トルコのメロディック・デス・メタルPITCH BLACK PROCESSがシングル「Heroes of 2020」をリリース

Overseas Release
蔓延するウイルスの脅威から人々を守るため日夜働く者たちへ感謝を表する「Heroes of 2020」をリリースしたトルコのメロディック・デス・メタルPITCH BLACK PROCESS。今回の新曲のほか、近況なども踏まえてフロントマンのエムラ・デミレルに語ってもらった。
トルコのPITCH BLACK PROCESSは、1999年にAFFLICTIONとして結成されたメロディック・デス・メタル/メタルコア系のバンドだ。

AFFLICTION名義で『One Reality』(2003)、『Execution Is Necessary』(2007)と2枚のアルバムをリリース後、現在のPITCH BLACK PROCESSへと改名して『Deceiver』EP(2013)、『Hand of God?』(2013)、『Derin』(2016)をリリースしている。

なお、『Deceiver』EPと『Hand of God?』に収録されている「Deceiver」は、当時IN FLMESで活動していたギタリスト、ニクラス・エンゲリンNiclas Engelin)と共同で書いた曲。
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2020年春から一気に拡大した新型コロナウイルスのパンデミックによって世界は混乱の最中にあり、収束の目処は依然見えないように思われる。

PITCH BLACK PROCESSでギターとヴォーカルを担当するフロントマンのエムラ・デミレルEmrah Demirel)の話によると、「トルコではおおよそ5週間ほど前から週末にロックダウンが行われていて、レストラン、バー、カフェなどが閉鎖されている状況」とのこと。

そんなコロナ禍において、彼らは2020年を総括するように「Heroes of 2020」と題したシングルを2020年12月25日にリリースした。農業や医療従事者、配達員をはじめ、巷に蔓延するウイルスの脅威から人類を守ろうと日々奮闘している人々(ヒーロー)に捧げられた曲だ。

PITCH BLACK PROCESS「Heroes of 2020」feat. Cengiz Tural

エムラ・デミレルは「この曲は特別だ」と言う。それはテーマもさることながら、ラップのようなパートが加わっていることもあり、これまでとは違う印象に驚かされる。しかし違いはそれだけではないようだ。


エムラ・デミレル:
「Heroes of 2020」はさまざまな理由からこれまでとは違った曲になっている。まず、バンド史上初のリモート作業となったこと。普段、新曲を作るときはスタジオに集まって話し合い、演奏しながら試行錯誤している。しかし今回は、ネット上でアイデアや録音したサンプルをやり取りしながら曲作りを行った。さらに、曲を作ってから歌詞を書くのがいつものやり方なんだけど、この曲に関しては、ロックダウンの過酷な日々の中で自然と言葉が降りてきた。この期間に俺たちが見聞きした事柄によって、悲しみ、怒り、恩義、有り難みを感じたことで気持ちが突き動かされたんだ。それで世界中のヒーローたちに感謝の意を表したいと思った。ところが、これはいつものようなPITCH BLACK PROCESSの曲にはならないんじゃないかと気づいて、これまでの殻を破るような挑戦をしたところ、ヴァース部分がラップのような感じになったんだ。でも、『Derin』に収録されている「Into the Void」のオープニングを考慮すればさほど奇妙な結果でもないだろう。


さらに今回の「Heroes of 2020」を特別にしているのは、ジェンギズ・トゥラルCengiz Tural)がドラムを演奏していること。彼はこの20年間、トルコの音楽界で多くの有名ミュージシャンをサポートしてきたセッション・ドラマーだ。ということは、現在のPITCH BLACK PROCESSは正式ドラマー不在ということになるのだろうか。


エムラ・デミレル:
元ドラマーには約一年半前に辞めてもらった。彼は10年以上も個人的な問題を抱えていて俺たちにはもう解決できそうにもなかったから。今はまだ正式なドラマーはいない。ジェンギズとは数年前に彼が出演していたフェスで知り合ったんだけど、それ以前から彼の演奏スタイルを尊敬していた。ジェンギズはトルコで最も才能と影響力があり、多才なドラマーの一人。彼なら「Heroes of 2020」にピッタリだと思っていたけどまさにそのとおりだった。一緒に仕事ができて嬉しかったし、彼がこの曲にもたらしてくれたものにも満足している。


PITCH BLACK PROCESSがフルレンス・アルバムをリリースしたのはもう4年以上前。最近の動きとしては、2018年の4月から5月にかけて制作した『SIR』(トルコ語で“秘密”を意味する)EPのリリースを控え、「Zahid Bizi Tan Eyleme」「Buselik Makamına」という2曲のシングルを公開している。


エムラ・デミレル:
『SIR』EPからはまだあと2曲の未発表曲がある。まず、2019年3月に「Zahid Bizi Tan Eyleme」をリリースしたけれども、期待していた条件を満たさなかったことから、長らく次の曲を届けることができなかった。2020年11月になってようやくリリースした「Buselik Makamına」は、トルコで最も歴史のあるバンドの一つで、最高に愛されていて、象徴的な存在でもあるMFÖの古典的名曲として知られるもの。残りの曲もできるだけ早く届けたいと思う。それに、すでに取り組み始めた計画もいくつかある。でもこのパンデミック状態ではどういう形で制作することになるのかはまだわからない。「Heroes of 2020」は自分たちだけでレコーディングとプロデュースも行ったけど、俺たちは2013年以来、ダニエル・ベルグストランドDaniel Bergstrand)と一緒にアルバム制作をしてきたから。


ダニエル・ベルグストランドスウェーデンDugout Productionsを経営し、BEHEMOTHIN FLAMESMESHUGGAHSOILWORKなどの作品を手掛けてきたプロデューサー。彼は、PITCH BLACK PROCESSへの改名後初作品となる『Deceiver』EPにはじまり、『Hand of God?』『Derin』そして新作『SIR』EPまで、一連のアルバムをプロデュースし、レコーディングからミックスまで行っている。

PITCH BLACK PROCESS「Zahid Bizi Tan Eyleme」feat. Hayko Cepkin -

PITCH BLACK PROCESS「Buselik Makamına」

このビデオにはトルコの有名な俳優セリル・ナルジャカン(Celil Nalçakan)とシターレ・アクバシュ(Sitare Akbaş)が登場している。
「Zahid Bizi Tan Eyleme」では自国の大物ロック・シンガー、ハイコ・ジェプキンHayko Cepkin)をフィーチャーするほか、近年のPITCH BLACK PROCESSは母国語や伝統的な音楽を取り入れてトルコならではの雰囲気を押し出すようになってきている。完全に英詞だった2013年の『Hand of God?』までは見られなかった傾向だ。

その始まりは2016年にEMP Label Groupよりリリースした『Derin』からだろう。なんと彼らは、バルシュ・マンチョBarış Manço)の「Halil İbrahim Sofrası」をカヴァーしていた。残念ながらバルシュ・マンチョは1999年に他界しているが、60年代から活動するトルコの国民的ロック歌手として知られ、90年代には来日もしている伝説的大物である。

このようにトルコの特色を音楽面に反映させるアイデアは、PITCH BLACK PROCESSの作品に携わってきたダニエル・ベルグストランドの助言もあるようだが、エムラ・デミレルは幼少の頃からバルシュ・マンチョをヒーローと讃え、彼を真似て長髪にすることを決めたという話もある。ということならば、トルコ色を押し出していくスタイルはごく自然な流れとして納得する。彼の中にもしっかりとアナドル魂が宿っているのだ。

そんなエムラ・デミレルは憧れのバルシュ・マンチョと同様にいつか日本の地で演奏できる日を望んでいる。