メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.8「トレンドフォロー」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
投資において資産価格変動のトレンドは大事だ。トレンドそのものに理論的な裏付けがあるわけではないが、多くの個人投資家がチャートを見て、トレンドラインを描き、売買のタイミングを探っている。今回は基本的な投資スタイルであるトレンドフォローを、メタルにもトレンドがあることと無理やりこじつけてご紹介する。

NU METALなるもの

メタルの世界にもトレンドのようなものはある。
今で言えばそれはNU METAL(ニュー・メタル)であろうか。

本コラムVol.6でもご紹介したように、ジャンルという視点で見るとメタルの世界は細分化されており、それらが相互に影響を及ぼしあって新しいジャンルが生まれたりする。
さらに、これまでメタルではあまり用いられてこなかった音楽スタイルや楽器などを融合させることにより、新しいタイプのメタルを生み出すことに成功するバンドもいる。
特に1990年代中頃にヒップホップやテクノなどの要素を巧みに取り入れたメタルは若者の支持を集め、NU METALと呼ばれるジャンルを形成するに至った。

筆者は大学の教員でもあるので若者と話す機会に恵まれているのだが、より多くの若者にメタルを聴いてもらいたいと思っているので、お節介にも事あるごとに「メタル好きかー?」「メタル聴くと良いよー♪」と声を掛ける。
すると、大概「メタル?聴かないっすw」というつれない返事が返ってくるのだが、その彼のiPodにはSlipknotの(sic)が入っているのを筆者は知っている。
つまり彼はSlipknotがメタルだとは思わないで聴いているわけで、NU METALに分類される(と思われる)バンドのファンにとっては、それがメタルなのかどうかは、どうでもよい事のようだ。

Slipknot - (Sic)

ちなみに、NEWではなくて敢えてNUと表記することには一種のこだわりがあるようである。新しいスタイルであることをテキスト的にも表現する趣向のようで、こうした音写はSlipknotの楽曲名にもちょいちょい見られる。

NWOBHM世代とNU METAL

若者はそれがメタルかそうかに関係なくNU METALを楽しんでいる。
それでは、NWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)世代はどうだろう。

筆者がメタルに出会ったのは、まさにNWOBHM全盛の頃であった。
JUDAS PRIEST、SCORPIONS、IRON MAIDENなどなど、あの頃熱狂したこれらのバンドが、今も現役で活躍しているのは凄いことである。
これはすなわち、NWOBHMには根強いファンが居続けていることを意味している。ライブに行くと年齢層の高さを実感することからも分かるように、NWOBHM世代のバンドへのロイヤリティは高い。
そうした世代がNU METALにも関心を持つだろうか?

昨年(2018年)のSummer Breezeのヘッドライナーの1つはNU METALを代表するバンドの1つであるPAPA ROACH(パパ・ローチ)であった。
Summer Breezeは毎年夏にドイツで4日間にわたり開催される大規模メタル・フェスであるが、出演するバンドの多くはデス・メタルやブラック・メタル、そして80年代に活躍したベテラン・バンドである。
そうしたラインナップの中でPAPA ROACHは少し浮いているように見えた。

PAPA ROACHの出番は最終日のメインステージ20:10からという最も良い時間帯であった。
しかし、その前がDIRKSCHNEIDER、その後がW.A.S.P.というランニングオーダー。
ちなみにDIRKSCHNEIDERはACCEPTのボーカルだったUDOが息子(ドラムス担当)とACCEPT時代の名曲を演るバンドである。
NWOBHM世代が大好きな2つのバンドに挟まれてPAPA ROACHは大丈夫なのか。

そんな心配は無用だった。PAPA ROACHのショウはまさに圧巻そのもの。
広大なエリアを埋め尽くし熱狂するファンの上を、クラウドサーフでどんどん人が流れてくる。
それを受け止めるセキュリティも大忙しだった。
なるほど、Summer Breezeに集うコアなメタルヘッズたちも、NU METALのようなトレンドをちゃんとフォローしているのである。

