メタル金融論-メタル・メルトダウン Vol.4「ポートフォリオ理論(前編)~平均分散分析」

メタル金融論~メタル・メルトダウン
「卵は1つのカゴに入れてはならない」は投資の格言として有名である。複数の資産への分散投資の重要性を指摘したこの格言は、金融理論としてはポートフォリオ理論として確立され、現在の投資のあり方に多大な影響を与えている。今回はそのポートフォリオ理論の基礎となっている平均分散分析について解説しよう。

プレイリスト

メタルヘッズにとってプレイリストは重要である。

通常メタルを聴くことができる時間は限られているので、曲を入れ替え、曲順を見直し、限られた時間で最大限の効用(幸せとか豊かさとかの大きさのようなもの)が得られるよう、メタルヘッズはプレイリストを定期的にメンテナンスする。

聴きたくない曲はスキップすればよいように思えるが、それではプレイリストの意味がない。
そういう場合、大概聴きたい曲が出てくるまでスキップし続けるので、だったら最初から聴きたい曲を探してピンポイントで再生する方が合理的である。
プレイリストはメタルヘッズにとって、それまでどのようなメタル人生を歩んできたかを表すものであり、人に見せて感心されるようなものでなければならない。
プレイリストには必ず入れておきたい定番の曲が人それぞれあるだろう。
自分にとっての鉄板の名曲のようなものである。
いつ聴いても良い曲、つまりいつ聴いても安定して効用を与えてくれる曲である。

私の場合、それはMETALLICAのCreeping Deathであろうか。
印象的なオープニング、そこから展開される激しいリフの応酬、中盤にはスローテンポの合唱パート。
メタルの楽しさを存分に詰め込み、かつきちんと計算されて構成された曲で、まさにスラッシュ・メタルの名曲と言ってよいだろう。
こうした曲はプレイリストに入れておいて失敗は無い。
安定的に効用が得られ失敗するリスクが小さいのは、とても大事なことである。

Metallica Creeping Death Official music Video HD

しかし、一般的に知られる名曲ばかりで構成されたプレイリストはつまらないと考えるメタルヘッズは多いだろう。
前述のように、プレイリストはメタルヘッズのメタル人生を映す鏡のようなものである。
自分だからはまった曲、自分だから発掘できた曲、そうした曲が定番曲の中で輝くとすれば、それは自分にとって素晴らしいプレイリストだと言えるだろう。

さて、METALLICAのCreeping Deathの後に何を入れるか?
MEGADETHやSLAYERを持ってくるのは簡単だが、それではオリジナリティが無い。
スラッシュ・メタル名曲大全のようなプレイリストになってしまう。
それでは自分のプレイリストを作る意味はなく、Spotifyにアップされている適当なプレイリストを再生すればよい。
自分のプレイリストだからこそ入っている曲を考えなければならない。
例えば、TeräsbetoniのVahva kuin metalliはどうだろうか?
力強く高らかに歌い上げるパワー・メタルである。フィンランド語なので何を歌っているのか分からないが、聴いた後に何か心に残る味わい深さがある。
ただ、曲のタイトルのVahva kuin metalliをGoogle先生に翻訳してもらったが、「金属として強い」という意味だそうだ。
多分、オレらは最強メタルだぜ!というニュアンスなのだと思うし、気持ちもわかるが、もうちょっとどうにかならなかったのかね...

Teräsbetoni - 04 - Vahva Kuin Metalli

さて、こうした曲をプレイリストに入れるには、やや勇気が必要である。
その時の気分と環境が合えば、素晴らしい効用をもたらしてくれるだろう。
しかし、そうでない場合、スキップされる運命にある。
このスキップがきっかけとなってスキップが連鎖し、もはやプレイリストの意味が無くなってしまうかもしれない。

つまり、こうした曲は効用も大きいかもしれないが、失敗するリスクも高い。

ポートフォリオ

投資対象の選別は、プレイリストを作ることに似ている。

限られた資金を、何に、どれだけ投資することが、投資全体として最適と考えられるか。
その基準を提供してくれるのが、ポートフォリオ理論である。

投資の目的は、言うまでもなく収益である。
メタルを聴くことによる効用に相当するものである。
投資額に対する収益の割合を収益率と呼ぶが、ここではこれをリターンと呼ぼう。
リターンは大きければ大きいほど良い。
 (11847)

投資を行う際にはリターンだけ見ていてはいけない。
損をする可能性、すなわちリスクも同時に見る必要がある。
それでは、リスクの大きさはどうとらえればよいか?

