タイのメタルにエールを 第11回

アジアのメタルシーン
近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。
今回はメタルコア、ポストハードコア周辺のバンドのパート8。

メタルコア、ポストハードコア、ニューメタル、モダンロック系パート8

NO PENQUINS IN ALASKA

本物はちょっと目が怖いけれどもペンギンのキャラクターは可愛くて人気がある。古くはタキシードサムやスイス発のピングーに始まり、最近ではコウペンちゃんをあらゆるところで見かけるようになった。電車や食品ともコラボレーションを行っているし、ロック/メタル・ファンには打首獄門同好会の「布団の中から出たくない」「なつのうた」ですっかりお馴染み。また、キャラクターではなく本物であっても、日本国内の多くの動物園で見ることが可能で、さらにはペンギンを飼育しているバーも存在しているほど身近な存在だ。

こうなると、魚が切り身で泳いでいると勘違いしているチビッコがいるという都市伝説があるように、ペンギンも世界中にいるのではないかと思ってしまう可能性もあるだろう。しかしペンギンは、南半球に生息する動物なのだという。ただし、赤道直下、わずかに北半球にかかっているガラパゴス諸島に生息しているガラパゴスペンギンはちょっとだけ例外とか。

2002年にアラスカ沖にて漁船がフンボルトペンギンを引き揚げたという不思議な出来事があったが、南半球で捕まえて船などでペットにされていたペンギンをアラスカ沖で放ったのではないかという結論が下されている。

つまり、"アラスカにペンギンはいない"のだ。
ここで紹介するのは、そんな名前で活動をする南半球のタイはバンコクのメタル・バンド、NO PENQUINS IN ALASKA

このバンド名は、米国のポストハードコア・バンド、CHIODOSの楽曲のひとつで恋愛をテーマにした「There’s No Penguins In Alaska」から取られている。しかし、メンバーは「そこに特に意味はなく、ただ面白いから」だと言う。しかも、”Penguins”ではなく、gをqに変えた"Penquins"という綴り間違いにしてある。確かに曲名そのままだとネット検索時にCHIODOSの曲ばかりがヒットしてしまうだろうから、この間違いは正解だろう。

NO PENQUINS IN ALASKAの結成は2005年。Emmy(ドラム)とChamp(ベース)がまだ高校生の頃のこと。当時はEm(ギター)とPond(ヴォーカル)というメンバーもいたが、メンバー・チェンジの末、Nop(ギター)とAieb(ヴォーカル)が加入した。

バンドの音楽性はメタルコア/デスコアと呼ばれることが多く、初期の頃はWAKING THE CADAVERJOB FOR A COWBOYといったバンドに触発されていたと聞いているのだが、メンバー自身は「俺たちのスタイルは"ロック/メタル"」とかなり大雑把に分類している。

そんな彼らは、2008年にデビューEP『1303』を発表。タイトルは大石圭原作のホラー映画『アパートメント1303号室』から取られたもの。そして2010年頃にScreamlab Records(『タイのメタルにエールを 第10回』にて紹介)のBannieに誘われてレーベルに所属することとなった。実はScreamlabのチームメイトでもあり、00年代にメジャーへと駆け上っていったRETROSPECTSWEET MULLETの躍進はNO PENQUINS IN ALASKAへかなり刺激を与えていたという。それを踏まえれば、彼らがScreamlab Recordsに所属するのは自然な成り行きなのだろう。

なお、Screamlab Recordsに所属した前後の2009〜2012年頃は、「アンダーグラウンド・シーンも素晴らしくて毎月2度くらいはライヴをやっていたかな。RETROSPECT、SWEET MULLET、EBOLAも大規模なコンサートを行っていた。そういう盛り上がった時期があったから、タイの人々がロックやメタルを受け入れるようになったのさ」と当時の様子を教えてくれた。

2011年になるとバンドはフル・アルバム『Worthless Theory』を発表する。
NO PENQUINS IN ALASKA『Worth...

NO PENQUINS IN ALASKA『Worthless Theory』

『Worthless Theory』……"価値のない理論"というタイトルにちょっとした哲学と知性を感じて身構えてしまう。まさか、重力やビッグバンのような通説を否定するのだろうかとも思ったがそうでもないようだ。

「これは俺たちの音楽に対するヴィジョンで、理論や理屈をこねて音楽を作っているわけでないってこと。自分たち自身がこういった音楽を欲しているからできたアルバムっていう意味なんだよ」と、シンプルでわかりやすい理由を話してくれた。

