ナレーションはメタラーにまかせろ Vol.03「連休が来りて、ヘヴィメタる」

ナレーションはメタラーにまかせろ
負けないで、もう少し、最後まで走りぬけようと思ったが、愛のままにわがままに横道に反れ、遠回りしてしまった。緑色の五月雨が降った時、メタル・ストーリーは突然に舞い込んでくる。不屈の・・・いや、卑屈の精神を背にまとい、いまなおスペシャルフラッグが見つからないTVナレーターが綴る、パイルドライバーでスプラッターな応援ソング論「連休が来りて、ヘヴィメタる」。

Blue Monday

Queensryche - Spreading The Disease

「令和」元年が幕を開けた2019年5月。大型連休が終わると忍び寄る「5月病」と呼ばれる現代病。
自分の認識では、連休続きによる疲れみたいなものかと思っていたが、どうやらそれは誤りで、4月入社した新社会人が、連休によって社会人感覚が鈍る、もしくは現実逃避したくなることを指すらしい。
調べてみると、”5月病”は英語では”Post-vacation blues”と和訳されている。
平成の思い出と令和の思い出が重なった今回のGWは、新社会人のみならず多くの人の心にGary Moore”Still Got The Blues”が流れているのかもしれない。

そんな日本列島に"Spreading The Disease"の「5月病」に類似するのが「サザエさん症候群」。日曜夜の国民の定番「サザエさん」を観ることにより、明日からの新しい一週間に憂鬱を感じるんだそうだ。
個人的には、日曜日深夜のAMラジオにて、放送休止とともに発せられる試験放送音は、寂しさを越えて不気味な空間が部屋を包んでいたのが思い出深い。

確かに社会人の扉を開けば、忖度と不条理が渦巻く混沌とした現実に直面する。
I get up!(In a crazy,crazy world)、We all live!(In a crazy,crazy world)っと、社会人の先輩達は、Scorpions"Crazy World"を大合唱で投げ掛けてくれるだろう。
そんなクレイジーな世界で働く新社会人や熟練社会人は、「サザエさん」よりも「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」が日曜夜のシグナルだと感じる方が多いのではないだろうか?

この「ガキ使」に、何度かナレーション出演させていただいたことがある。特に思い出深いのが、ココリコ遠藤さん演じる恐竜”遠藤プテラノドン”の放送だ。
恐竜の生態に迫ったディスカバリーチャンネルのようなナレーションで出演させていただいたのだが、まさかの遠藤さんのアドリブ満載のステージを観ながら、スタジオ内での生ナレーションだった。
台本通りに進まない「ガキ使」ならではな爆笑トラブルが展開されていくなかでのナレーション読みは、狭い密室でナレーションを読んでいる自分としては、それはそれは緊張し、ついにはナレーション読みを噛んでしまった。

あなたのハートには、何が残りましたか?

Judas Priest - Turbo Lover (Official Video)


別室で”遠藤プテラノドン”の生態をモニターで観てらっしゃったダウンタウン浜田さんが、「おいおい噛んだで!」。
やってしもうたと焦った自分。後日そのナレーションを放送用に録り直ししてくれるだろうと思ったが、そのまま噛んだナレーションがテロップ付きでオンエアされたのだ。
浜田さんの抜群な突っ込みのおかげで、自分のミスがまるで映画『カメラを止めるな!』かのように、”遠藤プテラノドン”のステージに、笑いのスパイスになってくれた。

まぁ、何が言いたいかと言うと、新人じゃなくても、歳取っても緊張と失敗は必ずあるものであり、時には失敗が功を奏する”怪我の功名”も起こりうることもあるのだ。
そんな経験を積み重ねながらスキルアップし、人間性を高めていく。

その経緯をJudas Priestのディスコグラフィに例えるならば、20代は賛否両論の『TURBO』、30代は原点回帰の『RAM IT DOWN』、40代は威風堂々の『Painkiller』だと、アラフィフの自分は思う。
とは言え、上司、先輩やクライアントに叱られたり、ミスしたりしたその時は、明日の来週の勤務は憂鬱になるものだ。そんなダメージを負ったときに、心の支えとなってくれたのは音楽…いやメタルではないだろうか。

