練りに練られたファースト・ライブ・ツアー! DUAL ALTER WORLD 東京公演@新宿MARZ

Live Reports
 (20009)

声優・小岩井ことり<vo>とBLOOD STAIN CHILDのギタリスト・RYUによるメタル・ユニットDUAL ALTER WORLD(以下DAW)の1st東阪ライブ・ツアーが行なわれた。
本記事では11/24に新宿MARZにて行なわれた東京公演の昼の部のリポートをお届けする。

会場を見渡してまず目に入ったのは、ステージをヴェールのように覆う半透明のスクリーンだった。
そこにはDAWのトレード・マークとも言えるキューブ型のロゴと、公演中の諸注意が映し出されていて、フロアに犇めく観客は、開演予定時刻を過ぎても登場しないメンバーに焦れるように変わることのない表示を見つめていた。


定刻から約10分ほど経っただろうか、小岩井ことりのアナウンスが場内に響く。観客が湧きたったのも束の間、プロジェクターが新たな映像を映し出した。それは、小岩井によるビデオ・レター。
実はこの映像、先立ってリリースされていた1stアルバムの前日譚なのだ。
アルバムには曲間にドラマ・パートが挿入されており、コールド・スリープから目覚めた記憶喪失の少女ルーシェと名付けられたアンドロイドが出会うというもの。
だが、このビデオ・レターでは記憶をなくす前の少女がルーシェに語り掛けている。つまり、アルバムで描かれる「出会い」は実は「出会い」ではなく「再会」だったのだ。ビデオが終わると、アルバムの冒頭‟Alter Ego“の「もう忘れない~」という語りに音声が繋がり、総てが氷解する。この演出には鳥肌がたった。

コンセプト・アルバムとは自宅で完結する音楽の形態の代表格であり、決してライブでの披露には向かないものだが、ライブ会場に足を運んで初めてストーリーの最後のピースを手に入れることが出来るというのは画期的な試みである。
この時の映像は撮影可能となっていたので、気になった方は是非SNSなどで見つけ、各自アルバムの世界を補足してほしい。

1曲目の‟chaos effect”が始まると幕は取り除かれる――と思われたが、ここでも面白い演出が。撮影可能な冒頭2曲はプロジェクターによる映像演出が続行され、曲と連動したエフェクトが映し出されていたのだ。
声優によるライブ、というとカラオケ音源を用いての公演でも客入りは上々になりそうなものだが、バンドを率いてリハーサルを重ね、更にこうした演出を加えるとなると、いかに「ライブ」として来場者を楽しませようとしているのかが伝わってくる。
実像とクロスオーヴァ―する映像というのは2.5次元的な表現手法でもあり、普段2次元のフィールドで活動する小岩井ことりと3次元のフィールドでライブ活動を行なうRYUの2人を繋ぎ、2次元を主に観てきた客層が感じる溝を埋める役割をも果たしていたのではないかと感じた。
 (20012)


序盤2曲が終わるとようやくスクリーンが取り除かれ、MCを挟んで3曲目の‟Opticulture”へ。
この日喉を痛めていると語った小岩井は、援軍にオーディエンスを選び、最前列の客に「覚醒せよ」という歌詞に合わせてマイクを向けていた。
続く4曲目はサビが飛翔系メロディック・スピード・メタル曲そのものの‟Dimention Expander”。この曲では息の合ったタオル回しがフロアで行なわれ、1stライブにして驚くべき速さで文化が根付いているのがわかった。
 (20014)

この日のバンド・メンバーは美弦(g/まだ見たことのないセカイ)yakky(b/BLOOD STAIN CHILD)Shuhei(ds/IMPERIAL CIRCUS DEAD DECADENCE)と、それぞれに自身のホームを持ち活動する実力者揃い。パワー・チューンを畳みかけるセットリストでも持続する体力をもってオーディエンスの熱を受けとめていた。

 (20016)

そんな強力メンバーが一旦捌けて始まったのはRYUのギター・ソロ・タイム
コード・ストロークからボスハンド奏法まで華麗に使い分け、ギター・テクニックの初心者向けセットとでも言うべきパフォーマンスを提供していた。
今回は観客に寄り添い短めの尺で行なわれたが、次なるツアーでは是非とも各メンバーを交えて尺も規模もスケール・アップしたソロ・タイムが観たいと強く思った。
 (20018)

‟Audio City”が披露された後、再びのMCで次曲‟Verasila”が最後の曲だと小岩井が告げると、会場からは名残惜し気な大ブーイングが。それもそのはず、ただでさえ少ない持ち曲を総て演奏していないのだ。
確かに通常のバンドのワンマン・ライブよりは遥かに曲数が少ない。だがそれには理由があった。

小岩井によると、普段メタルのライブに足を運ばない客層を慮って短めのセットにしたのだとか。これを聞いて、DAWは非常に想像力豊かかつ自身の客層の特性を把握し、計算し尽くしているパフォーマーなのだと気付いた。
なぜなら、メタルのファンでもなければ普段からライブ・ハウスに足を運ぶこともなければ、生楽器のラウドな音を間近で浴びることもないに等しいだろうという事にその時やっと思い至ったからだ。

そして、なぜ持ち曲数が少ないにも関わらず最初からワンマン・ライブを敢行する選択をしたのかも判った。おそらく彼女のファン層には対バンイベントは敷居が高すぎるきらいがあるからだ。

そこで小岩井から「オタク文化とメタル文化の異文化交流」の提案が。モッシュ「肉と肉のぶつかり合い」と生々しい表現をしながら、「ゆるふわモッシュをしましょう」と言い放ち、‟chaos effect“のイントロ部分だけを演奏し体験会を実施した。

想像以上に乗り気で参加していたオーディエンスの姿に、近く更に大きな会場で演る彼女達を幻視した者も少なくなかっただろう。
最後の曲‟Verasila“が終わってもなお熱気冷めやらぬフロアからはすぐに「DAWコール」が叫ばれる。

有無を言わせぬ熱量に応えるようにアンコールがはじまると、クールダウンの物販紹介を挟んで、冒頭でも演奏されたサビでの掛け声が痛快なキラー・チューン‟chaos effect”が再びフロアに燃え盛る焔を煽った。非常に短く感じられるステージはオーディエンスの焔をくすぶらせたまま幕を閉じた。
 (20021)

DAWの企画力戦略の練られ具合は近年の様々なバンド、プロジェクトのなかでも指折りのものであり、今後更に規模を拡大していくだろうことをひしひしと感じたショウだった。

この記事のライター

清家 咲乃
清家 咲乃
1996年生まれ。2019年4月よりBURRN!編集部に加わる。音楽に呪われています。 Twitter:@mawatamusick https://twitter.com/mawatamusick

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