メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.11「高頻度取引(HFT: High Frequency Trading)」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
「速い」ことはメタルにおいても、株式取引においても大事である。2000年代に入って株式市場に高頻度取引(HFT)なるものが登場し、自分たちの儲けが持って行かれるのではないかと、個人投資家を震え上がらせた。今回はHFTの仕組みを解説するとともに、その個人投資家への影響を考察する。

「速い」は「偉い」

メタルにおいて「速い」ということは1つの価値である。

もちろん、速ければ良いわけではないので論争の的になったりもする。
しかし、速く叩けたり、速く弾けたりすることは、メタルという音楽を成立させるための「技」なので、速いと尊敬される。

曲を通しての速さはBPMという単位で表される。
BPMとは1分間の拍数(ビートの数)である。
4分の4拍子で、バスドラとスネアで「ドン、タン、ドン、タン」と1小節を刻んだとすると、BPM=60なら1拍1秒で1小節4秒となる。
通常のロックの場合、BPM=160前後の曲が多いと思われるが、メタルにおいてはBPM=200を超える曲も珍しくなく、中にはBPM=300を超える曲も存在する。
BPM=300だと1拍0.2秒なので、「ドン、タン、ドン、タン」を0.8秒で終わらせなければならない。

ゲーム「太鼓の達人」に収録されているメタルの曲で、最も速い曲を調べてみたら、それはSEX MACHINEGUNSの「みかんのうた」でBPM=286であった。

SEX MACHINEGUNS - みかんのうた

インセイン・ドラマー(変態ドラマー、転じて天才ドラマー)としては、元SLAYERのDave Lombardoや元MAYHEMのHellhammer、EMPERORのTrym Torsonなどが有名である。
ただ、BPMはドラムが刻む拍数で見ているので、例えばSLAYERの名曲Angel of DeathはBPM=210で、それほどBPMが高いわけではない。
ブラストビートを多用する、グラインドコアやブラック・メタルのBPMが高い傾向がある。

BPM=500になるとどうなるか?
例えば、HENKERのMental Corruptionである。

Henker - Mental Corruption

曲を通しての速さではなくて、メタルの醍醐味の1つにギターの速弾きがある。
技巧派のギタリストは速弾きも得意としており、ギター・ソロで披露されるその技はメタルの華である。
2016年に技巧派ギタリスト4名(Yngwie Malmsteen、Steve Vai、Zakk Wylde、Nuno Bettencourt)が集まってGENERATION AXEが結成され、2017年には来日して大いに話題になった。
どうせYngwie様がワガママ言って、すぐ崩壊するだろうと思っていたら、何と今年も来日するらしい。
Yngwie様も大人になったのかしら?

ギターの場合、曲中ずっと速弾きしているわけではない。
そんなことができるのは、ALCATRAZZ時代のYngwie様だけである(そしてGraham Bonnetを怒らせてしまった)。
かと言ってYngwie様の動画をここに貼るのも普通すぎるので、速弾きが楽しめる良い動画がないか探してみたら面白いものを見つけた。
これは日本のバンドGYZE(ギゼ)のリード・ギター兼ヴォーカリストのRyojiが、ショパンの「革命」の右手と左手を別々のギターで弾いて合成したものである。
日本が誇る技巧派ギタリストの妙技をご覧あれ!

【 Chopin - Revolutionary 】METAL GUITAR by GYZE Ryoji

高頻度取引(HFT)とは何か?

株式取引においても「速い」ということは重要である。

コンピュータ・プログラムによる自動売買の中でも、高頻度取引(HFT: High Frequency Trading)は速さが命である。
HFTではコンピュータが自動的に判断してミリ秒(=1/1000秒)単位で頻繁に売買を行い、細かな利鞘を膨大に積み上げて利益を得ようとする。
米国株式市場では取引量の50%程度をHFTが占めており、日本においても2010年に東京証券取引所が新売買システムarrowheadが稼働してから急増し、2014年には注文件数の最大60%を占めるようになったと言われている。
米国株式市場におけるHFTの取引量