また、アルバムのアートワークに関しても、「地獄から来た男が何かに向かって手を伸ばしているんだけど、彼が必死になって求めているものには何の価値もないってことを彼は気づいていないんだ」と、こちらも少々意味ありげである。ときとして理詰めよりも本能と情熱の方が素晴らしいこともあるということだろうか。彼らの意図するところが何なのかはわからないけれども、例えば、新しい洋服や電子機器はもちろんのこと、地位や権力、お金、性欲なども含めむ欲望を追い求めて生活している人にも当てはめる事ができるのかも。私も心当たりがないわけでもなく、ドキッとさせられた。

NO PENQUINS IN ALASKA「I Will Take Your Head」

2011年発表の『Worthless Theory』収録。
また、『Worthless Theory』にはラッパーのPP’DREAMSをほぼメイン・ヴォーカルに据えた「B.A.N.G」という曲もある。PP’DREAMSはメタル・バンドとのコラボレーションを頻繁に行っていることから、このシリーズでも何度か名前を出してきたのでタイにおけるラップとメタルの交流に驚く人も減っただろう。さらに、ゴリゴリのメタルコア/デスコアを演奏するNO PENQUINS IN ALASKA側はヒップホップをはじめ、ジャンルにとらわれることなくあらゆる音楽を受け入れるミュージシャンたちなのだということも付け加えておく。

さて、せっかくScreamlab Recordsと契約を交わしてアルバムを発表した彼らだったが、2012年頃からは活動が停滞していく。というのも、お金が得られないアンダーグラウンドなNO PENQUINS IN ALASKAよりも、メンバー個々の生活を維持する仕事を優先しなくてはならなかったからだ。けれどもメンバー間では連絡を取り続けながらミーティングも時々行っており、2016年から活動を再開し始める。

そして年が明けた2017年1月に「The Mask Of Infamy」のライブ・ビデオを発表。このビデオが収録されたのは、2016年12月11日に開催されたScreamlab Night:Still Aliveという企画で、これまで紹介してきたLAST HOPERUGOSLABIERなども出演。NO PENQUINS IN ALASKAはトリを務めたANNALYNNのひとつ前に演奏していることから、それなりに需要なポジションを与えられていたと考えられる。

NO PENQUINS IN ALASKA「The Mask Of Infamy」(ライヴ)

この曲はScreamlab Records所属後すぐに発表した曲であり、『Worthless Theory』から先行で発表されたファースト・シングルでもある。このことからバンドにとって思い入れのある曲のひとつなのだろう。
バンドは現時点(2019年11月)において新曲は発表していないのだが、2、3曲は出来ていて、あとは録音するのみと聞いている。さらに今年の8月にはオーストラリアのメタルコア、ALPHA WOLFのバンコク公演の前座を務めるなど、活動自体は行っていることが確認できる。

ただ、活動を再開してからの歩みが少々遅く思えるかもしれない。というのも、メンバーの一部はNO PENQUINS IN ALASKA以外のバンド活動も行っているからだ。

ドラマーのEmmyはMIDDLE LANEというロック・バンドでも叩いている。MIDDLE LANEは、EBOLASILLY FOOLSといった大物が在籍するMe Recordsに所属しているので、NO PENQUINS IN ALASKAと比べるとメディアの露出度や知名度には大きな差がある。そのことについてメンバーはどの様に思っているのだろうか。

「彼は素晴らしいミュージシャンだし、だとすれば経験が必要なんだ。素晴らしい音楽、ツアー、大手のレーベルと一緒に仕事をする……そういったすべての経験で学んだことがNO PENQUINS IN ALASKAに応用されることでこのバンドはさらに良くなる。プロフェッショナルなミュージシャンのやり方が適用されるってことなんだ」

MIDDLE LANE「ยังคงเป็นเธอผู้เดียว」

さらにギタリストのNopは、テレビ業界でも活躍するミュージシャンだが、R&B/ネオ・ソウル系のSUPERGOODSにて今月(2019年11月)EPを発表したばかり。音を聴いたらあまりのジャンル違いに面食らうかもしれないが、粘りのあるギターを弾く彼の幅広い表現力に感服するはず。

SUPERGOODS「Yu Chei Chey」

2019年11月発表のEPに収録。
このようにNO PENQUINS IN ALASKAの実態は多才なミュージシャンの集合体なので、近い将来発表される新曲がどれほど以前よりも進化しているのかとても楽しみになる。

THE BURDEN FROM GOD

ついでにもうひとつScreamlab Recordsと関わりを持ったバンドを紹介しよう。

2007年、マヒドン大学に通っていたギタリストのMindを中心にメタルに魂を奪われた友人たちが集まってこのTHE BURDEN FROM GODは結成されている。そんな彼らが夢中になって聴いていたのは、ポップ・パンクやエモなども交えつつ、IN FLAMESMACHINE HEADPARKWAY DRIVEUNEARTHAS I LAY DYINGなどのバンドたち。よって、音楽性はメタルコアに定めて活動を開始した。

