タイのメタルにエールを 第3回

近年、タイのメタル・シーンが低迷気味だと聞く。けれどもユニークな個性を持ったバンドは存在しているはず。タイのバンドが持つ魅力を発見して外側から応援して欲しい。

スラッシュ・メタルとその周辺

タイの場合は80年代に欧米で興ったスラッシュ・メタル・ムーヴメントが直接その時代に反映されることはほとんどなく、90年代に入ってからの出現(アルバム発表)が主となる。

DONPHEEBINが1994年にスラッシュ寄りの『เส้นทางสายมรณะ(Way Of Death)』を発表したり、THE OLARN PROJECTのメンバーだったMikael Johanssonのプロジェクトでそのものズバリの名を冠したTHRASH PROJECTという単発の作品もあった。

バンド単位ならば、珍しくダミ声ではないハイトーン・ヴォーカルのISISや、デスラッシュ系のWIPALAS(วิปลาส)が90年代中期。00年代になると地下で長年活動してきたPLAHNがようやく作品を発表するほか、モダンさとグルーヴ感を取り入れて"タイのPANTERA"と呼ばれるCLONEが出現した。

CLONEに関してはもう十数年新譜の発表は途絶えているが、近年は新曲の曲作りを行っていると聞いているし、ギタリストのPengはサウンド・エンジニアとしてEBOLAやSTONE METAL FIREなどと仕事をしている。

それでは現在活動しているバンドを見ていこう。

CARNIVOLA

SEPULTURAの90年前後の音に影響を受けたのがLakfah Sarsakul率いるCARNIVOLA。

彼は1992年ごろから活動を開始したデスラッシュ系のPLAHNのメンバーであり、現在でも時々PLAHNとしてのライヴ活動はしているが、2004年にCARNIVORAを結成。2011年には『Asian Tribe』と題したアルバムを発表することから想像できるように、ブラジルのSEPULTURAが築いたトライバル感やグルーヴを多少導入しつつも根本にあるのは「俺達はアジア人だ!」というこだわりのアジアン・デスラッシュを展開している。

その後は、2013年に"CARNIVORA"から"CARNIVOLA"へとバンド名の綴りを変えるマイナーチェンジをさり気なく行ったり、めでたくSOULFLYやSEPULTURAのバンコク公演の前座を務める経験をするほか、2016年には来日公演も果たしている。

なかなか新譜の話を聞かないまま長い年月が経過してしまったが、2018年後半になると"The last tour of Asian Tribe album"と銘打ってタイとインドネシアでツアーを行ったのだ。ここで一区切りをつけるだろうことが推察できたのでLakfahに今後の活動内容を尋ねたところ、8曲ほど新曲ができており、『Asian Tribe』に続くアルバムを発表する計画があるということが判明した。

ところで、LakfahはDemonic Concert(「タイのメタルにエールを」 第1回を参照)の主催者であり、Immortal Barの経営にも携わっていた人物。このImmortal Barは2000年から営業を開始。お店にはステージが併設されており、海外のバンドはもちろん、国内のメタル、ハードコア、パンク系バンドに活動の場を提供していたのだが、2018年末で閉店してしまった。しかし、すぐに2019年からは場所を改め、Immortal Live Space & Studioとして再出発。以前のように国内外のミュージシャンたちに貴重な演奏の場を提供している。

タイ・メタルの現状に関して、「かなり厳しい状況なのは承知だが、自分のお店を活かしながら諦めずにサポートし続ける」と語るLakfahは、タイ国内のシーンを支える重要人物のひとりであることは間違いない。

CARNIVORA(現CARNIVOLA)「The Renegade」

2011年の『Asian Tribe』から突っ走る一発。

PSYCHOTRAIN、Bangkok Thrash

ベタではあるが、なかなか良い響きのバンド名のPSYCHOTRAINというのは、MEGADETHの『Countdown To Extinction』に収録されている「Psychotron」からヒントを得たもの。そのことから大方の想像はつくようにメンバーたちは、METALLICA、MEGADETH、SLAYER、TESTAMENT、ANTHRAXといったバンドを好み、当然影響も受けている。