米国株式市場におけるHFTの取引量

現在のarrowheadでは、注文の約定処理に要する時間が0.5ミリ秒に短縮されており、このレベルになると発注を行う投資家側のコンピュータとarrowhead間の物理的な距離まで問題になる。
光が1ミリ秒で進む距離は約300kmなので、大阪から発注する投資家は東京から発注する投資家に勝てないことになる。
そこでarrowheadが存在するのと同じ建物内にコロケーションエリアを設け、そこに投資家のコンピュータを設置してarrowheadと直接ケーブルでつなぐサービスが提供されている。利用料金は1カ月70〜80万円らしい。
こうした時間感覚なので、HFTを行うのはコロケーションエリアに自身のコンピュータを設置している投資家に限られる。

HFTの取引戦略は、大まかに「マーケットメイク」と「裁定取引」に2種類である。

「マーケットメイク」では、小さな価格差で買い注文と売り注文を同時に出し、その価格差を利益とする。
例えば、99円の買い注文と100円の売り注文をそれぞれ1000枚ずつ出し、それらが全て約定したとすると1枚あたり1円、全体で1000円の利益となる。
1回あたりの利益は小さいが、こうした取引を膨大に行うことによってまとまった利益とする。
もちろん常に注文通りに約定するわけではなくて、99円の買い注文が約定した後に相場が下がって100円の売り注文が取り残された場合、その後相場が元に戻らなければ損失が発生する。
こうした場合、99円の買いポジションを損切るために、素早く100円の売り注文の価格を変更しなければならないので速さが重要である。

一方「裁定取引」では、本来同じ価格であるものに価格差が生じていた場合、高い方を売って安い方を買い、その価格差を利益とする。
日本市場の場合だと、株式の現物と株価指数先物、株式の現物とETF(Exchange-Traded Fund: 上場投資信託)の組み合わせで、こうした裁定取引があり得る。
日経平均株価のような株価指数は、それを構成する銘柄と構成比率が分かっており、指数連動型のETFはその指数の変化に連動するように設計されている。
しかし、株式の現物とETFは個々に取引されているため、需給によって価格差が生じる場合がある。
この価格差をモノにできるのは最初に発見した者に限られるため、ここでも速さが重要になる。

HFTへの批判とその妥当性

HFTは膨大な取引を高速で行うため、市場の正常な価格形成機能を歪めているのではないかと批判されることがある。

まずは、コロケーションを利用できる投資家だけがHFTを行うことができるのは不公平だというものだ。
普通の個人投資家の場合、発注→証券会社のサーバ→アクセスポイント(東証への入り口)→arrowheadという経路をたどるので、まずHFTはできない。
しかし、個人であっても、自分でプログラムを用意し、コロケーションエリアの利用料を払って自分のコンピュータを置けば、可能と言えば可能である。
つまりこの批判はやっかみのようなものであって、ALCATRAZZでYngwie様ばかりが注目されて他のメンバーとの関係が険悪になった状況に似ている。

また、「マーケットメイク」戦略では、現在取引が成立しそうな価格で注文を出す必要があり、相場操縦につながるような変な価格での注文はあり得ない。
相場の流動性が低下すると、指値注文の買値と売値の差が開く傾向があり、「マーケットメイク」戦略はその間に注文を置くものだから流動性を補う効果があるので、むしろ個人投資家の役に立っている。
「裁定取引」戦略は本来同じ価格であるものの価格差を是正するものだから、指数とETFの連動性を高めるものであって、これも個人投資家の役に立つものである。

おそらく派手に大量の取引を特定の投資家だけが行なっていることから、よっぽど大儲けしているのだろうとの思い込みにつながり、前述の不公平感とあいまって、的外れな批判につながっているのだろうと推察される。
しかし、下のグラフは米国株式市場のHFTによる収益を表したものだが、2009年以降急激に低下し、2017年の収益は2009年の7分の1程度にとどまる。
これはある意味当たり前で、HFTの取引戦略はどの投資家も似たり寄ったりだから、ある程度HFT投資家が増えると、儲ける機会は取り合いになる一方で、システムの開発や維持管理費に要するコストは、それぞれの投資家が負担しなければならないからである。

要するにHFTだからと言って過度に警戒する必要はない。
ALCATRAZZもYngwie様をクビにしたのは良くなかったと思うよ。
米国株式市場におけるHFTによる収益

米国株式市場におけるHFTによる収益