当時のタイのメタル・シーンを彼らに振り返ってもらった。

「DEZEMBER、IN VEIN、ANNALYNN、BRANDNEW SUNSET、SWEET MULLETなどの勢いがあった頃なんだ。アンダーグラウンド・シーンも新鮮で多くのキッズがいて、ポップ・パンク、エモ、メタルコアが最高潮だった時期だね」

世界的に見ても00年代はエモやメタルコアが全盛だったので、そういう意味では非常に素直に影響されて登場してきたバンドといえる。

それにしてもTHE BURDEN FROM GODとは凄い名前だ。日本の場合は神という存在と人との関わりが他の国とは少々異なっているため、一般的な日本人が背負うものといえば"仕事"や"家庭"(実はそのほとんどは"人間関係"に集約されるのかも)の重み。神頼みしながらそれらに耐え、ときには潰されることはあっても、神から負荷をかけられる場面はほぼ皆無だろう。では、メンバーは何か特定の神という存在を信じて信仰しているからこそ何か重圧や責任を感じているのだろうか。

「フロントマンのCocoはクリスチャン。でもほかのメンバーは仏教徒だよ。俺たちが信じているのは困難な状況における希望。結局のところ、明るい側面は我々を傷つけるようなことはないからね。それに、光と闇のどちらかを選ばないといけないとしたら、明るい方を選んだほうが良いに決まっている。例えば、俺たちの曲で良くない出来事を取り上げていたとしても、明るい希望をメタルにして演奏している。だからバンドの曲からは前向きなメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいね。もしも、神が本当に存在しているんだとしたら、このTHE BURDEN FROM GODは神が創造してくれたささやかなバンドなんだということを信じるよ」

なるほど。バンドを神が創造したもののひとつとして考えるのは面白いかもしれない。そんな彼らは結成から2年後にオリジナル曲を制作するようになり、2010年に『Unity In Diversity』とタイトルされたデビュー作を発表。
THE BURDEN FROM GOD『Unity I...

THE BURDEN FROM GOD『Unity In Diversity』

戦争をはじめたとした世界中で起こった紛争の歴史を集約したものがアートワークとして描かれれている。アルバム・タイトルは収録されている曲名「Unity In Diversity」から付けられているが、この言葉がアルバム全体のコンセプトを端的に表しているからとの理由だ。つまり彼らがここで表現したかったことは、「異なった民族、信仰、宗教の団結。たとえ人種が異なっていたとしても共に生活して最終的には平和にまとまるように」ということ。

THE BURDEN FROM GOD「Unity In Diversity」

アルバムを発表した後は活動も精力的に行っており、2012年にはBLOOD RUNS BLACKのバンコク公演の前座を務めるほか、マレーシアでライヴも行っていた。したがって、この勢いのまま順調に続くかのように見えたが、そうは簡単にいかないのがバンド活動というもの。

ここで彼らは大きな転換期を迎える。ドラマーとベーシストが脱退。メンバーは大学を卒業して仕事を始めたことからバンドとしての集まりは極端に減っていった。けれども、しばらくしてバンドはGoneという新しいドラマーを得る。彼はタイランド湾にて石油掘採の仕事に従事しているので1ヵ月間仕事で家を留守にした後は1ヵ月間休暇があるという。メンバーはその休みの時期を利用して会っているようだ。

そして2017年、Screamlab RecordsからTHE BURDEN FROM GODは復活する。この時点でのメンバーはCoco(ヴォーカル)、Mind(ギター)、Pro(ギター)、そして新しく加入したGone(ドラム)である。現在まで正式なベーシストは不在で、ライヴなどで必要となった場合はサポート・ミュージシャンを起用して活動している。

バンドは同年8月に新曲「Do Not Obey」のミュージック・ビデオを発表。彼らがこの曲で伝えたいことは、「信用ならない人からは命令を受けたくないということ。わかると思うけど、タイ国内の政治状況についてさ。この国は軍事政権で、俺たちはそういう独裁政治を好まない。だから攻撃な歌詞を使用したこの曲でシーンに復帰したんだ」

THE BURDEN FROM GOD「Do Not Obey」

2017年8月発表。
聴いてもらえればおわかりになると思うが、2010年の頃とくらべても音楽的に大きな変化はない。実はこれは意図的なものだ。

「昔の感じを保とうとして演奏したんだ。「Do Not Obey」を発表した2017年には、こういった感じのメタルバンドはもうほとんど残っていなかったから。言ってみれば、なにかあの頃の感覚を取り戻す感じだね」