彼らは2009年にデビューEP、2010年にファースト・アルバム『Crossing The Threshold Of Hell』を発表。この作品を持ってしてメタル・シーンに踏み込むという意味を込めてこのタイトルになったようだ。この頃は完全にスラッシュ・メタルに焦点を絞っていたわけではないので、ヘヴィ・メタルとスラッシュ・メタルが入り混じった楽曲だったとメンバーは語っている。

彼らの作品の発表年から推測すると、活動歴はここ10年ほどのように思われるかもしれないが、バンド結成の源流をたどれば1994年にまで遡る。

当時、学生だった彼らは一般市場に溢れていたポップスやダンス音楽に辟易していた。しかし、学友のひとりにMETALLICAをはじめとするメタル・バンドをいくつか紹介されたことで突如としてメタルの魅力に取りつかれてしまう。そして1994年、タイ初のデス、スラッシュ系のエクストリームなメタル・バンドが集結したPain Of Deathコンサートに出向き、深い感銘を受けたことで自分たちもバンドを結成することを決意したのである。最初は、METALLICA、MEGADETH、SEPULTURA、GUNS N' ROSES、SKID ROW、NIRVANAなどの曲をカヴァーしながら練習を重ね、オリジナル曲に挑戦するようになったのは2007年からだという。

このように、実は歴史が長かったPSYCHOTRAINは、タイのメタル・シーンにおいても重要な役割を担っている。2009年に自分たちの作品を発表したことで、多くのスラッシュ・メタル愛好家と出会うきっかけができたメンバーは、そんな共通の趣味を持つ仲間に囲まれているうちに、「毎年開催するスラッシュ・メタルのコンサートを作ってみたい」と思い立った。そうして誕生したのがBangkok Thrashというイベントだ。

これまでの参加バンドを振り返ると、タイ国内のバンドのみならず、シンガポールのTHY FALLEN KINGDOM、マレーシアのHEREAFTERやATOMICDEATH、オーストラリアのHIDDEN INTENTやDESECRATOR、BASTERDIZER、SEWERCIDE、インドネシアのORACLE、ラオスのDICTATOR、中国のEXPLOSICUMといった近隣諸国のバンドや、日本からもFASTKILL、TERROR SQUADが参加している。

このようにマニア好みのメンツで2009年からほぼ毎年続けてきたスラッシュ・メタルの祭典ではあるが、プミポン・アドゥンヤデート国王の死去により開催を見送った2016年、DESTRUCTIONとDUST BOLTのバンコク公演の準備でメンバーが忙しかった2018年には開催されなかった。では今後はどうなのかというと、少々雲行きが怪しい。

バンドは、「タイのスラッシュ・メタル・シーンは縮小傾向にあり、リスナーは会場に出向いて生演奏に触れるよりもオンラインで聴くだけになってきた」ことを指摘。ゆえに2019年内でBangkok Thrashに終止符を打つつもりだとか……。どうやらメンバーの忙しさというのも関係しているらしいが、新人や活動的なバンドが少ないのも原因のひとつなのかもしれない。残念である。

けれども、PSYCHOTRAINとしてのバンド活動は今後も続ける意志があり、いくつかの新曲はすでに過去のライヴでもお披露目済み。セカンド・アルバムに使用するアルバム・タイトルやアートワークなども用意はしているということだった。ただし、メンバーには子供もいるので家庭と仕事重視の生活の中、アルバムの完成はしばらく先になりそうだ。ともあれ、PSYCHOTRAINのイカれた暴走を期待したい。

PSYCHOTRAIN「South Of Fire」

少々古いが、2012年のBANGKOK THRASH COMPILATIONに収録されたタイ語ヴァージョンの「South Of Fire」。

NERVE

1997年にMaoとMumの兄弟が、IRON MAIDEN、SLAYER、METALLICAといったバンドの曲を演奏するために結成したのが始まり。その後、ドラッグ、暴力、幼少の頃に受けた苦痛といった事柄をテーマに曲を書き始め、独自のサウンドを模索するうちに、NINE INCH NAILS、MINISTRY、GRAVITY KILLSといったバンドのようにインダストリアルな要素を導入することでバンドの方向性を決定づけた。

