『デジタルはパンク』という新境地 明日の叙景 Kei Torikiインタビュー

Interview
pale/nhomme/冬蟲夏草/明日の叙景による4 way split 「Two」の深淵に迫るインタビュー
つい先日リリースと相成ったPalenhomme冬蟲夏草明日の叙景による4way split、「Two」
まさに個性のぶつかり合い、最強の矛と盾が入り乱れて騒乱を形作り我々を翻弄するかのような強烈な一枚だ。
じつはこの4way splitには以下のようなコンセプトが隠されている。
――『デジタルはパンク』
現場の熱、口コミで広がる価値、そこに行かないと見られない景色。ライヴハウスに生きる人々からはこのような意味の言葉がときおり発せられる。その中には自分たちが夢中になって聴いていたミュージシャンもいる。これまで大切にされてきた価値観。そしてこれからも…。

しかし、ライヴハウス限定販売や撮影禁止など、そこに行かないと得られない価値があるということは、住んでいる場所が違ったり、金銭的に問題を抱えていたりする人がコンテンツを得られない、あるいは得るために多くの時間、お金、手間をかけなくてはいけないということにつながる。
時代の変化に伴い、現代では映像や音楽へのアクセスが容易になってきている。YouTubeやストリーミング配信をはじめ、身近に音楽に触れられる環境が整ってきた。果たしてその流れに抗うことがパンクなのであろうか。
様々な制約を無くして自分たちの音をより多くの人に、なるべく公平に届けること。それこそが今の時代におけるパンクではないのか。

ここに現代の技術やサービスを用いて、多くの人々に自分たちのエクストリームミュージックを届けるべく、Palenhomme冬蟲夏草明日の叙景の4バンドが集い、4way-split”two”を完成させた。――
キャッチコピーを一読しただけでは首をかしげる人も少なくないであろうこのテーマについて明日の叙景Kei Touriki<g>に話を訊いた。
 (18550)