しかし、バンドはいつまでもオールドスクールなメタルコアに固執していくわけでもないようだ。私が聞いたところでは、今後発表される曲はもっとチューニングを下げてヘヴィさを強調させることや、ジェントなフレーズを取り入れる可能性も示唆していた。

なお、ヴォーカリストのCocoはフィルム・プロダクションで働く傍ら、TRASHY TREASUREというタイ語で歌うモダン・メタルのプロジェクト。ギタリストのProはポップ・ロックのI GO TO SCHOOL BY BUSと音楽のポスト・プロダクションの仕事。もうひとりのギタリストMindは大手Genie Recordsに所属するポップ・ロック・バンド、COCKTAILのサウンド・エンジニアのほか、シンフォニック・メタルのSILENT SHOREのメンバーとしても活動している。

I GO TO SCHOOL BY BUS「หนังตัวอย่าง」

2019年11月発表。
ギタリストのProはこんなポップなバンドでも活動中。

LAST MAN LAUGH

多種多様な生き方が広まった今の時代、もはやロックやメタルを聴いているくらいで肩身が狭い思いをすることはかなり減ったと思うが、それでもメタル・ファッションに身を包んでいる人は奇異の目で見られることもあるだろう。しかも、何もしていないのに、凶暴で怖い人だと勘違いされてしまうこともあるかもしれない。そう見る人はほぼ間違いなくメタルという音楽も暴力的で乱痴気騒ぎのBGMに過ぎないと思い込んでいるはず。

けれどもこの1、2年で、メタルは"メンタルヘルスの向上"、"フラストレーションの解放"、"不安を和らげる"音楽であり、決して聴き手の暴力性を煽るような音楽でないという研究発表が出てきている。これは朗報だ。我々が温厚だったり、音楽ひとつで国籍や身分を超えて一気に仲良くなれるのはメタルあってのことなのだ。

そこでふと思い出したのが、アニメ。昔から海外でも日本のアニメは放送されており、多くの子供達を虜にしてきた。しかしその一方で暴力性のある表現が問題視されたこともあった。細かい話は省略するが、何でもかんでも排除すれば良いというものではないし、事実、アニメにどっぷりと浸かった世代が大人になったこの日本の現状は他の国に比べても平和である。もしも、アニメでの暴力的シーンが子供に悪影響を及ぼすとするならば、今、日本は至ることろで殺戮がおこなわれる世紀末的な様相を呈しているはずだ。おそらく、アニメもまたメタル同様の効果を持つのではないか。もちろん好きなアニメを合言葉に絆を深めることもできるだろうし、アニメとメタルが融合したらさらに面白いだろう。
ここで紹介するのは、日本のエレクトロニコアやヴィジュアル系の雰囲気も漂わせるLAST MAN LAUGH

彼らの結成は2013年。Madx(ヴォーカル)、Pete(ベース)、Title(シンセサイザー/キーボード)が中心となって始めた。しかし、この3人だけでは望む音楽が作れないということに気がついてメンバーを増やしていく。

彼らは子供の頃からJ-ROCKを聴いていており、L’Arc~en~CielDIR EN GREYLUNA SEA
CrossfaithKORNNINE INCH NAILS、さらにはモーニング娘。などから刺激を受けてきた。そこで目指したのがエレクトロニック・ロック。パワフルでありながらも、喚き散らすのではなく、良いメロディを導入するよう心がけているのだとか。

まずは、2014年に発表されたファースト・シングルをどうぞ。

LAST MAN LAUGH「Short Skirt Satan」

2014年8月発表。
音質はあまり良くないが、それはメンバーも重々承知で後にレコーディングをし直している。
タイトル通り、黒のライダースに短い丈のスカートで決めつつ、あどけなくもサディスティックな女性の存在が印象的だ。Madxによれば、このセクシーな女性は、「男性のダークサイドを呼び覚ます悪の象徴」とのこと。何度も見ているとダークサイド以外も呼び覚ましてくれそうでキ・ケ・ン。

この後バンドは2015年3月に「Circle」、2016年5月に「Last Man Laugh」を発表。

LAST MAN LAUGH「Circle」

プログレッシヴとも言えるなかなか凝った作りでJ-ROCK好きなMadxの特徴も出ている。しかしこの曲は、彼の人生の中で最もつらい時期に書いたものだという。「それは記憶から消すことができず、眼をつぶるたびに亡霊となって現れる。まるで永遠と続くサークルのようにね」……繰り返し呼び起こされる悪夢のような体験を想像しながら聴くと曲の雰囲気がつかめるはず。

LAST MAN LAUGH「Last Man Laugh」

彼らはこの曲をNoah Recordsから発表する。大きな夢を持ったレーベルだったようだが、結果としてそうはならなかった。「良い人間がいっぱいいたレーベルなんだけど、とあるバカ野郎がすべてをぶち壊した」のだとか。せっかく希望を抱いて所属したレーベルだったというのに不運である。