2001年に発表したデビュー・アルバム『Into The End Of Pain』では、まだ兄弟二人のバンドであり、Maoがギター、ヴォーカル、シンセサイザー、Mumがドラム、プログラム、ピアノを担当。スラッシュ・メタルの影響下にある切れのあるギター・リフに無機的なインダストリアルを合わせたサウンドを披露していた。それは当時でもタイのシーンではあまり例のない音楽スタイルだったが、今日においてもユニークな存在であり続けている。その後、2005年にメンバーを増員したセカンド・アルバム『Blackened Chpt.1』を発表。その後は時折ライヴを行うもフル・アルバムの発表はできていない。

そんなことから、残念ながら少なくともここ10年は若いリスナーの目に留まる機会はほぼないと言ってもいい。けれども、バンドは2016年、2017年に「Into The Storm」、「Scream Baby Scream」というPVを立て続けに発表している。どちらも教育委員会や品行方正な方々からは良い顔をされないであろう気味の悪い映像で、見た者には強烈な印象を残す。特に「Scream Baby Scream」に関してはSM/ボンデージ的な表現がされており、少々性的描写が生々しかったために一度YouTubeから削除されてしまった。よって、今は規制に引っかからない範囲で手を入れた編集版を再度アップしている。実のところ、2017年に『Torchure Garden』とタイトルされたアルバムを発表する計画もあったので、アルバムの内容はそういう類のアンダーグラウンドな題材で構成されるはずだったことは容易に推察できる。

確かに彼らが表現するところは多少過激かもしれない。しかしPUNGENT STENCHやGENITORTURERSという偉大な先達の存在もあることなので、年季の入ったメタル・マニアならば、なんの抵抗もないどころか、「やっぱりインダストリアルと変態の相性は抜群だなぁ」と再確認すること請け合い。この路線の選択は間違っていないと感じるだろう。

NERVEとして始動してから早20年の歳月が過ぎている。初期の頃と比べると怪しいアンビエントやエレクトロな要素も入り混じり始めて変化の兆しを感じるのだが、最近Maoは少し昔の音楽、例えばラテン音楽のルンバなどの音楽にも興味を持っていて、そういうものも取り入れてみたいと語っていた。今後、彼らが新作を発表できたならば、一般受けは無理でもマニアックな玄人好みの作品を届けてくれるはずである。

NERVE「Scream Baby Scream」

2017年のシングル。
ノイズを入れて見えにくくした"クリーン・ヴァージョン"。
ちなみに、ディレクターズカット版はvimeoにて閲覧できるが、大人であることが好ましい。

KILLING FIELDS

2006年のDemonic Concert出演後に解散したスラッシュ・メタル・バンド、BATSTORMの残党が結成。

影響を受けたり尊敬しているバンドとして、ギタリストのBunditは、METALLICA、DEATH、DEICIDE、SLAYER、DERAM THEATER、STEVE VAI。ヴォーカリストのPrasanは、DEATH、NAPALM DEATH、SEPULTURA、DISGORGE、ENTOMBED、IMMOLATIONといったところを挙げつつも、KILLING FIELDSというバンド自体は、オールドスクールで生々しくプリミティヴなスラッシュ・リフにブラック・メタルにありそうな喉を締め付けるヴォーカルをのせるスタイル。

なんとも言えない邪悪で荒々しい雰囲気を漂わせるのものの、それはいわゆる悪魔云々という話
ではない。「聴手をキリング・フィールド(大量虐殺現場)にいるような感じにさせる」ということからKILLING FIELDSと命名したように、彼らが表現しているのは戦場、凄惨な殺戮現場である。

例えば、2012年に発表されたセカンド・アルバム『Gigantrix Extinction』には「6th October」という曲が収録されている。これは1976年10月6日、軍事クーデターの過程で起きた血の水曜日事件/タンマサート大学虐殺事件を題材にしている。非人道的な暴力により多くの死傷者を出す惨たらしい結果となってしまった事件ではあるが、面白半分に話題性のある事件を取り上げて聴手に不快感やショックを与えるのではなく、人々に自由と平等を求めることを奨励し、あらゆる暴力に反対するというのがバンドの意図。基本的に歌詞のテーマとして扱っているのは、権力の喪失、封建主義、そして自由のための戦いだ。