Kei Torikiインタビュー

――今回、一見ジャンルのバラバラな4バンドが集まったきっかけというのは何だったのでしょうか?
kei Toriki(以下K):
今回の4way-splitはpaleが中心となって動いているのですが、よくライブで共演する同世代のバンド、つまり横の繋がりで作品を作ろうと彼らが声をかけてくれたことがきっかけです。
どの集団からも少しはみ出てしまうバンド同士がたまにはと、暖を取っているイメージです。
――なるほど。確かにsplitの中でも、それぞれのバンドがはみ出ているような癖の強い楽曲が出揃っていますね。『デジタルはパンク』というコンセプトが生まれたのはどのタイミングでのことでしたか?
K:
この作品を作ると決めてから、各バンドの代表者1名が集まる会議があり、そこで決まりました。
同世代や横の繋がりだからこそ発信できる内容は何だろう、という問いかけから生まれたコンセプトでした。
―今回参加しているバンドのメンバーは全員が20代周辺ですよね?そうするとネット世代ということになりますが、だからこそ「デジタル」という単語が出てきたのでしょうか。
K:
はい、20代が中心です。「デジタル」という単語が出てきた理由もその通りだと思います。
この4way企画発足前から、4バンドで一緒に飲み食いをしていると、ライブハウスにおけるキャッシュレス決済の是非だったりと、ライブハウスやバンドの文化におけるテクノロジーの在り方などを議論することが多かったことを思い出しました。
――パンクと言えば反体制やDIY(Do It Yourself)の精神を標榜するカルチャーですが、そうしたテクノロジーに頼ることを「DIYから外れた」とし、デジタル化の波に抗っているパンクスの方も多いかと思われます。それもまた反体制と言えますが、ではなぜ「デジタル」の側が反体制だと解釈されたのでしょうか?
K:
はじめに、DIYの精神についてですが、どのようなモノづくりにもテクノロジーが背景にあります
例えば、手書きフライヤーを作るには大量生産された鉛筆と印刷技術が必要ですし、CDやレコードも同様です。
厳密には定義できない「DIYの精神」「テクノロジー」といった単語に振り回されていると、当初のモチベーションを見失ってしまいます。
媒体や技術に対してより真摯に向かい合い、自分達の目的―居住地域や経済的な問題、国や言語を超えて、なるべく多くの人に寄り添い、音楽を届けること―を達しようというのが今回のテーマです。
「反体制」については厳密には考えていません。
どのようなテクノロジーを利用しても、体制的な発信、反体制的な発信、共に可能です。
今回のテーマは、何かを白黒させることを目的とはしておらず、物は使いようだという柔軟な考えを啓蒙することに主軸があります。
より正確にこのニュアンスを伝えるなら『デジタルだってパンクじゃん』がタイトルとして正しいかもしれません。
――思想によっては突き詰めるほどその限界が見えてくるものもありますよね。そうした意味では、天井知らずで音楽を拡散出来るやり方は潔く、気持良いです。 柔軟な考えの啓蒙は主にどのような層に対するものだとイメージしていますか?例えば、フィジカルに拘泥する人などですか?
K:
啓蒙の対象は自分たちと同世代のミュージシャンですね、あるいは、自分たち自身に対する励ましかもしれないです。
フィジカルに拘る人や現場至上主義の人に対して啓蒙したいという気持ちはないです、掘り下げていくとモチベーションや思いは同質のものだなと。
ここ数年の、日本におけるHIP HOPの成功を見ていると、新しい世代にとってはフィジカルよりデジタルの方がリアルであることに間違いはありません。そのような感覚を自分たちも持っていいし、認めていいのではと感じますね。
――なるほど。Splitという同世代のバンドが集まった形でのリリース形態だからこそ可能なアピールですね。
YouTubeで総ての楽曲を順次公開しているのも、現行のHIP HOPシーン近いものを感じます。
今回のリリースにあたって他にネット上での取り組みはされていますか?
K:
楽曲のアップロードの他に、バンド毎にレコーディング風景などの動画コンテンツを順次公開しています。
また、レコ発の前には4バンドの代表者による座談会動画を公開予定です。
作品が作られる過程や、作者の考えなどを公開し、共感してもらうことも大切だと考えています。
――中には作品の制作過程を見られるのを嫌がるアーティストもいると思いますが、舞台裏を見せることによって共感したリスナーに望むリアクションなどはありますか?
K:
音楽活動だったり何らかの発信をすることの面白さや大切さを感じてもらえると嬉しいですね。自分もバンドのレコーディング風景を映像で見たり、アーティストのインタビューを読むことからインスピレーションを得ることが多いので、それを期待しています。
――ひとつの起爆剤の形として見られてるんですね。レコ発ライブでそうした一連の企画は収束するのでしょうか?
K:
はい。レコ発ライブでは簡単なライブの生配信を予定しており、その日をもって一連の企画は収束します。
一方で、この企画をきっかけにまた新しい試みや挑戦が生まれる可能性は十分あると感じています。
――新しい企画というのは、このSplitに参加したバンドで、ということですか?それとも明日の叙景単独でのものになるのでしょうか。
K:
4wayをきっかけに、明日の叙景でやってみたいと思うことが増えましたね。
今回の4バンドは普段、他人とつるんだりはしないバンドだと思うので、しばらくはこの4バンドで一緒に動くことはないと思います。
――バンド同士でつるまないというのも最近のシーンでは珍しいですね。やってみたいことというと、具体的に思いついていることはありますか?
K:
消極的な話ですが、つるまないというよりかは、つるむ相手がいない4バンドで集まっているので、自然とそうなる気がします。
4wayに提供した‟冷たい傍ら (Dear Coldness)”の制作をきっかけに新たな楽曲のアイディアやインスピレーションが湧いたので新しいリリースに向けた制作を行いたいです。
あと、何かを企画することは面白いなという気づきから、ライブの企画をやってみたいなと感じました。
今回の4wayは中・長期的な企画だったので、もう少しカジュアルなライブの企画をやってみたいです。
具体的には2マン、3マンのライブの企画頻度をあげたいなと思っています。
――このsplitを聴いても判るとおり、非常に個性の強いバンドだからこそなのでしょうね。
‟冷たい傍ら (Dear Coldness)”の制作時は、splitへ提供する曲だということや、他のバンドの作風を意識されたりはしましたか?
K:
はい。他のバンドの作風は意識していませんが、Splitへの提供曲なので、シングルカットできる強度にすることは意識しました。
アルバム制作の場合は曲ごとに役割を考えますが、今回は1曲のみの提供なので、1曲の中に起承転結を作ることも考えました。
――なるほど。1曲完結型ということですね。明日の叙景では近々リリースの予定などはありますか?
K:
はい。今年中のリリースはもうありませんが、来年には国外のバンドとのスプリット作品と、単独作品のリリースを予定しております。
――ありがとうございます。最後に、ネット世界(=デジタル)でのこの作品への反響はどのようなものか教えて下さい。
K:
このインタビュー時点では全てのコンテンツが公開されている訳ではないので一概には言えませんが、自分たちの音楽や考えが丁寧に伝わっていることがわかるコメントが多く見受けられました。現段階では、まだ種まきに近い発信かもしれませんが、のちに芽が出ることを期待しています。また、国外への自分たちのメッセージを伝えるにあたっても、コンスタントな発信や創作が必要だなと感じます。


公式Webページ

「Two」は現在YouTubeにて全曲視聴可能

pale - Dakhme

nhomme - 淋檎の謳(Apple Poetry)

Tochu-Kaso - Toy

Asunojokei - Dear Coldness