メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.7「バリュー・アット・リスク(VaR)」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
バンドは時々何かをやらかして、ビジネスに影響を与える。良い影響であればもちろん歓迎されるが、バンド活動がままならない状況に至るのは、ビジネスとして関わる側には痛い損失である。音楽ビジネスはそうしたバンドのリスクを取ったものだ。そのリスク管理に、金融市場での考え方が応用できるかどうか、ちょっと考えてみよう。

バンドは時々やらかす

Kurt Cobain(カート・コバーン)の突然の自死はファンに衝撃を与えた。銃で自分の頭を撃ち抜いたのである。
Smells Like Teen Spiritの大ヒット以来、人気の絶頂にあったNIRVANAは、この偉大なフロントマンを失ったことにより解散に追い込まれてしまう。
Kurtのヘロイン中毒はよく知られていたから、こんなことが起こっても不思議ではなかったが、それにしても衝撃であった。
NIRVANAは今でもカリスマ的な人気を誇るが、その背景にこの事件があったとしたら悲しいことである。

Nirvana - Smells Like Teen Spirit

3大ブラックメタル・バンドの1つとされるのBURZUMのVarg Vikernes(ヴァルグ・ヴィーケネス)は、ノルウェーの教会に放火するという、バチ当たりなことをしでかした。
さらには、同じ3大ブラックメタル・バンドの1つのMAYHEMのギタリストであったEuronymous(ユーロニモス)を、あろうことか殺害するという事件まで起こしたのだから、わけが分からない。
当然収監されたのであるが、刑務所内でも創作活動に励んだようで、出所後にアルバムもリリースされた。

当時は過激なことをすれば注目されるという風潮があり、他のブラックメタル・バンドのメンバーも放火や殺人といった事件を連鎖的にやらかし、「ブラックメタル=怖い」といった多くの人が抱くイメージの形成につながったと思われる。

Burzum - Det Som Engang Var (full version)

そう言えば、BABYMETALからのYUIMETALの脱退も驚きであった。
もともと体調不良が伝えられて心配していたが、まさか脱退するとは予想していなかった。
凛としたSU-METALの両サイドを愛らしいYUIMETALとMOAMETALを固めるフォーメーションが確立されており、ダンスやかけ合いも3人でバランスの取れたものだったから、BABYMETALは一体どうなってしまうのだオヨヨと思っていたら、残った2人で活動を続け、9月にはUSツアーをやるらしい。

BABYMETAL恐るべし。

BABYMETAL - Starlight (Official)

音楽ビジネスのリスク管理

明日何があるか分からないのは、ミュージシャンも我々も同じであるが、ミュージシャンの場合、世界中にファンがいるとともに、ビジネスとして多くの人が関わっているから、何かやらかした時の影響範囲が格段に大きい。
その一方で、ヴィーケネスの殺人は極端であるが、突然のメンバー脱退や不仲による活動停止、違法薬物やっちゃいましただの、不倫しちゃいましたテヘペロだの、ファンを心配させたり、ビジネスに影響を与えたりすることを、ミュージシャンはチョイチョイやらかすのである。
昔は多少やんちゃな方がロックな感じがして許容されていたような気がするが、今ではコンプライアンスの強化は音楽ビジネスにおいても無縁でないのだ。

もちろん、何かやらかした結果として人気が出たりする場合もあるから、悪いことばかりではないのかもしれないが、音楽ビジネスはバンドのリスクをガッツリ取るものである。

するとビジネスとして音楽に関わる側には、そのバンドのリスクを取れるのかという視点が必要になる。
才能あるバンドを見出し、利益を生むまでに育て上げるには、かなりの投資が必要である。
ようやく人気が出て投資を回収できる段階になったときに、音楽性の不一致とかで解散されてしまっては目も当てられない。

そのバンドのリスクを取って大丈夫か?何かうまい考え方はないか?

バリュー・アット・リスク(VaR: Value at Risk)

金融市場において投資家は、市場が望ましくない方向に動いて損失を抱えるようになっても、破産などしないようにリスク管理をしなければならない。
自分が負っているリスク量を、自分が許容できる損失額に抑える必要がある。
ただし、リーマン・ショックのようなことも想定すると、極端に損をする場合の損失額は多くの投資家にとって許容できないので、そもそも投資ができない。
そこで、ごく小さい確率(例えば1%)で発生する最大損失額を過去のデータから推計し、その損失を許容できるなら投資しましょうと考える。

この考え方をバリュー・アット・リスク(VaR: Value at Risk)と言う。

投資の収益率は、過去の平均のようになる確率が最も高く、その平均から離れれば離れるほど、そうなる確率は低くなると考えられる。
つまり、将来期待できる投資の収益率の確率分布は、平均を中心とした釣り鐘型であると仮定するのだ。
例えば、日経平均株価についてこの分布を描くと、次の図のようになる。横軸が収益率(単位は%)、縦軸は確率(正確には確率密度と呼ばれるものだが、確率のようなものだと捉えて支障ない)である。
日経平均の収益率の確率分布

日経平均の収益率の確率分布

via 筆者作成
ここで言う日経平均の収益率とは、いくつかの保有期間で日経平均を買って売った場合のものを、過去のデータから推計したものだ。
例えば、保有期間5日間とは、今日日経平均を買って5日後に売るといった投資を機械的に繰り返した場合の、収益率の確率分布を表している。
当然のことながら、保有期間が長くなればなるほど、日経平均が大きく変動する確率は高まるので、保有期間が長い場合の分布は、平均から離れて広がるようになる。

さて、保有期間を1日とした場合(今日買って明日売る)、1%の確率で生じる最大損失はいくらだろうか?

それを考えるには、保有期間1日の収益率の確率分布について、大きな損失が発生する方からそうなる確率を足し合わせて、ちょうど1%になる収益率を見ればよい。
1%の確率で発生する最大損失

1%の確率で発生する最大損失

via 筆者作成
その1%の確率で発生する最大損失は、上のグラフ上kで示されている収益率であり、約3%である。
つまり、今日の日経平均が20,000円だったとすると、明日1%の確率で発生する最大損失は20,000円×3%=600円と考えられる。
明日600円の損失が発生しても問題なければ日経平均に投資してもよいだろう。逆に、1日で600円の損失に耐えられない投資家は、日経平均に投資すべきではない。

さて、このVaRの考え方を音楽ビジネスに適用できるだろうか?

データが無いので今は試行のしようもないのだが、ビッグ・データやらAIやらが注目される昨今にあっては、その気になれば可能なのかもしれない。
バンドの特徴や売れ方の過去データから、そのバンドが何かやらかして発生する最大損失を推計して、そのリスクが取れるなら投資すると考えるのだ。
うーむ、そうなると音楽にビジネスとして関わる側にとっては良いかもしれないが、ファンとしてはヴィーケネスみたいなのが排除されそうで、面白くなさそうではある。