そんな彼らではあるが、「Bushido Wraith(Bushido No Ikari)」という日本人としては見逃せないタイトルがついた曲もある。この曲に関してギタリストのBunditは、「西洋のものとは違うちょっと変わったスケールを探していたら日本のスケールにダークかつマイナーで風変わりなものを見つけた。それが気に入ったから取り入れてみたんだ」と言い、ヴォーカリストのPrasanは、「侍同士の戦いはたったの一切りで生死の決着がつく。さらに負けた時もただ降伏するのではなく、死を選ぶというのは賞賛に値する。それはつまり、彼らの強い決意表明なんだ。これって俺達が普段何気なくやり過ごしてしまっているあらゆる事柄に真剣に取り組むための良い例になっていると思う」と語ってくれた。

KILLING FIELDSは、2018年12月にDUST BOLTが行ったバンコク公演の前座の一つとして参加しているが、作品としては、2014年にスプリットとコンピレーション・アルバムを発表してからしばらく間が空いている。日々の仕事に追われてバンドに時間が割けないメンバーも多いようだ。タイのメタル・バンドはプロフェッショナルな活動をできている者たちはいないとも言っていたが、一応、彼らは新曲の素材は持っていて作品制作の意思もある。少々時間がかかっても3枚目のアルバムを届けてくれるだろう。

KILLING FIELDS「Bushido Wraith (Bushido No Ikari)」

2014年に発表された曲。
さあ、ご一緒に!
「ブシドーノーイ〜カ〜リ〜、サムライ〜」

NUCLEAR WARFARE

2008年に結成されたオールドスクール・スラッシュ・メタル。ひょっとしたらこのベタなバンド名にも反映されているかもしれないが、彼らが影響を受けてるのはSODOM、SLAYER、DESTRUCTIONだという。

バンド創設者として残っているのはKarttakorn(ベース、ヴォーカル)とTanasan(ドラム)の二人で、彼らはこれまでにいくつもデス/ブラック・メタル系のバンドにも関わってきていることから、どちらかというとそっちがメインなのかと思わせる節もあるが、「いや、何をおいてもスラッシュ・メタルさ。だから最初に何かバンドをやってみようって話になった時に、当然のようにスラッシュ・メタルを選択したってわけ」とKarttakornは言い切っている。この潔さ、なんとも頼もしい限りではないか。

バンドは2009年にデモを発表して以来、EP、スプリットなどを挟みつつ、マレーシアやシンガポール公演、TOXIC HOLOCAUST、POSSESSEDの前座も務め、2017年にファースト・アルバム『Devastation Upon The Battlefield』を発表。実はその間、大阪で開催されているTrue Thrash Festに2014年、2017年と2度も出演。そしてその後も、LICH KING、VENOM INC.とRAGEの前座を務めたり、近隣のマレーシア、シンガポールをツアー。さらに今年はシンガポールのスラッシャーBLOODSTONEとの7インチ・スプリットも発表したばかり。

タイの音楽業界全体を見渡せばこのジャンルは完全に逆境とはいえども、流行に左右されず信念を貫く彼らにはそんなことは微塵も関係ないらしい。現在最も活発に行動している数少ないスラッシュ・メタル・バンドだと言える。

NUCLEAR WARFARE「Total Devastation」

2017年の『Devastation Upon The Battlefield』から。

REMAINS

病的なグラインドコアのMASOCHISTとブルータル・デス・メタルのA GOOD DAY FOR KILLINGでヴォーカルを務めてるEkkachaiと元A GOOD DAY FOR KILLINGのドラマーTossapol。この過激なバンドで活動していたメンバーが中心となって2010年に結成したスラッシュ・メタルだ。

今までのところ作品としては、2011年に『Demo 1』、2012年に『Demo #2』、2013年にNUCLEAR WARFAREとのスプリットを発表したのみ。

ところが、TANKARD(2011年)やPOSSESSED(2014年)のバンコク公演の前座を務めるほか、マレーシア、シンガポール、ベトナム公演、そして2012年と2014年には、毎年大阪で行われているスラッシュ・メタルの祭典True Thrash Festに出演するなど活発に活動。ただし、どちらの日本公演もVISAや入国時に問題があり、来日できたのは一部のメンバーのみとなってしまったことから、2012年には日本のバンド、2014年には共に来日したNUCLEAR WARFAREの助けを借りてステージをこなすこととなった。