疾走感溢れる美メロ、雷鳴の如く轟くツーバスサウンドは血沸き肉躍り、通勤時の足取りが自然と早くなり、睡魔が襲いがちなロングドライブにおいては、目覚めの一発を喰らわせてくれる。そんなサウンドが選曲された映像には、軽やかに、張りがあるナレーションが喉から出るってものだ。

吹けよ風、呼べよ嵐

Blue Murder - We All Fall Down

タイトル防衛、リベンジ、デビュー戦など、プロレスラーは様々な思いを背負ってリングへと向かう。そのリングへ向かう選手たちを鼓舞してくれる入場曲は、数々のHR/HMだった。

ブロディ、ブッチャー、蝶野選手の王道入場曲を筆頭に、ヘルレイザーズ時代の佐々木健介選手"Hellraiser"(Ozzy Osborne)、ビッグ・バン・ベイダー"Eyes Of The World"(Rainbow)、スコット・ノートン”Winner Takes It All”(Sammy Hagar)、ドン・フライ”Chaos B.C.”(Sepultura)、田上明選手&高田延彦選手"Eclipse""Power Of Glory"(Yngwie Malmsteen)、アジャ・コング選手"The Hellion/Erectric Eye"(Judas Priest)、日向あずみ選手"We All Fall Down"(Blue Murder)等々、戦うアスリートのハートを発火させるメタルソングは、バブル期に生まれた流行語「24時間戦えますか」を再燃させるかのように、働く者たちをも奮い立たせてくれると思っている。

個人的に注目の入場曲は、尾崎魔弓選手"Red,Hot,And Heavy"(Pretty Maids)、ダイナマイト関西選手"Night Danger"(Pretty Maids)。JWP全盛期を支えた両選手が入場曲に選んだのが、デンマーク出身の”可愛いメイドさん”だった。
プリチーなメイドさんお手製の朝食が食べれるなら、活力みなぎる月曜の朝を迎えられるかもしれないが、実はこの"Night Danger"に関しては、故ダリオ・アルジェント製作総指揮による傑作マカロニ・ホラー、1986年公開映画『デモンズ』の劇中に起用された、文字通り”危険な夜”な楽曲だ。

ダニッシュ・ダイナマイト

Pretty Maids "Kingmaker" (Official Music Video)

あの『ジョジョの奇妙な冒険』誕生のキッカケとも言える『デモンズ』。
さすが『フェノミナ』でIron Maiden&Motorheadを起用したダリオ・アルジェントだけに、メタルナンバーが縦横無尽に劇中流れるゾンビ映画だ。
"Night Danger"が起用されるのが、逃げる、襲う、叫ぶ、裂かれるの阿鼻叫喚のシーン。因みにPretty Maidsが起用されているのは欧米上映版であり、欧州上映版では、映画ロケ地がドイツだからなのか、Scorpions"Dynamite"が起用されている。
それはさておき、とにかく過激で暴走するホラーシーンに、捻りなくメタルを流すその安直さは、状況説明のナレーションのような演出にも思え、ナレーターとしては苦々しくも笑えてしまう。

数多くの名曲を輩出してきたPretty Maidsにおいて、『Raise Your Flag』の"Raise Your Flag Show Your Colour"というフレーズが好きだ。軍旗を振りかざしながら敵陣へ斬り込む戦国武将を彷彿とさせる、エッヂの効いたハードロック・チューン。名将・真田幸村率いる"猪突猛進の赤備え"がなびかせる紅蓮の軍旗。大河ドラマ『真田丸』で魅せてくれたその勇ましい姿は、まさに"Red,Hot,And Heavy"、翌日の月曜日に大きな活力を与えてくれた。

そんなPretty Maidsの魅力と言えば、ロニー・アトキンスの歌声ではないか。セクシーに低音域、キーボードとの相性抜群な爽やかな中音域、破壊力ある高音域を、ケン・ハマーが織り成すプログレッシブな楽曲にて、巧みに華麗に歌いこなす稀代のヴォーカリスト。この緩急あるロニーのギアチェンジの入れようは、ファイター入場前に、総合格闘技の会場を熱くさせる選手紹介VTRのナレーションのようだ。

