メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.12「パンデミック債」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
今起こっている新型コロナウィルス禍は未だおさまる気配が無く、楽しみにしていたライブが中止や延期になって、悲嘆にくれているメタル・ヘッズも少なくないだろう。この機会に、こうした感染症の大流行に備えて、世界銀行が2017年に発行した「パンデミック債」をご紹介したい。

KNOTFEST延期

KNOTFESTが延期になったのは悲報であった。

もちろん致し方ない状況であることは理解しているが、落胆しているのが正直なところである。
延期とは言ってもSlipknotとのスケジュール調整が簡単に行くとは思えないし、何よりラインナップが変わるであろうことが痛い。
実は筆者が1番楽しみにしていたのはSlipknotではなくて、DAY1のオープニング・アクトのトップを任されたBAND-MAIDである。

BAND MAID / REAL EXISTENCE (April 13th, 2018)

BAND-MAIDのサウンドの特徴は、曲をしっかり支えるとともにアクセントを与える、唸りまくるベースにあると言えよう。

これはカッコイイ!

ガールズ・メタルだと思って甘く見てはいけないです。

BABYMETALについてもそうだが、大人に作られた感を嫌うメタル・ヘッズは多い。
しかしそうした見方は、今や偏見と言わざるを得ないだろう。
優れた楽曲としっかりした演奏技術は当たり前、独特の世界観を演出して観客を魅了するショウ(BAND-MAIDの場合、お給仕と呼ぶ)を実現できる女性メタル・バンドは少なくないのだ。
そして何より、BAND-MAIDのライブ(お給仕)はとても楽しい♪

それだけに、今回の延期は至極残念ではあるが、8月に単独があるので、それが今から楽しみである。

興業中止保険

今回、様々なイベントが中止になったことによって広く知られるようになったのが「興業中止保険」である。
これは、予め保険が想定していた事由によってイベントが中止になった場合に、主催者が被った損害が補償される(多くの場合9割まで)ものである。
中止になった場合に損害が多額にのぼるイベントは、この興業中止保険に入っていることが多いと思われるが、今回の新型コロナウィルスによる中止については、補償されるのは難しいのではないか、というのが大方の識者の見方のようだ。

保険は、保険会社が取るリスクに見合った保険料を支払うことで、契約が成立する。
契約時点で想定されていなかったリスクについては、保険料も支払われていないので、補償もされないのだ。

こうなるとKNOTFESTの主催者としては、中止の判断をするのは容易ではないだろう。
これまで相当の投資をして来ているだろうし、主催者側から中止の判断をすると、アーティスト側から違約金を請求されるかもしれない。
再度のブッキングで大変な手間が発生するとしても、主催者としては延期の判断をすることが妥当なのだと思われる。

今回のような想定外のリスクに備える手段としてヒントになるのが、これから述べるカタストロフィー債である。
保険の場合、リスクを取るのは特定の保険会社である。
再保険である程度リスクを分散することはできるが、それでもリスクは特定の主体に集中する。
カタストロフィー債の場合、リスクを取るのは債券の購入者、すなわち投資家であり、リスクは広く薄く分散する。

パンデミック債

今動向が注視されているのが、2017年に世界銀行が発行したパンデミック債だ。
これは、2013年に発生したエボラ出血熱の感染拡大に際し、感染者が増加する発展途上国に対する資金的援助に苦慮したことを教訓として、想定する感染症が大流行した場合に、債券の購入者から集めた投資元本を被害救済に充てるものである。
そして、想定される感染症に、新型コロナウィルスも含まれるのだ。

World Bank Launches First Ever Pandemic Bonds to support PEF

パンデミック債はカタストロフィー債の一種である。

カタストロフィー債とは、発生する確率は極めて小さいけれども、発生した場合は悲劇的な損害が予想される事象について、債券の購入者に高い利回りを約束する代わりに、その事象が発生した場合は債券の購入者が払い込んだ元本は償還されず、保険金の支払いなどに充てられるものである。
大規模自然災害が頻発する昨今にあって、保険会社が取っているリスクを他者に移転するために、再保険に代わる手段として1990年代に考案された。

2017年に世界銀行が発行したパンデミック債は2種類あり、リスクの比較的小さいAトランシュの利回りは変動金利+6.50%、よりリスクの大きいBトランシュは変動金利+11.10%である。
世界的に金融緩和の傾向にあって金利が低いことから、その利回りの高さが人気を呼び、Aトランシュの募集2億2,500万米ドル、Bトランシュの募集9,500万米ドルに対し、2倍の応募があったと言われる。

そして、これらの償還予定日は2020年7月15日なのだ。

あれれ?7月と言えばもうすぐだし、東京五輪だね?

つまり、7月までに本パンデミック債が対象とする事象が発生したと認定されれば、償還は停止、投資家は元本を失うことになる。
そして目論見書に書かれている認定条件は、A・Bトランシュともに本稿を書いている2020年3月14日時点で満たされているように思われ、今後の世界銀行の動きが注目される。
投資家からすると、もう少しで逃げ切れるところだったのに、といったところだろうか。

音楽ビジネスのリスク分散

今回の新型コロナウィルスは極端であるが、音楽ビジネスはかなりのリスクを伴うものだ。

音源が売れないリスク、ライブに動員できないリスク、予定していたイベントができないリスク等々、それらを全て飲み込んで、アーティストやプロモーターは私たちに音楽を届けてくれる。
そもそも音楽ビジネスとはそういうものだと言ってしまえばそこまでだが、リスクを分散する(あるいは共有する)金融技術は色々とあるのだから、そうした技術を活用することで、これまで取れなかったリスクが取れれば、これまでやりたくても出来なかったことが可能になるのではないか?

例えば、ライブ債のようなものを発行して、ファンや投資家に購入してもらう。
ライブを観たいファンが購入してくれるだろうから、利回りはそれほど高くなくてよいだろう。
そして、目標観客動員数を下回った場合は満額償還しないという条件を付けておくのである。

アーティストは集めた資金をライブの準備に充てることができるし、動員が不調に終わった場合は、資金を全額償還しなくてよいから、損失が軽減される。
まるごとアーティストやプロモーターが背負っていたリスクを、債券を購入したファンや投資家に分散することで、実現の難しかったライブが出来るようになれば、ファンにとっても嬉しいことに違いない。

なお、KNOTFESTの延期によって3/20(金)がキャンセルとなってしまったBAND-MAIDは、同日19時から無観客ライブをSNSで生配信するらしい!
何という神対応!
BAND-MAIDがライブ債を発行するなら、筆者は喜んで購入するだろう。