2度ともまっとうにライヴが行えなかったのは不運としか言いようがないが、悲しいことはそれだけにとどまらない。2013年に新たなギタリストとして隣国ラオスのブルータル・デス・メタル、SAPANAKITHで活動していたフランス人のBen(後にDISSEVERED、HADES GHOSPHELLでも活動)が加入。堅固な布陣となったように見えたバンドだが、2019年3月の情報では、すでにBenはフランスに帰国しているため、新たなギタリストを探す必要があるとのこと。さらに悲惨なことは、2015年に録音したアルバムのファイルがコンピューターの問題ですべて消えてしまったとか…… バンドはまた一からやり直さなければならない。

そんな状況も含め、今はそれぞれの仕事の忙しさからREMAINSとしての活動は時々リハーサルを行うくらいでしかないという。

そんな中、Ekkachaiは2017年から地元ラヨーン県にてコーヒー・ショップを始めた。その名も"NO HURRY Coffee"。可愛らしいカタツムリ型コーヒー・カップの絵がトレードマークだ。

これまでテンポの速い音楽に携わってきた男だということを踏まえると冗談のようにも思えるが、確かに急いだからといって良いものができるとは限らない。コーヒーのようにある程度じっくりロースト&抽出してこそ味わい深いものなる事柄だってあるはずだ。フル・アルバムや今後の活動に関してはコーヒー片手に気長に待ってみよう。

REMAINS「Siamese Thrashing Terror」

2012年に発表された『Demotape #2』から。

SON OF STORM

このSON OF STORMはブラック・メタルやデス・メタルなど多くのバンドを掛け持ちしているメンバーが集まったバンドということで少々関係が難解だが、ヴォーカリストはどちらかと言えばグラインド系、そしてギタリスト、ベーシスト、ドラマーはブラック/デス・メタルのNECROSADISTIK KHAOSという見方がスッキリしているかもしれない。

そんな彼らだから個人的に影響を受けたバンドの幅は広いようだが、スラッシュ・メタルであるSON OF STORMの方向性に絞れば、SODOM、TOXIC HOLOCAUST、GAMMA BOMBであるという。

結成は2014年12月。2015年になると、ヒステリックなヴォーカルとロウな荒々しいサウンドの『In Drunk We Thrash』EPを発表。続いて、「Pirate Thrash」「Cops On Fire」などの新曲MVを制作し、フル・アルバムの登場を匂わせていたが、2019年春の段階では発表まではこぎつけていない。実は、レコーディングは終了しているものの、メンバーのほとんどが兵役に就いているため、作業が一時中断しているようだ。けれど、ヴォーカリストであるHanuman Go Weedによれば、兵役から解放され次第、アルバムの制作を再開するとのこと。

また、タイのスラッシュ・メタル・シーンが停滞している理由として、ほとんどのバンドが新作を発表できておらず、さらに、この手の音楽を聴く人も演奏する人も新たに出てこない状況になっている事を挙げていた。しかし彼は諦めているわけではない。「まだいくつか良いバンドが存在しているから、必ずや素晴らしいスラッシュ・メタルの時代が戻ってくると信じている」と力強く締めくくった。

なお、Hanuman Go Weedは、Thailand Grind Festというグラインドコア系のバンドを中心に、スラッシュからデス・メタルまで入り交じるフェスティバルを2015年と2018年に主催している。

SON OF STORM「Cops On Fire」

タイトルや映像からも推察できるように、警察への不満を込めた曲。
やはりというか、かなりスラッシュ系のシーンが低迷している雰囲気が伝わってきて悲しくなってしまうので、ここからはシーンを盛り返してくれそうな新しいバンドも紹介しておこう。