Far Beyond The Stage

The Wrestler - Official Trailer

お互いを挑発し合うお決まりの映像には、栄光と挫折、歓喜と悲哀など、彼らが戦う理由がストーリー構成に描かれている。
そこに王道のフレーズ、 ”目撃者となる”、”刮目せよ”、”いざ、出陣”、"酔いしれろ"、”ココに降臨!”などを、静かに、激しく、スローに、スピーディーに声色を変えながらナレーターは読み上げていく。
このナレーションスキルは、当然声のレンジの広さが大事なのだが、ファイターのイデオロギー、エゴイズム、ビジョンなどの深層部に、いかに汲み取れるかの「咀嚼力(そしゃく)」も大事な気がする。

2008年公開映画『レスラー』。不器用な中年レスラーの生きざまを描いた、ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作品。Ratt"Round And Round"、Quiet Riot"Metal Health"など、懐かしのHR/HMが劇中を彩る号泣必至の名作だ。この映画の注目すべきは、ミッキー・ローク演じる主人公ランディの背中。物語の大半がランディの後ろ姿を捉えたカメラワークであり、背中越しに見えるその先すべてが、彼にとって"リングの花道"なのではないか。

そんな"背中で語る"圧巻の演技を魅せてくれたミッキー・ローク。製作当初は、ニコラス・ケイジ主演を検討していたようだが、ダーレン・アロノフスキー監督は、ランディを演じれるのはミッキー・ロークだけだと強行キャスティング。奇しくもコッポラ監督作『ランブルフィッシュ』(1983年)で共演していたミッキー・ロークとニコラス・ケイジ…。準主役のミッキー・ロークに対して、ニコラス・ケイジは脇役。いつしかハリウッドでのステータスは形勢逆転。そんな下克上や紆余曲折、猫パンチなど、波乱万丈な人生を経てきたミッキー・ロークゆえの脚本に対する「咀嚼力」が、孤高のレスラー"ランディ"を生んだような気がする。

メタラーだって歯が命

Metallica - Mama Said [Official Music Video]

そう、「咀嚼」とは「細かくなるまでよく噛むこと」でもあり、”勘の良さ”や”レスポンスの高さ”といったスムーズな感性ではなく、噛み合わない歯車に試行錯誤しながら経験を積み重ね、聴いた、観た、達成した、失敗したという引き出しから、最善のメソッドを導き出すのが「咀嚼力」だと思っている。
その「咀嚼力」を高めていく経緯には、いつもメタルが流れていた。

失恋したことがないのに、「失恋ソング」が書けるアーティストのように、勘が鋭く柔軟な声優&ナレーターは山ほどいる。
皆さんの周りにも、苦難知らずの器用な同期や後輩が、意外とそばに存在しないか。
そんな彼らと差別化を図るには、起伏に富んだ経験値による「咀嚼力」で対抗するしかないのだ。

振り返ると、自分の社会人1年目は、賛否両論を巻き起こしたMetallica『Load』がリリースされた1996年。
今となっては彼らの挑戦と苦悩における、メタル&ラウドのクロスオーヴァーという差別化だったことを理解出来るが、当時の自分は『Load』に冷ややかであり、悩める新社会人の応援ソングは、Stratovarius"Speed Of Light"だったことに、自分の青さを感じずにはいられない。

Yngwie Malmsteen - Far Beyond the Sun LIVE

ご存知、Motorheadの名曲"Bite The Bullet"、そしてYngwie Malmsteenの数あるインストナンバーのひとつ”Bite The Bullet”。
”Bite The Bulletとは、歯を食いしばって耐える、立ち向かうという意味。ナレーションもよく噛むけれど、青かったあの頃と変わらずいまも歯を食いしばりながら「咀嚼力」をメタルとともに磨き、2020年東京オリンピックを目指すアスリートたちを密着した番組など、挑戦しつづける選手たちへの後盾ナレーションに反映させている。

ドラマティックなメタルナンバーに酔いしれるメタラーは、吐き気がするほどのロマンチストである。
目に映る情景にメタルをあてはめ、淡い思い出、苦い経験にもメタルをあてはめがちだ。GWも働いていた、GWは浪費してしまった、GWは寝込んでしまった等々、そんなときに流れていた”メタルの花道”は、令和最初の思い出と経験となり、いつの日か「咀嚼力」のひとつとなって開花するのかもしれない。
さぁ、春めいた季節だ、It Bites"Kiss Like Judas"でも聴くとするか…いやっ、噛めば噛むほど味が出る"スルメ盤"だったAnnihillator『King Of The Kill』収録のインストナンバー"Catch The Wind"の気分だな。