ふたつのシーンの観測者~“THE ART OF MANKINDのWooming"が出来るまで 後編

Interview

同人音楽のシーンと現行の国内ヘヴィ・メタル・シーン、2つの世界を知る者としてTHE ART OF MANKINDのWooming<g>に話を聞いた。現場からの生の声を読んでいただきたい。
 (18217)

「アレンジ」からオリジナル・バンドへ移行するということ

――『東方』アレンジは原曲の問題があるじゃないですか?バブルで流行っていた頃のと最近の原曲になってくると親しみが薄れるというか…。
W:
それはそうかもしれないですね。1曲も好きな曲がないとか、存在すら知らないって言われるよりはいいことだって判ってるんですけど、やっぱりそれと向き合えない時期みたいなのが来たんですよ。多分バンドで何十年もやってるバンドとかでもそうなんじゃないかな?「この曲ばっか盛り上がるな」みたいな。
――絶対ありますね。
W:
それ言い出したらキリがないんだけど、10年前のCDは、悪いとは言わないですけど、もちろん好きなんですけど、これを今の自分と並べて同じものとして語られることがあんまり気持ち良くないというか…。そういう感じだったんで一旦辞めてみようと。でも『東方』アレンジを辞めたつもりもないし。今もやりたいんで、時間さえできれば。思ったよりTAOMがキツキツのスケジュールでやってるんで。(笑)
――同人音楽と完全に断絶するというわけではないということですね。
W:
そうそう。「『東方』辞めてオリジナルやりまーす」っていうのは絶対やりたくなかった。一番思われたくないのは『東方』を踏み台にしてオリジナルをやり出すってこと。絶対そう思われたくなかったからこそメンバーが同じでもKissing the Mirrorって名前でオリジナルは絶対やらないって決めてたので。高校の同級生とゲーム音楽アレンジをやろうって立ち上げたサークルを、10年経ったからって俺が勝手にオリジナル・サークルでやるっていうのは絶対違うなって思ってた。すげえ頑固なんですよ。周りからそう思われるのも嫌なんですけど。
――頑固って思われるのが、ですか?
W:
いや、そうじゃなくてそういう風に「やり方を変えたな」みたいな、「こいつブレたな」って思われるのが嫌なんです。HIPHOP育ちですから。
――抵抗してという。でもファンの土台を引き継げるじゃないですか、それはしないってことですか?
W:
それをあてにしてバンドやってしまうと結局意味がないというか。俺のやりたかったバンドというものではない。だから本当はTAOMの1stアルバムが出た時のインフォにも「“元Kissing the Mirror”って書かないで欲しい」って言ったんですよ。でもやっぱりレーベルは仕事じゃないですか。
――それは売るためには必要になりますよね。(笑)
W:
売る仕事なので。それが売り上げに繋がるとは大して思ってなかったけどまあ結局書かれたのはしょうがない。お金出してくれる人のいう事は聞かないといけない。(笑)
Distant Light (2018年)

Distant Light (2018年)

RETS-004/¥2,500

同人培養のメタラー

――TAOMを始めてすぐに「きすみら」のファンが見つけませんでしたか?
W:
まあ俺がTwitter自体は同じアカウントでずっとやってるんで。けどでも、あんまり…連れてきてないな、っていう感じはありますね。ライブの客層も全然入れ替わってるし。
――元々のファン層としてはメロデスを好きな人なのか、『東方』のアレンジを買い漁っている人なのかどちらが多かったんですか?
W:
やっぱり『東方』アレンジから入ってる人が多かったですね。で、「『きすみら』で初めてメロディック・デス・メタル聴きました」っていう人がいたりするし。それがすごい嬉しかった。「俺が好きなのこれやで」っていうのを皆がどんどん栄養として受けてメタラーに育っていくので(笑)、それがすごい楽しかったです。全然発信する感覚が違いますね。メタル・ファンで聴いてる人はみんな既に知ってるじゃないですか。でも『東方』アレンジ聴いてる人はメタルヘッドじゃない人もいるし。そういう人たちに対してこういうのを出して、で、俺がTwitterで「こういうバンドが好きで」みたいな話をしてると、何年か後にバンドマンとして「僕高校生の時『きすみら』聴いてたんですけど、WoomingさんのTwitterでTHE BLACK DHARIA MURDERを知ったんです」みたいなことがあって。すっげー嬉しいですね。
――そういう力がありますよね、同人音楽って。
W:
うん、そうですね。
――特に『ニコニコ』とかでアクセスしやすいじゃないですか。中高生の時に聴いたものってすごい影響力がでかいので。
W:
そうですよね。それが青春やったって言われることも未だに結構あります。「中学生の頃聴いてました!」とかすごい嬉しいです。