ところで、この曲はバンド名をそのままタイトルに持ってきるので重要な想いが込められているはず。「ゼロからスタートして成功を収めるまでの物語。バンドとして友達として共に前進していくその意気込みを歌っている」という。さらに、バンド名のLAST MAN LAUGHというのは、"最後に笑う奴"という英文を短縮したもの。つまり、"何があろうと最終的に勝利を手にして笑うのは俺たちだ!"と彼らは言っているのである。なお、バンドの頭文字を小文字にして略すと"lml"という表記になり、メロイック・サイン(コルナ/デビル・ホーン)になるのがミソだとか。

確かに、成長して大きな舞台を踏むという気持ちは大切で、それは持ち続けるべきだ。しかし、ひとくちに成功と言っても、それが容易でないことはメンバーも理解している。ヴォーカリストのMadxは子供の頃、X JAPANが1992年に東京ドームで行ったライヴのビデオを観たと言っていた。おそらくその作品は『VISUAL SHOCK Vol. 4 破滅に向かって』だと思われるが、それ以来ずっと東京ドームで演奏するのを夢見ていたらしい。「そんなことまったくの夢物語だってわかってるよ。でも、2015年に日本へ行ったときに、東京ドームの前に立ってLAST MAN LAUGHの歌を独りで1曲歌ったんだよ。たった1人のオーディエンスを前にしてね(笑)」……泣ける。何事も一歩ずつの積み重ねだ。

バンドは2018年7月に『Z』とタイトルされたアルバムを発表。数百枚しかプレスしていなかったようだが、2ヵ月足らずで売り切っていることからそれなりに需要があったことがわかる。
LAST MAN LAUGH『Z』

LAST MAN LAUGH『Z』

アートワークを手掛けたのはベーシストのPete。グリッチ・アート(偶然、または故意のデジタル・エラー)を利用して不完全の美しさを表現しており、タイトルの意味深長な"Z"という文字にはやはり様々な意味合いや感情が含まれるのだとか。

「XやZのような文字には言葉では説明しにくい特別な意味が当てはめられることがある。Zという最後の文字には未知、究極という意味合いもあるし、発音だってゼッドやズィーなどあって、それはまるで陰陽のような感覚でクールだと思うんだ。一文字だけなら発音はひとつに定まらないし。それに、ドラゴンボールZっぽくてカッコいいよね(笑)」

ひょっとして日本のアニメや漫画が好きなのだろうか。

「俺たちみんなオタク(笑)。聖典や難しい本なんかよりもはるかに漫画やアニメに費やす時間が多いんだ」

アルバムの最後に「MKKSP」とタイトルされた曲が収録されている。実はこれ、『ドラゴンボール』シリーズに登場するピッコロの技のひとつである"魔貫光殺砲"のことなのだ。メンバー全員が『ドラゴンボール』を観て育っていて、どうやらMadxのお気に入りキャラクターはピッコロのようだ。ということは、アルバムのアートワークの土台となっているイメージもピッコロではないだろうか。

それではドラゴンボール・メタルをお楽しみください。

LAST MAN LAUGH「MKKSP」

2018年発売の『Z』に収録。

元ネタのドラゴンボールを知らずとも(ちょっといい声で)連呼される「マ、カン、コウ、サッポウ!」は頭にこびりつく! ひょっとしたら魔貫光殺砲が使えるようになるかも!?
そう、彼らもまた日本のエンターテイメントに興味を持っている。もちろん、それは先程触れたように日本のバンドから影響を受けていることからも明らかだ。以前は、一部でJ-ROCKブームも存在し、現地在住の日本人バンドや日本のバンドに影響を受けたタイのバンドがカヴァーやオリジナルを披露するイベントもそれなりの数が開催されていたが、今はK-POPの台頭やアイドル・グループのブームなどもあり、以前ほどの勢いはなくなってしまったようだ。LAST MAN LAUGHは、それらのイベントに積極的に出演し、CrossfaithMUCCD’espairsRayマキシマム ザ ホルモンなどの曲も演奏していた。

ともかくJ-ROCKとアニメに触発されたバンドがカヴァーに終わらずオリジナル曲でアルバムを発表してくれたことは大変喜ばしい。よって、このまま成功への道のりを真っ直ぐ突き進むかのように思われた。しかしアルバム発表後の2018年後半から活動を休止してしまう。メンバーそれぞれにプロジェクトや仕事を持っているのが理由とか。アルバムの発表を一つの区切りにしたのかもしれない。ただ、あくまでも休止であり、2020年にはLAST MAN LAUGHとしての活動を再開する可能性もあるかもしれないと聞いている。

