‟日本らしさ”の再発見と顕現—―GYZE「TYPHOON CHAOS」東京公演レポート

Live Reports
GYZE:photo by Litch @litch_lp
WIRBELWIND:photo by Kaoriko “ossie” Hanawa
北海道発メロディック・デス・メタル・バンドGYZEが、4thアルバム「ASIAN CHAOS」に伴うツアーの追加日程として東京・名古屋・大阪の3都市に及ぶ「TYPHOON CHAOS」公演を行なった。
ここでは初日の渋谷Club Asia公演のリポートをお送りする。
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この東名阪ツアーにオープニング・アクトとして帯同しているのが東京で活動中のブラッケンド・メロディック・デス・バンドWIRBELWIND
エピックなSEで登場した彼らは皆ファンタジーの登場人物と見紛うような衣装を纏っているのだが、その実音楽やMCはそういった世界観の押しつけやイロモノ感は皆無で、普遍的なメタルのカッコよさで魅せるバンド。
各楽器の音の分離が素晴らしく、特にギタリストのKIKKAはコンパクト・エフェクター一つで音を作っているとは思えないほどのクリアなサウンドを披露。そのテクニカルなプレイの音粒を潰すことなく観客の耳に届ける技術には脱帽した。
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彼らのアルバムに収録されている、SOILWORKのヴォーカリスト/ビョーン・ストリッドとのコラボ曲やCHILDREN OF BODOMの‟SILENT NIGHT,BODOM NIGHT”を特別にカヴァーするなど会場のメロデス・フリークの心を惹きつける試みが満載のステージとなった。
また、興味深かったのがKAZU<vo>のミックス・スタイルのヴォーカル・ワークだ。メタルコアでも使われるようなシャウトから深いグロウル、ハイ・スクリームまで使いこなし、くるくるとスタイルを百面相のように変えてゆく様は観ていて飽きさせない。
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長尺の彼らの楽曲が冗長に聴こえないのはそのためだろう。時間を置いて、もう一度邂逅したいと思わせられた。
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数十分に亘る転換を終えてようやく姿を見せたこの日の主役、GYZEは4thアルバムから新たに加わったギタリストのSHINKAIとサポート・ドラマーのHAN-NYAを含めた4人体制だ。
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筆者はこの体制のGYZEを体感するのは初めてだったのだが、とにかくミドルの音が充実したというのが安直な感想である。Ryoji<g>のテクニックをもってしても、特にソロやメロディを弾いている間は寂しく感じられた帯域が、SHINKAIのバッキングによって埋められたことで安心感がグッと増したのは言うまでもないだろう。
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そしてメロディック・デスにはつきもののツイン・リードによるハーモニーをステージ上で再現することが可能になったことも大きな変化だ。ツイン・リードによるフロアのヴォルテージの上がりようはすさまじく、肩を組んで飛び跳ねる者も現われたほどであった。グッと柔軟性が増した彼らにはいかほどの新機軸が秘められているのか、未知数である。
また、HAN-NYAの解像度の高く繊細なドラミングも新鮮に感じられた。スティックを回しながら余裕たっぷりにプレイし曲の要所でドラム・スツールから立ち上がって聴衆を煽ってみせる姿から、その身にいかにGYZEの楽曲が染み込んでいるかが伝わってきたし、ブラスト・ビートとリフのフィット具合からは他のメンバーとの信頼関係が窺えた。決して急造のの体制ではなし得ないアンサンブルがそこにはあった。
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セットリストの殆どは新譜「ASIAN CHAOS」からチョイスされたもので、その特徴はなんと言ってもクリーン・ヴォイスが効果的に用いられているという点だろう。Ryojiがクリーン・ヴォイスでコーラス・セクションを歌う時、Aruta<b>がデス・ヴォイスで支えるというスタイルが多くの曲で見られた。Ryojiを軸に、それぞれに役割を割り当てることで、各々が以前にも増して不可欠の存在になってゆく様を見届ける機会を与えられたファンは、より応援に熱が入ることうけあいだろう。
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また、「ASIAN CHAOS」の楽曲は日本の土着のメロディを用いて構築されていることも大きな魅力の一つ。メロディック・デスに加えて、皆で盛り上がれるヴァイキング・メタルやフォーク・メタルの要素がプラスされたことにより、叩きつけるような殺伐とした楽曲からオーディエンス・フレンドリーな雰囲気にシフトしたように思えた。和のテイストを取り入れるという案はRyojiが「今後メタルをやっていくうえで、どうしたら誇りを持って活動出来るか」について熟考した末に出た結論なのだという。堅実に国内のシーンでの立ち位置に目を向けるのも勿論大事なことだが、ワールドワイドな活動をしているだけあって、彼は方向性の舵取りの規模感が頭抜けている。
メロデス先進国である北欧諸国のフォーマットを借りるスタイルからの脱皮と、和との融和という再構築。有為転変こそが生き物として脈動するバンドの習わしである。ギター・ソロ・タイムの代わりに公演日間近になって制作されたというトラックに合わせて日本古来の龍の鳴き声を模した笛・竜笛を吹くというパフォーマンスも新たな挑戦の一つ。とは言え、危なっかしさを感じさせずに吹き切る手腕はお見事。
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これらの試みは自国のファンとの蜜月関係—―土着の文化を通じた強い結びつき—―を築くとともに、閉じたナショナリズムの育成ではなく海外へのエスニックな文化の売り出しをも狙ったものである。観客のほぼ全員がメロイック・サインを掲げるピースフルな会場を見渡して、彼らが海外で「ASIAN CHAOS」の楽曲を披露した際の観客の反応もきっとこれに勝るとも劣らない景色なのだろうと想像するのは容易なことだった。
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アンコールは‟Final Revenge”1曲のみを披露する予定だったが、急遽「演奏の調子が良い」として本日二度目の披露となる‟Asian Chaos“もプレイされることに。オーディエンスは歓喜に奮って彼らのサービス精神に応えた。
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彼らの選んだ「ASIAN CHAOS」という道は、自信がアジア人であるという逃れようのない事実と真っ向から向き合い、その出自に誇りを持ち、メタルの本場・欧米に順ずるのではなく新たな色を持ち込まんとする、いわば異分子としての道だ。それでも彼らは地平線の霞む広大な雪原を一歩一歩踏みしめながら前進してゆくのだろう。この日は確実に、GYZEが日本ならびにアジアを代表するメタル・バンドにステップアップしてゆく新章の第一歩であった。
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SETLIST

1. ASIAN CHAOS
2. EASTERN SPIRITS
3. NORTHERN HELL SONG
4. PIRATES OF UPAS
5. THE WHITE TERRITORIES
6. 1945 HIROSHIMA
7. DESIRE
8. Ryoji SOLO
9. DRAGON CALLING
10. THE RISING DRAGON
11. DAY OF THE FUNERAL
~ENCORE~
12. FINAL REVENGE