ナレーションはメタラーにまかせろ Vol.2 「平成とカセットと私」

ナレーションはメタラーにまかせろ
"擦りきれるほど聴いた"という音楽表現。何が擦りきれたのか? そう、カセットテープだ! もう一回あの曲を聴こうと巻き戻し、このアルバムはいらないから上書き録音、全曲聴いてたら、ガチャガチャっとオートリバース…。愛聴盤ゆえにカセットに負荷をかけ続けてしまった多くのメタラー。だからこそ思い出のアルバムは数知れず。そんなエピソードは昭和じゃない、平成だってあったのだ。「Al●●a!ナレーション読んで」ってAIに頼むような「令和」が来てほしくない現役TVナレーターが綴るアナログ美学「平成とカセットと私」!
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平成元年~1989年~

「平成」が始まったのは、Bクラス常連の大洋ホエールズを応援していた16歳の頃。深夜番組『PURE ROCK』等で情報を収集していたあの頃が、メタル愛聴の絶頂期だったかもしれない。

遡ること1983年に発売が開始された音楽CD。5年後の1988年には、売り上げはLPを追い抜き、1989年はCDがメジャーソフトとなっていく。
しかし、音楽市場の主役となったCDとは言え、1枚約3000円…購入までにはなかなか至れられない、当時の学生時代のお財布事情があった。
そこで音楽に飢えた若者の強い味方が、レンタルCDショップだ。著作権の改正により、新譜のレンタル禁止期間が1年間に延長された平成2年までの約2年間、地元の友&愛でメタルの新譜を借りまくり、カセットテープに録音。雑誌付録のカセットインデックスに、アルファベットの転写シールを貼ったりなど、テープでメタルを聴きまくっていた平成元年だった。

1989年リリースのメタル作品を調べてみると、AEROSMITH『Pump』、Alice Cooper『TRASH』、ANNIHILATOR『Alice In Hell』、BADLANDS『Badlands』、BLUE MURDER『Blue Murder』、THE CULT『Sonic Temple』、EXODUS『Fabulous Disaster』、EXTREME『Extreme』、KING DIAMOND『Conspiracy』、KISS『Hot In The Shade』、LEATHERWOLF『Street Ready』、LOUDNESS『Soldier Of Fortune』、MSG『Save Yourself』、METAL CHURCH『Blessing in Disguise』、MR.BIG『Mr.Big』、MOTLEY CRUE『Dr.Feelgood』、W.A.S.P.『The Headless Children』、SKID ROW『Skid Row』、SAVATAGE『Gutter Ballet』、WHITESNAKE『Slip Of Toungue』等々。

皮肉にも&グランジ&誕生となった1989年は、ベテラン、新編成、デビュー作、スーパーバンド等々大豊作の年だった。これらは後に改めてCDを購入することとなるわけだが、上記の作品陣は、テープが擦りきれるほど聴いていた。
今やCDすら、時代遅れとなりつつあるなか、「録音」の二文字と密接な我々“ナレーター”にとっては、まだまだ記録ディスクは身近であり、大事な録音&録画ソフトである。

現在は、「XDCAM」という放送業務用ディスクが主流だが、つい最近までは、「HDCAM」というビデオテープが、ナレーション収録現場では活躍していた。
ましてや、自分が駆け出しナレーターの頃は、まだオープンデッキが現役だった時代であった。ナレーション収録を終えたラジオCMの納品にオープンリールが使用されており、自分もそこそこナレーター歴を積んでいることを実感する。

無限の広がりがある制限だらけのテープ

オープンリールにハードロックにまつわる思い出がある。

ラジオFM局が主催したパーソナリティーのオーディションに挑戦した約20年前、5分程度の自己紹介音声作品がオーディション参加に必要だった。俗に言う「テープ審査」だ。
この作品づくりを、当時親しくさせてもらっていたベテラン音響職人に委ねた。

VAN HALEN“Good Enough”での、サミー・ヘイガーによる「ハロ~ベイベ~」や、GOTTHARD“Immigrant Song”冒頭のピックスクラッチ、AEROSMITH“Eat The Rich”のゲップ音など、ハードロック通なら反応してくれるであろう幾つものショートフレーズをオープンリールに録音、ダーマトグラフで磁気テープにカットポイントを記し、ショートフレーズを切り貼り、今で言う”サンプリング”の手法で見事に作品を完成させてくれたのだった。
5分間の番組のような構成に仕上がったこの音源はMDに録音し、ふたつのラジオ局でテープ審査を通過した。

その後の自分に大きな自信を抱かせてくれた、忘れられない作品だ。

そんな手作り感溢れ、かつ面倒なオープンリールは、「逆回転」という偶然の産物を、ミュージックシーンに浸透させた。
代表的なTHE BEATLESの“Rain”やQUEEN“Ogre Battle”を筆頭に、ピアノ和音を逆回転させたYES“Roundabout”や、デモテイクを逆回転させたMETALLICA“Blackened”など、マルチトラックやオープンリールなどの、アナログテープだからこそのアイディアやひらめきが、まさに「こわれもの」のようで「正義」な、奇妙でサイケな唯一無二のカルチャーを誕生させた。

カセットテープはもはやコメディー!?