ギタリストのNickはKNOというJ-ROCKスタイルのバンドでも活動している。これはNickが高校生の時(2012年)に作ったバンドで、彼はギタリストだったのだが、2018年にヴォーカリストのJoeが脱退。その後、新しくPeaceというギタリストが加入したことでNickはヴォーカリストへ転身した。なお、彼らは今年11月に来日して8日東京、11日名古屋とライヴを行っている。

KNO「Butterfly」

2019年発表の『Retelling Stories』EPに収録。
また、MadxとTitleはオルタナティヴ・ロック・バンド、DEAD KOREAN SCHOOLGIRLというサイド・プロジェクトを持っており、そちらでも近々新曲を発表する予定と聞いているが、この2人は、これまたJ-ROCKスタイルのSCARLETTEからギター兼ヴォーカリストのNutzuと一緒にScarlette Corp.というプロダクション・チームを創設。チーム・メンバーは他にもいるが、Madxがメイン・ソングライターでヴォーカル・ディレクター。Titleは音楽プロデューサー。Nutzuはサウンド・エンジニアとのこと。

そんな彼らの活動がまた刺激的で、なんとSiamdol所属の日タイ混成アイドル・グループSIAM☆DREAMの6枚目のシングルをプロデュースしたのだ。

SIAM☆DREAM「Calling」

2019年10月発表。
タイも女性アイドル・グループの大きな波が押し寄せていて、"地下アイドル"を名乗るグループも存在する。こちらで成功してしまうとLAST MAN LAUGHがすっかり疎かになるのではないかと心配になるが、逆に余裕ができたことによって復帰する可能性もあるのか……。どちらにせよ自分のバンドで成功するというあの時抱いた大志は失わないで欲しい。

SATYR

ときに、冷酷だったり残虐非道な人間をニュースで見かけることや、場合によっては出会ってしまうこともあるだろう。こちらとしては理解できなくて困惑するけれども、「あいつは悪魔に取り憑かれてしまったのだ」と思うことでなんだか楽になったりすることがある。心理学の見地から判断するのはかなりの勉強が必要となってしまうけれども、悪魔憑きなら知識などほとんど不要で合点がいくというか、ホラー映画を見る感覚で対処できるかも。

英語の辞書に定規を投げ入れて、そのページから最適かつ気に入った単語を選び出すことでSATYRと命名。こんな決め方を実践するのは熟練のギャンブラー、もしくは10代の若者だろう。そしてこのバンドが結成された2004年、メンバーはご想像の通り16~18歳の高校生だった。

そして2006年に『satyr:EP』、2011年には『For Yakuza Kids Political Party』というファースト・フル・アルバムを発表。それ以外にも、2008年に『Territory』、2013年には『Kung Fu Moshpit』というコンピレーションに参加している。

彼らが高校生の時に参加した『Territory』コンピレーションには、ハードコアのBORN FROM PAINA-ZERO、メタルのSYSTEM SUCKERなども収録されていた。また、『Kung Fu Moshpit』はKUNG FU MOSH PITというバンド仲間が作ったグループで、普段はコンサートを企画していたが、コンピレーション・アルバムも出すことになったという。この作品に参加したバンドは以下。

ECCENTRIC TOILETSATYRTRUCULENCY FROM TREMATODECHAIR IN THE SILENCE ROOMCHEST SPLEENVARIATIONHOPELESSUGOSLABIERSOLIDCOREPOLAR BARE KNUCKLES

これらを見ると、デスコア、メタルコア、デスメタル、ハードコアなど様々だが、このシリーズでも取り上げてきたHOPELESSUGOSLABIERといった名前があるので、どのような集まりだったのかは想像できるだろう。

また、『For Yakuza Kids Political Party』は古い作品だが、アルバムのアートワークが興味深いので紹介しておく。
SATYR『For Yakuza Kids Polit...

SATYR『For Yakuza Kids Political Party』

木槌を持った骸骨男が妊婦と胎児を痛めつけているという図だ。

「2008〜2013年は深刻な政治危機だった。それがアートワークに反映されている。スーツを着て木槌と縄を持った骸骨男。これは政治家、権威、裁判官を表現している。男はその手に持った道具を使って純真/潔白な女性と彼女の子供から搾取して破壊していくんだ。俺たちはこういった事柄を悪魔や邪悪な霊が登場するホラー映画に結びつけている。だから、俺達のミュージック・ビデオには悪魔を登場させるようにしているんだよ」