ゼロから始めるメロデス作曲

――TAOMはリリースが多いバンドということで訊きたかったんですが、音源のリリースが極端に少ないバンドってあるじゃないですか?昔のバンドだったら5年活動してデモをたくさん出してアルバムがやっと1枚出るとかあると思うんですけど。制作ペースは変わりましたか?オリジナルというか、バンド編成になってというか。独りでやってたらやっぱ合意がなくても出せますよね。
W:
そうですね、それはありますね。やりたいことをやりたい分だけパーンって作って、ヴォーカルにだけ歌詞振って、指示すればいいだけだったんですけど。バンドは、立場的に俺一人と残りサポートじゃなくて全員正式メンバーで、っていうのを最初からずっと意識して、みんながやりたくないことは絶対やらないって決めてるし。それでも今のTAOMのペースっていうのはすごいな、と思います。俺にとっては結構日常と言うか(笑)、今までずっとやってきたことにプラスでちょっと面倒臭い事務作業とか、皆の合意を取る工程が加わっただけなんで。音楽を作るってことに関しては本当素みたいなものです。基本的に、いついつ出そうよって舵を取るのは自分なんですけど。それで皆「やりましょう」ってやってくれるのがすごいありがたい。ありがたいって俺が言うのもおかしいんだけど、皆すごいなって思います。
――曲が出てこないというか、作曲において悩むことってないんですか?
W:
俺は…ないです
――ええ~!
W:
マジでないです。(笑)
――すごいですね。
W:
なんやろう、なんでかは判らないんですよ。
――しかも原曲ありきで作るのとゼロから作るのとでは相当違うと思うんですよね。
W:
作り方は結構変わりましたね。「やっぱ『東方』のメロディ、スゲーな」って今思いますもん。「サビにこういうメロディが来ると一気にキャッチーになるなあ」みたいな。俺はずっとリフを作ってたんで。TAOMはKenkawa<g>さんと二人でメインソングライターなんですけど、彼の曲はすごいキャッチーなんでなるべくそっちを表に出そうという感じでやってます。今までMVにした曲とかも全部Kenkawaさんの曲だし。俺が作るとすごい不愛想な曲になっちゃうんですよね。(笑) THE BLACK DHALIA MURDERってそんなに愛想がないじゃないですか。
――CHILDREN OF BODOMとかの愛嬌はないですよね。
W:
そうそう。サビにメロディが来て、みたいな感じじゃない。結構日本人はサビを大事にするじゃないですか?けど彼らはアメリカ人で、必ずしもサビが一番良いところじゃないんですよね。オリジナルでゼロから作ったらそれの影響を一番受けちゃってることに気づきました。(笑) だから最近はサビだけケンさんに投げたりします。次のEPは共作が3曲あるんですけど、俺がサビの前まで作って「サビだけメロディ入れて下さい」みたいな。逆に、ケンさんの曲をぶん取ってギターソロの後のブラストビートパートに俺がリフ入れたりとかも。すごい楽しいです。(笑)

The Black Dahlia Murder "Funeral Thirst" (OFFICIAL VIDEO)