もちろん、特定のバンドやジャンルしか聴かないというメタルヘッズもいるし、それが悪いわけではない。
一方で、これまでに無かったスタイルのメタルに興味を示し、敏感に新しいトレンドの萌芽を感じ取るメタルヘッズは多いのだ。
既にSlipknotが大御所の域に達し、NU METALがひと段落したとしたら、次に生まれるトレンドは何だろうか?
Papa Roach@Summer Breeze 2018

Papa Roach@Summer Breeze 2018

via 18th Aug 2018 筆者撮影

トレンドフォローという投資スタイル

投資で利益を得る基本は言うまでもなく「安く買って、高く売る」か「高く売って、安く買い戻す」である。
問題は今が買い時なのか、売り時なのかなのだが、それが分からない。将来になって結果的に分かるだけである。
「今は分からない」で思考停止してしまっては投資ができないので、「こうしたら儲かるんじゃないか」と試行錯誤した結果、幾つもの投資スタイルが存在する。

個人投資家は「逆張り」傾向の人が多いと言われる。
「逆張り」とは資産価格が下がった時に買う、上がった時に売るという投資スタイルで、その後資産価格が元の水準に戻れば利益が得られるが、下落トレンド・上昇トレンドが継続した場合に損失を被る。
言わば価格変動のトレンドよりも資産の本質的価値を重視するスタイルである。

この投資スタイルには一定の合理性があると言え、巨万の富を築いた著名投資家のウォーレン・バフェットの投資スタイルとされる「バリュー投資」も「逆張り」である。
「バリュー投資」では、株式投資の場合であれば、会社の純資産や損益、キャッシュフローなどを分析して本質価値を評価し、それよりも株価が割安であれば買うといったものである。
この投資スタイルは、個々の資産の事情ではなく、何らかの大きな事件で市場全体が大きく変動した時に有効とされる。個々の資産の本質的価値がその事件に影響されないならば、その資産の価値は元の水準に戻って行く可能性が高いからである。

これに対してトレンドを積極的に狙う「トレンドフォロー」という投資スタイルがある。
過去の資産価格の時系列的な変動を見てみると、上昇が続いた期間や下落が続いた期間が存在し、経験的には確かにトレンドは存在するようだ。
しかし、トレンドがいつ発生するかは分からない。いつ新しいタイプのメタルが生まれるか分からないのと同じである。
そこで、過去の資産価格の変動を分析して、上昇トレンドや下落トレンドが生まれる価格変動パターンを経験則として見出し、それを売買ルールとする。
例えば、資産価格が過去1カ月の平均を上抜けたら上昇トレンドに入ると期待して買いに入る、などである。

このように「トレンドフォロー」が注目するのは資産価格のみであり、トレンド発生の経験則に理論的な裏付けがあるわけではない。
しかし、80年代にこの投資スタイルで莫大な利益を上げて有名になったトレーダー集団がある。

タートルズである。

タートルズがユニークなのは、「トレンドフォロー」で大儲けしたリチャード・デニスなる人物が、公募で組成したチームであり、そのメンバーの多くは投資の素人であった点である。
価格変動のみを見て、売買ルールが発生したら注文を実行するだけだから、素人でも構わないということである。
デニスは自分の売買ルールをメンバーに教え、自分の資金を運用させた。まるで自分のルールの正しさを検証するための実験である。
その結果、チームとしては莫大な利益を上げることに成功したが、ドラマ人間模様的な状況に陥りチームは解散、その後はトレーダーとして成功した者も、そうでない者もいたらしい。

この物語の詳細は、最近(2019年3月)下記の訳書が発行されたので、一読されることをお勧めする。分厚い本だが訳が良いので一気に読める。もちろんメタルを聴きながら読むと、痛快さが増すでしょう。
マイケル・W・コベル著 秦由紀子翻訳

マイケル・W・コベル著 秦由紀子翻訳