絵だけを見ると少々ショッキングで誇張し過ぎた比喩表現に思えるが、当事者にすれば誇張でもなんでもなく、それは純粋な意味での危機感の現れなのかもしれない。

ところで、彼らは結成から間もないときのことを振り返ってこう語ってくれた。

「タイのシーンでは、アメリカやヨーロッパのようなバンドじゃないならば、あまり受け入れられないだろうね。何が言いたいかっていうと、タイのファンは自国のバンドが何を言って何をやっているかなんてことよりも、海外のバンドのように聴きたいのさ。昔、『君たちはCONVERGEやTHE DILLINGER ESCAPE PLANのような感じでやるべきだ』って言ってくれた人がいたよ。でもさ、たとえ俺たちがそれらのバンドを好きだとしても二番煎じにはなりたくないんだ」
今の発言でなんとなくおわかりいただけたと思うが、SATYRの音楽性はマスコア/カオティック・ハードコアの範疇で扱われることが多い。けれども、バンド側からは"Evil Psycho"という言葉が出てきた。"邪悪なイカれ野郎"とは!?

「実はマスコアと定義したことはないんだ。グラインドコア、パンク、スラッシュ・メタル、パワー・メタル、ノイズ、デス・メタル、ハードコア、マスコアなどいろんな音楽から影響を受けているからね。だから聴き手が好きなように理解して決めて良いのさ。俺たちの曲はメンバーそれぞれのアイデアからできているし、皆、バックグラウンドが違うからそれをバンド内でシェアして作っている。それと、曲のテーマはホラー映画の名作から影響を受けていて『死霊のはらわた』『エクソシスト』『IT』、タイの映画からも。そこに詩やアートを混ぜて歌詞にしていく。タイ語の歌詞に関しては我が国の偉大なる詩人スントーン・プーにも影響を受けている。"Evil Psycho"は俺たちなりの音楽の定義であって、ホラー映画の影響を受けているからなのさ」

『Kung Fu Moshpit』コンピレーション(2013)発表の後、メンバーは学生から社会人となり活動はしばし停止してしまうのだが、NarongとTatpongを土台に、彼らのバンド仲間であるBOMB HEAD MANIA(グルーヴ・メタル)とCHAIR IN THE SILENCE ROOM(メタル/プログレッシヴ)からメンバーを得て2015年に新たな布陣で復帰する。

Narong Sangsiriwattanakul(ヴォーカル)
Tatpong Sensen(ギター)
Sopach Rattanaphansin(ギター)
Pu Chong 666(ベース)
Akekaphong Cheaphruan(ドラム)
Natthi Boonkua(シンセサイザー/キーボード)

その復帰第一弾となったのがこの曲。

SATYR「We're Gonna Get You」

2015年12月発表。

この曲ではメンバー名が、Mr.Babadook、The Knot、Freddy Krueger、Evil Einstein、Hannibal Boy、AK47 Chayaropと表記されている。これは好きな映画に登場する殺人鬼の名前を当てはめただけのジョークであって、深い意味はまったくないとのこと。
ホラー映画好きならすぐにピンときただろう。『死霊のはらわた(THE EVIL DEAD)』でベッツィ・ベイカー演じるリンダが悪魔に取り憑かれて「We're Gonna Get You, We're Gonna Get You! Not Another Peep, Time To Go To Sleep!」と歌う印象的なシーンが冒頭に使用されている。

「この曲で言っているのは、自分の体の一部や友人を犠牲にせず、いかにして邪悪なものから逃れるのかということ。ちょうどこの曲を作っているときに、新しいメンバーが加入したんだ。それで楽曲がさらに複雑化したんだよ。それでも攻撃性は失われていないし、以前よりもすべてが良くなった」

この2015年からがホラーでイーヴル・サイコなSATYRの新しい出発点となっている。

2017年7月15日には、Light My Fire & Gatoh Move Pro Wrestling PresentsのROCK 'N WRESTLING #1に参加。プロレスとバンドの演奏が交互に行われる、タイでは初となるイベントだったという。ちなみにGatoh Move Pro Wrestlingとは日本とタイを拠点としている女子プロレス団体、我闘雲舞のことである。プロレス好きなら来日経験もあるタイ支部所属のヒール、ゴーレム・タイを知っている方もいるかもしれない。

そして2018年からは活動にも拍車がかかり、「1408」「It」「Devil In Nun」。2019年には「Babadook」「We’re gonna get you (Halloween Video)」を発表している。

これらの楽曲もホラー映画がベースとなっている。「1408」はスティーブン・キングの小説『1408号室』が元ネタで、1408号室で超常現象に直面している男性の話。「It」に関しては説明がなかったが、こちらもまたスティーブン・キング原作の『IT』からヒントを得たと思われる。「Devil In Nun」は、連作の第一弾。悪魔に取り憑かれた修道女が司祭に悪魔祓いを受けたが祓えきれずに、皆死んでしまう。その後、この悪魔は復活して「Babadook」でも殺戮を続ける。この物語は次に予定されている「Wolf Of Fatima」で終わるとのこと。ちなみに、『死霊館のシスター(THE NUN)』や『ババドック 暗闇の魔物(THE BABADOOK)』という映画があることも付け加えておく。