Children Of Bodom - Blooddrunk

‟バンド”としての舵取り

――楽しくてしかもリリースが速いっていうのはいいですね。リスナーとしてはライブに行く前にまず音源を聴きたいというのがあって、予習じゃないですけどどんな音楽か知りたい時にひとつも出てないとやっぱり行きづらいっていうのはあるので。
W:
そうですね。そもそも始めた時に30歳過ぎてるので、今更そのスタンスで活動してもしょうがないというか…(笑)別に俺はライブ・ハウスで遊びたいわけでも自分が有名になりたいわけでもなく、バンドでちゃんとした活動をして、曲を皆に聴いてもらいたいっていうのが第一なんで。
――“バンドをやりたい”っていうわけではないんですか?
W:
バンドはやりたかったんですけど、その看板は自分のためじゃないというか。色んなバンドの話を聞いていると「あれやりたい、これやりたい」って話がぶつかるらしくて。でもうちのバンドは皆一人ひとりが「俺がこれをやりたいから」ではなく「どうやったらTAOMを前に進められるか」っていうことを考えて活動してる。「こういうことをやりましょう」とか「こういうツアーをしましょう」っていう指針を示す役割を俺が担うことが多いですけど、自分のエゴだけをメンバーに押し付けることも無く、皆で同じ方向を向いてバンドが前に進むと、結果的にそれがすごく嬉しい瞬間です。30歳過ぎてこんな楽しみが見つかるとは思ってなかったです。
――結構苦しんでバンドをやっている人もいる中で、楽しんでやっているのはすごく良いことだと思います。メンバーは「きすみら」の時に出会われた方を引き継いでいると思うんですけど、サポートからバンド編成へ変わるにあたって意識が変わるじゃないですか。その場限りじゃなくて、ぶつかることもありますし。「バンドをやろう」と言った時に皆さん快諾されたんですか?
W:
そうですね、それはKenkawaさんとsawacy<vo>に関しては割とあっさりしてました。というか多分彼ら的には「あんまりやること変わらないんじゃないかな?」って思ったんじゃないですかね。(笑) 俺は自分の曲に乗るのはsawacyの声が一番いいって思ったし、Kenkawaさんに関しては「俺、ケンさんの曲が聴きたいんですよ」って言って。あの人も独りでやってるとめったに作らないんで、二人でダブル・コンポーザーみたいな感じでやりましょうよって誘って、最初に持って来た曲がEP「AXIS」の1曲目の“Beyond Redemption”って曲なんですけど。それを聴いた時点で「ああ、勝った!やったわ!」って思って。それで一気にモチベーションが上がりました。