BOTTLE STRIKE

2017年に開催されたBangkok Thrashに一番の若手として参加したのがこのバンド。しかし完全なる新人かと言うとそうでもなく、細かい経歴を辿れば、ベーシストのZienは2015年にHOODWINKのメンバーとしてBangkok Thrashを経験している。ところが、このHOODWINKは活動期間約2年という短さで解散することになってしまう。そこでZienはGolfというギタリストを加入させてなんとかバンドを立て直そうと画策するもののその時は上手くはいかなかったという。ここですべては終わるかと思われたが、その後もZienとGolfはコンサート会場で頻繁に顔を合わせるようになり、二人は新たなバンド結成を決意。2017年にBOTTLE STRIKEとして活動を開始するのだ。

彼らは、TOXIC HOLOCAUST、DR. LIVING DEAD、VIOLATORをお気に入りバンドとして挙げ、あらゆるスラッシュ・メタル・バンドのカヴァーを演奏しながらその方法を学んできた結果、BOTTLE STRIKEとしてのスタイルはクロスオーバー・スラッシュ・メタルでやっていくことに決定。

これまでに発表した音源は2017年9月のデビュー・シングル「No Brain,No Pain」のみとなっているが、現在は2019年内の発表を目標にEPの制作を行っているとのこと。

実は彼らもここ4、5年間ほど、タイのスラッシュ・メタルは静かだと感じている。「海外からバンドがやってくる時だけ目覚めて演奏はするけど、あとはまるで眠っているようだ」と言っていた。なんとか踏ん張ってシーンを支える存在になってもらいたい。

BOTTLE STRIKE「No Brain, No Pain」

2017年に発表されたデビュー・シングル。
ビールが飲みたくなる1曲!

KxTxNx

パワー・ヴァイオレンス系のBABYLON BKに在籍していたヴォーカリストのTonyと、ゴアグラインドのBIOPSYCUNTでギターを担当しているBobbyが発起人。そこに元BABYLON BKのドラマーだったMark、さらにはBobbyの旧友Seuaをベーシストとして誘い、2017年半ばに結成した。

このKxTxNxの目的は、SUCIDAL TENDENCIES、MUNICIPAL WASTEのようなクロスオーヴァー・スラッシュ/ハードコアを演奏することである。

バンドはデビューEPを50枚限定で2018年に9月に発表し、約一ヶ月で売り切るなど、好調な滑り出しを見せたのだが、カナダ人であるMarkが帰国したことで活動は一時停止となってしまった。もちろん、バンドは活動を再開するつもりでいる。

また、タイ・スラッシュ・シーンに関してTony曰く、「まだ良いとは思うけど、新しいバンドが出てこない。現段階で新人は俺達くらいじゃないかな。ライヴについては、出演可能なら、ハードコアやパンクのショウでも演奏するようにしているんだ」とのこと。

ちなみに、バンド名のKxTxNxとは、タイ語で水牛を意味するควายธนู(Kwai Tha Noo)の頭文字を取った略語。その名の通りのパワフルな活動を期待したい。

KxTxNx「Cops Suck」

2018年のデビューEPから。
やはりこのバンドも警察への不信感を募らせている…… 

FIERCE PANIC

以前はAIR DOLLというバンドで様々なタイのロック・バンドのカヴァーを演奏していたギタリストのJutasinとベーシストのMuiが中心となって2018年7月に結成したFIERCE PANIC。

彼らはSLIPKNOT、LAMB OF GOD、PANTERA、KORN、DREAM THEATERに影響を受けているので、純粋なスラッシュ・メタルとは言い難いのだが、ニュー・メタルをベースにスラッシュ・メタルの要素も多少合わせ持っている。母国語の抑揚によるものだろうか、曲によっては90年代のタイ・エクストリーム・メタルの懐かしい雰囲気を醸し出しているのは面白いと思う。

バンドは意欲的に曲をYouTube上に投稿していいて、結成から約半年で5曲を公開。2019年内にはEPを発表するつもりでいるという。

まだ若いバンドゆえ、音楽の方向性も含めて、今後どのように変化していくのかはわからないが、ギタリストのJutasinは、クラシカル・ギターや音楽理論を教えたり、2019年内には自身の3枚目となるソロ・アルバムを発表する予定もあるということなので、動向を見守ってみても良いだろう。

FIERCE PANIC「4261 (Black Panther)」

2019年に発表されたシングル。


『タイのメタルにエールを 第4回』へとつづく。