メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.1「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
CDSを使って、リーマンショックでぼろ儲けしたメタルヘッズが居る。
他方で大損したのは、金融界を牛耳る鼻持ちならない大手金融機関である。
彼の武勇伝は小説となり、やがて映画化され、その映画は高い評価を得た。
今回はCDSの仕組みを解説するとともに、その痛快メタルヘッズのエピソードを紹介しよう。

リーマンショック回想

2007年私はイギリスに居て、レディング大学というところで客員研究員をしていた。
所属はReal Estate & Planningで不動産投資のリスク管理の研究をしていた。

米国の住宅市場は既に雲行きが怪しくなっていたが、不動産投資関係のカンファレンスに行けば、仕立ての良さそうなスーツに身を包んだ金融マン達が不動産投資の優位性について熱弁をふるい、パーティーでは美味そうに酒を飲んでいた。
これから大変なことが起こることを予期していた人は、確かにあの場所には居なかった。

2008年夏に私は帰国した。そして、秋にリーマンショックが起こった。

トリガーは違うが、起こったことは日本のバブル崩壊と同じである。

米国の住宅価格が下落に転じ、住宅を担保に金を借りていた人達が破産し、そうした住宅ローンを組み込んでいた債券が債務不履行に陥ったのである。

債権が焦げ付いて金融機関が損失処理に困るというのは日本と同じであるが、リーマンショックでは少し興味深いことが起きていた。

それがCDSである。

CDS

CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は保険のようなものである。

債券投資の最たるリスクは、その発行者が破綻して利払いや元本返済ができなくなること(デフォルト)である。
デフォルト・リスクと引き換えに、債券投資家は利益を得るのであるが、デフォルト・リスクを軽減したいというニーズは当然生じる。

それに応えるのがCDSである。

CDSの買い手は定期的に保険料を支払う代わりに、もし自分が所有するCDSの補償対象となっている債券がデフォルトしたら保険金を受け取る。

CDSの売り手にとってのキャッシュ・フローは逆で、補償する債券がデフォルトしない限り、コツコツと保険料を受け取ることができる。

米国の住宅市場が下落しないという前提に立てば、CDSの売り手になることは良い商売だったろう。
一見何もしないで、保険料が振り込まれて来るのだから。

ただし、債券がデフォルトしない限りは、である。

メタルヘッズ降臨〜映画「マネー・ショート」

映画「マネー・ショート」はマイケル・ルイスの人気小説「世紀の空売り(原著:THE BIG SHORT)」を映画化したものである。
派手なアクションシーンなどなく、耳慣れない金融用語が飛び交う映画にして、異例のヒットとなった。
クリスチャン・ベールが演じる主人公の名は、映画ではマイケル・バーリとされていた。

彼は投資ファンドを率いており、Tシャツに短パンというおよそ金融マンらしからぬ出で立ちで変わり者扱いされていた。
そして何よりも重要なのが、彼がメタルヘッズであることである。

彼は米国の住宅市場がおかしくなっていることに気付いた。

住宅は順調に売れ続けているようであったが、実際に調査に行ってみると、失礼ながら返済能力など無いように見える住人が出てきて、俺はここを借りているだけだと言う。

住宅ローンに見合った賃料は支払われているのだろうか?

住宅価格が上昇し続けるなら、賃料はさておき、元の価格より高く売れればローンは返せるだろう。しかし、そうでないならばその住宅ローンの借主が破綻する可能性は高い。

彼はまず住宅ローンが組み込まれている債券を空売りしたいと考えた。
空売りとは、自分は持ってない債券を持っている人から借りて(当然賃料を払う)市場で売ることである。

今が平穏なら、債券はそれなりの価格で売れるだろう。
しかし、デフォルトすればその価格はゼロである。
その差額を彼は手にできるのだ。
ただし、貸し株の仕組みがシステム化されている上場株式と違って、債券市場では債券を借りる手続きがかなり面倒くさい。
さらに、債券を持っている人と交渉するのも相当な手間である。そこで、彼はCDSを使うことを思い立った。

CDSは対象とする債券の保険であるので、その債券がデフォルトする可能性が低いと多くの人が思っている時はその価値は低く保険料は安い。

しかし、デフォルトの可能性が高まってくればCDSの価値は上昇する。

彼は、多くの人が米国の住宅市場の崩壊を予期する前に、安い価格でCDSを買い漁った。相手は名だたる大手金融機関である。

不思議なことに、米国の住宅市場が変調を来しても、CDSの価格は上がらなかった。
もっと正確に言うと、売値は上がったが買値は上がらなかった。

なぜなら、CDSは相対取引であるからである。

上場株式は市場取引であるから、大手金融機関であるとも市場価格に従うしかないのだが、相対取引ではお互いの言い値が見合ったら取引しましょうと言うものである。

彼の取引先であった金融機関が提示するCDSの買値は、相変わらず米国の住宅市場がおかしくなる前のものであった。

こうなると、彼のファンドに投資している投資家からは、相当な圧力がかかることになる。利益を出せないファンドからは撤退すると。

しかし、そこにリーマンショックが起こった。

実際に債務不履行に陥ってCDSによる補償が要求される債券が出てくれば、大手金融機関のCDSの値付けなど意味もない。

彼はこれによって4000億円もの利益を手にしたと語られている。

なぜ主人公はメタルヘッズだったか?

この物語がどこまで本当であったかを検証することは詮無いものだと私は思う。

少なくとも、当時の金融市場で大事なことを見抜いた男がおり、彼がメタルヘッズであったと言う設定を用意することで、物語が楽しくなったり、主人公への興味を喚起したりしたのだとしたら、それはメタルヘッズとしても嬉しいことである。

そして、主人公の変わり者度合いを強調するためだけに、メタルヘッズだとの設定が用いられたわけではなかろう。

メタルヘッズは他の人がどう思おうと、自分の好きなバンド・曲を愛する気持ちは揺らがない。

だからこの物語では、その他大勢がどのように考えていようと、自分が正しいと思ったことを信じ行動する人間の象徴として、メタルヘッズは用いられたのである。