平成の30年間でテクノロジーが急速に進歩し、音楽の聴き方&買い方すら変わったけれども、オートリバースを考慮しながら、再生&REC同時押しをしたりした「磁気テープ」も、大事な平成の思い出だ。
1992年公開の映画『ウェインズ・ワールド』のオープニングにて、懐かしのアメ車・AMC ペーサー内でのマイク・マイヤーズ演じるウェインが持つ一本のカセットテープから流れるQUEEN“Bohemian Rhapsody”。
あの大合唱シーンが印象的な本作は、平成4年公開だった。
その2年後となる、平成6年の1994年公開の映画『ハードロック・ハイジャック(原題:AIRHEADS)』だ。
若かりしブレンダン・フレイザー、スティーヴ・ブシェミ、アダム・サンドラーたちヘヴィメタル・バンド「ローン・レンジャーズ」が、ラジオ局に強引に自分達を売り込む際持ってきた音源は、まさかのオープンリールだった。
平成の幕開け時は、まだまだ磁気テープが健在だったということがわかる。
映画『ハードロック・ハイジャック』にて、ブレンダン・フレイザー演じるチャズは、喧嘩中の恋人に、自分は高校時代”GEEK(オタク)”だったと打ち明けるシーンがある。
このシーンにて、まさかの故レミー・キルミスターも登場するのだが、それはさておき、この”GEEK”という悲しきレッテルは、Y&T『In Rock We Trust』収録曲“Don't Stop Runnin”のMVでも登場する。
見た目トホホな男子学生が、勇気を出してポニーテールのスージーをコンサートに誘うが、彼女は彼に「You're Such A GEEK」っと一蹴。
失意の彼は自分の部屋でカセットウォークマンを聴くと、まさかのハチャメチャな展開へと進み、最後はちょっぴり切なく終わるという、走り続けることを鼓舞する骨太なロックバンド、Y&Tとは思えぬ作りのMVである。

このオタクの反骨精神は、「CHICKEN」と言われると逆上する、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公・マーティーも連想させる。
”VAN HALEN”と記されたカセットテープを入れたウォークマンで、寝ている若かりし父親に爆音を聴かせるシーンがあった。
『ウェインズ・ワールド』のウェインも含め、融通がきかないけどどこか憎めない男とロックテープというのはよく似合う。
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映画『ハードロック・ハイジャック』(1994年)
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映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)

RECを止めるな!

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映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)
自分の好きな楽曲を一本のカセットにまとめる「マイコレクション」制作は、MP3音源が主流となったいまでも大好きな作業である。
選曲&曲順に拘りながらの作業中の自分は、まさにGEEKそのもの。
自己満足で楽しみながら制作しては、友人や恋人などにカセットやCDを贈呈しまくるという、GEEK気質は継続中だ。
前述の映画『ハードロック・ハイジャック』の主人公が、なぜ自分達のマスター音源をオープンリールにしたのかというと、彼は「オープンリールのほうが低音が素晴らしいんだ!」と言っていた。
デジタルリマスター盤が発売されようが、初版の帯付き旧譜に大金を支払うというコレクター気質も、一般人から見れば立派なGEEKなのかも知れない。
この揺るぎない“拘り”において、ノーマルかハイポジかメタルか、やはりDATなのかと、カセットテープ選びも悩ましかった。

高額なDATは別として、調べてみるとノーマル(酸化鉄)、ハイポジ(コバルト、二酸化クロム)、メタル(純鉄)と、磁気記録ゆえの化学的特性があり、なんでも、低音重視はノーマル、高音重視はハイポジなんだとか。

我々ナレーターの世界でも、低音ボイスとクリアボイスによってマイク&ヘッドフォンは適性があり、マイヘッドフォンやマイマイクをスタジオに持参される著名なナレーターも存在する。



ストリーミング&ダウンロードとなり、最善の方法をAIが導いてくれる時代に、片面45分の90分テープの尺内で自分の世界観を築くこの情熱と工夫に、今となってはやれやれと思う者もいるだろう。

しかし、ミキサー、音響効果、ディレクター、そしてナレーターが集まったナレーション収録現場は、デジタルを駆使しながらもアナログの美学が詰まった空間である。

1時間番組のディレクターが、取材&編集した映像には、苦労と拘りと妥協と愛情が詰まっている。

その”完パケ”間近の映像に、ナレーターたちが人力&手探りで取りかかる。



新元号「令和」は、もっと便利に効率良い制作が出来る時代になるのかもしれないが、カセットテープ世代のオヤジたちの悪あがきが保たれている時代でもあって欲しい。

そのアナログ美学を保持&継承してくれるのは、“GEEK”である我々メタラーたちなのかも知れない。



昭和から平成を経たメタラーは、パンク、ニュー・ウェイヴ、グランジの荒波にのみ込まれ、失速するメタルを目の当たりにしてきた。

そんなロック・ムーヴメントにより、恥ずかしながらメタルから遠退いた時期もあった。

しかし、2006年(平成18年)公開映画『テネイシャスD 運命のピックを探せ!』のエンドロールで流れた“THE METAL”、PRIMAL FEAR“Metal Is Forever”等、まさに"
Tenatious(粘り強い)"なメタルの底力に、再びメタル愛が沸き上がった。

"アラフィフGEEK"代表・ジャック・ブラックの高笑い、ラルフ・シーパーズの雄叫びは「令和」になっても聞こえてきそうだ。
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映画『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』(2006年)
※ジャック・ブラック主演、他にデイヴ・グロールやロニー・ジェイムス・ディオ、ミートローフ等が出演。