メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.2「オプション理論(前編)~オプション取引って何だ?」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
金融市場が実体経済の生殺与奪権を握るほどにまで膨張した背景には、「オプション理論」の発展がある。
「オプション理論」は数学的に表現されることが多く、一般には難解なイメージだが、その感覚的な理解は難しくない。
本コラムはその前編として、「オプション」とはどのような金融商品であるかについて解説する。

Phantom Excaliver

Phantom Excaliver(ファントム・エクスカリバー、以下ファントム)という日本の若いメタルバンドがある。
正確無比の高速ツーバスと素晴らしくメロディアスなギター・フレーズが印象的なバンドで、何よりも彼らを特徴づけるのはその歌詞である。
メタルを敬遠する人の中には、何か怖そうなことを歌っていそうだから好きになれないという人も少なからずいる。
確かに、過去には歌詞の邪悪さを競うことが流行った時期もあったし、怖いことを歌うことで人気があるバンドもある。
しかし、ファントムの歌詞はとても明るく、真面目で、ストレート。
まさに、文部科学省推薦レベルで、子供に聴かせて安心なメタルである。

Phantom Excaliver「鋼鉄の誓い」Official Music Video

ファントムは現在はキャパ300程度のハコで精力的にライブを行い、ファン獲得に頑張っている。
既にアルバムは2枚出しているが、まだまだこれからのバンドである。
それでも彼らには公言してはばからないことがある。それは、

「いつか東京ドームでワンマンやるゼ!」

である。東京ドームって5万人くらい入るんだっけ?
今は300、いつかは5万。
いいじゃないですか。ミュージシャンたるもの、それくらいの野望を持ってなければ面白くない。
ちなみに彼らの主張によると、BABYMETALとファントムの違いは性別だけらしい。

東京ドームワンマン・チケット・オプション

例えば2年後としよう。2年後にファントムが東京ドームでワンマンライブをやる可能性はどの程度あるか?

ゼロではない。

BABYMETALがブレークしたスピードを想起すると、全くあり得ない話ではない。
もしかしたら、もっと凄いことになって、オープニングアクトがMETALLICAとか...
いや、それはさすがに無さそうだが、それでも可能性はゼロではない。

もし、2年後のファントム東京ドーム公演のチケットを5千円で買うことができる「権利」が今売り出されたら、あなたは買うだろうか?

ファントムの人気がBABYMETAL並みになっていたとしたら、おそらくチケット価格は1万円前後だろう。
あなたがこの「権利」を持っていたら、あなたは1万円のチケットを5千円で買うことができる。
つまり5千円の得だ。

ポールマッカートニー並みになっていたら、もっとヤバイ。
安い席で4万円、前で観たければ10万円である。
それを、この「権利」の所持者は5千円で買うことができる。
10万円の席であれば、なんと9万5千円の得である。

良いことばかりではない。

ファントムのライブのチケット価格は、現在ではワンマンの場合3千円前後である。
よしんば、ファントムの東京ドーム公演が実現したとしても、チケット価格が今のままだったとしたら、3千円で買えるチケットを、わざわざ「権利」を行使して5千円で買う人はいない。
「権利」など行使せずとも、普通に3千円でチケットを買えばよい。

東京ドーム公演が実現しなかったとしたら、権利行使うんぬん以前の問題となる。
そもそもチケットが存在しないのだから、それを5千円で買う「権利」など、持っていても意味がない。

こうした場合、この「権利」の価値はゼロである。

「権利」を持っていて得するかどうかは2年後に分かることであり、現時点では不確定である。
しかし、ファントムの東京ドーム公演が実現する可能性がゼロではない以上、「権利」を持っていて得する可能性もゼロではないので、この「権利」には現時点で価値がある。
価値があるものだから、ファントムのファンならずとも欲しいという人は必ず居るので、じゃあその「権利」を売ってやるよという人が登場すれば売買成立である。
このように、将来のモノの売買を、現在決めた価格で行う「権利」を売買するのがオプション取引である。

オプションの買い手と売り手

2年後のファントムの東京ドーム公演のチケットが5千円で買えるオプション

このオプションが欲しい人、すなわち買い手はイメージしやすいと思う。

あなたはファントムのファンで、2年後の東京ドーム公演を待ち焦がれているとしよう。
それが実現したとしたら、チケット価格はおそらくBABYMETAL並みの1万円前後だろう。
そのチケットを5千円で買うことができるオプションがあるとしたら、あなたにとって魅力的なはずだ。
つまり、あなたはこのオプションの買い手になりたい。
しかし、そのオプションは誰かに売ってもらわねばならない。

さて、どのような人が売り手になるか?

売り手の責任は、2年後のファントムの東京ドーム公演チケットが、例えどんな価格になっていたとしても(ポールマッカートニー並みの10万円になっていたとしても)、それをオプションに定められている権利行使価格で(これまでの例では5千円)、あなたに売ることである。
つまり、2年後のチケット価格がオプションの権利行使価格を上回った場合、オプションの売り手は損をする。
よって、売り手にとっては、オプションだけ売ってあなたが権利行使できずに終わる(2年後のチケット価格が権利行使価格を下回る)ことが利益になるので、ファントムが2年後に東京ドームなんてムリじゃね、と考えているちょっとイヤな奴が売り手になるだろう。

ファントムのファンであるあなたにとって、売り手はムカつく奴かもしれないが、それでも自分が想定するチケット価格より安く買えるオプションを売ってくれるのだとしたら、表面上は紳士的に取引をした方が良いかもしれない。

それでは、そのオプションの価格はどのように考えればよいか?
それが次回「後編」のテーマである。
震えて待て!