SATYR「Devil In Nun」

2018年6月発表。

SATYR「Babadook」

2019年5月発表。

SATYR「We're Gonna Get You」ハロウィーン・ビデオ

2019年11月発表。

こちらはハロウィーン用におどろおどろしい雰囲気で作ったビデオ。
ホラーと融合させた興味深いバンドだ。もう少し注目されても良いようなものだが、そうは簡単ではないらしい。

「タイには多くの興味深いバンドがいるけど、タイのアンダーグラウンド・シーンは俺たちが期待するほど人気があるわけではないんだ。ほとんどの人が世界的に有名なバンドのショウに行ってしまう。だから、地元のバンドだけのイベントとなれば様相は異なる。観客の数を数えることが容易なことも多々あるし、30〜50人ほどの集客のときもある。俺たちの場合は常に10〜20人以上の観客なんだけど、そんなことは気にならない。SATYRの音楽を、会場に来てくれたすべての人と共有したい気持ちが一番だからね。どういう状況であれ、自分たちが愛するものを続けることさ」

彼らのアイデアの源泉はTHE DILLINGER ESCAPE PLANTHE LOCUSTCONVERGEFALL OF TROYED GEINといったマスやカオティックと形容されるバンドにある。けれども、メンバー個々に異なったところから影響を受けたものを融合したり、ホラー映画からのインスパイアも多分にあることから、決してそれらの有名バンドのコピーにはならない独自の"Evil Psycho"サウンドを追求してくれるはずだ。

補足:ANNALYNN

2017年10月、2019年1月と来日公演を行った重量級メタルコアのANNALYNNの活動はとても順調のようで、今年も「Welcome To The Crew」「Home」「Holy Gravity」などのミュージック・ビデオを発表している。

バンドについては『タイのメタルにエールを 第4回』にて触れているので参照していただきたい。

今回は、10月29日公開された「Holy Gravity」を紹介しよう。

ANNALYNN「Holy Gravity」ft. CJ McMahon(THY ART IS MURDER)

オーストラリアのデスコア・バンド、THY ART IS MUDERのヴォーカリストを務めるCJ McMahonをフィーチャーした曲。

ミックスとマスタリングを行ったのはアメリカのJeff Dunne。彼はこれまでに、EMMURE、WAGE WAR、CRYSTAL LAKE、CHELSEA GRIN、MEMPHIS MAY FIRE、MOTIONLESS IN WHITE、FIT FOR A KING、MAKE THEM SUFFER、CROWN THE EMPIREなどの作品を手掛けている。
今回、THY ART IS MURDERのCJ McMahonを起用した理由についてベーシストのEakは、「世界中のデスコアを見渡してみても彼がナンバーワンなのは疑いようもないからね。それにこの曲の歌詞には完璧にフィットしている。それだけさ!」と言っている。

それでは、その歌詞の内容はどうなのだろう。まるでホラー映画のような暗く気味の悪い映像を観て感じるのは、苦しみ、束縛、閉塞感……。メンバーが皆、目隠しをしている理由はいったい何なのだろうか。

「昔行われた実験の結果、魂の重さは21グラムだと言われるようになったんだけど、そんなわずかな重さしかないものが、重い身体、さらには思考までもコントロールしているなんて不思議じゃないか。この曲はそんな人の魂の重さをテーマに隠喩として表現した。ときに人はメッタメタにやられて降参状態になることもあるよね。すると重力が身体を地面に引き寄せて地に膝をつくことになる。でも、重力から身体を開放し、魂もすべての呪縛から解き放ってあげることができたとしたらどうだろう。もはや君を叩き伏せるものはないはずだよ。つまり、俺たちはみんなが人生の障害を乗り越えられるように励ましたいんだ。見たり聞いたりすることではなく、まずは自分自身を信じることが大切なんだ」

だからこのビデオではメンバーが目隠しをしているのだ。周りに惑わされて傷つき消耗させられる場面は少なくないだろう。そんな時は彼らのメッセージを思い出しながら「Holy Gravity」を聴いて欲しい。地に叩きつけるような重量級のリフが覆いかぶさってくるような曲だが、と同時になぜか気持ちが開放されていく感覚もしてくるから不思議。

ANNALYNNは僕らに寄り添ってくれるバンドなのだ。


『タイのメタルにエールを 第12回』へとつづく。