ポートフォリオ理論では、リスクの大きさはその投資対象の平均的リターンからの乖離のしやすさととらえる。
つまり、平均的なリターンを中心として、今後期待できるリターンがそこから大きくブレる可能性の少ない投資対象はリスクが小さいと言える。
私にとってのMETALLICAのCreeping Deathである。

これに対して、良いときは平均を大きく上回るリターンを期待できるが、悪い時のリターンは平均を大きく下回る可能性が高い投資対象はリスクが大きい。
値動きの荒い株式などがこれに相当し、大きく儲かる可能性もあるが、大損する可能性も大きいのでリスクは大きいと言える。
その時のツボにはまるかどうかで効用が大きく変動するTeräsbetoniのようなものだ。

このリスクはポートフォリオ理論ではリターンの分散として定義される。
例えば、月ごとのリターンを考えるとしよう。月初に買って、月末に売るというような投資を繰り返すことをイメージしていただければよい。
過去nヵ月の各月のリターンがr1、r2、r3、…、rnで、それらの平均がRであった場合、リスクすなわちリターンの分散は、次のように定義される。
 (11849)

分散とは、「平均からの乖離」の平均のようなものである。
単純に平均との差を取って合計してしまうと、プラス側とマイナス側で差が相殺されてしまうので、2乗してから合計してサンプル数で割るのだ。
ちなみに、このリターンの分散のルートを取ったものを標準偏差と呼び、金融関係者はこれを格好つけてボラティリティと呼んだりする。

平均分散分析

投資の格言として「卵は1つのカゴに入れてはならない」というものがある。
全ての投資資金を1つの投資対象に投資してはならない、分散投資しなさいよ、という意味である。
それでは、その分散投資の効果を見てみよう。

METALLICA株とTeräsbetoni株があったとし、それぞれの株式の月ごとのリターンが過去3ヵ月について次の表の通りだったとする。
そして、これら過去3ヵ月のリターンについて、その平均と分散を計算すると、次の表の通りになる。
リターンの平均はどちらも0.07(7%)である。
しかし、リターンの分散、すなわちリスクはMETALLICAが0.0006で、Teräsbetoniが0.0024であり、METALLICAの方が圧倒的に小さい。
恐るべし、安定のMETALLICAである。
投資家がこのどちらかを投資対象として選ぶとしたら、間違いなくMETALLICAである。
期待できるリターンはどちらも同じなのに、METALLICAの方がリスクが小さいからである。
 (11853)

さてここで、投資金額の半分をMETALLICA株に、残り半分をTeräsbetoni株に投資した場合を考えよう。
このように、複数の投資対象に投資金額を分散投資した場合をポートフォリオという。
このポートフォリオのリターンは、各株式のリターンに投資比率を乗じて合計したものとなる。
この場合、投資比率はそれぞれ0.5ずつなので、ポートフォリオのリターンは次のように計算できる。

ポートフォリオのリターン=METALLICA株のリターン×0.5+Teräsbetoni株のリターン×0.5

過去3ヵ月についてポートフォリオのリターンを計算し、その平均と分散を計算すると次の表が得られる。
 (11855)

このポートフォリオのリターンの平均は0.07で、METALLICA株やTeräsbetoni株のどちらかに全額投資した場合と変わらない。
しかし、リターンの分散に注目して欲しい。この0.00015という値は、METALLICA株に全額投資した場合の0.0006より圧倒的に小さい!
恐るべし、Teräsbetoni。
METALLICA株に全額投資するより、METALLICA株とTeräsbetoni株に投資金額を半々に分けて投資した方が、期待できる平均リターンを変えることなく、リスクは小さくできるのだ。

これが分散投資効果である。
やはりMETALLICAのCreeping Deathの後にはTeräsbetoniが来るべきなのだ。