レーベルとサークルの相違点

――同人のシーンとバンドのシーンで違うことはありますか?やっている人の意識だとか。
W:
バンドの方が幅広いですね。特に音源も出さず楽しくライブだけやってればいいやって人もいれば、音源も含めてトータルでの活動に意識を置いてる人もいる。でも同人シーンに関しては…うーん…皆楽しそうですね、同人は。(笑)
――やりたくてやってる!って感じですか?
W:
そうですね、バンドもそうだとは思いますけど。だって言ってしまえば趣味じゃないですか、同人は。それを仕事にしちゃう人もたまにいるけど。バンドは周りから見たら極端じゃないですか。趣味でやってる社会人バンドと、それ以外のプロっていうイメージ。でも実際はどっちでもない人もいっぱいいる。俺も趣味や遊びでやってるつもりはないけど、かと言って仕事でもないし。そういう層がいて、趣味みたいな人もいてプロもいてっていう。同人にはプロ並みのクオリティで作れる人たちがたくさんいるけど基本的には皆趣味なのでもうちょっとゆるい雰囲気というか。あんまり他の人達に「なんでやってんの?」とかって聞いたわけじゃないんで判らないですけど。シーンの違いに関してはそんな感じですかね。自分のやってる時の意識に関して言えば、プレス代出さないのはすごい嬉しい。(笑)
――レーベルに所属して。
W:
うん。黒字とか赤字とかさておき毎回まとまった現金が必要になる訳じゃないですか、プレスするにあたって年に何回も。またプレス代で10万円飛んでっちゃうな~っていう憂鬱が今はなくて。
――人のお金でCDを作る。(笑)
W:
そうなんですよ。一番楽しいのそこかもしれないです。(笑) 「え~、こんなにイイんですか!?」みたいな。プレス代だけじゃなくて予算とか。別に俺らは売り上げで暮らそうなんていうレベルじゃないんですけど、それでも「これだけの売り上げ見込みがあって、これだけの予算が出ます」って言われるたびにどんな額が来ても「イイんですか!?」っていう。(笑) これをどこにどういう風に使おう、みたいな感じで考えます。
――それは独特かもしれないですね。今までがあって…
W:
そうですね。10年間自分でやってきたからこそ有難みを感じますね。お金大事だし。普通に社会人だし結婚もしてるし、気付けば自分の音楽活動のために際限なくお金を使うにはちょっとハードルが高い人生になりました。器用に音楽が出来る方じゃないんで、バンドがどれだけ売れてもこれでお金稼いで一生やっていくんだ、っていう決意にも繋がらないと思います。そんなこと出来るならとっくにタトゥー入れてますね。(笑)
――あ、そうなんですか?
W:
(笑) タトゥーは極端かもしれないですけど「死ぬまで俺は音楽・バンドでやっていくんだ」って決意出来る人は尊敬します。あくまで俺のスタンスとしては仕事じゃないけど趣味でも遊びでもないって感じかな、バンドって。だからこそあんまり開き直れないというか。同人音楽だったら何を言われても「いや、これ俺の趣味だし」って言えるので。(笑) でもバンドってこうやって、色んな雑誌とかも関わって。お金を出してくれる人がいて、っていうところで。音楽以外の部分でちゃんと他人のことを考えないといけない。納得させないといけないというか。予算絞り出すために「このアルバムが前回より売れる理由を10個一緒に考えよう」ってレーベルの人に言われて考えたりとかしてますよ。(笑) 「10個も出て来ませんよ、いつも同じような音楽やってるのに」って言いながら、「今回はジャケがこの人で~」、「こういう大きいライブが決まってまして~」って挙げていくのをやってますね。そういうのは「きすみら」の時はなかった。
――レーベルという存在も新鮮といいますか。
W:
そうですね。でも楽しいですよ。あんまり外部の話聞いて音楽作ることがないので。レーベルの人は色んな活動スタンスのバンドやシーンを見てきてるし、「これなら○○枚ぐらいかな」みたいな予測も立ててくれる。自分の音源を聴かせて、それがどういう評価を受けるかみたいな客観的な話を聞くのは面白いですね。別にそれによってやる音楽は絶対変えないんですけど。
――頑固ですね。(笑)
W:
「俺らに何言っても無駄ですよ」とはもう言ってあるので。けど自分たちがどういうレベルにいるのかみたいなことを冷静に審査してくれる、そういう大人がいるのは面白いですね。

the Art of Mankind 「Gods of Slaughter」

哀しみを纏い激走するメロディック・デス・メタル the Art of Mankind、3年連続の作品リリースとなる6曲入りミニアルバム「Gods of Slaughter」2019年11月13日(水)リリース!

Repentless RETS-014
¥1,850+税

<収録曲>
1. Death Addiction
2. Gods of Slaughter
3. Seventh Ghost
4. Where Eternity Dies
5. The Gray Night Skies
6. Requiem
 (18236)

the Art of Mankind Gods of Slaughter Tour 2019-202

2019.11.15(fri)
 新宿ANTIKNOCK
2019.11.24(sun)
 名古屋@-hill
2019.12.5(thu)
 新宿dues(ディスクユニオン購入者向けワンマンライブ)
2019.12.14(sat)
 京都MOJO (playing the songs from New EP”Gods of Slaughter”&2nd Album”Archetype”)
2019.12.15(sun)
 大阪Bigtwin Diner SHOVEL (playing the songs from New EP”Gods of Slaughter”&1st Album”Distant Light”)
2020.1.11(sat)
 渋谷CYCLONE
[Special Guest]VOLCANO(60min Long stage) [Guest] EREBOS,Bloodeyed Sunset
 (18239)

 (18240)

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