メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.6「デリバティブの世界」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
メタルの世界は複雑だ。ジャンルが細分化され、全体像を見渡すことが難しい。しかし、難しいからこそチャレンジすると、メタル文化論的な学問的に価値ある分野を形成し得る。デリバティブの世界も同じである。先物やらオプションやら、ただえさえよく分からないものが組み合わさって、その全体像は複雑怪奇である。今回のコラムでは、メタルの世界とデリバティブの世界の相似性について紹介しよう。

BURRN!の表紙

世の中がザワついている。B'zがBURRN!の表紙を飾ったからだ(2019年6月号)。
B'zが表紙を飾るのにふさわしい偉大なアーティストであることは論をまたない。
ただ、BURRN!は表紙に起用するアーティストに、非常にこだわりを持っていることで知られる。
LOUDNESSの高崎晃が表紙を飾ったのは2016年1月号であったが、1984年の発刊以来、日本人アーティストが起用されたことはそれまで無かった。
また、ウェンブリー・アリーナ公演を成功させ、METALLICAやJUDAS PRIESTのオープニングアクトを務めたことがあるBABYMETALが、未だに表紙に登場したことがないのもザワつきの一因だろう。
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メタル道?

それがメタルなのか?ハードロックなのか?はてまた、そのいずれでもないのか?
多くの人にとっては、そんなことはどうでもよい。その曲が良ければ、そのバンドがカッコ良ければ十分なはずである。
しかし、少なからぬメタルヘッズはそこにこだわるのだ。
こういうこだわりメタルヘッズが要らぬ講釈をたれるから、メタルを敬遠する人も多いと思われ、ある意味迷惑な存在でもある。

彼・彼女らはなぜメタルか、メタルでないかにこだわるのか?

メタルという音楽は卓越した演奏技術と作曲センス、そして高価な機材が無ければ成立しない。
あと、バンドのルックスやアティテュード、醸し出す世界観なども大事である。
さらに、1人だけではバンドにならないので、3~5人の非凡なアーティストが意気投合しなければならない。
つまり、人に感動や共感を与える音楽にまで昇華させるのは、非常に難易度が高いジャンルなのである。

にもかかわらず、メタルはサブカル的な位置づけに追いやられている。
メタルに関心の無い人にとっては、単に騒々しい「何か」でしかないようだ。音楽として認識されているかも怪しい。
となると、メタルヘッズにとっては、自分のアイデンティティのためにも、どのような音楽がメタルであって、それが文化的にどれだけ優れているかを再確認し、場合によっては人に説明する必要に迫られる。
そんなことは誰も求めていないかもしれないが、こだわりメタルヘッズには重要な問題なのだ。

1980年代にMANOWARというバンドが結成された。
彼らのスローガンは"Death to False Metal"、つまり「偽メタルに死を」である。
特定のバンドなどを攻撃するものではなく、自分たちこそが真のメタルを体現する者である、との主張であるようだが、まったく過激な表現である。
しかし驚くべきことに、楽曲の良さもあって、彼らの主張は多くのメタルヘッズの支持を集め、現在でも大規模メタルフェスのヘッドライナーを務める大人気バンドである。
興味深いのは、メタルには真なるものと、偽なるものがあるという考え方が受け入れられるということである。
それはもはやメタル道と言うべきものかもしれない。

MANOWAR - Hail And Kill

メタル文化論

スクール・オブ・ロック(School of Rock)というアメリカ映画がある(2003年公開)。
主人公のデューイは売れないミュージシャンなのだが、ひょんなことから有名私立小学校の音楽教師の職を得る。
そのデューイが子供たちにロックの素晴らしさを教え、子供たちとバンドを結成し、バンド・コンテストでの優勝を目指すというハチャメチャなコメディーである。
メタルヘッズにとっても十分楽しめる映画だと思われ、お勧めである。

この映画の中での印象的なシーンの1つが、デューイがメタルやハードロックといったジャンルがどのように形成され、どういったバンドが影響を与え合ったかを、子供たちに真剣に講義するものである。
どのような音楽ジャンルでも、様々なジャンルの音楽が相互に影響を及ぼしながら現在の状態に至っているのだが、その系譜を敢えて語ろうとする者は多くはない。
しかし、メタルについては、その成り立ちから現在に至るプロセスを研究し、自分なりの見解を語ることを歓びとする者が少なくないのである。
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一口にメタルと言っても、そのジャンルは多種多様である。メタルの中のジャンルが細分化されているのだ。
スラッシュ・メタル、デス・メタル、メロディック・デス・メタル、メロディック・スピード・メタル、ブラック・メタル、バイキング・メタル、メタル・コア...などなど。
メタルに関心の無い人にとっては意味不明な世界だし、ジャンルにこだわらないメタルヘッズにとってもどうでもよいことである。
しかし面白いのは、メタルにおけるジャンルの細分化と融合について研究を突き詰めて行くと、ある意味メタル文化論的な、学問的に価値があるかもしれない分野を形成し得ることである。

