外すこともない。けれど、もしもそいつらが罪にまみれ失敗するような状況になったら、炎でも洪水でもエイリアンの侵略でも好きな方法で滅ぼしてリセットしてしまえばいい。実に簡単じゃないか。

くだらない話をしてしまったが、この先どのような状況になっても、等身大の自分を見失うことは危険なのだ。“Drop Dead, Gorgeous”はそうならないための標語であると理解してみるのはいかがだろう。

2020年の予定は

今回、Arun Iyerに話を伺ったのは2019年末から2020年初頭にかけてのこと。だからすでに半年ほど昔の内容になってしまうのだが、復帰後の2020年がどうなるのかを尋ねた。

Arun:2020年はマジで楽しみなんだ。もうすでにいくつかの曲はつくっているからね。ただ、それがどんなフォーマットになるか、つまり、アルバムになるのか、EPになるのか、シングルになるのかは俺たちにもわからない。なにが最適なのかを検討しているところ。とにかくリリースするから!


それぞれの仕事を抱えながら別々の地域で生活をしている彼らがテンポ良く作品をリリースしていくのは難しいことだろうが、インド国内に限定されない視野の広いメッセージ性を持った歌詞とグルーバルなデスラッシュ・サウンドは世界で認知されても良いはずだ。