Sam Dunn(サム・ダン)という男がいる。
彼はメタルに関するドキュメンタリーを製作することを生業としており、メタル文化論の第一人者だ。
彼の代表作は、2011年に全11話としてアメリカで放送されたMETAL EVOLUTIONである。日本でもWOWOWで放送された。
METAL EVOLUTIONは音楽ドキュメンタリーとしては異色の、アーティストへのインタビューを中心に構成されたものである。演奏シーンは多くない。
各アーティストは、自分はどういったアーティストに影響を受けたかを回想し、自分たちの音楽的な位置づけや貢献について話す。
サム・ダンは、そうした断片的なインタビュー結果を丹念につなぎ合わせ、過去40年以上にわたるメタルの歴史と相関図を、METAL FAMILY TREEとして完成させたのだ。
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デリバティブ3形態

金融市場で大きな役割を果たすデリバティブ(金融派生商品)と呼ばれる金融商品群があり、そのデリバティブには基本3形態がある。「先物(先渡)」「オプション」「スワップ」である。
「ロック」のような元があって、そこから派生した「ハードロック」「ヘヴィメタル」「パンク」のような、現在のメタルの源流となる基本3ジャンルがある、というようなイメージだろうか。

「先物(先渡)」はデリバティブの世界で最も歴史あるもので、その起源は江戸時代の堂島におけるコメ先物取引であったと言われる。
金融技術については何かと欧米に先んじられているように考えられている日本であるが、金融の世界にデリバティブの考え方を持ち込んだのは日本が最初だったのだ。
「ロック」をハードにプレイしてみたら「ハードロック」になったというのであれば、「ハードロック」はメタル源流の中で、最も歴史があるに違いない。
であれば、「先物(先渡)」はデリバティブ界の「ハードロック」である。

先渡と先物は経済効果は同じであるが、取引方法に大きな違いがある。
原型は先渡であり、将来のモノの価格を現時点で決めて、その売買契約を現時点で結ぶものである。
モノとカネのやり取り(決済)は将来発生するが、その価格を今決めておきましょうということだ。
将来のモノの価格は誰にも分らないので価格変動リスクがある。その価格を現時点で固定して、価格変動リスクを回避(ヘッジ)する効果がある。
先物はそうした先渡契約を標準化(単純化)して市場に上場し、誰もが取引できるようにしたものだ。

先物(先渡)はデリバティブの最も基本的なものであり重要であるので、こじつけられる上手いメタルあるあるを思い付いたら、このコラムで解説してみたい。

第2の形態である「オプション」はこのコラムのVol.2Vol.3で既に解説した。
将来のモノの売買を現時点で決めた価格で行う「権利」を、今売買するものである。「権利」を売買しようという発想が新しい。
ハードにロックをプレイするだけでは飽き足らずに、何か別のヘヴィな音楽を指向して「ヘヴィメタル」が生まれたのだとしたら、「オプション」はデリバティブ界の「ヘヴィメタル」と言えるかもしれない。

そして、最後の第3形態「スワップ」は少々変わった取引である。
私が1千万円の住宅ローンを変動金利で借りていたとしよう。あなたは同じ住宅ローンを年率2%の固定金利で借りていたとする。
私は固定金利に変えたいなと思い、あなたが変動金利に変えたいなと思ったならば、お互いの支払いを交換することでWin-Winになるかもしれない。
以上の例はかなり単純で現実的でないが、将来にわたって発生するキャッシュフロー群を交換して、お互いに得する(と期待できる)ようにしましょう、というのが「スワップ」である。
「スワップ」の発想はかなり斬新である。そして、ロック界における「パンク」の表現様式もまた斬新であった。
そこで「スワップ」はデリバティブ界における「パンク」に位置付けておこう。

デリバティブ・ファミリー

デリバティブは、債券や株式といった元となる基本的な金融商品から派生的に生み出されるものである。
元となる金融商品は原資産と呼ばれ、その価値の客観性(誰かの意図によって恣意的に決まるものではない)と公示性(誰もが知ることができる)が保たれていれば何でもよい。
原資産は本当に何でもよいので、債券や株式のような有価証券や原油や大豆といったコモディティ(商品)、特定企業が倒産する可能性(本コラムVol.1)や、天候(一定期間内に雨の日が何日あるかなど)など、ありとあり得るものが原資産となり得る。

それはメタルも同じだ。
メタルは元々はロックから派生した音楽であっただろう。
しかし、今ではレゲェやヒップ・ホップ、さらには民族音楽(フォークメタルと呼ばれたりする)から派生したメタルがあり、人気も高い。
デリバティブでの原資産の多様化は、メタルにおいても同じなのである。

さらに、デリバティブを設計する技術は組み合わせが可能だから、多種多様なデリバティブが生まれる。

例えば、現時点で取引条件を定めたスワップを、将来行う「権利」を今売買するなら、スワップとオプションを合せたスワップションとなる。
あるいは、現時点で取引条件を定めた先物取引を、将来行う「権利」を今売買するなら、先物とオプションを合せた先物オプションだ。
メロディアスなメタルとデス・メタルが融合してメロディック・デス・メタルが生まれたり、ハードコア・パンクとメタルが融合してメタル・コアが生まれたりするように、デリバティブの世界も様々な原資産と取引形態を組み合わせて発展を続け、Sam Dunnが描いてみせたMETAL FAMILY TREEのような世界を形成しているのだ。

メタルにおけるジャンルの細分化と融合の歴史と、デリバティブの歴史はかくも似ているのである。
DERIVATIVE FAMILY TREE

DERIVATIVE FAMILY TREE